この記事で分かること
1. レーザー加工の役割
SEM試料室内で、観察・分析したい場所の「綺麗な断面」を圧倒的な速度と広範囲で切り出すことです。従来のFIB方式に比べ数百倍速く、真空を保ったまま大領域のシームレスな断面観察・分析を可能にします。
2. FIBより早く加工できる理由
レーザーは強力な光エネルギーを1点に集中させ、物質を一瞬で「融解・蒸発」させて吹き飛ばすためです。イオンを衝突させて原子を1粒ずつ地道に弾き飛ばすFIBに比べ、投入できるパワーが桁違いに大きいからです。
日本電子のSEMへのレーザー加工装置組み込み
日本電子(JEOL)は2026年5月25日、レーザー加工装置を走査電子顕微鏡(SEM)の試料室内に組み込んだ新型システム「LazEdge(レイズエッジ)」を開発し、同日より販売を開始したことを発表しました。
「LazEdge」は、日本電子のSEM技術と、浜松ホトニクス株式会社が持つ独自のレーザー技術を統合して開発されました。SEMの試料室内という真空かつ制限された空間で、安定したレーザー加工を可能にしています。
走査電子顕微鏡とは何か
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、光の代わりに「電子の束(電子線)」を試料に吹き付け、その表面の微細な構造を極めて高い倍率で観察する装置です。
一般的な光学顕微鏡では見ることのできない、ナノメートル(100万分の1ミリ)単位のナノワールドを圧倒的な立体感とともに映し出す、材料開発や半導体検査には欠かせない「科学の眼」です。
1. どのようにして像を映し出すのか(仕組み)
光学顕微鏡が「光を当てて、反射または透過した光をレンズで拡大する」のに対し、SEMは以下のようなプロセスで画像を数秒〜数十秒で作り出します。
[電子銃] ── 電子線を発生させる
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[電磁レンズ] ── 電子線をナノレベルの細い「絞り(ビーム)」にする
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[偏向コイル] ── 試料の表面を「走査(スキャン)」しながら照射
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[試料表面] ── 電子が衝突し、表面から「二次電子」などが飛び出す
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[検出器] ── 飛び出した電子をキャッチし、電気信号に変換してモニターに映像化
テレビのブラウン管が画面に電子を走査して映像を作るように、試料の表面を細い電子ビームで1点ずつなぞる(走査する)ことから、「走査」電子顕微鏡と呼ばれます。
なぜ「電子」を使うと細かく見えるのか
顕微鏡で見分けられる最小の大きさ(分解能)は、使用する「波の長さ(波長)」に依存します。
可視光の波長が数百ナノメートルであるのに対し、加速された電子の波長は数ピコメートル(数千分の一ナノメートル)と圧倒的に短いため、原子・分子レベルの極めて微細な構造まで見分けることができるのです。
2. 走査電子顕微鏡(SEM)の3大特徴
① 圧倒的な「倍率」と「分解能」
一般的な光学顕微鏡の限界倍率が約1,000倍〜2,000倍(数万分の1ミリまで)であるのに対し、SEMは数万倍から、高性能なものでは数十万倍〜100万倍以上の倍率で観察が可能です。
② 驚異的な「焦点深度(ピントの合う深さ)」
光学顕微鏡に比べて焦点深度が数百倍も深いため、表面に激しい凹凸がある試料でも、手前から奥まで全体にピントが合った立体的な像を得ることができます。これがSEM画像の最も大きな強みです。
③ 元素分析(EDS)への拡張性
電子が試料に当たると、二次電子だけでなく「特性X線」という光(X線)も発生します。
このX線を分析する装置(EDS:エネルギー分散型X線分光器)を組み合わせることで、「その場所に何の元素(鉄、銅、シリコンなど)がどれくらい含まれているか」を、目で見ながら同時に特定できます。
3. 光学顕微鏡、TEM(透過電子顕微鏡)との違い
電子顕微鏡には、SEMのほかにTEM(透過電子顕微鏡)という種類もあります。これらは用途が大きく異なります。
| 項目 | 光学顕微鏡 | 走査電子顕微鏡(SEM) | 透過電子顕微鏡(TEM) |
| 光源 | 可視光(ランプ) | 電子線 | 電子線 |
| 観察対象 | 物質の色、生きた細胞など | 物質の表面構造(立体) | 物質の内部構造(平面) |
| 最高倍率 | 約2,000倍 | 約10万〜100万倍 | 約1,000万倍 |
| 環境 | 大気中(普通に置ける) | 真空(電子が空気に遮られないよう) | 真空 |
| 試料の前処理 | ほぼ不要 | 導電性を持たせるコーティング等 | ナノレベルまで薄膜化(削る)が必要 |
| 得られる画像 | カラー | モノクロ(3次元的) | モノクロ(2次元・影絵的) |
4. どのような場面で使われているのか
SEMは、現代のあらゆる先端産業や科学研究の基盤を支えています。
- 半導体・電子部品: マイクロチップの回路パターン検査、欠陥の特定
- 材料科学: 金属の破断面解析(なぜ壊れたかの調査)、新素材(カーボンナノチューブや触媒など)の構造観察
- 医学生物学: ウイルスや細菌の形態観察、細胞表面の微細構造解析
- 身近な応用: 昆虫の複眼や足の構造、植物の花粉の形態、繊維の織り方の観察
顕微鏡の内部は電子がまっすぐ飛ぶように「強い真空」に保たれているため、水分を含んだ生体試料などはそのまま入れられず、乾燥させて金や白金などで薄くコーティングする(電気を流しやすくする)といった前処理が必要ですが、最近では少しの空気(低真空)を残したまま生の試料を観察できる「環境SEM(低真空SEM)」なども普及しています。

走査電子顕微鏡(SEM)は、細く絞った電子線を試料の表面に照射・スキャンし、飛び出す電子を検出して映像化する装置です。光学顕微鏡を遥かに凌ぐ数十万倍の倍率と深い焦点深度を持ち、微細な表面構造を立体的に観察・分析できます。
レーザー加工の役割は何か
LazEdgeにおけるレーザー加工の役割は「見たい場所の『綺麗な断面』を、顕微鏡の中で、圧倒的なスピードで切り出すこと」です。具体的には、以下の3つの重要な役割を持っています。
1. 驚異的な「時短(高スループット)」
顕微鏡で物質の内部や、半導体チップの断面を観察する場合、これまではFIB(集束イオンビーム)という技術で少しずつ削るのが主流でした。
しかし、FIBは精密な反面、削る速度が遅いという弱点があります。
- 従来のFIB: 数十〜数百マイクロメートルの断面を作るのに数時間かかる。
- レーザー加工: 数十秒〜数分で、FIBの数百倍〜数千倍の圧倒的な速さで広範囲を爆速で削れる。
これにより、解析全体の時間が劇的に短縮されます。
2. 試料室の「外に出さない(インサイチュ)」
通常、レーザーで大雑把に削る作業は「顕微鏡の外の専用装置」で行い、その後、顕微鏡内に試料をセットし直す必要がありました。これには以下のリスクが伴います。
- 位置合わせ(狙った場所を探すの)が非常に難しい。
- 外気(酸素や水分)に触れて、削った断面がすぐに酸化・劣化してしまう。
今回のシステムのようにSEMの試料室内にレーザーを搭載することで、「真空に保ったまま、削って、その場ですぐ見る」というシームレスな連携が可能になります。
3. 次の精密解析(EBSDやFIB)への「強力な下地作り」
レーザー技術の進化により、ただ速く削るだけでなく「非常に滑らかな断面」を作れるようになりました。
これにより、金属の結晶の向きを調べるEBSD(結晶方位解析)のような、極めて平滑な面を求める測定にもそのまま使えます。
また、「広い範囲はレーザーで一瞬で削り、最後の極限的な仕上げだけをFIBで行う」といった、効率的な連携(リレー加工)のスタートダッシュを担う役割も果たします。
レーザー加工の役割は、顕微鏡観察の前準備である「断面サンプルの作製」を、『速く・広く・綺麗に・顕微鏡の中で完結させる』ことで、材料解析や不良解析のスピードを異次元に引き上げることにあります。

レーザー加工の役割は、SEM試料室内で観察したい場所の「綺麗な断面」を、圧倒的な速度と広範囲で切り出すことです。従来のイオン(FIB)方式に比べ数百倍速く、真空を保ったまま大領域の高速な断面観察・分析を可能にします。
なぜFIBよりも早く加工できるのか
FIB(集束イオンビーム)よりもレーザーのほうが圧倒的に早く加工できる理由は、根本的な「物質を削る原理(メカニズム)」と「投入できるエネルギーの量」が全く異なるからです。
1. 削る原理の違い:「1個ずつ弾き飛ばす」か「一気に蒸発させる」か
もっとも大きな違いは、物質にアプローチする物理現象です。
- FIB(イオンビーム):スッパタリング(原子の弾き出し)重いガリウムやキセノンのイオンを物質に衝突させ、表面の原子を「弾き飛ばす」ことで少しずつ削ります。これは、砂山にパチンコ玉を当てて、砂粒を1粒ずつ弾き飛ばして山を崩すような作業です。極めて精密ですが、体積を削るには時間がかかります。
- レーザー加工:アブレーション(熱・光融解と蒸発)高エネルギーの光を1点に集中させ、物質を一瞬で数千度〜数万度に加熱し、融解・気化(蒸発)させて吹き飛ばします。砂山をダイナマイトで爆破して一気に吹き飛ばすようなものなので、削れる体積の桁が違います。
2. 単位時間あたりに投入できる「エネルギー(パワー)」の圧倒的な差
ビームとして物質に送り込めるエネルギーの総量が、レーザーのほうが遥かに大きいです。
- FIB: イオンは電荷(電気)を持っているため、 あまりに大量のイオンを1箇所に集めようとすると、イオン同士が反発し合ってビームが太くボケてしまいます。そのため、投入できる電流(パワー)には物理的な限界があります。
- レーザー: 光子は電気的に中性なので、どれだけ高密度に凝縮しても光同士が反発することはありません。 そのため、レンズで極限まで絞り込んだ超高出力のエネルギーを、ピンポイントに一気に叩き込むことができます。
3. 加工体積(除去効率)の比較
これら「原理」と「パワー」の差が、実際の加工速度(除去効率)の差として現れます。
- FIBの加工速度:数μm3 /秒
- レーザーの加工速度:数百万μm3 /秒
一般的な金属や半導体材料を削る場合、レーザーはFIBに対して体積比で数百倍から数千倍、条件によってはそれ以上のスピードで空間を穿つことができます。
FIBがイオンをぶつけて原子を「1粒ずつ地道に弾き飛ばす」のに対し、レーザーは強力な光エネルギーで物質を「一瞬でドカンと蒸発させる」ため、桁違いの高速加工が可能です。

レーザーは強力な光エネルギーを1点に集中させ、物質を一瞬で「融解・蒸発」させて吹き飛ばします。イオンを衝突させて原子を1粒ずつ地道に弾き飛ばすFIBに比べ、投入できるパワーが桁違いに大きいためです。
どんな分野での応用が期待されるのか
レーザー加工搭載SEM(LazEdgeなど)は、従来のFIB(集束イオンビーム)では時間がかかりすぎて現実的ではなかった「μm〜mmオーダーの広い領域の断面を爆速で切り出す」ことができるため、特に大型化・複雑化が進む先端材料やデバイスの解析分野で絶大な効果を発揮します。
1. 先端半導体・次世代パッケージング分野
現在の半導体は、チップを上に積み重ねる3Dスタッキングや、HBM(高帯域幅メモリ)に代表される超高密度な実装技術が主流です。
- 大型バンプやTSV(シリコン貫通電極)の不良解析これらはFIBで削るにはサイズが大きすぎ(数百μm超)、手作業での研磨では破壊のリスクがありました。レーザーであれば、積層されたチップの狙った断面を一瞬で露出させ、接合不良や微小なクラックを観察できます。
- 次世代パワー半導体(SiC / GaN)硬度が高く、従来のFIBや機械研磨が難しいワイドギャップ半導体材料に対しても、レーザーであれば熱影響を抑えつつ高速に高品質な断面を作製できます。
2. 車載用電池・エネルギー材料分野
EVの航続距離や安全性を左右する次世代バッテリーの開発において、電極の内部構造を「生きた状態(真空を保ったまま)」で見ることが重要視されています。
- リチウムイオン電池・全固体電池の劣化解析充放電を繰り返すことで、電極内部に生じる微細なひび割れ(クラック)や、ショートの原因となるデンドライト(樹枝状結晶)の発生挙動を調査します。
- 大面積の材料分布・空隙率の評価レーザーで広い断面をスパッと切り出すことで、電極活物質のばらつきや隙間の割合を、局所的ではなく「統計的に信頼できる広い視野」でSEM観察・元素分析(EDS)できます。
3. 金属・構造材料分野(3D構造解析)
鉄鋼、アルミニウム合金、新素材の複合材料(CFRPなど)の強度や疲労特性の評価を大きく加速させます。
- 自動3D EBSD(結晶方位解析)による組織評価「レーザーで少し削る ➔ 断面の結晶方位を測定する」を全自動で数百回繰り返すことで、金属がストレスを受けたときに「内部の結晶がどう歪んでいくか(亀裂の進展など)」を、数日〜数週間かかっていたものをわずか数時間で3次元の立体マップ化できます。
- 異種材料の接合界面の観察自動車の軽量化などで使われる「金属と樹脂の接着面」など、硬さが全く異なる材料の組み合わせでも、境界をダレさせることなく綺麗な断面を作れます。
期待されるのは、総じて「FIBでは小さすぎ、機械研磨では大雑把すぎる」というミッシングリンク(中間領域)を埋める、超高速な検査・開発プロセスの実現です。

主な応用分野は、HBMや3D積層などの先端半導体、リチウムイオンや全固体電池の劣化解析、金属材料の3D結晶方位解析(EBSD)などです。従来困難だった「広く深い断面」の高速作製が開発を劇的に加速します。

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