この記事で分かること
- 無酸素銅とは:酸素含有量が極めて少なく(0.005%以下)純度が高い(99.96%以上)純銅です。最高の導電性・熱伝導性を持ち、高温下でも水素脆化を起こさないため、電子部品や溶接部品などに使われます。
- 水素脆化とは:金属が水素を取り込むことで、延性や靭性が低下しもろくなる現象です。タフピッチ銅では水蒸気発生によって突然の破壊(遅れ破壊)を引き起こすことがあります。
- 異形条とは:幅方向に厚さや断面形状が一定ではない、段付きなどの特殊な形状に加工された金属の帯材です。複数の機能を持つ部品の一体製造を可能にします
三菱マテリアルの高性能無酸素銅
三菱マテリアルが新たに開発した高性能無酸素銅「MOFC-HR」(Heat Resistance)の新製品は、その「異形条」(いけいじょう)タイプが主な特徴です。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00768245?gnr_footer=0084830
この新製品は、世界最高水準の強度と耐熱性を維持しつつ、特に電気自動車(EV)やデータセンター、AI、次世代エネルギーなどの分野で、大電流・高放熱が求められる電気機器部材に最適な材料としています。
無酸素銅とは何か
無酸素銅(Oxygen-Free Copper: OFC)とは、極めて酸素の含有量が少ない高純度な銅のことです。純銅の一種であり、銅が持つ優れた特性を最大限に引き出した材料として、主に電気・電子部品分野で利用されています。
1. 定義(高純度)
- 純度: JIS規格では、純度99.96%以上(C1020)またはそれ以上(電子管用C1011は99.99%以上)の純銅と規定されています。
- 酸素含有量: 名前の通り酸素をほとんど含まず、残存酸素量は0.001%〜0.005%(10~50ppm)以下と極めて微量です。
2. 主なメリット(優れた特性)
酸素や不純物が少ないため、銅本来の優れた特性が発揮されます。
- 最高の導電性・熱伝導性:
- 不純物が電気や熱の流れを妨げにくいため、純銅の中で最も高い電気伝導率と熱伝導率を誇ります。
- 水素脆化を起こさない:
- これが他の純銅(タフピッチ銅など)との最大の違いです。タフピッチ銅は微量の酸素(酸化銅)を含むため、高温の水素雰囲気下で熱せられると、酸化銅が還元されて水蒸気となり、銅内部に空洞(ブローホール)を作って脆くなる水素脆化を起こします。
- 無酸素銅は酸素をほとんど含まないため、溶接、ロウ付け、熱間加工など、高温処理が必要な用途で安心して使用できます。
- 優れた加工性:
- 純度が高く柔らかいため、展延性(伸びやすさ)に優れ、複雑な曲げ加工や絞り加工が容易です。
タフピッチ銅との違い
純銅として最も一般的に流通しているタフピッチ銅(C1100)との主な違いは、酸素含有量と水素脆化の有無です。
| 特性 | 無酸素銅(C1020) | タフピッチ銅(C1100) |
| 純度 | 99.96%以上 | 99.90%以上 |
| 酸素含有量 | 極めて少ない (0.001%〜0.005%以下) | 微量に含む (0.02%〜0.05%程度) |
| 水素脆化 | 起こさない (高温処理可能) | 起こす (高温処理不向き) |
| 導電性/熱伝導性 | 極めて高い | 高い(無酸素銅とほぼ同等) |
| 強度 | やや劣る | 無酸素銅よりやや高い |
主な用途
水素脆化の心配がなく、高い導電性と熱伝導性、そして加工性を兼ね備えているため、以下のような分野で使用されます。
- 電気・電子部品: 高導電性が求められるコネクタ、端子、リードフレーム、バスバー(大電流配線材)
- 熱関連部品: 高性能な熱交換器、放熱板
- 特殊用途: 水素脆化を避ける必要がある溶接・ロウ付け部品、ガス放出を嫌う真空機器部品(電子管、半導体製造装置)

無酸素銅(OFC)は、酸素含有量が極めて少なく(0.005%以下)純度が高い(99.96%以上)純銅です。最高の導電性・熱伝導性を持ち、高温下でも水素脆化を起こさないため、電子部品や溶接部品などに使われます。
水素脆化とは何か
水素脆化(すいそぜいか、Hydrogen Embrittlement)とは、金属材料が水素を取り込むことによって、本来持っている粘り強さ(靭性や延性)が低下し、もろくなって破壊されやすくなる現象のことです。
特に高強度鋼や、タフピッチ銅などの金属で問題になります。
水素脆化のメカニズム
銅での水素脆化現象は、以下のようなでメカニズムで
- 発生源: 高温(約600℃以上)の水素雰囲気下での加熱(溶接、熱処理、ロウ付けなど)。
- メカニズム:
- タフピッチ銅には、製造工程で取り込まれた微量の酸素が酸化銅(Cu2Oとして内部に含まれています。
- 高温下で外部から水素が侵入すると、以下の化学反応が起こります。(Cu2O + H2 → 2Cu + H2O(水蒸気)
- この反応で生成された水蒸気は、金属内部の空洞(結晶粒界など)に閉じ込められ、非常に高い内圧を発生させます。
- この内圧が銅材の内部を押し広げ、微細な割れ(ブローホール)を発生させることで、材料の強度が極端に低下し脆くなります。
対策
- 無酸素銅(OFC)の使用: 最初にご説明したように、あらかじめ酸素をほとんど含まない無酸素銅を使用することで、水蒸気生成のメカニズム自体を根本的に防ぎます。
タフピッチ銅が溶接や熱処理に向かないと言われるのは、この水素脆化を起こすリスクがあるためです。

水素脆化は、金属が水素を取り込むことで、延性や靭性が低下しもろくなる現象です。タフピッチ銅では水蒸気発生によって突然の破壊(遅れ破壊)を引き起こすことがあります。
異形条とは何か
「異形条」とは、金属の板や帯(ストリップ/条)において、幅方向で断面の厚さや形状が一定ではない、特殊な形に加工された材料のことです。
通常、金属の条材はどこを切っても同じ四角い断面をしていますが、異形条は断面が段差状になっていたり、凸型・凹型になっていたりします。
異形条の構造と機能
最も一般的な異形条の形状は、厚い部分(厚部)と薄い部分(薄部)からなる「段付き条(マルチゲージストリップ)」です。この特殊な形状が、電子部品の性能向上や製造コスト削減に大きく貢献します。
| 部位 | 主な機能(電子部品の場合) | 必要とされる特性 |
| 厚部 | 放熱部、剛性が必要な部分、大電流が流れる部分 | 高い導電率・熱伝導率、高い剛性 |
| 薄部 | リード部、接点部、複雑な加工が必要な部分 | 優れたプレス加工性、バネ特性 |
異形条を使う最大のメリット
異形条の最大のメリットは、一つの部品内で複数の機能を持たせ、部品の製造工程を簡略化できる点にあります。
- 部品の一体製造によるコスト削減
- リードフレーム(半導体部品)など、厚さが異なる複数の機能が必要な部品を、従来のように別々に作って溶接・接合する工程が不要になり、同一素材で一体的にプレス成形できます。
- これにより、組み立て工数や製造管理工数が大幅に削減されます。
- 材料ロスの低減
- 切削加工やプレス加工では、不要な部分を削ったり打ち抜いたりするため、材料のロスが発生します。
- 異形条は、あらかじめ製品の最終断面に近い形状で圧延・加工されるため、材料ロス(歩留まり)が最小限に抑えられ、特に大量生産で大きなコストダウンにつながります。
- 高性能化と小型・軽量化
- 必要な部分にのみ厚みを持たせて剛性や熱特性を確保し、それ以外の部分を薄くできるため、少ない材料で高い性能を維持したまま、部品の小型化・軽量化に貢献します。
主な用途
高性能な銅合金や、ご質問にあった三菱マテリアルの「MOFC-HR」などの異形条は、主に以下のような大電流・高密度化が進む分野で採用されています。
- 半導体: パワートランジスタやLED用のリードフレーム
- 自動車(EV): 高圧端子、パワーモジュール部材、バスバー
- 電子機器: 各種コネクタ、端子、リレー部材

異形条とは、幅方向に厚さや断面形状が一定ではない、段付きなどの特殊な形状に加工された金属の帯材です。複数の機能を持つ部品の一体製造を可能にし、製造コスト削減や部品の小型・軽量化に貢献します。

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