富士フイルムの先端パッケージング向けCMPスラリー CMPスラリーとは何か?先端パッケージ向けに必要な性能は何か?

この記事で分かること

  • CMPスラリーとは:半導体製造でウェーハ表面を極限まで平坦化するための研磨液です。微細な砥粒(シリカなど)と、研磨を助ける化学薬品で構成されており、化学作用と機械作用を組み合わせてナノレベルの平滑性を実現します。
  • 先端パッケージ向けに必要な性能:ナノレベルの超平坦性と低欠陥性が必須です。特にハイブリッドボンディングのため、多層材料間の高い研磨選択性と調整可能性が求められます。

富士フイルムの先端パッケージング向けCMPスラリー

 富士フイルムが発表した先端パッケージング向けCMPスラリーは、ハイブリッドボンディングなどの先端パッケージング技術に対応し、特にAI半導体の性能向上に不可欠な接合面の平坦化を実現するために設計されています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2510/07/news069.html

 富士フイルムは、今後この製品を再配線層(RDL)やマイクロバンプなどのさまざまな先端パッケージング材料にも展開していく計画です。また、先端半導体製造の前工程向けCMPスラリー技術も引き続き進化させ、デバイスのさらなる微細化に貢献するとしています。

CMPスラリーとは何か

 CMPスラリー(CMP slurry)とは、半導体製造プロセスにおいて、ウェーハ表面をナノメートル単位で極限まで平坦化・研磨するために使われる特殊な研磨液です。

 CMPは「Chemical Mechanical Planarization(化学的機械的平坦化)」の略で、CMPスラリーはその名の通り、「化学作用」と「機械作用」を組み合わせて材料を削るための中心的な材料となります。


CMPスラリーの仕組みと構成要素

 CMPスラリーは、水などの液体に、極めて微細な粒子と化学薬品を混ぜ合わせたものです。

構成要素役割(作用)詳細
砥粒(とつぶ/研磨粒子)機械作用物理的に表面を削り取る役割を担います。粒径は数十~数百ナノメートルで、シリカ、アルミナ、セリアなどが使われます。この微細な粒子の分散技術が非常に重要です。
化学成分(薬液)化学作用研磨対象の材料と化学反応を起こし、表面を柔らかくしたり、溶解を促進したりして、機械研磨をアシストします。酸化剤(過酸化水素など)、腐食防止剤、pH調整剤など、研磨対象の材料に応じて成分が調整されます。

独自の研磨プロセス

 スラリーの化学成分がウェーハ表面に変質層(研磨されやすい層)を形成し、その変質層をナノサイズの砥粒が削り取ることで、単なる物理研磨よりも高い効率と品質で表面を平坦化することができます。これにより、表面に加工ダメージの少ない鏡面のような仕上がりを実現します。


CMPスラリーの重要な役割

 半導体デバイスは、回路パターンを何層にも積み重ねることで作られます(多層配線)。この多層化において、CMPスラリーによる「平坦化」は不可欠です。

  1. リソグラフィ(露光)精度の向上:
    • 半導体の回路パターンを描くリソグラフィ工程では、表面が平坦でないと光の焦点が合わず、回路の歪みやショートの原因になります。CMPスラリーは、次の層を積み重ねる前に各層を完全に平らにし、精度の高い回路形成を可能にします。
  2. デバイス性能の向上:
    • 表面の凹凸(トポグラフィー)を減らすことで、配線層の電気抵抗や静電容量の問題を最小限に抑え、高速かつ高性能なデバイス動作に貢献します。
  3. 歩留まりと信頼性の向上:
    • ウェーハ表面の欠陥(スクラッチやディッシングなど)を最小限に抑えることで、半導体の製造歩留まり(良品率)と製品の信頼性を向上させます。

 近年では、複数のチップを接合する先端パッケージング(ハイブリッドボンディングなど)においても、接合面のナノレベルの平坦性を確保するためにCMPスラリーの重要性が増しています。

CMPスラリーとは、半導体製造でウェーハ表面を極限まで平坦化するための研磨液です。微細な砥粒(シリカなど)と、研磨を助ける化学薬品で構成されており、化学作用と機械作用を組み合わせてナノレベルの平滑性を実現します。

先端パッケージング向けCMPスラリーに必要な性能は

 先端パッケージング(ハイブリッドボンディング、TSV、RDLなど)向けCMPスラリーには、以下のように従来の半導体前工程向けスラリーよりもさらに高精度複雑な要件を満たすための性能が求められます。


1. 究極の表面平坦性(ナノレベルの精度)

 先端パッケージング、特にチップを直接接合するハイブリッドボンディングでは、接合面の平坦性が接続の信頼性・強度に直結するため、極めて高い精度が必要です。

  • 超低表面粗さ: 接合面の表面粗さ(例:SiCN誘電体層で0.5nm以下、銅パッドで1nm以下)を実現する能力。
  • 低トポグラフィー(段差): ウェーハ全体、およびチップ内(WID、WIW)の段差(トポグラフィー)を最小化し、均一な研磨を可能にする高い平坦化効率が不可欠です。

2. 卓越した選択性と調整可能性

先端パッケージングでは、銅(Cu)、誘電体(SiCN、ポリイミド、エポキシ樹脂)、バリアメタル(Ti、Taなど)、シリコンといった多種多様な材料が一つの表面に共存します。

  • 高選択性: 研磨対象の材料のみを効果的に除去し、下層の材料や隣接する材料(ストップ層)を過度に削らない高い選択比が求められます。
  • 選択性の調整(Tunability): 複数の材料間の研磨速度をプロセス要求に応じて精密に調整できる柔軟性(チューナビリティ)が重要です。特に、ハイブリッドボンディングではCuと絶縁膜が共存する表面を同時に平坦化する技術が鍵となります。

3. 低欠陥性と材料保護

 微細な配線や接合部の品質を保ち、製品の歩留まりと信頼性を確保するために不可欠です。

  • 超低欠陥(Low Defectivity): 砥粒の凝集などによるスクラッチ(傷)や、研磨によるディッシング(凹み)、エロージョン(浸食)といった欠陥を最小限に抑える性能。
  • 金属の腐食防止: 研磨後の銅(Cu)などの腐食しやすい金属を保護する腐食抑制剤の適切な処方技術が必要です。

4. 高いスループットと新材料への対応

 市場の需要に応じた効率的な生産と、将来的な技術進化への対応力が求められます。

  • 高除去速度(High Removal Rate): TSV(シリコン貫通電極)の銅研磨など、厚膜の材料を効率よく除去し、製造のスループットを最大化する能力。
  • 新材料への適合性: 低誘電率(Low-k/ULK)材料、エポキシモールド樹脂、ポリイミドなどの新しいパッケージング材料に対応できるスラリー組成の開発が必要です。

 これらの性能は、砥粒の種類(シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニアなど)、粒子径分布の均一性、および化学薬品(酸化剤、腐食抑制剤、分散剤、pH調整剤)の独自の配合技術によって実現されています。

先端パッケージング向けCMPスラリーには、ナノレベルの超平坦性低欠陥性が必須です。特にハイブリッドボンディングのため、多層材料間の高い研磨選択性調整可能性が求められます。

多層材料間の高い研磨選択性をどうやって実現するのか

 多層材料間におけるCMPスラリーの高い研磨選択性は、主にスラリーの化学組成を精密に設計・制御することで実現されます。

 特定の材料のみを効率よく研磨し、下層や隣接する材料を保護するための主要な技術は以下の3点です。


1. 選択的な化学添加剤の利用(保護層の形成)

 研磨選択性を制御するための最も重要な手段は、スラリーに特定の化学添加剤を配合することです。

  • 保護剤(抑制剤/Inhibitor)の利用: 削りたくない材料(例:銅、シリコン窒化膜など)の表面に特異的に吸着し、薄い保護膜(パッシベーション層)を形成する添加剤を使用します。この保護膜が砥粒による機械的な研磨作用や、スラリーの化学的な溶解作用を防ぎ、その材料の除去速度を劇的に低下させます。
    • 例: 銅(Cu)配線を研磨する際、腐食抑制剤を添加することで、研磨ターゲットである過剰なCuは効率よく削りつつ、既に平坦化した配線部分のCuが過度に浸食(ディッシング)されるのを防ぎます。
  • 促進剤(Accelerator)の利用: 削りたい材料に対してのみ化学反応を加速させ、研磨されやすい変質層の形成を促進する添加剤を使用します。

2. 砥粒の種類と化学的親和性の最適化

 砥粒は機械作用を担いますが、材料との化学的な相互作用も研磨選択性に大きく影響します。

  • 砥粒の選定: 研磨対象の材料の性質に合わせて、シリカアルミナセリアなどの砥粒が使い分けられます。
    • 例: 酸化膜の研磨では、セリア (砥粒が非常に高い選択性を発揮することが知られています。これは、セリアとSiO2の間に特有の化学的親和性(表面電位差による相互作用など)があるためです。
  • 砥粒の表面改質: 砥粒の表面を化学的に改質し、特定の材料に対する吸着性や反応性を高めることで、研磨選択性を向上させます。

3. スラリーの基本物性の精密な調整

 スラリー全体の基本特性を微調整することで、材料ごとの反応性をコントロールします。

  • pHの制御: スラリーのpH反応差を利用して選択性を調整します。
  • 酸化剤/腐食剤の濃度制御: 過酸化水素 (などの酸化剤の濃度を調整することで、金属表面の酸化層の厚さや安定性を制御し、結果的に研磨速度を調整します。
  • ポリマー/界面活性剤の利用: 特定のポリマー添加剤を配合することで、研磨圧力に対する材料の反応性(研磨速度)を調整し、選択性を向上させる技術も開発されています。

 これらの技術を組み合わせることで、多層配線や先端パッケージングに見られる複雑な多層構造において、「削りすぎ」「削り残し」のない、極めて精密な平坦化を実現しています。

主にスラリーの化学組成を制御します。削りたくない材料表面に保護剤(抑制剤)を吸着させ研磨を抑える一方、削りたい材料には促進剤や最適な砥粒を用いて除去速度を高めます。

先端パッケージング向けCMPスラリーの有力メーカーはどこか

 先端パッケージング向けCMPスラリーは、従来の半導体前工程向けに加えて、3D積層や異種集積化の複雑な要求に応えるための製品開発が活発です。この分野で特に有力とされるメーカーは、主に以下の通りです。

1. Entegris(インテグリス)

 グローバルなCMPスラリー市場で最大手クラスのシェアを持っています。

  • CMCマテリアルズ(旧キャボット・マイクロエレクトロニクス)の買収により、CMPスラリー分野での地位を確立しました。
  • 先進的な配線材料(銅、バリアメタルなど)向け、および先端パッケージング(TSV、ハイブリッドボンディング関連)向けの包括的なポートフォリオを有しています。

2. FUJIFILM (富士フイルム)

 日本の有力メーカーであり、先端パッケージング向け材料に注力しています。

  • 同社のエレクトロニクスマテリアルズ事業は、先端プロセス向けのパッケージング用CMPスラリーを設計・提供しており、ハイブリッドボンディングなどの用途に対応しています。
  • 銅(Cu)CMPスラリーの分野で強みがあり、市場シェアにおいても高い位置を占めています。

3. Resonac(レゾナック、旧昭和電工マテリアルズ/日立化成)

 日本の大手化学メーカーで、半導体材料全般に強みを持っています。

  • CMPスラリーも主要な製品の一つであり、様々な用途に対応した製品を提供しています。

4. AGC(旧旭硝子)

 日本の化学メーカーで、セリア系スラリーなどに強みを持ち、各種ケイ素系材料や金属配線向けの研磨・選択比制御技術で知られています。

その他有力なグローバル企業

  • BASF SE
  • DuPont
  • KCTech (韓国)
  • Soulbrain Co., Ltd. (韓国)

 これらの企業は、微細化と多層化が進む先端パッケージングの要求に応えるため、研磨選択性、低欠陥性、超平坦性を追求した独自の化学組成を持つスラリーの研究開発と製造能力の増強を進めています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました