富士電機とボッシュのSiCパワー半導体モジュール共同開発 互換性を持たせるメリットは何か?

この記事で分かること

  • SiCパワー半導体モジュールとは:SiC(炭化ケイ素)を用いた、EVの電力制御を行う半導体部品の集合体です。従来のシリコン製より低損失で熱に強く、インバーターの小型化と航続距離の延長を可能にします。EVの性能を左右する心臓部です。
  • 共同開発の内容:外形寸法や端子位置、ネジ穴などの「物理的インターフェース」を統一した車載SiCモジュールを共同開発します。。
  • 互換性が重要な理由:自動車メーカーが「一つの設計で複数社から調達(マルチソース化)」できるのが最大の利点です。供給不足や災害時の欠品リスクを分散できるほか、設計共通化により開発コスト削減と期間短縮が図れるようになります。

富士電機とボッシュのSiCパワー半導体モジュール共同開発

 富士電機とボッシュ(Robert Bosch GmbH)は、2025年12月に、電動車(EV/HEV)向けのSiC(炭化ケイ素)パワー半導体モジュールにおいて、互換性のあるパッケージを共同開発することに合意したと発表しました。

 この提携は、次世代EVの心臓部であるインバーターの設計を効率化し、供給網を安定させる画期的な取り組みとして注目されています。

SiC車載モジュールとは何か

 「SiC車載モジュール」とは、電気自動車(EV)の電力効率を劇的に向上させる「次世代の電力制御スイッチ」を箱詰めしたものです。

1. 「SiC」と「モジュール」の意味

  • SiC(シリコンカーバイド): 炭化ケイ素という新しい半導体材料です。これまでのシリコン(Si)に比べて、電気を通す際のロスが非常に少なく、熱にも強いという特性があります。
  • モジュール: 単体の半導体チップ(数ミリ角)を、使いやすいように複数組み合わせて、絶縁材や端子と一緒にパッケージ(箱)に収めた製品のことです。

2. クルマのどこで何をしているのか

 EVの心臓部である「インバーター」という装置の中で使われます。

 インバーターは、バッテリーの電気(直流)を、モーターを回すための電気(交流)に変換する役割を担っています。この変換の際、SiCモジュールが超高速でスイッチを「オン・オフ」することで電流を調整します。


3. SiCモジュールがもたらす3つの劇的な変化

特徴クルマへのメリット
電気のロスが激減同じバッテリー量でも、航続距離が5〜10%伸びる
熱に強い冷却装置(ラジエーターなど)を小さくできるため、車体が軽くなる
高速スイッチング周辺部品(コイルやコンデンサ)を小型化でき、車内空間が広くなる

SiC(炭化ケイ素)を用いた、EVの電力制御を行う半導体部品の集合体です。従来のシリコン製より低損失で熱に強く、インバーターの小型化と航続距離の延長を可能にします。EVの性能を左右する心臓部です。

互換性を持たせる意味は何か

 富士電機とボッシュがSiC車載モジュールに「互換性」を持たせる最大の意味は、自動車メーカーが抱える「調達と設計の大きなリスク」を解消することにあります。

1. サプライチェーンの安定化(マルチソース化)

 これまでのパワーモジュールはメーカーごとに形状が異なる「独自仕様」が一般的でした。

  • リスク: 特定のメーカーに依存すると、災害や情勢不安で供給が止まった際に、クルマそのものが生産できなくなります。
  • 解決: 外形や端子の位置を統一することで、自動車メーカーは「富士電機からもボッシュからも同じように買える」ようになり、欠品リスクを分散できます。

2. インバーター開発の効率化とコスト削減

 本来、モジュールの形状が変わると、それを取り付ける「インバーター」内部の基板や冷却装置(ヒートシンク)をすべて設計し直さなければなりません。

  • メリット: 互換性があれば、一つの設計で複数のメーカーのモジュールを使い分けられるため、開発コストと期間を大幅に短縮できます。

3. 世界標準(デファクトスタンダード)の確立

 パワー半導体市場では、使い勝手の良い形状が業界標準になる傾向があります。

  • 狙い: 日本の富士電機と欧州のボッシュという有力2社が手を組むことで、自分たちの仕様を「世界の事実上の標準」にし、市場での主導権を握る狙いがあります。

比較:互換性がある場合・ない場合

項目従来(独自仕様)互換性あり(今回)
他社への切り替え大規模な再設計が必要そのまま載せ替え可能
部品の調達先1社限定になりがち複数社から選べる
新型車の開発期間長い(検証作業が多い)短い(共通設計が使える)

 互換性を持たせることは、自動車メーカーにとっての「安心(安定供給)」と「スピード(開発短縮)」を同時に提供することを意味します。

自動車メーカーが「一つの設計で複数社から調達(マルチソース化)」できるのが最大の利点です。供給不足や災害時の欠品リスクを分散できるほか、設計共通化により開発コスト削減と期間短縮が図れるようになります。

どのような部分に互換性を持たせるのか

 富士電機とボッシュの提携において、互換性を持たせるのは主に「物理的なインターフェース」の部分です。

 中身のSiCチップ(半導体そのもの)は各社の独自技術で競い合いますが、それを包む「外装」を共通化します。

具体的な共通化ポイント

  • パッケージの外形寸法:モジュール全体の縦・横・高さのサイズを統一します。これにより、インバーター内の限られたスペースにどちらの製品もぴったり収まります。
  • 端子の配置と形状(ピン配置):電力を入力する端子や信号を送る制御端子の「位置」「数」「高さ」を揃えます。これにより、配線基板(PCB)を共通化できます。
  • 取付穴の位置:冷却器(ヒートシンク)に固定するためのネジ穴の位置を共通化します。
  • 熱設計の特性(冷却界面):熱を逃がす底面の構造や高さを揃えることで、冷却システムの設計を変えずに載せ替えを可能にします。

「中身」はあえて共通化しない

 ここが重要なポイントですが、「内部のSiCチップ」や「配線の手法」などは共通化しません。

  • 共通部分: 外形、ネジ穴、端子の位置(=「器」の形)
  • 独自部分: SiCチップの性能、電力効率、耐久性(=「中身」の性能)

 これによって、自動車メーカーは「設計は変えずに、状況に応じて性能が良い方や、納期が早い方を選ぶ」という柔軟な選択ができるようになります。

主に「物理的なインターフェース」を共通化します。具体的には、モジュールの外形寸法、電気を繋ぐ端子の位置や形状、冷却器に固定するネジ穴の配置です。これにより、内部性能を競いつつ外装の互換性を確保します。

他のSiC製造企業はどう対応するのか

 他のSiC製造企業も、富士電機とボッシュの動きと同様に「陣営作り」や「パッケージの共通化」で対抗しています。

 SiC市場では、自社独自の形状で囲い込む戦略から、顧客の使い勝手を優先して「セカンドソース(代替供給源)」を確保し合う戦略へシフトしています。

1. ローム & インフィニオン(独)の提携

 富士電機・ボッシュ連合の最大のライバルと言えるのが、この2社です。

  • 対応: 2025年9月、SiCパワー半導体のパッケージ共通化に関する合意を発表しました。
  • 内容: インフィニオンの表面実装パッケージ技術と、ロームの高性能モジュール技術(DOT-247など)を互いに採用し合い、顧客が両社から同じ形状の製品を買える体制を整えています。

2. 三菱電機 & ネクスペリア(蘭)の提携

  • 対応: 2023年末から共同開発を開始しています。
  • 内容: 三菱電機が培ったSiCチップ技術を、世界的なネットワークを持つネクスペリアに供給し、共同でディスクリート(単体部品)やモジュールの開発を進めています。

3. STマイクロエレクトロニクス(仏・伊)の独自路線

  • 対応: 業界シェアトップクラスの強みを活かし、自社基準を「標準」にする戦略です。
  • 内容: テスラにいち早く採用された実績を武器に、垂直統合(ウエハから内製)を進めてコスト競争力で圧倒しつつ、他社が追随せざるを得ないデファクトスタンダード化を狙っています。

各社の対応まとめ

陣営・企業戦略の肝
富士電機 × ボッシュ車載部品最大手のボッシュと組み、欧州・日本市場を固める。
ローム × インフィニオンSiCの先駆者同士が組み、産業・車載両面で標準化を狙う。
三菱電機 × ネクスペリア熟成された日本技術と欧州の販路・量産力を組み合わせる。
STマイクロ先行者利益を活かし、自社仕様を世界の中心に据え続ける。

今後の流れ

 他の企業も、今後は「孤立」を避けるために、互換性のあるパッケージ群(エコシステム)のどこかに属するか、あるいは主要な自動車メーカーと直接組んで「そのメーカー専用の標準」を作る動きが加速すると予想されます。

他のSiC製造企業も、富士電機やボッシュと同様に「陣営の構築」と「標準化」を急いでいます。独自仕様で囲い込むよりも、他社との互換性を持たせて顧客(自動車メーカー)の採用ハードルを下げる戦略が業界の主流となっています。

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