住友化学によるうどんこ病殺菌剤 うどんこ病とはなにか?どんな特徴がある殺菌剤か?

この記事で分かること

  • うどんこ病とは:植物の葉や茎、つぼみなどに白い粉のようなカビが生え、光合成を妨げ成長を阻害する病気のことです。
  • ピリダクロメチルとは:殺菌剤の成分であり、芳香族アミジン系の化合物で、そのユニークな分子構造から、既存の殺菌剤と交差耐性を持たないという特徴があります。
  • 交差耐性とは:ある農薬に対して耐性を持つ病害虫や雑草が、構造や作用が似た他の農薬にも効かなくなる現象です。

住友化学によるうどんこ病殺菌剤

 住友化学は、うどんこ病に優れた効果を示す新規殺菌剤「フセキワイド®フロアブル」の国内販売を2開始しています。

 https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20250520.html

 この製品は、住友化学が独自に開発した有効成分「ピリダクロメチル」を含有しており、既存薬剤に耐性を持つ菌にも効果を発揮します 。

うどん粉病とはなにか

 うどんこ病(うどん粉病)は、植物の葉や茎、つぼみなどに白い粉のようなカビが生えるカビ(糸状菌)による病気です。

【特徴】

 特に野菜、果樹、花卉など多くの作物に発生し、植物の光合成を妨げ、成長や収量を著しく低下させる厄介な病害の一つです。

白い粉状の症状:葉の表面や茎に白色~灰白色の粉(胞子)が付着しているように見える。発病初期は葉の表面から始まり、進行すると葉全体・茎・果実などにも広がる。乾燥した気候で発生しやすく、風で胞子が広がる。高温・多湿では逆に抑えられることもあるが、植物が弱ると広がる。

【原因菌】

 主にうどんこ病菌(Erysiphales目に属する糸状菌)によって引き起こされます。作物ごとに異なる菌種が原因となる(例:トマトうどんこ病とキュウリうどんこ病では病原菌が異なるため、交差感染はしにくい)。

【影響】

 光合成の妨げ → 生育不良、果実の肥大不良や着色不良。観賞価値の低下 → 花卉・観葉植物では商品価値の大幅減。感染拡大が早く、防除が遅れると壊滅的な被害に。

【防除方法】
  • 1. 薬剤(殺菌剤)散布代表的なもの:ストロビルリン系、DMI剤、新規剤(例:フセキワイド®フロアブルなど)
  • 2. 風通しを良くする栽培管理適切な株間・剪定・ハウス換気など
  • 3. 抵抗性品種の導入一部の作物では、うどんこ病に強い品種も流通
  • 4. 早期発見と除去病葉は見つけ次第取り除き、感染源の除去を徹底

うどんこ病は植物の葉や茎、つぼみなどに白い粉のようなカビが生え、光合成を妨げ成長を阻害する病気のことです。

どうやって光合成を阻害するのか

 うどんこ病が植物の光合成を阻害するメカニズムは、主に以下のような物理的・生理的な影響によって起こります。

1. 白いカビが葉の表面を覆い、光の吸収を妨げる(物理的遮光)

うどんこ病菌は植物の葉の表面にコロニー(菌糸の塊)を形成し、葉緑体が光を受けにくくなる。この白い粉状の菌糸が光の透過と吸収を妨げ、光合成の効率を大きく低下させる。

2. 寄生部位の細胞を栄養源として吸い取る

 うどんこ病菌は「吸器(haustorium)」という器官を葉の細胞内に伸ばし、細胞の養分を吸収します。これにより、植物のエネルギー供給が減少し、光合成に必要な物質の生産も落ちる。

3. 気孔の閉鎖や葉の老化促進によるガス交換の阻害

 感染が進行すると、葉が早期に黄化(黄色く変色)したり、気孔(ガス交換口)の機能が低下。二酸化炭素の取り込みが不十分になり、カルビン回路の活性が落ちて光合成が進まなくなる。

4. 防御反応による代謝の変化

 植物は病原菌に対して防御反応を示しますが、その中で活性酸素種(ROS)を出したり、特定のタンパク質を作ったりします。これにエネルギーが使われるため、光合成に使う資源やエネルギーが回らなくなることもあります。-

うどんこ病は、光の遮断、栄養の搾取、気孔の機能低下、代謝の乱れによって、植物の光合成能力を多面的に奪っていきます。そのため早期の発見と防除が重要です。

ピリダクロメチルとは何か

 ピリダクロメチル(Pyridachlometyl)は、住友化学が開発した新規構造の農業用殺菌剤有効成分です。2024年に初めて日本で承認・販売された、既存薬剤に耐性を持つ病原菌にも有効な新しい化学物質です。

【基本情報】
  • 化学分類:芳香族アミジン系(Aromatic Amidines)
  • 作用機構(MoA):チューブリン重合阻害作用(ただし既存のベンズイミダゾール剤とは異なる結合部位を持つ)
【構造的特徴】
  • 分子内にピリジン環(窒素を含む六員環)とクロロ基、さらに芳香族アミジン構造を有しています。このユニークな構造により、既存の殺菌剤と交差耐性を持たない。
【作用機序】
  • 1. 菌の細胞分裂に必要な微小管(チューブリン)の形成を阻害
  • 2. その結果、病原菌の増殖や侵入ができなくなる
  • 3. 既存のチューブリン阻害剤(ベノミルなど)とは異なる結合部位に作用 → 耐性菌にも有効
【利点】
  • うどんこ病・紅色雪腐病・紫斑病など幅広い病害に高い効果耐性菌にも効く(既存のQoI剤やDMI剤、ベンズイミダゾール剤に耐性を持つ菌に対しても有効)作物への薬害リスクが低い散布後の安定性が高い

ピリダクロメチルは芳香族アミジン系の化合物で、そのユニークな分子構造から、既存の殺菌剤と交差耐性を持たないという特徴があります。

交差耐性とは何か

 交差耐性(cross-resistance)とは、ある農薬(例:殺菌剤、殺虫剤など)に対して耐性を持つ病害虫や雑草が、構造や作用が似た他の農薬にも効かなくなる現象です。

【具体的な例】

 たとえば、病原菌がAという殺菌剤(作用機構:チューブリン阻害)に対して耐性を獲得すると、その作用点や構造が似ているBという別の薬剤にも効果が出なくなる場合があります。

 → これが「交差耐性」です。

【なぜ起きる?】

 交差耐性は主に以下のような理由で起きます。

1. 同じ作用機構(MoA)を持つ薬剤を連用・多用した場合→ 病原体が共通のターゲット(例:酵素やチューブリン)を変化させて回避する

2. 代謝耐性→ 薬剤を分解・無効化する酵素を作ることで、複数の薬剤に対応してしまうことも

【農業での重要性】

 交差耐性は、防除が効かなくなる大きな原因の一つです。

 例:ベンズイミダゾール系(チューブリン阻害)のベノミル耐性菌は、同じグループの他の薬剤にも効きにくい対策としては、異なる作用機構の農薬をローテーション(輪番)で使うことが推奨されます—ピリダクロメチルのように「従来とは異なる作用点を持つ新規薬剤」は、こうした交差耐性を回避できるため、非常に価値が高いのです。

交差耐性とは、ある農薬に対して耐性を持つ病害虫や雑草が、構造や作用が似た他の農薬にも効かなくなる現象です。

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