日立レールのトラムシステムの契約 トラム線とは何か?なぜトラムが増えているのか?

この記事で分かること

  • トラム線とは:路面電車(トラム)が走行する線路を指します。道路上を走る併用軌道と、専用の軌道を走る専用軌道があります。都市交通として環境に優しく、景観に調和した移動手段として世界中で活用されています。
  • トラム増加の背景:トラム増加の背景には、環境負荷の低い公共交通機関へのニーズ、交通渋滞緩和、都市の活性化、バリアフリー化推進など、持続可能な都市づくりへの要請が高まっていることが挙げられます。

日立レールのトラムシステムの契約

 日立レールが参画する企業グループが、イタリア・ブレシア市の新しいトラムシステム(T2線)の契約を締結しました。

 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2025/06/0619b.html

 このプロジェクトの総額は3億2600万ユーロ(日本円で約542億円)で、日立レールの契約金額は約7700万ユーロ(約128億円)です。

トラム線とは何か

 「トラム線」とは、トラム(路面電車)が走行するための線路を指します。

トラムとは

  • 一般的に「路面電車」や「LRT(Light Rail Transit)」と呼ばれる公共交通機関の総称です。
  • 英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語など多くの言語で「Tram」と呼ばれています。
  • 多くの場合、道路上に敷設されたレールの上を走行し、自動車と共存する形で運行されます。
  • 都市交通の身近な手段として世界中で利用されています。

トラム線の特徴

  • 併用軌道:道路上に設置され、自動車と一緒に走る区間を指します。日本の路面電車の多くがこれに該当します。
  • 専用軌道:道路とは区切られた、トラム専用の線路区間を指します。この区間では自動車の影響を受けずに高速で運行できることがあります。
  • ライトレール(LRT)との関係:LRTは、従来の路面電車のイメージを刷新し、快適性、省エネ性、環境性能などを向上させた「次世代型路面電車」を指すことが多いですが、広義ではトラムに含まれます。ヨーロッパでは、LRTも「Tram」と呼ぶことが一般的です。

 日立レールがイタリアで受注したトラム線は、ブレシア市内に新設されるトラムシステムのための線路や関連設備、そして車両そのものを指していると考えられます。都市の交通を円滑にし、環境負荷を低減する役割を担う重要なインフラと言えるでしょう。

トラム線は、路面電車(トラム)が走行する線路を指します。道路上を走る併用軌道と、専用の軌道を走る専用軌道があります。都市交通として環境に優しく、景観に調和した移動手段として世界中で活用されています。

日立レールが受注できた理由は何か

 日立レールが今回のイタリア・ブレシアでのトラム線受注を獲得できた理由は、いくつか考えられます。

  1. 包括的なソリューション提供能力: 日立レールは、単にトラム車両を提供するだけでなく、地上・車載の通信機器、車載信号システムといった鉄道システム全体を統合して提供できる強みを持っています。今回の契約も、車両、信号、通信をセットで提供するものであり、包括的なソリューション提案が評価されたと見られます。
  2. 技術力と実績:
    • 次世代トラムの設計・開発能力: 今回の新型トラムは「S.C.A.I.の原則(安全性、快適性、環境適合性、革新性)」に基づいて設計されるとされており、最新の技術と人間工学に基づいた乗客体験への配慮が盛り込まれています。特に、障害物検知や衝突防止機能など、安全性と効率性を高める技術力が評価された可能性があります。
    • 信号システムにおける強み: 日立レールは、無線式列車制御システム(CBTC)のような最先端の信号技術にも強みを持っています。テッサロニキの自動運転都市鉄道システムへの導入実績など、実績も豊富です。
    • イタリアにおける長年の実績と信頼関係: 日立レールは、イタリア国内でミラノ地下鉄向け車両やデジタル信号システムの受注、高速鉄道車両の納入など、多数のプロジェクトに携わってきました。現地に製造拠点(レッジョ・カラブリア工場)も持ち、その実績と信頼関係が今回の受注に繋がったと考えられます。
  3. 持続可能性への貢献: 環境適合性や輸送の脱炭素化を推進するという、日立グループ全体の戦略目標とも合致しており、持続可能な公共交通への移行を支援する日立レールの姿勢が評価された可能性もあります。
  4. 国際競争力: 日立レールは、世界中で鉄道システム事業を展開しており、グローバルな競争力を有しています。車両の製造技術と経験、そして継続的な投資による先進的な製造技術の導入が、国際市場での競争力を高めています。

 これらの要素が複合的に作用し、日立レールがブレシアのトラム線プロジェクトという大型契約を受注できたと言えるでしょう。

日立レールは、包括的なソリューション提供能力、安全性・快適性・革新性を追求した次世代トラムの技術力、そしてイタリアでの長年の実績と信頼が評価され、今回の受注に成功しました。

トラムは世界的には増えているのか

 トラム(路面電車、特にLRT:Light Rail Transitと呼ばれるもの)は、世界的に見ると増加傾向にあります。

 かつてモータリゼーションの進展に伴い、多くの都市で路面電車が廃止された時期がありました。しかし、1970年代後半以降、特に欧米を中心にその価値が見直され、新設や復活が相次いでいます。

 増加の主な背景には、以下のような都市問題への解決策としての期待があります。

  • 交通渋滞の緩和: 自動車交通量の増加による渋滞は、都市の経済活動や市民生活に大きな影響を与えます。トラムは定時性に優れ、効率的な都市内移動手段となります。
  • 環境問題への対応: CO2排出量の削減など、地球温暖化対策が喫緊の課題となる中で、電力を動力とするトラムは、環境負荷の低い公共交通機関として注目されています。
  • 都市再生・活性化: トラムは、まちの景観を向上させ、沿線の開発を促進する効果も期待されています。欧米では、トラムの導入を都市の再開発と一体的に進める事例も多く見られます。
  • バリアフリー化: 低床車両の普及により、高齢者や車いす利用者でも乗り降りしやすいバリアフリーな交通機関として、社会的なニーズに応えています。
  • 高い輸送力と柔軟性: バスよりも大量輸送が可能でありながら、地下鉄のような大規模なインフラ工事が不要なため、比較的導入コストを抑えられます。

 特にフランスやドイツなどのヨーロッパ諸国では、都市の公共交通政策の中核としてトラム(LRT)が積極的に導入されており、多くの都市で新しい路線が開業したり、既存路線の延伸が行われています。アメリカやアジアの一部都市でも導入が進められています。

トラムは単なる交通手段としてだけでなく、都市の持続可能性を高め、生活の質を向上させるための重要なインフラとして、世界中で再評価されています。

日立レールはどんな企業なのか

 日立レールは、日本の大手電機メーカーである日立製作所の鉄道システム事業を担うグローバル企業です。鉄道に関する幅広いソリューションを提供しており、単なる鉄道車両メーカーに留まらないのが特徴です。

  • 鉄道車両の製造・販売: 高速鉄道車両(新幹線やフレッチャロッサなど)、通勤車両、都市型電車、モノレール、トラムなど、多種多様な鉄道車両を製造・供給しています。車両に搭載される空調・換気装置や台車、インバータ制御装置なども手がけています。
  • 信号・鉄道システム: 列車制御システム(CBTC、ETCSなど国際標準規格に対応)、運行管理システム、旅客案内システム、鉄道用受変電システムなど、鉄道運行を支える重要なインフラシステムを提供しています。特にデジタル信号システムには強みを持っています。
  • ターンキーソリューション: 大規模な鉄道プロジェクトにおいて、車両、信号、電力、通信、保守までを一貫して提供する「ターンキー(一括請負)」ビジネスを展開しています。これは、発注側にとってプロジェクト管理の負担を軽減できるメリットがあります。
  • オペレーション・サービス&メンテナンス(OS&M): 鉄道システムの販売、エンジニアリング、製造だけでなく、車両や設備の保守サービス、さらには駅の運営や列車の運行におけるオペレーションサービスも提供しています。
  • デジタルソリューション: IoT技術やAIを活用し、鉄道システムの効率化、安全性向上、省エネ化などを実現するデジタルソリューションの開発にも注力しています。

 日立レールは、2015年にイタリアの鉄道車両メーカーであるアンサルドブレーダ(AnsaldoBreda S.p.A.)を買収したことで、グローバルな生産拠点と技術力を大幅に強化しました。現在はイギリスに拠点を置く日立レール・リミテッドの子会社となっています。

日立レールは鉄道車両から信号、保守、さらにはデジタル技術まで、鉄道に関するあらゆる側面をカバーする「総合システムインテグレーター」として、世界の鉄道市場で存在感を示しています。

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