この記事で分かること
- 花王の役割:同社の強みである、精密界面制御技術を活かし、半導体洗浄のさらなる高度化を担当する予定です。
- 精密界面制御技術とは:物質の境界である界面を、分子レベルで精密に操ることで、多様な機能を創出する技術であり、物質の表面を特定の性質に変えたりすることができます。
- 洗浄性が重要な理由:パネルレベル有機インターポーザー製造で洗浄性の向上が必要なのは、微細化された回路の性能低下や欠陥を防ぐためです。ナノレベルの不純物がわずかに残るだけで、回路のショートや断線を引き起こし、製品の不良や歩留まりの低下につながるからです。
JOINT3での花王の役割
レゾナックや東京エレクトロンなど国内外の27社が、AI半導体向け新基板開発を目的としたコンソーシアム「JOINT3」を設立しました。この取り組みは、AIや自動運転といった次世代半導体の性能向上に不可欠な、後工程の技術開発を加速させることを目指しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215BA0R20C25A8000000/
AI半導体は、膨大なデータを高速で処理するため、複数のチップを一つのパッケージにまとめて実装する2.5Dパッケージやチップレットと呼ばれる技術が主流になりつつあります。この技術において、チップ同士をつなぐ役割を果たすのがインターポーザーです。
今回は参加企業の一つである花王に関する記事となります。
花王のJOINT3での役割は何か
JOINT3における花王の役割は、同社が培ってきた「精密界面制御技術」を活かし、半導体洗浄のさらなる高度化に挑戦することです。
詳細
J OINT3は、次世代半導体パッケージのコンソーシアムであり、「パネルレベル有機インターポーザー」に適した材料・装置・設計ツールの開発を加速することを目的としています。このコンソーシアムには27社が参画しており、花王もその一員です。長年にわたる洗浄技術の経験を活かし、花王は以下のような貢献を目指しています。
- 半導体洗浄技術の高度化: 半導体製造プロセスにおいて、洗浄は非常に重要な工程です。花王は、これまでの技術と知見を活用し、より高度で精密な半導体洗浄技術の開発に取り組みます。
- 「半導体と未来のきれいを創る」: このビジョンに基づき、技術と製品開発を進め、半導体の性能向上と製造効率化に貢献することを目指します。
花王は、JOINT3の他の参画企業と協力し、最先端のパネルプロセス技術を応用することで、次世代の半導体技術の発展に寄与していきます。
精密界面制御技術とは何か
精密界面制御技術とは、物質の境界面である「界面」を、分子レベルで自在に操る技術です。水と油のように混ざり合わない物質の間に、特定の物質(界面活性剤など)を作用させることで、界面の状態をコントロールし、様々な機能を引き出すことができます。
技術の概要
界面は、固体と液体、液体と気体、液体と液体の間など、あらゆる場所に存在します。この界面を制御することで、以下のような効果が期待できます。
- 乳化・分散: 混ざり合わない液体(水と油など)を均一に混ぜ合わせる。マヨネーズや化粧品、洗剤などで使われる技術です。
- 濡れ性の向上: 液体が固体表面に広がりやすくする。これにより、洗剤が汚れに浸透しやすくなったり、農薬が植物の葉に効率よく付着したりします。
- 表面の改質: 物質の表面を特定の性質(撥水性、親水性など)に変える。
- 凝集・ゲル化: 分子を意図的に集めて、特定の構造を持つゲル状の物質を作る。
花王における応用例
花王は、この精密界面制御技術を、洗剤や化粧品などの日用品だけでなく、様々な分野に応用しています。
- 半導体製造: 半導体の洗浄プロセスにおいて、微細な回路に付着した不純物を効率的に除去するために、洗浄液の界面制御技術が活用されています。
- 農薬: 農薬が植物の葉に均一に広がるよう、濡れ性を改善するアジュバント(農薬補助剤)の開発に利用されています。これにより、農薬の使用量を減らし、環境負荷の低減にも貢献します。
- 食品: 豆乳の凝固速度を制御し、高品質な豆腐を安定して作る技術などに活用されています。
このように、精密界面制御技術は、私たちの身の回りの製品から最先端の産業まで、幅広い分野で重要な役割を果たしています。

精密界面制御技術とは、物質の境界である界面を、分子レベルで精密に操ることで、多様な機能を創出する技術です。具体的には、界面活性剤などを活用して、水と油を混ぜ合わせたり、物質の表面を特定の性質に変えたりすることができます。
パネルレベル有機インターポーザー製造で求められる性能は
パネルレベル有機インターポーザー製造における界面活性剤には、以下の性能が特に重要だと考えられます。
1. 微細な不純物除去性能
半導体製造では、ナノレベルの微細な汚れや粒子が製品の性能に致命的な影響を与えます。そのため、界面活性剤には、単に油汚れを落とすだけでなく、回路の隙間に入り込んだ微細な不純物や、薬液残渣を効率的かつ確実に除去する性能が求められます。
2. 基板へのダメージ抑制
有機インターポーザーは、ガラスやシリコンといった硬い基板だけでなく、有機材料も使用されます。界面活性剤の洗浄力が強すぎると、これらのデリケートな材料を傷つけたり、変質させたりする可能性があります。そのため、高い洗浄力を保ちつつ、基板を保護する性能が不可欠です。
3. 高いすすぎ性
洗浄後に界面活性剤が基板上に残留すると、その後の工程に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、洗浄後は水で簡単に洗い流せ、残留物が残りにくい高いすすぎ性も重要な性能の一つです。
4. 環境負荷の低減
近年の製造プロセスでは、環境への配慮も重視されています。界面活性剤には、高い生分解性や低毒性を持つなど、環境負荷を低減する性能も求められます。
花王が研究開発している「精密界面制御技術」は、まさにこれらの高度な要求を満たすために、界面活性剤の分子構造や集合状態を精密に制御する技術であり、パネルレベル有機インターポーザー製造における課題解決に貢献すると期待されています。

パネルレベル有機インターポーザー製造では、界面活性剤に微細な不純物を確実に除去する性能が求められます。さらに、デリケートな有機材料を傷つけない基板へのダメージ抑制、洗浄後の残留物を防ぐ高いすすぎ性も重要な性能です。
界面活性剤で洗浄性が向上する理由は
界面活性剤が洗浄性を向上させる主な理由は、水と油(汚れ)の両方になじむというユニークな性質にあります。これにより、水だけでは落としにくい油汚れなどを効率的に取り除くことができます。
界面活性剤の洗浄メカニズムは、以下の3つの働きに分けられます。
1. 表面張力の低下 (濡れ作用)
界面活性剤は、水の分子同士が強く引き合う力(表面張力)を弱めます。これにより、水が汚れや布などの表面に広がりやすくなり、汚れの内部へと浸透しやすくなります。
2. 乳化・分散作用
界面活性剤の分子は、油になじむ「親油基」と水になじむ「親水基」を持っています。この二つの性質を活かし、親油基が油汚れを、親水基が水を引きつけることで、本来混ざらない油と水を均一に混ぜ合わせる「乳化」や、汚れを細かくバラバラにして水の中に浮遊させる「分散」を起こします。
3. ミセル形成による汚れの包み込み
洗浄液中の界面活性剤が一定濃度を超えると、分子が集まって球状の「ミセル」を形成します。このミセルの内部には親油基が集まっており、油汚れをその中に閉じ込めることができます。ミセルに包み込まれた汚れは、水と一緒に洗い流されるため、再び洗浄物へ付着するのを防ぎます。

界面活性剤が洗浄性を向上させるのは、水と油の両方に馴染む性質を持つためです。これにより、水の表面張力を低下させて汚れに浸透しやすくし、汚れをミセルという形で包み込んで水中に分散・乳化させることで、効率的に汚れを取り除きます。
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