政府の化合物半導体への支援 支援の内容は?化合物半導体とは何か?

この記事で分かること

  • 支援の内容:化合物半導体などの研究開発、国内生産体制の強化、人材育成、税制優遇、国際競争力向上への支援を提言しています。
  • 化合物半導体とは:複数の元素からなる次世代半導体であり、シリコンより高効率、高耐熱性、高周波特性に優れ、EVや5G/6G通信、再生可能エネルギーなど幅広い分野で活用されます。
  • 効率、耐熱性、高周波特性に優れる理由:主に広いバンドギャップによる高温・高電圧での安定動作、高い電子移動度による高速スイッチングによる効率向上と高周波対応、高い絶縁破壊電界強度による素子の小型化と高耐圧化が要因となっています。

政府の化合物半導体への支援

 自由民主党の「革新的エネルギー戦略を考える議員連盟」が、次世代半導体、特に化合物半導体などの支援に関する提言をまとめたことがニュースになっています。

 この提言は、日本のエネルギー安全保障と経済成長に不可欠な次世代エネルギー技術の推進を目的としていると考えられます

どのような支援内容なのか

 自民党「革新的エネルギー戦略を考える議員連盟」が化合物半導体などの支援に関して考えている具体的な内容は、提言の公表前であるため、現時点では詳細を確定することはできません。しかし、一般的に、このような提言で半導体分野への支援を考える場合、以下のような多角的な施策が盛り込まれる可能性が高いです。

1. 研究開発支援の強化

最も基礎的かつ重要な支援策です。

  • 国家プロジェクトの推進: 大学、国立研究開発法人、企業が連携して取り組む大規模な研究開発プロジェクトを国が主導し、資金を投入します。特に、化合物半導体のような高リスク・ハイリターンな分野では不可欠です。
  • 共同研究・オープンイノベーションの促進: 企業間の連携だけでなく、大学や公的研究機関との共同研究を促すための補助金や税制優遇措置を講じます。
  • 特定技術開発への補助: 基礎研究だけでなく、製造プロセス技術、評価技術、新しい材料の開発など、実用化に近い段階の技術開発にも補助金を支給します。

2. サプライチェーンの強靭化

製造に必要な材料、製造装置、そして実際の生産拠点まで、国内での安定供給体制を確立することを目指します。

  • 国内投資促進策: 半導体製造工場(ファブ)の新設や増設、材料メーカーの設備投資などに対し、補助金や低利融資、税制優遇措置を講じます。海外からの誘致も含まれる可能性があります。
  • 重要物資の確保: 半導体製造に不可欠なレアメタルや特殊ガスなど、重要物資の安定的な調達先の多様化や国内備蓄を支援します。
  • 製造装置・材料産業の競争力強化: 世界的に競争力のある日本の製造装置や材料メーカーへの研究開発支援や設備投資支援を行います。

3. 国際競争力の強化と標準化

世界市場での優位性を確立するための戦略的な支援です。

  • 国際共同研究・連携の推進: 技術開発コストの分担や、世界のトップレベルの研究機関・企業との連携を通じて、技術レベルの向上を図ります。
  • 国際標準化戦略の推進: 日本発の技術が国際標準となるよう、国際機関での働きかけや、関連する技術開発への支援を行います。
  • 輸出規制・投資規制への対応: 地政学的リスクが高まる中で、安全保障上の観点からの技術管理や、適切な情報共有の枠組みを検討します。

4. 人材育成・確保

半導体産業を支える人材の育成と確保は喫緊の課題です。

  • 教育機関との連携: 大学や高等専門学校における半導体関連教育の充実、専門コースの新設、カリキュラムの強化などを支援します。
  • リカレント教育の推進: 既存の技術者や社会人が半導体分野の最新知識・技術を習得できるようなプログラムの提供を支援します。
  • 若手研究者・技術者の育成支援: 奨学金制度の拡充、研究費の助成、海外留学支援など。
  • 外国人材の積極的活用: 高度な専門性を持つ外国人材が日本で働きやすい環境整備や誘致策。

5. 税制・規制緩和

企業が半導体分野に投資しやすく、事業を展開しやすい環境を整えます。

  • 研究開発税制の優遇: 半導体関連の研究開発費への税額控除率の引き上げなど。
  • 設備投資減税: 新しい工場や設備の導入に対する税制優遇。
  • 規制緩和: 新技術や新サービスの実用化を妨げるような規制の見直し。
  • 補助金・交付金の拡充: 特に戦略的に重要と位置付けられるプロジェクトへの直接的な資金投入。

 これらの支援策は、エネルギー安全保障、経済成長、そして先端技術分野での日本の国際競争力強化という複合的な目的のために検討されると考えられます。特に化合物半導体は、脱炭素社会の実現に向けたキーデバイスであるため、エネルギー政策との連携も強く意識されるでしょう。

革新的エネルギー議連は、化合物半導体などの研究開発、国内生産体制の強化、人材育成、税制優遇、国際競争力向上への支援を提言し、エネルギー安全保障と経済成長に貢献するとしています。

化合物半導体とは何か

 化合物半導体とは、その名の通り、複数の元素(2種類以上)が結合して作られた半導体材料のことです。

 これに対し、現在主流となっている半導体(例えばパソコンのCPUやメモリなどに使われているもの)は、単一の元素であるシリコン(Si)からできています。

化合物半導体の特徴

 化合物半導体は、シリコンにはない、あるいはシリコンよりも優れた特性を持つことから、「次世代半導体」として注目されています。主な特徴は以下の通りです。

  • 高速動作: 電子の移動速度(電子移動度)がシリコンに比べて非常に速いため、高速な演算や信号処理が可能です。
  • 高耐圧・高耐熱性: シリコンよりも高い電圧や高温環境下でも安定して動作します。これは、バンドギャップが広い(ワイドバンドギャップ半導体とも呼ばれる)ためです。バンドギャップが大きいほど、電子が動き出すのに必要なエネルギーが大きく、高温や高電圧でも誤作動しにくい特性を持っています。
  • 発光・受光機能: 光を発したり、光を電気信号に変換したりする能力を持つものが多くあります。シリコンは基本的に光らないため、この点が大きく異なります。
  • 多様な組み合わせ: 結合させる元素の組み合わせによって、様々な特性を持つ半導体を作り出すことができます。

化合物半導体の主な種類

 周期表の元素の組み合わせによって、いくつかの種類に分類されます。

  • III族-V族半導体:
    • 窒化ガリウム(GaN): 高速・高効率で、特にパワー半導体や高周波デバイス(5G/6G通信など)で注目されています。
    • ヒ化ガリウム(GaAs): 高速動作に優れ、携帯電話の高周波回路や光通信用の半導体レーザーなどに使われます。発光効率が良いものが多いです。
    • リン化インジウム(InP): 光通信用のレーザーや受光素子などに用いられます。
  • IV族-IV族半導体:
    • 炭化ケイ素(SiC): シリコンと炭素の化合物で、高耐圧・高耐熱性に優れ、主にパワー半導体(EV、鉄道、産業機器など)で急速に普及が進んでいます。
  • II族-VI族半導体:
    • 硫化亜鉛(ZnS)セレン化亜鉛(ZnSe)、**テルル化カドミウム(CdTe)**など。発光デバイスや光センサー、太陽電池などに利用されることがあります。

シリコン半導体との違い

特徴シリコン半導体(Si)化合物半導体
構成元素単一元素複数元素(2種類以上)
価格・量産性安価、大量生産が容易高価、製造が難しい場合が多い
電子移動度低い高い(高速動作)
バンドギャップ狭い広い(高耐圧・高耐熱)
発光・受光基本的に発光しない発光・受光できるものが多い
主な用途CPU、メモリ、汎用LSIパワー半導体、LED、レーザー、高周波デバイス、光センサー

 化合物半導体は、シリコンでは実現が難しい、または非効率な分野での性能向上に大きく貢献しています。特に、電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの導入拡大、5G/6G通信の発展など、現代社会の多様なニーズに応えるために、その重要性が高まっています。

化合物半導体は、複数の元素からなる次世代半導体です。シリコンより高効率高耐熱性高周波特性に優れ、EVや5G/6G通信、再生可能エネルギーなど幅広い分野で活用されます。

なぜ、効率、耐熱性、高周波特性に優れるのか

 化合物半導体がシリコン半導体よりも高効率、高耐熱性、高周波特性に優れる理由は、主に以下の3つの物理的特性に起因しています。

  1. 広いバンドギャップ(Wide Bandgap)
  2. 高い電子移動度(High Electron Mobility)
  3. 高い絶縁破壊電界強度(High Breakdown Electric Field Strength)

1. 広いバンドギャップ (Wide Bandgap)

 半導体には「バンドギャップ」という電子が存在できないエネルギーの領域があります。 

 電子が電気を流すためには、このバンドギャップを飛び越えて「伝導帯」というエネルギーのバンドに移動する必要があります。

  • 高耐熱性への寄与:
    • バンドギャップが広い化合物半導体(例えばSiCやGaNは「ワイドバンドギャップ半導体」と呼ばれます)は、シリコンに比べて電子が伝導帯に励起されるために必要なエネルギーが非常に大きいです。
    • そのため、高温になっても、熱エネルギーだけで電子が意図せず伝導帯に飛び出し(熱励起)、誤作動や漏れ電流が増えるのを防ぐことができます。
    • 結果として、より高い温度環境下でも安定して動作することが可能になります。
  • 高耐圧性への寄与:
    • 広いバンドギャップは、物質内の原子間の結合力が強いことを意味します。これにより、高い電圧を印加しても電子が原子の束縛から解放されにくく、絶縁破壊(半導体が電気を流してしまい、素子が壊れる現象)を起こしにくい特性を持ちます。
    • つまり、高耐圧化が可能になり、より高い電圧を扱うパワーデバイスに適しています。

2. 高い電子移動度 (High Electron Mobility)

 電子移動度とは、半導体中で電子がどれだけ速く移動できるかを示す指標です。この数値が高いほど、同じ電界を印加した場合に電子が速く動くため、電流が流れやすくなります。

  • 高効率化への寄与:
    • 電子が速く移動できるため、スイッチング速度を高速化できます。これにより、電力変換の際に発生するスイッチング損失(素子のON/OFF切り替え時に生じるエネルギー損失)を低減できます。
    • 結果として、電力変換効率が向上し、発熱も抑えられるため、システム全体の省エネルギー化に貢献します。
  • 高周波特性への寄与:
    • 電子の移動速度が速いということは、素子が高速な信号に追従できる能力が高いことを意味します。
    • これにより、GHz帯以上の高周波領域での動作が可能となり、5G/6G通信などの高周波デバイスや、ミリ波レーダーなどに適しています。同じ周波数で動作させる場合でも、より小型の素子で実現できるメリットもあります。

3. 高い絶縁破壊電界強度 (High Breakdown Electric Field Strength)

 絶縁破壊電界強度とは、その物質が絶縁体として機能できる最大の電界の強さを示します。この値が高いほど、より高い電圧に耐えることができます。

  • 高耐圧性・高効率化への寄与:
    • ワイドバンドギャップ半導体は、一般的に絶縁破壊電界強度も非常に高いです。これは、電子が原子から引き剥がされるために、より強い電界が必要となるためです。
    • これにより、高耐圧デバイスにおいて、同じ耐圧を得るために必要な素子の厚みを薄くすることが可能になります。素子を薄くできると、抵抗成分が減少し、通電時のエネルギー損失(導通損失)が小さくなるため、高効率化に繋がります。
    • また、素子を小型化できるため、デバイス全体の小型・軽量化も実現できます。

効率、耐熱性、高周波特性に優れる理由は、主に広いバンドギャップ高い電子移動度高い絶縁破壊電界強度の3点です。広いバンドギャップは高温・高電圧での安定動作を可能にし、高い電子移動度は高速スイッチングによる効率向上と高周波対応を実現します。高い絶縁破壊電界強度は、素子の小型化と高耐圧化に寄与します。

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