電気化学ポンピング技術によるリチウム回収 これまでの回収法の問題点はどこか?電気化学ポンピング技術とは何か?

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この記事で分かること

・リチウム回収はなぜ、重要なのか:電気自動車などリチウムの需要が増加しており、資源の枯渇や環境負荷軽減の観点から回収技術が重要になっている。

・これまでのリチウム回収の問題点は何か:従来の湿式・乾式冶金は化学薬品や高温処理が必要で、環境負荷やコストの問題がある。

・電気化学ポンピング法とは何か:電場(電圧)を利用して特定のイオンを選択的に移動・分離する技術であり、従来の化学的な回収法よりも低コスト・省エネルギーという特徴がある。

電気化学ポンピング技術によるリチウム回収

 弘前大学の佐々木一哉教授らの研究グループは、使用済みリチウムイオン電池からリチウムを効率的に回収する新たな電気化学ポンピング技術を開発したことがニュースになっています。 

 https://www.st.hirosaki-u.ac.jp/news/awarded/kenkyu/240221-2.html?utm_source=chatgpt.com

 の技術により、金属不純物を含まない高純度なリチウムを高速かつ経済的に回収することが可能となりました。さらに、トヨタ自動車などと共同研究を進めており、鉱石から精製する場合の約10分の1のコストでリチウムを回収できる見込みです。

なぜリチウムの回収が重要なのか

 リチウムの回収が重要な理由はいくつかあります。

1. 資源の枯渇と供給リスクの低減

 リチウムは主に南米(チリ、アルゼンチン、ボリビア)やオーストラリアで産出されますが、埋蔵量には限りがあり、需要の増加とともに供給リスクが高まっています。使用済み電池からリチウムを回収することで、新たに採掘する必要性を減らせます。

2. 環境負荷の軽減

 リチウムの採掘には大量の水を使用し、環境破壊や生態系への悪影響を及ぼします。また、精錬時にCO₂排出も発生します。リサイクル技術を活用することで、環境負荷を大幅に低減できます。

3. 経済的メリット

 新規採掘にはコストがかかりますが、リサイクルによる回収はコストを抑えられる可能性があります。特に、弘前大学の技術のように低コスト・高効率の回収法が確立されれば、産業界にも大きなメリットをもたらします。

4. EV(電気自動車)・再生可能エネルギー普及の推進

 リチウムはリチウムイオン電池の主要材料であり、EVや再生可能エネルギーの蓄電池に不可欠です。安定した供給を維持するためには、リサイクル技術の発展が重要です。

5. 廃棄物の削減

 使用済み電池を適切にリサイクルしないと、有害物質の漏出や不適切な処理による環境汚染のリスクがあります。リチウムを回収・再利用することで、廃棄物を減らし、持続可能な資源循環を実現できます。

電気自動車などリチウムの需要が増加しており、資源の枯渇や環境負荷軽減の観点から回収技術に大きな注目が集まっています。

これまで、リチウムはどのように回収されているのか

 従来のリチウム回収方法には、主に湿式冶金(溶媒抽出・沈殿法)乾式冶金(焼成・熱処理)の2つの方法があります。これらは、使用済みリチウムイオン電池(LIB)やリチウム鉱石からリチウムを回収する際に用いられます。


1. 湿式冶金(Hydrometallurgy)

概要

 湿式冶金は酸や溶媒を使ってリチウムを溶解し、分離・回収する方法です。リサイクル業界では最も一般的な手法とされています。

プロセス

  1. 破砕・分解
    • 使用済み電池を破砕し、黒粉(Black Mass)と呼ばれるリチウム、コバルト、ニッケルなどの混合粉末を取り出す。
  2. 酸浸出(Leaching)
    • 硫酸(H₂SO₄)や塩酸(HCl)を用いて黒粉を溶解し、リチウムイオンを液相へ移す。
  3. 溶媒抽出・選択的沈殿
    • リチウム以外の金属(Co、Ni、Mnなど)を順番に分離し、最後にリチウムを沈殿させる。
    • 一般的には炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)を加え、炭酸リチウム(Li₂CO₃)として沈殿させる。
  4. 精製・乾燥
    • 沈殿物を濾過し、乾燥して高純度のリチウム化合物にする。

メリット

リチウム回収率が高い(80~90%)
比較的低温(100℃以下)で処理可能 → エネルギー消費が少ない
様々な金属(Co、Niなど)も同時に回収できる

デメリット

酸や化学薬品を大量に使用するため、廃液処理が必要
工程が多く、時間がかかる(複数の分離プロセスが必要)
リチウムの純度が低く、追加の精製が必要な場合がある


2. 乾式冶金(Pyrometallurgy)

概要

 乾式冶金は高温(1000℃以上)で焼成し、リチウムを含む金属を分離・回収する方法です。特にコバルトやニッケルの回収を重視する場合に使用されます。

プロセス
  1. 破砕・前処理
    • 電池を破砕し、黒粉(Black Mass)を取り出す。
  2. 高温焼成(Smelting)
    • 1000~1500℃の炉で黒粉を溶融し、金属を分離する。
    • コバルト・ニッケルなどの有価金属が鉄合金として回収される
  3. スラグ(残渣)からのリチウム回収
    • リチウムはスラグ(炉の残渣)に残るため、さらに酸処理や湿式冶金を組み合わせて回収する。
メリット

プロセスがシンプルで、大量処理が可能
コバルトやニッケルの回収効率が高い
バッテリーの前処理(解体など)が不要な場合が多い

デメリット

高温処理が必要で、エネルギー消費が大きい
リチウムの回収率が低い(40~60%) → スラグに残るため追加処理が必要
環境負荷が高い(CO₂排出が多い)

従来の湿式・乾式冶金は化学薬品や高温処理が必要で、環境負荷やコストの問題を抱えています。

なぜ低コスト化が可能になったのか

 弘前大学の技術でリチウム回収の低コスト化が可能な理由は、主に以下の3点にあります。

1. 電気化学ポンピング技術の活用

 従来のリチウム回収方法(溶媒抽出や沈殿法)は、多くの化学薬品を必要とし、処理コストが高くなりがちでした。弘前大学の技術は「電気化学ポンピング」を利用し、電場を使ってリチウムイオンを選択的に回収する仕組みです。これにより、化学薬品の使用量を減らし、プロセスを単純化できます。

2. 不純物の少ない高純度リチウムの回収

 通常、リチウムイオン電池にはコバルト、ニッケル、マンガンなどの金属が含まれており、リチウムだけを分離するのが難しいですが、この技術ではリチウムを高純度で選択的に回収できます。そのため、後処理の工程を減らし、精製コストを抑えることが可能です。

3. 従来の鉱石精製プロセスに比べてエネルギー消費が少ない

 リチウムの新規採掘(例えば、塩湖からの抽出)には、大量の水と薬品が必要で、回収に長い時間がかかります。また、鉱石からリチウムを精製するには高温での焼成や化学処理が必要で、エネルギーコストが高いです。一方、弘前大学の技術は、電気化学的手法を用いることで、これらのエネルギー消費を大幅に削減でき、結果としてコストを1/10程度に抑えられると報告されています。

シンプルなプロセス・低エネルギー消費・高純度回収の3つの要素が組み合わさることで、従来の方法に比べて低コストでのリチウム回収が可能になっています。

電気化学ポンピングとは何か

 電気化学ポンピング(Electrochemical Pumping)とは、電場(電圧)を利用して特定のイオンを選択的に移動・分離する技術です。主にイオン選択膜や電極を用い、対象となるイオンを電気的な力で動かし、回収・濃縮する仕組みになっています。

電気化学ポンピングの仕組み

  1. 電極反応
    • 電圧を加えると、特定のイオン(例:リチウムイオン Li⁺)が電極に引き寄せられます。
  2. イオン選択膜を利用した移動
    • イオン選択膜を配置し、リチウムイオンだけを透過させることで、他の金属イオン(コバルト、ニッケルなど)と分離します。
  3. リチウムイオンの濃縮・回収
    • 透過したリチウムイオンを別の溶液に移し、高純度のリチウムを回収します。

電気化学ポンピングのメリット

環境負荷の低減 → 廃棄物が少なく、持続可能なリサイクルが可能

高選択性 → 不純物を含まないリチウムを回収できる

低エネルギー消費 → 化学薬品や高温処理を使わずにリチウムを抽出できる

電場(電圧)を利用して特定のイオンを選択的に移動・分離する技術であり、従来の化学的な回収法よりも低コスト・省エネルギーで、実用化が期待されている技術です。

また、イオン選択膜がリチウムだけを透過させる。電場でリチウムのみを移動させることで、他の金属を排除できる化学反応を使わないため、副生成物が発生しないといった特徴から純度も高くすることが可能です。

イオン選択膜がリチウムだけを透過させる
電場でリチウムのみを移動させることで、他の金属を排除できる
化学反応を使わないため、副生成物が発生しない

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