ガラスセラミック基板での日台連携

この記事で分かること

ガラスセラミック基板とは

ガラスの成形性とセラミックスの電気・熱特性を両立した材料です。1000℃以下の低温で焼成できるため、電気抵抗の低い銅配線と同時に焼き固められます。高周波特性に優れ、AI半導体に必要な「反りにくく熱に強い大面積基板」を実現します。

どのように連携するのか

日本山村硝子グループが低誘電材料の開発とシート成形を担い、台湾の中國製釉が材料供給、ITRI(工業技術研究院)が設計・評価とTSMC等への橋渡しを担当します。日台間で材料から評価までの一貫した供給網を構築し、開発を加速させます。

なぜ連携するのか

日本の高度な材料技術を、世界最大の半導体集積地である台湾の製造エコシステムに直結させるためです。チップレット化に伴う基板の大型化・高性能化という技術転換点において、日台連合で次世代の標準(デファクトスタンダード)を早期に獲得することが狙いです。

ガラスセラミック基板での日台連携

 日本山村硝子およびそのグループ会社である山村フォトニクスは台湾の政府系研究機関である工業技術研究院(ITRI)および建築・電子材料メーカーの中國製釉(China Glaze)と、半導体向け大面積ガラスセラミック基板の開発・量産体制の構築で合意したと発表しました。

 従来の有機(樹脂)基板では、大面積化した際の反りや熱膨張の制御が限界に近づいています。これに対し、ガラスセラミック基板は熱に強く、電気特性にも優れるため、次世代のインターポーザー(中継基板)材料として注目されています。

 チップレットに関する記事はこちら

ガラスセラミック基板とは何か

 ガラスセラミック基板(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)とは、ガラスの「成形性の良さ」とセラミックスの「電気的・熱的特性の高さ」を併せ持った複合材料であり、半導体パッケージや電子部品の土台となる「基板」に応用されます。

 現在の半導体業界、特にAIや5G/6Gの分野において、従来の樹脂(プラスチック)基板の限界を超えるための「次世代の切り札」として非常に注目されています。


1. なぜ「ガラスセラミック」なのか?

 通常、セラミックスは非常に高い温度(1500℃以上)で焼く必要がありますが、これでは配線に使う銅などの金属が溶けてしまいます。ガラスを混ぜることで、1000℃以下の低温で焼成(同時焼成)できるようにしたのがこの素材の肝です。

2. 主な開発のメリット(なぜ注目されているか)

  • 優れた電気特性(低誘電損失)
    • 高周波(5G/6Gなど)の信号が流れる際、素材にエネルギーが吸収されて熱に変わってしまう「ロス」が非常に少ないのが特徴です。
  • 熱膨張のコントロール
    • 半導体チップ(シリコン)と基板の熱による伸び縮みの差が大きすぎると、接続部分が剥がれてしまいます。ガラスの配合を変えることで、シリコンに極めて近い熱膨張率に設計できます。
  • 薄型・多層化
    • 薄いシート状(グリーンシート)にして何層も重ねることができるため、複雑な回路をコンパクトに立体配置できます。
  • 高放熱・高耐熱
    • 樹脂製に比べて熱を逃がしやすく、過酷な環境でも変形しにくい特性があります。

3. 具体的な開発プロセス

  1. 粉末設計(スラリー作製): ガラス粉末とセラミックス粉末を最適な比率で混ぜ、溶剤や接着剤を加えて液体状にします。
  2. 成形(グリーンシート): 液体を薄く均一な膜状にのばし、乾燥させて「生のシート」を作ります。
  3. 回路形成: シートに穴を開け(ビア)、導電性のペーストで配線を印刷します。
  4. 積層・焼成: 複数枚のシートを精密に重ねてプレスし、一気に焼き固めます。

4. 現代のトレンド:チップレットと大面積化

 最近では、複数のチップを1つのパッケージに載せる「チップレット」技術が主流です。これにより基板が大型化していますが、大きな樹脂基板は「反り(曲がり)」が問題になります。 

  ガラスセラミックは剛性が高く反りにくいため、「大面積・高密度パッケージ」を実現するための基幹技術として、日本山村硝子などの素材メーカーがしのぎを削って開発を進めています。

ガラスセラミック基板開発とは、ガラスの成形性とセラミックスの電気・熱特性を両立した材料を作る技術です。1000℃以下の低温焼成により銅配線と同時焼成が可能で、高周波特性や放熱性に優れ、AI半導体等の次世代パッケージに不可欠な「反りにくい大面積基板」を実現します。

反りはどのような不具合を起こすのか

 半導体パッケージにおける「反り(Warpage)」は、製造工程から製品の信頼性に至るまで、以下のような深刻な不具合を引き起こします。

1. 接合不良(オープン・ブリッジ)

 基板が反ると、上に載せるチップ(ダイ)との間に隙間ができたり、逆に押し付けられたりします。

  • オープン: はんだボールが届かず、電気的に接続されない。
  • ブリッジ: 隣り合うはんだ同士が接触し、ショート(短絡)する。

2. クラック(割れ)や剥離

 基板とチップの熱膨張率が異なると、温度変化のたびに接合部に強い応力がかかります。

  • はんだ疲労: 繰り返しストレスがかかることで、はんだに亀裂が入ります。
  • デラミネーション: 基板の層間や、チップと基板の界面が剥がれてしまいます。

3. 歩留まりの低下と搬送トラブル

  • 露光・マウントミス: 基板が平坦でないと、回路を焼き付ける露光装置のピントが合わなくなったり、チップを載せるロボットが正確に配置できなくなります。
  • 吸着エラー: 自動搬送ラインで基板を真空吸着できず、ラインが停止する原因になります。

基板の反りは、チップとの接合不良(断線やショート)や、熱ストレスによる回路の亀裂・剥離を招きます。また、製造工程で装置のピントが合わない、吸着できない等のトラブルを引き起こし、生産性を著しく低下させます。

ガラスセラミックはなぜ低誘電損失なのか

 ガラスセラミックが低誘電損失(信号のエネルギーロスが少ない特性)である理由は、主に「素材自体の原子構造」と、LTCC(低温同時焼成セラミックス)ならではの「金属配線の導電性」の2点に集約されます。

1. 分子・原子レベルでの「動きにくさ」

 誘電損失は、高周波の電界(プラスとマイナスが激しく入れ替わる状態)の中で、素材内部の原子や分子が揺れ動く際の「摩擦熱」のようなものです。

  • 結晶構造の安定性: ガラスセラミックに含まれるセラミックス成分(アルミナやシリカなど)は、原子が強固な共有結合やイオン結合で結ばれています。
  • 分極の抑制: 樹脂(有機材料)に比べて、電界の変化に対して分子が向きを変えようとする性質(配向分極)が小さいため、エネルギーが熱として奪われにくくなります。

2. 空隙(隙間)の少なさ

 ガラスセラミックは、焼成プロセスでガラス成分が溶け出し、セラミックス粒子の隙間を緻密に埋めます。

  • 吸湿性の低さ: 樹脂材料は微細な水分を吸いやすく、水分子(誘電損失が非常に大きい)が信号ロスを悪化させます。ガラスセラミックは極めて緻密で吸湿しないため、高周波帯域でも安定した低損失を実現できます。

3. 「低抵抗な金属」との同時焼成

 これは素材そのものではなく「基板」としてのメリットですが、非常に重要です。

  • 銅や銀の使用: ガラス成分を調整して焼成温度を1000°C以下に抑えることで、電気抵抗が極めて低い銅(Cu)や銀(Ag)を配線として同時に焼き固めることができます。
  • 総合的な損失低減: 信号のロスは「素材によるロス(誘電損失)」と「配線抵抗によるロス(導体損失)」の合計です。優れた導電材料を使えることが、基板全体の低損失化に直結しています。

ガラスセラミックは、原子結合が強固で高周波の電界変化による分子振動(摩擦熱)が起きにくいため、誘電損失が抑えられます。また、緻密な構造で湿気の影響を受けにくく、電気抵抗の低い銅や銀を配線に利用できることも、低損失化に大きく寄与しています。

各社の役割と連携の内容は何か

 日本山村硝子、山村フォトニクス、そして台湾勢(ITRI、中國製釉)による日台連携は、「日本の優れた素材開発力」「台湾の世界最強の製造エコシステム」を直結させる点に最大の特徴があります。各社の役割と連携の具体的な内容は以下の通りです。


各社の具体的な役割分担

企業・機関名本拠地主な役割と強み
日本山村硝子日本材料開発の核心: 独自のガラス組成設計技術を用い、AI半導体に必要な「低誘電損失(信号劣化の抑制)」と「高強度」を両立したガラスセラミック粉体の開発を担当。
山村フォトニクス日本成形・量産化: 日本山村硝子の粉体を用い、均一で薄い「グリーンシート」の成形を担当。大面積化に向けた精密な製造ラインと、基板の生産・販売を担う。
中國製釉 (China Glaze)台湾現地供給・技術協力: 台湾におけるセラミック材料の知見を活かし、材料の安定供給や、台湾内の製造プロセスに最適化するための技術的フィードバックを行う。
ITRI (工業技術研究院)台湾設計・評価・橋渡し: 政府系機関として、基板の設計や試作、信頼性評価を実施。また、TSMCなどの台湾主要半導体メーカーとの強力なネットワークを活かした実用化への橋渡しを行う。

連携の具体的な内容

  1. サプライチェーンの一貫体制構築材料の基礎研究(日本)から、シート成形(日本・台湾)、そして最終的な半導体パッケージへの組み込みと評価(台湾)まで、国境を越えて一気通貫のサプライチェーンを構築します。これにより、開発スピードを格段に速めています。
  2. 次世代規格のデファクトスタンダード(標準化)狙い半導体製造の集積地である台湾のITRIと組むことで、彼らが主導する先端パッケージングのロードマップに自社のガラスセラミック基板を組み込ませ、世界標準のポジションを狙います。
  3. 「チップレット」対応の大面積化現在、TSMCなどが推進する複数のチップを1つにまとめる「チップレット技術」では、巨大な基板が必要になります。この連携により、従来の樹脂基板では困難だった「反らない大面積基板」の早期実用化を目指しています。

この連携が重要な理由

 現在、半導体の性能向上は「回路を細かくする(微細化)」から「チップをどう包むか(パッケージング)」へ焦点が移っています。

 この日台連携は、次世代AIチップの性能を左右する「基板材料」の分野で、中韓勢に対して圧倒的な先行優位を築くための戦略的同盟と言えます。

日本山村硝子と山村フォトニクスが低誘電・高強度な材料開発とシート成形を担い、台湾の中國製釉が現地供給ITRIが設計評価とTSMC等への橋渡しを担当します。日台の強みを結集し、次世代AI半導体向け大面積基板の早期量産を目指す連携です。

なぜ連携するのか

 日台の各組織が連携する理由は、「次世代AI半導体の主導権争い」において、一国・一社では完結できない課題を解決するためです。

1. 「材料」と「市場」の最短距離での結合

 日本山村硝子などの日本勢は世界屈指の「材料技術」を持っていますが、その材料を実際に使う世界最大の「顧客(TSMC等のファウンドリ)」は台湾に集中しています。

  • 台湾の政府系機関であるITRI(工業技術研究院)と組むことで、最先端のチップ設計に合わせた材料開発が可能になり、開発の「空振り」を防げます。

2. 「チップレット」という技術的転換点

 現在、半導体は複数のチップを1枚の基板に載せる「チップレット」時代に突入し、基板の巨大化が進んでいます。

  • 巨大な基板を樹脂で作ると「反り」の問題で歩留まりが悪化しますが、ガラスセラミックなら解決可能です。この新機軸のデファクトスタンダード(世界標準)を日台連合でいち早く獲得しようとしています。

3. サプライチェーンの安定とスピード

 AI市場の進化は速く、研究・試作・量産の各フェーズを分断していては間に合いません。

  • 日本(上流:粉体・シート)→ 台湾(中流:加工・評価)→ 台湾(下流:最終製品)という強固なラインを構築することで、供給網の脆弱性を排除し、競合(中韓勢)を突き放すスピード感を実現しています。

日本の優れた材料・成形技術と、世界最大の半導体集積地である台湾の設計・製造エコシステムを直結させるためです。これにより、AI半導体に不可欠な「反らない大面積基板」の早期実用化と世界標準化を狙います。

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