この記事で分かること
- 洋上風力発電とは:海上に風車を設置して風の力で発電する仕組みです。陸上より強い安定した風を利用でき、大規模発電が可能です。
- 計画の概要と撤退理由:三菱商事と中部電力は、千葉県沖と秋田県沖の洋上風力発電計画から撤退しました。この計画は合計170万kWの大型プロジェクトでしたが、資材価格の高騰や円安の影響で事業費が2倍以上に膨らみ、採算が見込めなくなったためです。
- 今後の見通し:千葉と秋田の3海域は再公募される見通しです。発電開始は遅れるものの、政府は事業者支援を検討しており、資材価格の変動を反映した入札制度の見直しなどが進めば、他社が参入する可能性はあります。
三菱商事と中部電力、洋上風力発電計画からの撤退
三菱商事と中部電力は、千葉県銚子市沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖の3つの海域で進めていた洋上風力発電計画からの撤退を正式に発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC294K80Z20C25A8000000/
この事業は、政府が再生可能エネルギー拡大の切り札と位置付けていた洋上風力発電のプロジェクトであり、今回の撤退は国のエネルギー戦略に大きな影響を与えると見られています。
洋上風力発電とは何か
洋上風力発電は、海上に設置した風車を用いて風のエネルギーを電気に変換する発電方式です。陸上風力発電と基本的な仕組みは同じですが、広大な海域の安定した強い風を利用できるため、大規模な発電が可能になります。
洋上風力発電の種類
洋上風力発電には主に二つのタイプがあります。
- 着床式: 海底に基礎を直接固定し、その上に風車を設置する方式です。水深が比較的浅い海域に適しており、技術的なハードルが低く、現在主流となっています。
- 浮体式: 浮体の上に風車を乗せ、海底に固定したアンカーで係留する方式です。水深が深い海域でも設置できるため、日本の多くの海域に適していると期待されています。ただし、技術的に複雑で建設コストが高いという課題があります。
メリットとデメリット
洋上風力発電は、多くのメリットを持つ一方で、いくつかの課題も抱えています。
メリット
- 風況の良さ: 陸上に比べて風が強く安定しているため、効率の良い発電が可能です。
- 大規模化: 広い海域を利用できるため、大型の風車を多数設置し、大規模な発電が可能になります。
- 騒音・景観問題の軽減: 陸地から離れた場所に設置するため、騒音や景観への影響が少なくなります。
デメリット
- 高コスト: 陸上と比べて、建設費用や維持管理費用が高くなります。特に、海底に基礎を築く工事や、海底ケーブルの敷設に巨額のコストがかかります。
- 技術的課題: 海洋の厳しい自然環境に耐えうる設備の開発や、深い海域での工事には高度な技術が必要です。
- 漁業などとの調整: 漁場や航路と重なる場合、関係者との調整が不可欠となります。

洋上風力発電は、海上に風車を設置して風の力で発電する仕組みです。陸上より強い安定した風を利用でき、大規模発電が可能です。着床式と浮体式の2種類があり、日本の主力電源化が期待されています。
千葉と秋田の計画はどのようなものか
三菱商事と中部電力が撤退を決めたのは、以下の3つの洋上風力発電計画です。いずれも着床式洋上風力発電で、合計で170万kW規模の大型プロジェクトでした。
1. 千葉県銚子市沖洋上風力発電事業
- 場所: 千葉県銚子市沖
- 概要: 単機出力1万3,000kWの風車を31基設置し、総発電出力40万3,000kWを計画していました。
- 当初のスケジュール: 2025年に陸上工事、2028年9月に運転開始を予定していました。
2. 秋田県能代市・三種町・男鹿市沖洋上風力発電事業
- 場所: 秋田県能代市・三種町・男鹿市沖
- 概要: 単機出力1万3,000kWの風車を38基設置し、総発電出力49万4,000kWを計画していました。
- 当初のスケジュール: 2026年に陸上工事、2028年12月に運転開始を予定していました。
3. 秋田県由利本荘市沖洋上風力発電事業
- 場所: 秋田県由利本荘市沖
- 概要: 単機出力1万3,000kWの風車を65基設置し、総発電出力84万5,000kWを計画していました。
- 当初のスケジュール: 2026年に陸上工事、2030年12月に運転開始を予定していました。
これらの計画は、いずれも2021年の第1回洋上風力発電の公募で、三菱商事を中心とする企業連合が事業主体として選定されたものでした。
撤退を決めた理由は
三菱商事と中部電力が洋上風力発電計画から撤退を決めた主な理由は、以下の3点に集約されます。
建設費の想定外の高騰
当初1兆円強と見積もられていた総事業費が、2倍以上に膨れ上がったことが最大の要因です。新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ危機に端を発するサプライチェーンのひっ迫、世界的なインフレ、円安の進行が重なり、風車そのものや建設資材、人件費が大幅に上昇しました。
事業採算性の悪化
コスト増大により、発電開始から30年間の総収入が総支出を下回り、マイナスのリターンとなる見込みとなりました。当初の事業計画が成り立たなくなり、継続は困難だと判断しました。
厳しい事業環境の変化
事業主体に選定されて以降、世界的なインフレや円安、金利上昇など、洋上風力業界を取り巻く事業環境が激変しました。特に、大型風力発電機を製造する国内メーカーがないため、資材を輸入に頼らざるを得ず、円安の影響を強く受けました。

三菱商事と中部電力は、資材価格の高騰や円安などによる建設費の大幅な増加が原因で、採算性が悪化したため撤退を決めました。当初の見積もりから事業費が2倍以上となり、事業継続が困難だと判断しました。
今後の計画の見通しは
三菱商事と中部電力の撤退を受けて、日本政府は対象の3海域(千葉県銚子市沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖)について、再公募を実施する方針です。
しかし、これにより当初の計画よりも発電開始が大幅に遅れることは避けられません。地元自治体からは、今回の撤退決定に動揺や失望の声が上がっており、早期の再公募を望む声も出ています。
他社の参入意欲
今回の三菱商事の撤退は、日本の洋上風力発電市場にとって大きな打撃となりましたが、他の企業が洋上風力発電事業への参入意欲を完全に失ったわけではありません。
- 他社の動向: 伊藤忠商事や丸紅など、他の商社も洋上風力発電事業に積極的に関わっています。これらの企業は、三菱商事の撤退理由となった建設費高騰などのリスクをすでに織り込み済みであると報じられています。
- 政府の支援策: 政府は洋上風力発電を「再生可能エネルギーの主力電源化」の切り札と位置付けており、事業者のリスクを軽減するための制度見直しや支援策を検討しています。具体的には、資材価格の変動を反映した入札制度の導入や、建設遅延時のペナルティの見直しなどが議論されています。
- 新たな入札の動向: 三菱商事が撤退した3海域については、入札価格の引き上げや、事業者のリスクを軽減するための新たな条件が設定される可能性が高いです。これにより、これまで洋上風力発電に慎重だった企業や、海外の大手企業が参入に意欲を示す可能性もあります。
三菱商事の撤退は日本の洋上風力発電プロジェクトに一時的な停滞をもたらしましたが、政府の政策支援や市場環境の変化を考慮しながら、今後も複数の企業が参入を検討していくとみられています。

三菱商事の撤退で、千葉と秋田の3海域は再公募される見通しです。発電開始は遅れるものの、政府は事業者支援を検討しており、資材価格の変動を反映した入札制度の見直しなどが進めば、他社が参入する可能性はあります。
コメント