世界を変える10大技術からの落選技術(男性用避妊薬と最高齢の赤ちゃん)それぞれの内容と落選理由は何か?

この記事で分かること

  • 男性用避妊薬とは:コンドームやパイプカットに代わる、男性主体の新しい避妊法です。臨床試験の最終段階にはあるものの、当局の承認を経て市場に普及するのが「2026年よりも数年先」と予測されたため今回は落選しています。
  • 最高齢の赤ちゃんとは:30年以上前に凍結保存された受精卵から誕生した赤ちゃんです。1994年製の胚を別の夫婦が「養子」として譲り受け、2025年に出産しました。新技術の開発ではなく、余った胚を譲渡する「胚養子縁組」という社会的慣習の広がりによるものと判断されたため、技術的選考からは漏れました。

男性用避妊薬と最高齢の赤ちゃん

  MITテクノロジーレビューによる「世界を変える10大技術(10 Breakthrough Technologies)」の2026年版は、例年のスケジュール通りであれば2026年1月初旬から中旬にかけて正式に発表される予定です。

 現在は正式発表の直前(2025年12月末時点)であり、編集部からは最終選考で惜しくも漏れた「候補」の一部が先行して公開されています。

 https://www.technologyreview.jp/s/373639/4-technologies-that-didnt-make-our-2026-breakthroughs-list/

 あえて落選した技術を公表するのは、「今は未完成だが将来性は極めて高い」と世に知らしめるためであり、10大技術の権威性を保ちつつ、次世代の重要トレンドを先取りして紹介し、読者の関心や議論を喚起する狙いがあります。

 今回は男性用避妊薬および最高齢の赤ちゃんに関する記事となります。

男性用避妊薬とは何か

 男性用避妊薬とは、コンドームやパイプカット(精管切除術)以外の、男性が主体となって行う新しい避妊の選択肢のことです。

 MITテクノロジーレビューの「2026年版 10大技術」の選考候補にも選ばれたこの技術は、女性に偏りがちな避妊の責任を分担し、不測の妊娠を減らす画期的な手段として期待されています。

1. ホルモン剤(ジェル・経口薬)

 女性用ピルに近い仕組みで、ホルモンを調整して精子の生成を抑えます。

  • NES/T(ジェル): 肩に塗るタイプ。2024年〜2025年にかけて大規模な治験が進み、精子数を効果的に減らせることが確認されています。使用を止めれば数カ月で元に戻ります。
  • 男性用ピル: 飲み薬タイプも開発中ですが、副作用(体重増加や気分の変化など)の抑制が課題となっています。

2. 非ホルモン性経口薬

 ホルモンに影響を与えず、精子の「泳ぐ能力」や「受精能力」を一時的にブロックします。

  • YCT-529: ビタミンAの働きを抑えることで精子の生成を止めます。2025年にかけて第2相治験が進んでおり、副作用が少ない「ホルモンフリー」の選択肢として注目されています。

3. 可逆的な精管ブロック(注入型ジェル)

 精管(精子の通り道)に特殊なジェルを注入して物理的に遮断します。

  • ADAM / Plan A: 局所麻酔で注入でき、効果は1〜2年持続します。パイプカットと異なり、別の液体を注入することでジェルを溶かし、再び妊娠可能な状態に戻せる(可逆性)のが最大の特徴です。

コンドームやパイプカットに代わる、男性主体の新しい避妊法です。ホルモンを調整して精子形成を抑える「塗るジェル」や、精子の動きを一時的に止める「非ホルモン性経口薬」などが開発されており、女性側の負担軽減と避妊の責任分担を可能にする画期的な手段として期待されています。

落選した理由は何か

 男性用避妊薬が2026年版の「10大技術」の最終選考から漏れた主な理由は、「実用化と普及のタイミング」にあります。

MITテクノロジーレビューの編集部は、以下の点を指摘しています。

  • 承認までの時間: 多くの候補薬(ジェルや経口薬)が臨床試験の最終段階にありますが、規制当局(FDAなど)の正式な承認を経て、実際に市場に流通するのは2026年よりも数年先になると予測されました。
  • 「今すぐ」のインパクト不足: 10大技術は「今まさに閾値を超え、社会を変え始めているもの」を選びます。男性用避妊薬は非常に有望ですが、2026年中に人々の生活習慣を劇的に変えるレベルには至らないと判断されました。
  • 社会的・商業的ハードル: 薬そのものの効果だけでなく、製薬会社の投資意欲や、男性側の心理的な受容性が一般化するにはまだ議論が必要な段階であると見なされています。

 現在は「技術的な完成間近」ではあるものの、「社会実装の準備が完全には整っていない」という評価での見送りとなりました。

臨床試験の最終段階にはあるものの、当局の承認を経て市場に普及するのが「2026年よりも数年先」と予測されたためです。技術的には有望ですが、2026年中に社会を劇的に変える段階にはないと判断されました。

世界最高齢の赤ちゃんとは何か

 「世界最高齢の赤ちゃん」とは、約30年もの間、超低温で凍結保存されていた受精卵(胚)から誕生した赤ちゃんのことです。

 2025年7月、1994年に凍結された胚を移植し、米国の夫婦に男の子(タデウスくん)が誕生したことで世界記録が更新されました。


特徴と仕組み

  • 「時間」の逆転: この赤ちゃんは1994年に作られたため、生物学的な「きょうだい」はすでに30歳を超えています。
  • 胚養子縁組: 余剰となった凍結胚を別の夫婦に譲渡する「胚養子縁組(Embryo Adoption)」という仕組みによって実現しました。
  • 保存技術の証明: 30年以上前の古い凍結技術(緩慢凍結法)で保存された胚でも、現代の技術で安全に解凍し、健康な赤ちゃんとして誕生できることが証明されました。

30年以上前に凍結保存された受精卵から誕生した赤ちゃんです。1994年製の胚を別の夫婦が「養子」として譲り受け、2025年に出産しました。凍結胚の長期生存能力と、余剰胚を譲渡する社会的な仕組みを示す象徴的な事例です。

どのような技術で古い杯からの誕生が可能になったのか

 30年以上という極めて古い胚(受精卵)から健康な赤ちゃんが誕生できたのは、主に「超低温保存技術」「胚養子縁組」という2つの基盤があったからです。

1. 液体窒素による「時間の停止」

 胚はマイナス196℃の液体窒素の中で保管されます。この極低温下では細胞内の化学反応や代謝が完全に停止するため、理論上、半永久的に劣化することなく保存が可能です。

  • 緩慢凍結法(Slow Freezing): 30年前の胚には、時間をかけてゆっくり温度を下げる当時の主流技術が使われていました。現代の「ガラス化法」に比べると解凍時の生存率は低いですが、適切に管理されていれば30年経っても生命力を維持できることが証明されました。

2. 「胚養子縁組」という社会的仕組み

 技術以上に重要なのが、余った胚を廃棄せず、不妊に悩む別の夫婦へ譲渡する「胚養子縁組(Embryo Adoption)」の仕組みです。

  • 今回のケースでは、1994年に体外受精を行った夫婦が、不要になった胚を専門の機関(ナイトライト・クリスチャン・アドプションズ等)に託しました。
  • 2024年にこの胚を「養子」として譲り受けた別の夫婦に移植され、2025年に無事誕生に至りました。

液体窒素によるマイナス196℃の超低温保存が細胞の老化を止め、30年間の「時間の凍結」を可能にしました。これに加えて、余剰胚を別の夫婦に託す「胚養子縁組」という仕組みが、古い胚に誕生の機会を与えました。

10大技術からの落選した理由は何か

 「世界最高齢の赤ちゃん」が2026年版の10大技術から落選した理由は、それが「純粋な技術的進歩」よりも「社会的・慣習的な変化」による成果だと判断されたからです。

 MITテクノロジーレビューの編集部は、以下のポイントを挙げています。

  • 技術の目新しさの欠如: 凍結胚を解凍して移植する技術自体は、数十年前から確立されているものです。今回の誕生は、新しい発明によるものではありませんでした。
  • 社会的規範の変化: 記録更新の最大の要因は、余った胚を他の夫婦に譲る「胚養子縁組」という仕組みが普及し、古い胚を利用することに抵抗がなくなったという「人々の意識の変化」にあります。
  • インパクトの性質: 10大技術は「世界を劇的に変える新しいテクノロジー」を選出します。この事例は非常に印象的で感動的ですが、技術的なブレークスルー(突破口)という定義には当てはまらないと見なされました。

30年前の技術でも誕生が可能だと証明されましたが、今回の成功は新技術の開発ではなく、余った胚を譲渡する「胚養子縁組」という社会的慣習の広がりによるものと判断されたため、技術的選考からは漏れました。

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