この記事で分かること
- なぜ株価暴落と予想したのか:過去最大の「在庫の積み増し」により、かつての高成長シナリオが崩壊したためです。本業の収益予想が下方修正される中、不確実なAI事業を前提としたPER300倍超という異常な高値が維持できないと判断されました。
- 販売台数減少の理由:米国のEV補助金撤廃による実質的な値上げと、中国勢との競争激化、モデルの陳腐化が重なったためです。高金利によるローン負担増も追い打ちとなり、供給が需要を上回る「売れ残り」が鮮明になっています。
- なぜこれまで実態とかけ離れたバリュエーションを維持できてきたのか:テスラを単なる「自動車メーカー」ではなく、ロボタクシーや人型ロボットを実現する「AI・プラットフォーム企業」と市場が評価していたからです。マスク氏のビジョンへの強い信仰が、巨額の期待値を支えてきました。
JPモルガンのアナリストによるテスラ株の60%の下落リスク
JPモルガンのアナリスト、ライアン・ブリンクマン氏が テスラ株に対して「60%の下落リスクがある」と強い警戒を呼びかけ、目標株価を145ドルに据え置いたことが報じられています。
2026年第1四半期の納車台数は約35万8,000台と、市場予想(約37万台)を大きく下回りまわったことや同期の生産台数は約40万8,000台であり多数の売れ残り(在庫)が発生していることなどが要因としています。
なぜ暴落すると予測したのか
JPモルガンのアナリスト、ライアン・ブリンクマン氏が警告する「60%暴落」の具体的な理由は、「需要の急減速による在庫の山」と「非現実的なAI期待への依存」にあります。最新の2026年第1四半期決算データに基づく、主な要因は以下の通りです。
1. 過去最大の「売れ残り」(在庫危機)
今回の警告の最大の根拠は、生産と販売の圧倒的な乖離です。
- 数字の衝撃: 第1四半期の生産台数「40万8,386台」に対し、納車台数は「35万8,023台」にとどまりました。
- 5万台の余剰: 単一四半期で約5万台もの在庫が積み上がっており、これはテスラの歴史上最大の「売れ残り」です。かつては「作れば売れる」状態だったテスラが、明確な需要不足に陥っていることを示しています。
2. 利益予想(EPS)の劇的な引き下げ
将来の稼ぐ力に対する信頼が揺らいでいます。
- 短期的な悪化: ブリンクマン氏は、直近の1株当たり利益(EPS)予想を0.43ドルから0.30ドルへ引き下げました(市場予想の0.38ドルを大きく下回る水準)。
- 長期的な下方修正: 2030年の収益予想は、2022年時点の予測から38%も低下しています。つまり、「将来の成長物語」そのものが大幅にトーンダウンしています。
3. 「補助金終了」と「高金利」のダブルパンチ
外部環境がテスラに非常に不利に働いています。
- トランプ政権の影響: 米国での7,500ドルの電気自動車(EV)税額控除が撤廃されたことが、買い控えに直結しました。
- 資金コストの上昇: 高金利環境が続いていることで、消費者のローン負担が増大し、高価格帯のEV販売を圧迫しています。
4. 成長エンジン(エネルギー事業)の失速
これまで「次の柱」と期待されていたエネルギー貯蔵(蓄電池)部門も急ブレーキがかかりました。
- 第1四半期の設置容量は8.8GWhと、前四半期(14.2GWh)から約38%も減少しました。自動車以外の成長シナリオにも暗雲が立ち込めています。
5. 実態とかけ離れたバリュエーション
現在、テスラの株価収益率(PER)は300倍を超えており、これは自動車メーカーとしては異常な高値です。
- 市場は「ロボタクシー」や人型ロボット「Optimus」などのAIプロジェクトを織り込んでいますが、JPモルガンは「これらには数兆ドルの投資と長い年月が必要であり、現在の株価を正当化するにはあまりに不確実性が高い」と断じています。
ブリンクマン氏は、株価がファンダメンタルズ(基礎的条件)に基づいた適正価格に収束する場合、145ドル(現在の約350ドルから約60%減)まで下がるのが妥当だと結論づけています。

第1四半期の納車台数が予想を大幅に下回り、過去最大の在庫過剰が発生。補助金撤廃や需要減退で収益予想が下方修正される中、過度なAI期待に基づく高すぎるバリュエーションが是正されるリスクを指摘しています。
販売台数減少の理由は何か
2026年第1四半期の販売台数が予想を下回り、減少した主な理由は以下の通りです。
1. 米国のEV補助金(税額控除)の終了
最大の要因は、トランプ政権下での「7,500ドルの連邦税額控除」の撤廃です。2025年末にこの優遇措置が失効したことで、米国内の消費者にとって実質的な購入価格が跳ね上がり、需要に急ブレーキがかかりました。
2. 世界的なEV競争の激化
中国メーカー(特にBYDなど)や欧州の既存自動車メーカーが安価で魅力的な新型モデルを相次いで投入しており、モデルチェンジが少ないテスラの既存ラインナップ(Model 3/Y)が相対的に苦戦しています。
3. 欧州市場の冷え込み
これまで成長を牽引してきた欧州でも、景気後退や消費者の「EV離れ」が続いており、フランスなどの一部地域を除いて販売の勢いが削がれています。
テスラは現在「既存モデルの販売」というキャッシュが弱まる一方で、ロボタクシーや人型ロボット、次世代チップ工場などの「未来への巨額投資」を継続しなければならない過渡期のジレンマに直面していると言えます。

米国のEV補助金撤廃による実質的な値上げ、中国勢との競争激化、モデルの陳腐化が主な要因です。また、高金利に伴うローン負担増に加え、過去最大規模の在庫積み増しが発生するなど、需要の減退が鮮明となりました。
なぜこれまで実態とかけ離れたバリュエーションだったのか
テスラのバリュエーション(企業価値評価)が実態(自動車販売の利益)とかけ離れていた理由は、市場がテスラを「自動車メーカー」ではなく、「時価総額数兆ドル規模のプラットフォーム・AI企業」として評価していたからです。
具体的には、以下の3つの「期待値」が株価を押し上げていました。
1. AIとロボティクスへの過度な期待
株価の大部分は、電気自動車(EV)の売上ではなく、以下の将来技術の成功を前提に構築されていました。
- ロボタクシー (Cybercab): 完全自動運転による移動サービスの独占。
- 人型ロボット (Optimus): 労働力不足を解消する汎用ロボットの量産。
- FSD (Full Self-Driving): ソフトウェアライセンスによる高利益率モデル。JPモルガンは、これらが収益化するには「数兆ドルの追加投資」と「未確定の長い歳月」が必要であり、現在の高株価でそれを織り込むのは時期尚早だと指摘しています。
2. 「ムスク・プレミアム」と信仰心
CEOイーロン・マスク氏のビジョンに対する投資家の強い信頼(信仰に近いもの)が、PER(株価収益率)を300倍といった異常な水準まで押し上げました。
- 成長の神話: 「テスラなら物理的・経済的制約を突破できる」という期待が、通常の財務分析を無視した買いを誘発していました。
- センチメントの崩壊: 2026年に入り、在庫積み増しという「物理的な現実」に直面したことで、この心理的なプレミアムが剥落し始めています。
3. かつての「高成長シナリオ」の残像
2022年頃の予測では、テスラは2026年〜2030年にかけて爆発的な成長を続けると見られていました。
- 下方修正の遅れ: 実際の収益予想(EPS)は、ピーク時の期待から約38%も低下していますが、株価の調整がそれに追いついていなかったため、実態との乖離が広がっていました。
これまでは「将来のAI利益」という物語で赤字や減速を正当化できましたが、「自動車部門の利益でAI開発費を賄う」というサイクルが、販売不振と在庫過剰によって揺らぎ始めたためです。

テスラが「自動車会社」ではなく、ロボタクシーや人型ロボット、FSD(自動運転)を軸とした「高収益なAI・プラットフォーム企業」になると信じられていたからです。ムスク氏のビジョンへの強い期待が、財務実態を無視した巨額のプレミアムを生んでいました。

コメント