この記事で分かること
- GPUの製造法:製造プロセス(フォトリソグラフィなど)自体はCPUと共通です。ただし、GPUは並列処理特化のため、数千の単純なコアで構成される点が、少数の高性能コアを持つCPUと内部構造で異なります。
- GPUの有力メーカー:AI/ゲーミングで圧倒的なNVIDIAと、その強力なライバルであるAMDの二強です。近年Intelが参入しました。
- NVIDIAのシェアが高い理由:単なる性能でなく、GPU向け並列計算プラットフォームCUDA」を早期に提供し、AI開発のソフトウェアの業界標準と包括的なエコシステムを確立したためです。
GPUの製造法、有力メーカー
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回は半導体チップにはどのような種類があるのかの記事となります。
GPUとは
GPU(Graphics Processing Unit)は、大量のデータを同時に処理(並列演算)することに特化した演算装置です。元は画像処理用ですが、現在ではその高い性能からAIの深層学習や科学技術計算にも不可欠です。
CPUと製造方法で違いはあるのか
CPUとGPUの製造方法自体に基本的な違いはありません。どちらも高性能なロジック半導体であり、同じ先端の半導体製造プロセスを経て作られます。
しかし、その「設計思想」と「チップ内部の構造」が根本的に異なるため、製造後の製品としての特徴や得意な処理が決定的に異なります。
1. 共通点:同じ半導体製造プロセス(前工程・後工程)
- 同一の技術: CPUもGPUも、シリコンウェハーにフォトリソグラフィ(EUV含む)やエッチングといった、共通の微細加工技術(半導体製造プロセス)を用いて、何十億ものトランジスタを集積して作られます。
- 同じ製造工場: 一般的に、同じ世代のCPUとGPUは、TSMCやSamsungなどの同じ半導体受託製造メーカー(ファウンドリ)の同じラインで製造されます。
2. 決定的な違い:チップ内部の「設計構造」
製造プロセスは同じでも、チップの設計構造(アーキテクチャ)が、CPUとGPUの役割の違いを生み出しています。
| 特徴 | CPU (Central Processing Unit) | GPU (Graphics Processing Unit) |
| 設計思想 | 複雑な処理を高速に順番に行う (直列処理) | 単純な処理を大量に同時に行う (並列処理) |
| コア構造 | 少数の大きく複雑な高性能コアを搭載 (例:4~16コア) | 数千個の小さく単純なコアを搭載 (例:数千コア) |
| 内部構造の重点 | 複雑な制御回路、大容量のキャッシュメモリ(L1/L2/L3)など、多様なタスクを効率良く処理するための機能に重点が置かれる。 | 演算ユニット(ALU)が大部分を占め、大量の計算を並行して行うことに特化。制御回路やキャッシュはCPUに比べると小規模。 |
製造上の影響:歩留まりとコスト
GPUは、CPUに比べてチップ全体の面積(ダイサイズ)が大きくなる傾向があります。これは、数千もの演算コアや大容量のVRAMインターフェースを搭載するためです。
- チップサイズの増大: チップサイズが大きくなると、製造過程でウェハー上に欠陥が発生する可能性が高まり、結果として良品率(歩留まり)が低下し、製造コストが非常に高くなる要因となります。
CPUとGPUは同じ料理器具(製造プロセス)を使っていますが、入れる材料と設計図(アーキテクチャ)が全く違うため、出来上がる製品の特性が異なるのです。

製造プロセス(フォトリソグラフィなど)自体は共通です。ただし、GPUは並列処理特化のため、数千の単純なコアで構成される点が、少数の高性能コアを持つCPUと内部構造で異なります。
GPUの有力メーカーはどこか
GPUの有力メーカーは、用途によって主要なプレイヤーが異なりますが、GPUチップそのものを設計・販売しているのは主に以下の3社です。
特に、AI・データセンター向け市場ではNVIDIA(エヌビディア)が圧倒的なシェアを握り、市場をリードしています。
1. NVIDIA (エヌビディア)
データセンター、AI、ゲーミングの全市場で圧倒的なリーダーです。
| 分野 | シリーズ名 | 特徴 |
| AI・データセンター | NVIDIA H100 / A100 (Tesla, Grace Blackwell) | AI・ディープラーニング用途で市場シェア90%超。高性能な演算能力と、開発環境「CUDA」の充実により、業界標準となっています。 |
| ゲーミング・一般PC | GeForce RTXシリーズ | ゲーミングPC向けで高い性能とブランド力を持ちます。「レイトレーシング」やAIアップスケーリング技術「DLSS」などが有名です。 |
| プロフェッショナル | NVIDIA RTX (旧Quadro) | 映像制作、CAD、科学技術計算など、プロフェッショナルなワークステーション向け。 |
2. AMD (Advanced Micro Devices)
CPU(Ryzen)も手掛ける半導体メーカーで、NVIDIAを追随する有力な競合企業です。
| 分野 | シリーズ名 | 特徴 |
| AI・データセンター | Instinct MIシリーズ | NVIDIAに対抗する高性能なアクセラレーター。コスト競争力や特定の演算性能で差別化を図っており、大手クラウド企業などでの採用が増えています。 |
| ゲーミング・一般PC | Radeon RXシリーズ | コストパフォーマンスとオープンソースのソフトウェア環境に強みがあります。PlayStation 5やXboxなどの家庭用ゲーム機にも、AMDベースのGPUが採用されています。 |
3. Intel (インテル)
CPU市場の巨人で、近年、独立したGPU(ディスクリートGPU)市場に本格的に参入しています。
| 分野 | シリーズ名 | 特徴 |
| 一般PC | Intel Arc (Arc Aシリーズ) | ゲーミングやクリエイティブ用途向けに投入された新しいGPUラインナップです。主に内蔵GPU(iGPU)として知られていましたが、独立GPUとしての存在感を高めています。 |
| AI・データセンター | Habana / Gaudi | AIアクセラレーター分野でNVIDIAに対抗する製品群を展開しており、クラウドサービスプロバイダーなどで採用されています。 |

GPUチップの有力メーカーは、AI/ゲーミングで圧倒的なNVIDIA(GeForce/RTX)と、その強力なライバルであるAMD(Radeon/Instinct)の二強です。近年Intelが参入しました。
NVIDIAのシェアが高い理由は
NVIDIAがGPU市場、特にAI(人工知能)とデータセンター分野で圧倒的なシェアを占めている理由は、以下に示すように、単なるハードウェアの性能の高さに留まらず、ソフトウェアとエコシステムを早期に確立したことにあります。
1. 開発の「業界標準」であるCUDAの存在
これがNVIDIA最大の強みです。
- CUDA (Compute Unified Device Architecture): NVIDIAが提供するGPU向けの並列計算プラットフォームです。
- 開発の容易さ: CUDAの登場により、それまで難しかったGPUの並列プログラミングが、C/C++などの慣れ親しんだ言語ベースで容易に行えるようになりました。
- ソフトウェアの最適化: ディープラーニングで主要なフレームワーク(TensorFlow、PyTorchなど)や、AI開発に必要なライブラリは、すべてCUDA環境に最適化されています。
- ネットワーク効果とロックイン: 長年にわたり研究者や開発者がCUDAに慣れ親しんだ結果、NVIDIA製品から他社(AMDなど)へ移行するためのスイッチングコスト(乗り換えの負担)が極めて高くなり、開発者をNVIDIAのエコシステムに事実上ロックインしています。
2. ハードウェアの技術的優位性と多様性
ソフトウェアだけでなく、ハードウェアの性能もトップレベルです。
- 高性能な専用コア: AIの計算(行列演算)に特化したTensor Coreなど、最新のGPUアーキテクチャをいち早く開発・導入し、学習速度や推論速度で競合他社をリードしています。
- 用途に応じた豊富なラインナップ:
- 大規模なAI学習向けにはH100/A100といったハイエンド製品。
- クラウドやエッジでの推論向けには、省電力で効率的なT4など、幅広いニーズに対応するGPUを提供しています。
- 製造パートナーとの強固な関係: TSMCなどのトップファウンドリ(半導体受託製造)との強固な連携により、最新プロセスでの安定的な供給体制を維持しています。
3. AI時代の早期予測と戦略的投資
- 先見の明: NVIDIAは、GPUの並列演算能力がグラフィックス処理だけでなく、ディープラーニングに適していることを早い段階で見抜き、2006年のCUDA発表以降、AI分野への投資とコミットメントを続けてきました。
- エコシステムの構築: ハードウェア(GPU)だけでなく、ソフトウェア(CUDA)、クラウドサービス、トレーニング済みモデルなど、AI開発に必要な全てを網羅した包括的なエコシステムを構築し、「ワンストップショップ」として提供しています。
これらの要因が組み合わさり、NVIDIAはAI分野で85%〜90%という圧倒的な市場シェアを築き上げ、AI時代のインフラ企業としての地位を確立しています。

NVIDIAのシェアが高い理由は、単なる性能でなく、GPU向け並列計算プラットフォームCUDA」を早期に提供し、AI開発のソフトウェアの業界標準と包括的なエコシステムを確立したためです。
早い段階でAIに適切であることを見抜くことができた理由は
NVIDIAがディープラーニングに適していることを早い段階で見抜くことができた主な理由は、創業当初からのGPU設計思想と、アカデミア(大学・研究機関)との密接な連携という二つの要素にあります。
1. 創業からの設計思想とGPUの構造的適合性
- 並列処理の追求: NVIDIAは創業時(1993年)から、大量のピクセルや頂点の座標計算を同時に行う3Dグラフィックス処理に特化したGPUを開発してきました。これは、「大量の単純な計算を並列で行う」という設計思想に基づいています。
- 計算の類似性: 2000年代に入り、研究者たちは、ディープラーニングの基礎となるニューラルネットワークの行列演算が、GPUが得意とする3Dグラフィックスのベクトル・行列演算と数学的に非常に似ていることに気づき始めました。
- CUDA開発への着手: NVIDIAは、この計算特性の類似性を見抜き、2006年にGPUをグラフィックス専用ではなく、汎用的な並列計算機として使えるようにするプラットフォーム「CUDA」をリリースしました。この決断が、後にAI時代の主導権を握る決定打となりました。
2. 研究者コミュニティとの密接な連携
- アカデミアへの無償提供: NVIDIAは、CUDAリリース後、研究機関や大学にGPUと開発ツールを積極的に無償または低価格で提供し、GPUコンピューティングの研究を強力に後押ししました。
- 早期の活用事例: 2010年代初頭、トロント大学のジェフリー・ヒントン教授らの研究チームが、画像認識コンテスト(ImageNet)でディープラーニングを使用し、GPU(NVIDIA製)を使って驚異的な精度を達成しました。
- 成功事例の把握: NVIDIAはこの初期の成功事例をいち早く把握し、GPUがディープラーニングにおける計算ボトルネックを解消する唯一のソリューションであることを確信しました。これにより、同社はAI分野への経営資源の集中を決定づけました。
NVIDIAは「並列計算のハードウェア(GPU)」を既に持っており、その計算特性がAI研究の「計算ニーズ」と合致していることを、研究者との協業を通じて早期に発見し、ソフトウェア(CUDA)でその潜在能力を開花させたことが、成功の最大の理由です。

GPUの並列計算の設計が、ディープラーニングの行列演算に構造的に合致し、さらにCUDAを開発して大学などの研究者コミュニティと早期に連携したためです。

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