この記事で分かること
- ミクロトーム法とは:顕微鏡観察のために試料を数マイクロメートル単位の極めて薄い切片(スライス)にする技術です。組織をパラフィン等で固めた後、専用の精密な切断装置で光が透過する厚さに切り出します。
- TEMサンプル作成での優れる点、熱やイオンによるダメージを抑え、広範囲を均一な厚さ(ナノ単位)で切り出せる点です。高分子材料や生物組織の構造を壊さず、一度の作業で多数の連続切片を高速に作製できます。
- FIBとの比較:ミクロトームは刃で切るため低ダメージ・広範囲・高速な作製が可能ですが、特定の場所を狙うのは苦手です。一方、FIBはビームで削るため、硬い材料の特定部位を精密に抽出できますが、熱変質のリスクがあります。
ミクロトーム法
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は、透過電子顕微鏡、TEMなどの前処理法であるミクロトームに関する記事となります。
ミクロトーム法とは何か
ミクロトーム法(Microtome method)とは、顕微鏡で組織や材料を観察するために、試料を数マイクロメートル(μm)という極めて薄い切片(スライス)にする技術のことです。
生物学、医学、材料工学などの分野で、細胞の構造や材料の微細な組織を詳しく調べるために欠かせない手法です。
1. なぜ薄く切る必要があるの
顕微鏡(特に光学顕微鏡)で試料を観察する場合、対象物に光を透過させる必要があります。肉眼で見える厚さのままでは光が通らず、真っ暗になってしまいます。ミクロトーム法を用いることで、光が透過するほど薄く、かつ組織の構造を壊さずに切り出すことができます。
2. ミクロトーム法の主な工程
単に刃物で切るだけではなく、きれいに切るために以下のような準備(前処理)が行われます。
- 固定: 組織の状態を保つために、ホルマリンなどでタンパク質を固めます。
- 包埋(ほうまい): そのままでは柔らかすぎて切れないため、パラフィン(ロウ)や樹脂の中に試料を入れ、固めて土台を作ります。
- 薄切(はくせつ): ミクロトームという専用の精密な切断装置を使い、一定の厚さ(一般的には 3〜5μm 程度)にスライスします。
- 染色: そのままだと無色透明で見づらいため、ヘマトキシリン・エオシン(HE)などの染色液で色をつけます。
3. ミクロトームの種類
観察したい対象や、どのくらい薄くしたいかによって装置を使い分けます。
- 回転式ミクロトーム: 最も一般的。ハンドルを回すと試料が上下に動き、連続した切片(リボン状)を作れます。パラフィン包埋試料に最適です。
- 滑走式ミクロトーム: 刃が水平に動くタイプ。木材や大きな組織など、比較的硬いものや広い面積を切るのに向いています。
- クリオスタット(凍結ミクロトーム): 試料を急速冷凍して切る装置。手術中などの緊急検査で、包埋の手間を省いて素早く観察したい時に使われます。
- ウルトラミクロトーム: 電子顕微鏡での観察用。ナノメートル単位(数10nm)の超薄切片を作るために、ダイヤモンドナイフなどを使用します。
ミクロトーム法は、「見たいものを透かして見るために、精密に薄くスライスする技術」と言えます。医療現場での病理診断(ガン細胞の有無の確認など)にはなくてはならない重要な技術です。

ミクロトーム法とは、顕微鏡観察のために試料を数マイクロメートル単位の極めて薄い切片(スライス)にする技術です。組織をパラフィン等で固めた後、専用の精密な切断装置で光が透過する厚さに切り出します。
TEM試料作製での利点は何か
TEM(透過電子顕微鏡)の試料作製において、ミクロトーム法(特にウルトラミクロトーム法)を用いる主な利点は、以下の4点に集約されます。
1. 試料へのダメージが極めて少ない
イオンビームで削るFIB(集束イオンビーム)法などと比較して、物理的な刃(ダイヤモンドナイフ)で切断するため、熱による変質やイオン注入によるダメージがほとんどありません。
- 非晶質化(アモルファス化)を防げるため、材料本来の結晶構造を維持したまま観察できます。
- 熱に弱い高分子材料(プラスチック、ゴム)や生物組織に非常に有効です。
2. 広範囲で均一な厚さの切片が得られる
FIB法では数〜数十μm程度の狭い範囲しか薄くできませんが、ミクロトーム法ではミリ単位の広い面積を均一な厚さ(約50〜100nm)で切り出すことが可能です。
- 広い視野で組織全体のつながり(多層フィルムの構造や細胞間の関係など)を把握するのに適しています。
- 厚さが一定であるため、TEM画像上でのコントラストの解釈が容易になります。
3. スピードとスループットの高さ
装置のセットアップが終われば、一度の切削作業で数十枚以上の連続切片を短時間で作製できます。
- 大量の粒子を一度に観察して統計的なデータを得たい場合や、連続切片を用いた3次元再構築(アレイトモグラフィー)を行う際に圧倒的に有利です。
4. 硬軟が混在する複合材料に強い
樹脂と金属、あるいは柔らかい生物組織と硬い包埋樹脂など、硬さが異なる材料が混ざった試料でも、界面をきれいに保ったまま平滑な断面を作れます。
- 機械研磨で起こりがちな「硬い部分だけが残り、柔らかい部分が削れすぎる」といった段差が発生しにくいのが特徴です。
まとめ:他の手法との比較
| 特徴 | ミクロトーム法 | FIB法 |
| 主な利点 | 広範囲、低ダメージ、高速 | 特定の場所をピンポイントで狙える |
| 苦手なこと | 非常に硬い材料(セラミックス等) | 熱・イオンダメージ、狭い視野 |
次は、

TEM試料作製における最大の利点は、熱やイオンによるダメージを抑え、広範囲を均一な厚さ(ナノ単位)で切り出せる点です。高分子材料や生物組織の構造を壊さず、一度の作業で多数の連続切片を高速に作製できます。
TEM試料作製での欠点は何か
EM(透過電子顕微鏡)の試料作製において、ミクロトーム法(主にウルトラミクロトーム)を用いる際の欠点は、主に「機械的な負荷」と「試料の限定」にあります。
1. 物理的なダメージ(アーティファクト)
刃物で「切る」という性質上、試料に強い力がかかります。
- 変形・割れ: 柔らかい材料では引きつれ(歪み)や圧縮、硬い材料ではひび割れや欠けが生じることがあります。
- ナイフマーク: ダイヤモンドナイフの刃先の微細な欠けにより、切削方向にスジ(線状のキズ)が入ることがあります。
- チャタリング: 切削時の振動により、波打ったような厚みのムラができることがあります。
2. 硬い材料には不向き
金属バルクやセラミックスなどの硬い材料は、刃を傷めるだけでなく、きれいに切ることが困難です。
- 刃の摩耗: ダイヤモンドナイフは非常に高価ですが、硬い試料を切ると急速に寿命が縮まります。
- これらの材料には、イオンで削る「FIB法」や「アルゴンイオン研磨」の方が適しています。
3. 特定部位のピンポイント抽出が難しい
「この場所のこの構造だけを見たい」という微小な領域(例:半導体デバイスの特定の配線)を正確に狙って切り出すのは、熟練の技術が必要です。
- 視野の広い観察には向いていますが、ナノ精度の場所特定はFIB法に劣ります。
4. 試料サイズと前処理の制約
- サイズの制限: 装置にセットできるブロックのサイズは数mm程度と非常に小さくする必要があります。
- 包埋の手間: 生体試料などは樹脂で固める(包埋)工程に数日かかることがあり、準備に時間がかかります。

主な欠点は、刃物で切る際の物理的な負荷により、試料の歪みや圧縮、表面のキズ(ナイフマーク)が生じやすい点です。また、セラミックス等の硬い材料には不向きで、特定の微小領域を狙い撃つ精度もFIB法に劣ります。
どのような素材に適しているのか
TEM(透過電子顕微鏡)試料作製におけるミクロトーム法は、以下に示すような主に「柔らかい素材」や「熱・衝撃に弱い複合素材」に適しています。
1. 高分子材料(ポリマー・プラスチック)
ミクロトーム法が最も得意とする分野です。
- 樹脂・ゴム: プラスチック、合成ゴム、エラストマーなど。
- 多層フィルム: 食品パッケージや光学フィルムなど、層構造を壊さず観察したい場合。
- 接着剤・塗料: 異なる材料間の界面(貼り合わせ面)の観察。
2. 生物試料
生命科学の研究では標準的な手法です。
- 組織・細胞: 動物の臓器、植物の茎や葉、昆虫、細菌など。
- 食品: タンパク質、脂肪の分散状態、デンプンの構造など。
3. 軟質金属
通常の金属は硬すぎて不向きですが、展延性のある柔らかい金属には使用されます。
- アルミニウム、銅、はんだ、金、銀などの薄膜や微細構造。
- ※鉄や鋼などの硬い金属は、刃を傷めるため一般的には避けられます。
4. 粉末・複合材料
- トナー・触媒: 粉末を樹脂で固める(包埋)ことで、粒子をスライスして内部構造を観察できます。
- リチウムイオン電池材料: 電極材料の断面構造など。
適している素材の判断基準
| 適性 | 素材の例 | 理由 |
| 最適 | 樹脂、ゴム、生物組織 | 柔らかく、刃でスムーズに切れるため。 |
| 可能 | アルミ、銅、薄膜材料 | 延性があり、ダイヤモンドナイフで切削可能なため。 |
| 不向き | セラミックス、硬鋼 | 刃が欠けやすく、試料が粉砕してしまうため。 |

主に高分子材料(樹脂・ゴム)、生物組織、軟質金属(アルミ・銅等)に適しています。熱やイオンによる変質を避けたい素材や、多層フィルムのように広範囲の層構造を均一に観察したい場合に最適な手法です。

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