この記事で分かること
- 炭酸ガスの用途は:溶接時のシールドガスやドライアイスの製造、食品への利用、医療、農業など幅広い分野で利用されています。
- シールドガスとは:アーク溶接中の金属は反応性が高いため、空気中の酸素や窒素と反応して酸化物や窒化物を形成します。空気と金属が反応すると欠陥となるため金属を保護するためにシールドガスを使用します。
岩谷産業の液化炭酸ガス工場新設
岩谷産業は、タイ北部のナコンサワン県において、バイオエタノール由来の液化炭酸ガス(CO₂)工場の建設を計画しています。
https://www.iwatani.co.jp/jpn/news/files/2025/20250516_news.pdf
この工場では、サトウキビを原料としたバイオエタノールの製造過程で発生する副生物としてのCO₂を回収・精製します。
従来の石油精製由来のCO₂と比較して、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できるとされており、カーボンニュートラルの実現に貢献する「グリーン炭酸」として位置づけられています。この取り組みは、世界的な炭酸ガス不足や脱炭素化の流れを背景に、持続可能な供給体制の構築を目指すものです。
炭酸ガスについて
炭酸ガス(化学式:CO₂)は、二酸化炭素とも呼ばれる無色・無臭の気体で、大気中にもわずかに含まれています。以下のような特徴・用途・供給方法があります。
■ 基本情報
- 化学式:CO₂
- 分子量:44.01
- 性質:無色・無臭・わずかに酸味あり。空気より重い。
- 可燃性:なし(消火に使われる)
■ 主な用途
- 産業用
- 金属溶接(アーク溶接のシールドガス)
- 半導体・電子部品の製造工程
- ドライアイス製造(固体CO₂)
- 食品関連
- 炭酸飲料の製造
- 冷却・冷凍輸送(ドライアイス)
- 食品包装用の雰囲気ガス(酸化を防ぐ)
- 医療・研究
- 細胞培養・生化学実験などでのpH制御用ガス
- 農業
- 温室栽培で光合成促進用に使用
■ 供給形態
- 液化炭酸ガス(液体CO₂):圧力をかけて液化。ボンベやタンクローリーで供給。
- ドライアイス:固体化させたCO₂(-78.5℃)。昇華して気体に戻る際の冷却効果を活用。
- 炭酸ガスボンベ:小型容器で流通。飲料自販機、医療、飲食店などで使用。
■ 供給源と製造方法
- 副生ガスとしての回収
- 化学工場・肥料工場・エタノール製造などで副生するCO₂を回収・精製
- 天然炭酸ガス田
- 地下に天然に存在するCO₂を採取(日本では限られる)
- バイオエタノール由来
- サトウキビなどのバイオマスを発酵させる過程で得られる「グリーンCO₂」
■ 環境との関係
- 温室効果ガスの一つであり、地球温暖化の主因のひとつ
- カーボンニュートラルな炭酸ガス(例:バイオエタノール由来)への転換が進行中

炭酸ガスは産業、食品などに必要ですが、温室効果ガスの一つであり、カーボンニュートラルな炭酸ガスの製造への転換が求められています。
シールドガスとは何か
シールドガスとは、溶接などの金属加工時に使用される保護用ガスのことで、溶融金属が空気中の酸素や窒素、水分と反応するのを防ぐために使われます。
■ なぜ必要か?
金属を溶接すると、アーク(放電)によって金属が一時的に高温で溶融します。その状態の金属は非常に反応しやすく、空気中の酸素や窒素と反応して酸化物や窒化物を形成し、溶接欠陥(脆弱性、気泡、亀裂など)の原因になります。
そこで、空気を遮断するためにシールドガスを吹き付けて、溶融金属を「保護(shield)」するのです。
■ 主な種類と特徴
ガス名 | 特徴・用途 |
---|---|
アルゴン(Ar) | 不活性ガス。TIG溶接やMIG溶接に使用。アークが安定。薄板に向く。 |
炭酸ガス(CO₂) | 安価。アークが強く溶け込みが深い。スパッタが多め。MAG溶接によく使用。 |
ヘリウム(He) | 熱伝導率が高く、厚板や高温が必要なときに使用。高価。 |
混合ガス(Ar + CO₂など) | 性能とコストのバランスをとるために使用。用途に応じて配合比率を調整。 |
■ 使われる溶接法の例
- TIG溶接(タングステン不活性ガス):アルゴンやヘリウムなど不活性ガスを使用。精密・高品質。
- MIG溶接(金属不活性ガス):アルミやステンレスに使用。
- MAG溶接(金属活性ガス):炭酸ガスやCO₂混合ガスを使い、鉄鋼の溶接に広く利用。

金属を溶接すると、金属が一時的に高温で溶融し、その状態の金属は非常に反応しやすく、空気中の酸素や窒素と反応して酸化物や窒化物を形成してしまい、溶接欠陥の原因となります。
そのため、シールドガスを吹き付けて、溶融金属を「保護(shield)」する必要があります。
金属を保護できる理由は何か
シールドガスが溶接時の金属を保護できる理由は、次のような物理的・化学的な特性にあります:
■ 1. 空気(酸素・窒素・水分)を遮断する「物理的バリア」
シールドガスは、アークや溶融池の周囲に吹き付けられることで、周囲の大気(酸素・窒素・水蒸気)を押しのけて追い出し、遮断します。
→ これにより、溶けた金属が大気と直接触れることを防ぎます。
■ 2. 化学的に「不活性」または「安定した反応性」
- アルゴン(Ar)やヘリウム(He)は不活性ガスです。
→ どんな高温でも金属と反応しないため、アークや溶融金属に影響を与えません。 - 炭酸ガス(CO₂)は活性ガスですが、アーク内では部分的に一酸化炭素(CO)と酸素に分解し、酸素の量が制限されることで適度な酸化作用が得られます。
→ これによりアークが安定し、溶け込みが深くなる利点がありますが、酸化が強すぎると金属に悪影響を与えるため、混合ガスで調整されることも多いです。
■ 3. アークの安定性を高める
シールドガスは、アーク放電の特性にも関わります。たとえば、アルゴンは電離しやすく、アークが安定しやすいので、溶接品質が向上します。
■ まとめ
役割 | メカニズム |
---|---|
空気を遮る | ガスの流れで大気を追い出す(物理的遮断) |
化学的安定性 | 溶融金属と反応しない・反応が制御できる |
アークの安定化 | 電離特性により、熱と形状を安定化 |

金属への空気を遮ることやアークの安定性を高めることで、金属の保護が可能になります。
コメント