富士フイルムのEUV向けフォトレジスト EUV向けフォトレジストとは何か?通常のフォトレジストとの違いは何か?

この記事で分かること

  • EUV向けフォトレジストとは:次世代半導体製造に不可欠な感光性材料です。極めて短い波長のEUV光に反応し、ナノメートルレベルの微細な回路パターンをシリコンウェハー上に正確に転写する役割を担います。
  • 通常のフォトレジストとの違い:最も大きな違いは、対応する光の波長で、EUVフォトレジストは、極めて短い波長(13.5nm)のEUV光に特化しています。
  • EUVに対応するために必要な性能:EUVと物質を反応させるには、通常のフォトレジストとは異なる光酸発生剤が必要です。EUV光がPAGを活性化して酸を発生させ、その酸が化学増幅という連鎖反応でレジスト全体を変化させる

富士フイルムのEUV向けフォトレジスト

 富士フイルムは、静岡県榛原郡吉田町にある工場で、次世代半導体向け材料の開発・生産体制を強化しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC152HB0V10C25A8000000/

 これは、5G/6G通信、AI、自動運転などの技術革新に伴う半導体需要の増加に対応するためです。

 前回の記事では、ポストCMPクリーナーに関する解説でしたが、今回は極端紫外線(EUV)向けフォトレジストに関する記事となります。

極端紫外線(EUV)向けフォトレジストとはなにか

 EUVフォトレジストとは、半導体の製造工程で使われる感光性材料の一種です。特に、最先端の半導体製造技術であるEUVリソグラフィーに特化して開発されました。

EUVに関する記事はこちら

役割と仕組み 

 半導体は、複雑な電子回路をシリコンウェハー上に何層にも重ねて形成することで作られます。この回路を「描く」工程がフォトリソグラフィーです。

  1. フォトレジストの塗布: まず、シリコンウェハーの表面に液状のフォトレジストを均一に塗ります。
  2. EUV光の露光: その後、フォトマスクと呼ばれる原版を通して、波長13.5nmという非常に短い極端紫外線(EUV)を照射します。この光が当たった部分のフォトレジストは、化学的に変化します。
  3. 現像: 露光後、現像液に浸すことで、光が当たった部分(または当たらなかった部分)だけが溶けて除去されます。これにより、フォトマスクに描かれた微細な回路パターンがウェハー上に転写されます。

 このプロセスによって、髪の毛の太さの100万分の1以下のナノメートルスケールの微細な回路パターンを正確に形成することができます。EUVフォトレジストは、この極めて短い波長の光に適切に反応し、高い解像度と高精度なパターン形成を可能にするために不可欠な材料です。

 EUVリソグラフィー技術は、CPUやGPUなどの高性能な半導体を製造するために必須となっており、EUVフォトレジストはその要となる材料です。

EUVフォトレジストは、次世代半導体製造に不可欠な感光性材料です。極めて短い波長のEUV光に反応し、ナノメートルレベルの微細な回路パターンをシリコンウェハー上に正確に転写する役割を担います。これにより、より高性能な半導体の製造が可能になります。

通常のフォトレジストとの違いは何か

 通常のフォトレジストとEUVフォトレジストの最も大きな違いは、光への反応メカニズムと性能です。

光の波長と反応

  • 通常のフォトレジスト: KrFエキシマレーザー(波長248nm)やArFエキシマレーザー(波長193nm)といった、比較的波長の長い光に反応する化学増幅型のレジストです。
  • EUVフォトレジスト: 波長13.5nmという非常に短い極端紫外線(EUV)に反応するよう設計されています。EUV光がレジスト中のポリマーをイオン化させ、放出された二次電子が酸を発生させるという独自のメカニズムで反応します。この特殊な反応により、ナノメートルレベルの微細な回路を形成できます。

高解像度化とエッチング耐性

 EUVフォトレジストは、従来のフォトレジストよりも高い解像度エッチング耐性を持っています。特に、金属を含む有機金属型レジストは、高いエッチング耐性があるため、より深いエッチングが可能になり、複雑な3D構造の半導体形成にも貢献します。これは、従来のレジストでは難しかった超微細加工を実現するために不可欠な特性です。

従来のフォトレジストとEUVフォトレジストの最も大きな違いは、対応する光の波長です。

EUVフォトレジストは、極めて短い波長(13.5nm)のEUV光に特化しており、ナノメートルレベルの超微細回路形成が可能です。従来のフォトレジストは、比較的波長の長い光(193nmなど)に対応しています。

極端紫外線と反応させるためには何が必要なのか

 極端紫外線(EUV)と物質を反応させるためには、主に以下の3つの要素が必要です。

1. 高エネルギー光子の利用

 EUV光は、波長が13.5nmと非常に短く、光子一つあたりのエネルギーが極めて高いのが特徴です。この高エネルギーが、物質中の原子をイオン化させたり、分子内の結合を直接切断したりするきっかけとなります。

2. 光酸発生剤(PAG)

 EUVフォトレジストでは、この高エネルギーを利用して光酸発生剤(PAG)を活性化させます。EUV光がPAGを直接イオン化させたり、レジスト内のポリマーから放出された二次電子がPAGに衝突したりすることで、酸を発生させます。

通常のフォトレジストの光酸発生剤

 通常のフォトレジスト(主にKrFやArFエキシマレーザー用)では、PAGは主に光を直接吸収し、酸を発生させます。光子のエネルギーが比較的低いため、PAGが特定の波長を効率よく吸収するよう設計されています。


EUVフォトレジスト

 EUVフォトレジストでは、EUV光子のエネルギーが非常に高いため、PAGは光を直接吸収するのではなく、EUV光によってレジスト内で放出される二次電子と反応して酸を発生させます。

 この「二次電子」を介した反応メカニズムが、EUVフォトレジストのPAGを通常のものと区別する最も重要な点です。これにより、PAGは直接光を吸収する必要がなくなり、より効率的に酸を発生させ、微細なパターン形成を可能にしています。

3. 化学増幅

 発生した酸は、触媒として働き、周囲のポリマー分子の化学構造を次々と変化させます。この「化学増幅」という仕組みにより、わずかな光子のエネルギーでも、レジスト全体で大きな化学変化を引き起こすことができます。これにより、露光された部分とそうでない部分に明確な差が生まれ、現像によって微細な回路パターンを形成できるようになります。

 従来のフォトレジストが特定の波長の光を吸収して直接反応するのに対し、EUVでは「光子のエネルギー → 電子放出 → 酸発生 → 化学増幅」という間接的なメカニズムで反応が進行する点が大きな特徴です。

極端紫外線(EUV)と物質を反応させるには、光酸発生剤(PAG)が必要です。EUV光がPAGを活性化して酸を発生させ、その酸が化学増幅という連鎖反応でレジスト全体を変化させることで、回路パターンが形成されます。

どんな物質が使用されるのか

 EUVフォトレジストは、主にポリマー光酸発生剤(PAG)、そして溶剤の3つの主要な物質で構成されています。

1. ポリマー(基材)

 ポリマーは、フォトレジストの主成分で、EUV光のエネルギーを受け取って化学反応を始める役割を担います。EUVフォトレジストでは、従来のフォトレジストに比べて、より高い解像度とエッチング耐性を実現するために、分子サイズの小さい有機ポリマーや、スズ(Sn)や亜鉛(Zn)といった金属を含む無機系材料が使用されることもあります。

2. 光酸発生剤(PAG)

 PAGは、EUV光の照射によって酸を発生させる物質です。この酸が触媒となり、ポリマーの化学構造を変化させることで、回路パターンを形成します。

3. 溶剤

 これらの成分を均一に混合し、ウェハー上に薄く塗布するための液体です。溶剤は、塗布後に蒸発し、固体のフォトレジスト膜を形成します。

 EUVフォトレジストは、従来のフォトレジストが対応する光の波長が異なるため、これらの成分の化学構造がEUV光に最適化されている点が特徴です。特に、EUV光は物質に吸収されやすいため、従来のレジストでは見られない有機金属化合物無機酸化物といった物質が使用されることがあります。

EUVフォトレジストは、主にポリマー光酸発生剤(PAG)溶剤の3つから構成されます。従来のレジストと異なり、EUV光に最適化された特殊なポリマーや、スズなどの金属を含む材料が使われることもあります。

EUV向けフォトレジストの有力メーカーは

 EUVフォトレジストの有力メーカーは、日本の企業が強い優位性を持っており、特に以下の5社が世界市場で大きなシェアを占めています。

  • 東京応化工業(TOK): EUVフォトレジストで高い市場シェアを誇り、最先端の技術で業界をリードしています。
  • JSR: 2021年にEUVリソグラフィーのパイオニアであるInpria社を買収し、有機系レジストに加えて金属系レジスト技術を獲得しました。
  • 信越化学工業
  • 住友化学
  • 富士フイルム

 これらの日本の5社で、世界のフォトレジスト市場全体の90%以上のシェアを占めており、特にEUV向けでは圧倒的な存在感を示しています。

 また、フォトレジストの原料となる光酸発生剤(PAG)やポリマーなどの分野でも、東洋合成工業、大阪有機化学工業、丸善石油化学といった日本企業がトップシェアを誇っています。

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