経済産業省の予算案増額 増額の理由は何か?半導体分野への支援内容は?

この記事で分かること

  • 予算案の増額理由:主な理由は、AI・半導体分野への10年で10兆円規模の支援策が本格化し、約1.2兆円を計上したためです。また、GX(脱炭素)や経済安保への重点投資を、従来の補正予算頼みから当初予算へ移したことも要因です。
  • AI・半導体分野への投資内容:7年間で計10兆円以上の公的資金を投じ、次世代半導体の量産(ラピダス支援等)や、AI・ロボット開発の基盤整備を行う計画です。補助金に加え、政府出資や債務保証による金融支援も活用します。
  • 投資の懸念点:失敗時の巨額な国民負担や、米中欧との補助金競争による将来の供給過剰、そして最先端技術を担う専門人材の不足が主な懸念です。

経済産業省の予算案増加

 経済産業省の2026年度(令和8年度)予算案が、前年度当初比で約5割増の3兆693億円という異例の規模になったことは、日本の産業政策が大きな転換点を迎えていることを示しています。

経産関連、総額3兆693億円へ AI・半導体に1兆2390億円 来年度予算案(時事通信) - Yahoo!ニュース
政府が、2026年度予算案の編成で、経済産業省関連を総額3兆693億円とする方向で最終調整に入ったことが22日、分かった。 25年度当初予算比で1.5倍の増加となる。8月の概算要求では金額を示

 この予算案によって、国内の製造業やエネルギー関連のスタートアップ、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中小企業への補助金・支援策も拡充される見込みです。

大幅な増額となった理由は何か

 経済産業省の2026年度予算が前年度比約5割増の3兆693億円という、当初予算としては過去最大規模に膨れ上がった理由は、主に「先端技術への集中投資」と、これまで補正予算に頼っていた「巨額支援の恒久化(見える化)」にあります。大きく分けて以下の4つの理由が挙げられます。

1. AI・半導体分野への「10兆円支援」の本格始動

 今回の増額の最大の要因は、AIと半導体分野に1兆2,390億円(前年度の数倍規模)を投じるためです。

  • 理由: 政府は、今後10年間でAI・半導体分野に10兆円以上の公的支援を行う方針を決定しました。2026年度はその「勝負の年」と位置づけられ、次世代半導体の量産を目指す「ラピダス」への支援や、AIとロボットを融合させた「フィジカルAI」の開発に巨額が充てられています。

2. 「補正予算」から「当初予算」へのシフト

 これまでは、年度途中の「補正予算」で数兆円単位を積み増すのが通例でしたが、今回はあらかじめ当初予算に組み込む形をとりました。

  • 理由: 半導体工場などの巨大プロジェクトは数年がかりの投資が必要です。補正予算(単発)ではなく当初予算(計画的)として確保することで、企業側が安心して投資できる「予見可能性」を高める狙いがあります。

3. エネルギー・経済安全保障の強化

 エネルギー対策と経済安保関連に1兆1,514億円が計上されています。

  • 理由: ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢の緊迫化を受け、石油・天然ガスの自前権益の確保や、レアアース等の重要鉱物の安定供給、さらに次世代革新炉(新型原発)の研究開発を加速させる必要が生じたためです。

4. 対米投資と国際情勢への対応

 日米関税交渉に関連した対米投資支援として、日本貿易保険(NEXI)の強化に1兆円規模の交付国債(当初予算とは別枠に近い扱い)を活用する方針などが盛り込まれています。

  • 理由: 国際的な関税障壁や地政学リスクに対し、日本企業の海外展開やサプライチェーンを財政面から強力にバックアップするためです。

予算構成のイメージ

重点分野予算額(概算)主な内容
AI・半導体1兆2,390億円ラピダス支援、フィジカルAI開発、生成AI基盤整備
エネルギー・安保1兆1,514億円次世代革新炉、重要鉱物確保、GX(脱炭素)推進
中小企業・その他約6,800億円省力化投資、賃上げ支援、万博会場整備など

 今回の予算は、単なる運営費の増加ではなく、「日本の産業の命運を握る分野に国費を一点突破で投入する」という政府の強い意思表示といえます。

主な理由は、AI・半導体分野への10年で10兆円規模の支援策が本格化し、約1.2兆円を計上したためです。また、GX(脱炭素)や経済安保への重点投資を、従来の補正予算頼みから当初予算へ移したことも要因です。

AI・半導体分野への「10兆円支援」の内容は

 「10兆円支援」は、政府が策定した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づく巨大プロジェクトです。

 2030年度までの7年間で合計10兆円以上の公的支援を行い、それを呼び水として官民合計50兆円超の投資を引き出すことを目指しています。具体的な内容は大きく3つの柱で構成されています。

1. 次世代半導体の量産支援(Rapidusなど)

 最も象徴的なのが、2027年の量産化を目指すRapidus(ラピダス)への支援です。

  • 直接的な資金投入: 工場の建設費や製造装置の導入に対する補助・出資。
  • 量産体制の整備: 単なる研究開発にとどまらず、実際に市場へ供給するための「量産ライン」の確立を国が支えます。

2. 「フィジカルAI」と国産AIモデルの開発

 日本が強みを持つ「ものづくり」とAIを融合させる分野に注力します。

  • フィジカルAI: AIがロボットや工作機械を高度に制御する技術。人手不足解消の切り札として、2026年度予算でも約3,873億円が計上されています。
  • 国産基盤モデル: 海外製AI(ChatGPTなど)に依存せず、日本語や日本の産業データに特化した「国産AI」の開発を支援(ソフトバンクやPreferred Networksなどの連合体が中心)。

3. 金融支援スキームの構築

 10兆円の内訳は、直接的な補助金だけではありません。

  • 政府保証・出資: 民間銀行が融資しやすくするための政府保証や、政府系金融機関による出資。
  • 量産に必要な巨額資金の確保: 数兆円単位が必要になる半導体工場の運営に対し、中長期的に資金が供給される仕組みを法律(法制上の措置)に基づいて作ります。

支援の全体像(2030年度までの目標)

項目内容
公的支援額10兆円超(補助・委託:約6兆円、金融支援:約4兆円)
官民投資目標50兆円超
経済波及効果約160兆円
主な対象ラピダス、TSMC(熊本)、マイクロン(広島)、国産AI開発など

 これまでのような「単発の補助金」ではなく、2030年まで国が継続的に支えることを約束した点が最大の特徴です。これにより、民間企業が安心して長期的な投資計画を立てられるようになります。

2030年度までの7年間で計10兆円以上の公的資金を投じ、次世代半導体の量産(ラピダス支援等)や、AI・ロボット開発の基盤整備を行う計画です。補助金に加え、政府出資や債務保証による金融支援も活用します。

ラピダスは支援を受け何を行うのか

 ラピダスは、政府から巨額の支援を受け、主に「世界最先端の2ナノ半導体の国産化」と、それを短期間で製造する「新たなビジネスモデルの確立」に取り組みます。具体的には、以下の3つの大きなミッションを進めています。

1. 2ナノメートル半導体の量産(2027年開始予定)

 現在、世界でも数社しか作れない回路線幅2ナノメートル(nm)という超微細な次世代半導体を、北海道千歳市の新工場「IIM(イーム)」で量産します。

  • 技術開発: 米IBMやベルギーのimec(アイメック)といった世界的な研究機関と連携し、最先端の製造技術を導入します。
  • 試作と実証: 2025年までに試作ラインを稼働させ、2027年度後半の量産開始を目指しています。

2. 短納期(短TAT)生産システムの構築

 他社(TSMCなど)との差別化として、「RUMS(ラムス)」と呼ばれる独自の製造サービスを構築します。

  • スピード重視: 従来の半導体製造よりも大幅に短い期間で製品を仕上げる「短TAT(Turn Around Time)」を実現し、AI開発などのスピードが求められる顧客をターゲットにします。
  • 一気通貫: 設計支援から製造、組み立て(後工程)までを一つの拠点で効率的に行います。

3. 日本の半導体エコシステムの復活

 ラピダスを核として、日本国内に高度な部素材・装置メーカーが集まるサプライチェーンを再構築します。

  • 人材育成: 海外への技術者派遣や国内での採用を通じて、次世代半導体に対応できるエンジニアを育成します。

ラピダスの今後(ロードマップ)

時期主なアクション
2025年北海道千歳市の試作ラインが稼働開始
2026年顧客向けの設計用キット(PDK)をリリース
2027年2ナノメートル半導体の量産開始
2030年以降1.4ナノ・1.0ナノ世代へのさらなる微細化

世界最先端の「2ナノ半導体」の国産化を目指します。具体的には、北海道の新工場で2027年の量産開始に向け、IBM等と連携した技術開発や試作ラインの稼働、設計から製造までを短期間でこなす独自サービスの構築を行います。

AI・半導体分野への「10兆円支援」の懸念点は

 AI・半導体分野への「10兆円支援」は、日本の将来を左右する大きな期待の一方で、専門家や市場からは「4つの大きな懸念」が指摘されています。

1. 膨大な国民負担と「失敗時の出口戦略」の欠如

 最も懸念されているのは、多額の税金を投入しながら、「もし失敗したら誰が責任を取るのか」という点です。

  • 懸念点: 2030年までに10兆円という規模は、防衛費の増額などと並ぶ巨額の支出です。しかし、ラピダスなどのプロジェクトが目標とする収益を上げられなかった場合、投資がそのまま「国民の負担」として残るリスクがあります。

2. 世界的な「補助金競争」と過剰供給のリスク

 日本だけでなく、米国、欧州、中国も数兆円規模の補助金を投じて自国生産を強化しています。

  • 懸念点: 各国が一斉に工場を建てているため、数年後には世界中で半導体が供給過剰(だぶつき)になり、価格が暴落して投資が回収できなくなる恐れがあります。

3. 圧倒的な「人材不足」

 最先端の2ナノ半導体を作るには、高度な知識を持つ数千人規模のエンジニアが必要です。

  • 懸念点: 日本の半導体産業は長年の低迷で、若手技術者の育成が遅れています。海外からの引き抜きも激化しており、「お金はあっても、動かす人がいない」という事態に陥るリスクが現実味を帯びています。

4. 過去の「国策失敗」のトラウマ

 日本には過去、エルピーダメモリやルネサスエレクトロニクス(再建前)など、政府主導の「日の丸半導体」プロジェクトがうまくいかなかった苦い経験があります。

  • 懸念点: 「官製」のプロジェクトは意思決定が遅く、変化の激しい半導体市場のスピードについていけないのではないかという疑念が根強くあります。

懸念点のまとめ

分類具体的なリスク
財政回収不能になった際の国民負担の増大
市場世界的な供給過剰による価格競争の激化
人材2ナノ級を扱える高度専門人材の絶対的不足
経営迅速な意思決定が困難な「官製」の弊害

 10兆円支援は「日本にとって最後のチャンス」と言われる一方で、「負ければ日本の産業競争力が致命傷を負う」という、極めてハイリスク・ハイリターンな賭けであることも事実です。

失敗時の巨額な国民負担や、米中欧との補助金競争による将来の供給過剰、そして最先端技術を担う専門人材の不足が主な懸念です。過去の「日の丸半導体」の失敗を繰り返し、公的資金が霧散するリスクを危惧する声もあります。

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