この記事で分かること
- ペロブスカイト太陽電池とは:ペロブスカイトという特殊な結晶構造を持つ化合物を用いた次世代の太陽電池です。薄くて軽いため曲げることができるという特徴を持っています。
- ヨウ素の役割:ヨウ素は発電層の主要な構成要素であり、太陽光を効率的に吸収し、電気に変換する役割を担っています。
- ヨウ素によって光の吸収が増える理由:ヨウ素を含む構造にすることで、太陽光の可視光エネルギーと電子のエネルギー準位がよく一致するため、効率的に光を吸収します。
ペロブスカイト太陽電池向けヨウ素の増産
軽量で柔軟性があることから「曲がる太陽電池」とも呼ばれ次世代の太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池の主要原料にはヨウ素が使用されています。日本はヨウ素の主要産出国であり、国内の複数企業がこの需要増を見越して増産を計画しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF023Z40S5A900C2000000/
ペロブスカイト太陽電池とは何か
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトという特定の結晶構造を持つ化合物を発電層に用いた次世代型の太陽電池です。2009年に日本の研究者によって考案されました。
従来のシリコン系太陽電池とは異なり、薄く、軽く、柔軟性があるのが最大の特徴で、建物の壁面や窓など、これまで太陽電池の設置が難しかった場所への応用が期待されています。
仕組みと特徴
ペロブスカイト太陽電池は、光が当たると、発電層であるペロブスカイト層内で「電子」と「正孔(電子が抜けた穴)」が発生し、これらの電荷が電極に移動することで電気が生まれる仕組みです。
主なメリット
- 軽量で柔軟性が高い: 薄いフィルム状にできるため、曲げることが可能で、設置場所の自由度が格段に上がります。
- 低コストでの製造: 原料をインクのように基板に塗布・印刷して製造できるため、製造コストやエネルギー消費を抑えることができます。
- 弱い光でも発電: 光を吸収する力が非常に強く、曇りの日や室内でも効率的に発電できます。
- 国内での原料調達: 主原料の一つであるヨウ素は日本で多く産出されるため、安定した供給が可能です。
課題
- 耐久性の低さ: 従来のシリコン太陽電池に比べて、水分や紫外線に弱く、劣化しやすいという課題があります。
- 寿命の短さ: 耐久性が低いため、シリコン太陽電池の耐用年数(約20年)に比べて寿命が短いとされていますが、研究開発が進められています。
- 大面積化の難しさ: 面積を大きくすると、発電効率にばらつきが生じることが課題でしたが、技術開発により改善されつつあります。
実用化への展望
現在、ペロブスカイト太陽電池は、政府や多くの企業によって実用化に向けた研究開発が進められており、2030年頃の本格普及を目指しています。すでに一部で実証実験が始まっており、大阪・関西万博の会場でも活用されています。

ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトという特殊な結晶構造を持つ化合物を用いた次世代の太陽電池です。薄くて軽いため曲げることができ、建物の壁や窓など、従来の太陽電池が設置できなかった場所への利用が期待されています。
ヨウ素の働きは何か
ペロブスカイト太陽電池において、ヨウ素は発電層の主要な構成要素であり、太陽光を効率的に吸収し、電気に変換する役割を担っています。
詳細な働き
- 結晶構造の形成: ペロブスカイト太陽電池の発電層は、ヨウ素や鉛などの化合物で構成される特定のペロブスカイト構造を持っています。ヨウ素はこの結晶を形成する上で不可欠な元素です。
- 光吸収: ヨウ素を含むペロブスカイトは、太陽光の可視光スペクトルを効率よく吸収する特性を持っています。これにより、光エネルギーを電気エネルギーに変えるための第一歩である「電子」と「正孔」の生成を促します。
- 電荷輸送: ヨウ素を含む材料は、生成された電子と正孔を迅速に輸送する能力が高く、電池の発電効率を向上させます。
日本はヨウ素の主要産出国であり、この国内調達の優位性がペロブスカイト太陽電池のサプライチェーンの安定に寄与すると期待されています。

ペロブスカイト太陽電池において、ヨウ素は発電層の主要な構成要素であり、太陽光を効率的に吸収し、電気に変換する役割を担っています。ヨウ素を含む化合物が、光を吸収して電子と正孔を生成するペロブスカイト結晶を形成します。
ペロブスカイト構造とは何か
ペロブスカイト構造とは、化学式がABX3で表される化合物が持つ特定の結晶構造のことです。自然界に存在する鉱物「灰チタン石(CaTiO3)」と同じ構造を持つことから、その名がつけられました。
構造の特徴
この結晶構造は、立方体の中心に位置する原子Bを、立方体の面心に位置する原子Xが取り囲んで八面体を形成し、さらにその八面体に立方体の頂点に位置する原子Aが結合している、という特徴的な配列をしています。
応用と重要性
ペロブスカイト構造を持つ物質は、その組成や原子の組み合わせを様々に変えることができる高い柔軟性を持っています。
この特性により、半導体、強誘電体、超伝導体など、多岐にわたる機能性材料として応用されています。特に、近年注目されているのが、高い光吸収能力を持つペロブスカイト構造を利用したペロブスカイト太陽電池です。この構造の特性が、軽量で柔軟な太陽電池の開発を可能にしました。

ペロブスカイト構造とは、特定の化学式で表される化合物が持つ結晶構造です。立方体の格子の中に3種類の異なる原子やイオンが配置されており、この構造を持つ物質は太陽電池や超伝導体など多岐にわたる分野で応用されています。
なぜヨウ素を含むと光の吸収が増えるのか
ヨウ素は電子を豊富に持ち、その電子のエネルギー準位が太陽光のエネルギーとよく一致するため、光を効率よく吸収します。この特性が、ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める鍵となります。
光吸収のメカニズム
光はエネルギーの粒(光子)で、物質に当たると、その光子のエネルギーを電子が吸収します。物質が特定の色の光を吸収するのは、その物質の電子が、その色の光のエネルギーとぴったり合うエネルギー準位を持っているからです。
- ヨウ素の電子配置: ヨウ素は、原子核の周りを回る電子が外側の軌道(最外殻)に多く配置されています。これらの電子は比較的エネルギーが高く、光子のエネルギーを吸収して簡単に励起(エネルギーの高い状態に移行)することができます。
- エネルギー準位のマッチング: ペロブスカイト太陽電池の発電層は、ヨウ素や鉛などの元素からなるペロブスカイト構造を持っています。この構造の中で、ヨウ素の電子のエネルギー準位が太陽光の可視光のエネルギーと非常にうまく合致します。これにより、太陽光が当たった際に、より多くの光子が吸収され、効率的に発電に必要な電子を生成することができます。
この特性が、ペロブスカイト太陽電池が曇りの日や室内でも発電できる理由の一つとなっています。

ヨウ素を含む化合物は、太陽光の可視光エネルギーと電子のエネルギー準位がよく一致するため、効率的に光を吸収します。これにより、太陽光が当たった際に、発電に必要な電子を多く生成できるのです。
どんなメーカーがヨウ素の増産しているのか
ペロブスカイト太陽電池の普及に向けたヨウ素の需要増に対応するため、複数の国内メーカーがヨウ素の増産を計画・実行しています。
主なメーカーは以下の通りです。
- 伊勢化学工業: 国内最大のヨウ素生産企業で、世界市場でも高いシェアを占めています。
- K&Oエナジーグループ: 天然ガス事業と並ぶ主力事業としてヨウ素事業を展開しており、国内外での増産を計画しています。
- JX石油開発(ENEOS傘下): 新潟県の設備を増強し、ヨウ素の生産能力を2倍にする計画を発表しています。
- INPEX: 石油・天然ガス開発で培った技術を活用し、千葉県でのヨウ素増産を検討しています。
- 合同資源: リサイクル技術の設備増強を行い、ヨウ素の増産につなげる計画です。
- 日宝化学:ヨウ素やヨウ素系化合物の製造・販売を主要な事業とし、ペロブスカイト太陽電池の原料となるヨウ素化合物の製造技術を有しており、安定的な供給能力を持つ強みがあります。
これらの企業は、天然ガス採掘の際に汲み上げられる地下水(かん水)からヨウ素を製造しており、日本の重要な国産資源として、安定供給体制の強化を図っています。
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