この記事で分かること
- JX金属の出資理由:世界シェア首位の「スパッタリングターゲット」等の材料技術と、ラピダスの最先端製造を融合させるのが狙いです。次世代の2nm世代で共同開発を深め、材料の標準化と安定供給網の構築を目指します。
- スパッタリングターゲットとは:半導体の微細な配線を作るための「金属の原料板」です。真空中でイオンをぶつけ、弾き飛ばされた金属原子を基板に付着させて薄い膜を形成します。
- ラピダスの出資金の用途:「2027年の2ナノ半導体量産」に向けた設備と開発に充てます。北海道の工場建設、1台数百億円するEUV露光装置の導入、IBM等との共同研究、さらに次世代の1.4ナノに向けたR&Dや人材育成に投資されます。
JX金属のラピダスへの出資
JX金属が次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス(Rapidus)」に対し、50億円の出資を行う方針を固めたと報道されています。
この動きは、日本の半導体産業における「材料」と「製造」の垂直連携を強化する重要なステップとして注目されています。
JX金属が出資する理由は何か
JX金属がラピダスに50億円の出資を決めた背景には、単なる資金援助以上の「戦略的な勝ち残り」をかけた複数の狙いがあります。
1. 次世代「2ナノ半導体」のデファクトスタンダード(標準)を握る
ラピダスが目指す2ナノ(nm)世代の半導体は、現在流通しているものより極めて微細で、製造難易度が跳ね上がります。
- 材料の先行開発: JX金属は、半導体の配線に使われる「スパッタリングターゲット」で世界シェア約6割を持つリーダーです。
- 共同開発の利点: ラピダスの製造ラインに初期段階から深く関わることで、2ナノ世代に最適な材料(ターゲット材や高純度金属)を共同で開発し、世界に先駆けて次世代材料の標準を自社製品にする狙いがあります。
2. 「材料から製造まで」の垂直連携(サプライチェーン)の強化
かつて日本の半導体産業が衰退した一因は、材料・装置・製造の各企業がバラバラだったことにあると言われています。
- 「オールジャパン」への参画: トヨタやソニー、ソフトバンクといった「半導体を使う側」の企業に加え、JX金属のような「材料を作る側」が加わることで、日本国内で完結する強固なサプライチェーンを構築しようとしています。
- リスク分散: 2026年現在の地政学的リスクを背景に、国内に最先端の製造拠点(ラピダス)を持つことは、JX金属にとっても安定した供給先を確保するメリットがあります。
3. JX金属自身の「独立と成長戦略」
JX金属は2025年3月にENEOSホールディングスから上場(IPO)し、独立した企業としての道を歩み始めています。
- 成長分野への集中投資: 上場で得た資金を、最も成長が見込める半導体材料分野へ再投資する姿勢を投資家に示す必要がありました。
- 最先端知見の吸収: ラピダスはIBMやimecといった世界のトップ研究機関と連携しています。出資を通じてこれらの最新技術動向に触れることは、JX金属のR&D(研究開発)にとって計り知れない価値があります。
出資による相互メリットのイメージ
| 項目 | JX金属のメリット | ラピダスのメリット |
| 技術 | 2nm対応の次世代材料を早期開発できる | 高品質な配線材料を優先的に確保・改良できる |
| 市場 | 自社材料の採用実績(リファレンス)を作れる | 国内に安定した材料供給網を構築できる |
| 経営 | 先端半導体エコシステムでの地位確立 | 政府支援に加え、民間からの信頼と資金を獲得 |

JX金属は、世界シェア首位の「スパッタリングターゲット」等の材料技術と、ラピダスの最先端製造を融合させるのが狙いです。次世代の2nm世代で共同開発を深め、材料の標準化と安定供給網の構築を目指します。
スパッタリングターゲットとは何か
スパッタリングターゲットとは、半導体の微細な配線や膜を作るための『板状の原料』のことです。
半導体の中には、電気を通すためのごく細い金属の道(配線)がありますが、これを筆で描くように塗ることはできません。そこで「スパッタリング」という特殊な技術が使われます。
1. 仕組みのイメージ:ビリヤード
スパッタリングの仕組みは、よく「ビリヤード」に例えられます。
- ターゲット: 原料となる金属の板(これがスパッタリングターゲットです)。
- 衝撃: 真空中でターゲットに「アルゴンイオン」という小さな粒を高速でぶつけます。
- 放出: ぶつかった衝撃で、ターゲットの表面から金属の原子が勢いよく弾き飛ばされます。
- 成膜: 飛び出した原子が、目の前にあるシリコンウエハ(半導体の基板)にくっついて、ごく薄い金属の膜を作ります。
2. なぜJX金属が強いのか
半導体の性能を左右するのは、この膜の「純度」と「均一さ」です。
- 超高純度: わずかな不純物(ゴミ)が混ざるだけで、半導体はショートして壊れてしまいます。JX金属は、金属を「6N(99.9999%)」といった極限まで高める精製技術を持っています。
- 世界シェア首位: 特に先端半導体に使われる銅(Cu)などのターゲット材において、JX金属は世界トップクラスのシェアを誇ります。
3. 主な用途
スパッタリングターゲットは、半導体以外にも身近なところで使われています。
- 半導体: 内部の微細な配線やバリア層。
- 液晶ディスプレイ: 画面を光らせるための透明な電極。
- ハードディスク: データを記録するための磁気膜。
- スマートフォンのカメラ: レンズの反射防止コーティング。
スパッタリングターゲットは、ハイテク製品の心臓部を作るために必要で、現代のスマートフォンもAIチップに欠かすことができません。

半導体の微細な配線を作るための「金属の原料板」です。真空中でイオンをぶつけ、弾き飛ばされた金属原子を基板に付着させて薄い膜を形成します。JX金属は、この原料を極限まで高純度化する技術で世界首位です。
ラピダスは出資された資金で何をするのか
ラピダスは、JX金属を含む民間企業や政府から集めた巨額の資金(総額5兆円規模が必要とされています)を、主に「2ナノ世代の次世代半導体を2027年に量産する」ための設備と開発につぎ込みます。
1. 工場建設と最先端装置の導入
北海道千歳市に建設中の工場「IIM(Innovative Integration for Manufacturing)」の整備が最大の用途です。
- EUV露光装置の購入: 2ナノのような極微細な回路を描くには、1台数百億円もする「EUV露光装置」が不可欠です。すでに1号機が導入されていますが、量産にはさらに追加投入が必要です。
- クリーンルームの維持・拡大: 2025年4月から試作ライン(パイロットライン)を稼働させ、その後量産ラインへと拡張していきます。
2. 技術開発(R&D)と人材育成
製造技術をゼロから確立するための研究費です。
- IBM等との共同開発: 2ナノ技術のライセンスを持つ米IBMや、ベルギーの研究機関imecにエンジニアを派遣し、共同で製造プロセスを開発しています。
- 後工程(パッケージ)技術: 複数のチップを積み重ねる「チップレット」など、付加価値を高める最先端のパッケージング技術の開発にも資金が使われます。
3. 量産に向けた試作と顧客開拓
量産開始前に、実際に動くチップをテスト製造して顧客に提供します。
- プロトタイプの製造: 2025年中には特定の顧客(米ブロードコムなど)向けにサンプル出荷を開始する計画です。
- 設計環境(PDK)の整備: 顧客がラピダスの工場で製造するための「設計ルール」を整備し、受注を獲得するための環境作りに充てられます。
資金使途のイメージ
| 項目 | 主な内容 |
| 設備投資 | 工場建屋、EUV露光装置、クリーンルーム設備 |
| 研究開発 | 2nmプロセス開発、IBMへの支払い、先端パッケージ技術 |
| 運営・人事 | 数百名規模の技術者の雇用、試作ラインの運転資金 |
今後のスケジュール
- 2025年4月: 試作ライン稼働開始
- 2027年: 量産開始予定
- 2031年: 株式上場(IPO)を目指す
JX金属のような「材料メーカー」からの出資は、これらの装置やラインで使う「高品質な材料」を安定して確保・共同開発するための体制づくりとしても機能します。

ラピダスは、集めた資金を主に「2027年の2ナノ半導体量産」に向けた設備と開発に充てます。北海道の工場建設、1台数百億円するEUV露光装置の導入、IBM等との共同研究、さらに次世代の1.4ナノに向けたR&Dや人材育成に投資されます。

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