三井金属の銅焼結材料「Cuprima」

この記事で分かること

1. 銅焼結材料とは

微細な銅粉末を主成分とし、融点(1085℃)より低い200℃〜300℃の熱と圧力で粒子同士を結合させた接合材です。純銅並みの高い放熱性と耐熱性を持ち、次世代パワー半導体向けの高性能素材として注目されています。

2. なぜ低い融点で焼結できるのか

ナノサイズまで極小化した銅粒子は、表面の原子が非常に不安定で動きやすいため、融点より遥かに低い温度(200℃台)でも隣の粒子と活発に結合します。一度一体化すると本来の融点(1085℃)に戻るため溶けません。

3. Cuprima(クプリマ)の特徴

安価な銅を使用し、銀並みの高い放熱性と導電性を実現した接合材です。独自の粒子制御により、低温・低圧(用途により無加圧)で半導体を傷めず接合できます。ショートに強く、最新版は大面積接合にも対応しています。

三井金属の銅焼結材料「Cuprima」

 三井金属が、パワーモジュールと放熱部材(ヒートシンク)の接合向け銅焼結材料「Cuprima(クプリマ)」の開発を発表しています。

 EV(電気自動車)の普及やパワーモジュールの高出力化に伴い、いかに効率よく熱を逃がすか(熱管理)が非常に重要な課題となっています。

 放熱性に優れる銅焼結材料は高性能だが高価な「銀」、安価だが性能に限界がある「はんだ」に対し、「高性能かつ現実的なコストで大面積に使える銅」というミッシングリンクを埋める材料として期待されています。

銅焼結材料とは何か

 銅焼結材料とは、微細な銅の粉末(マイクロ粒子やナノ粒子)を主成分とし、加熱・加圧することによって粉末同士を物理的に結合(焼結)させて作られた材料です。

 近年、EV(電気自動車)のインバータなどに搭載される次世代パワー半導体(SiCやGaN)の「接合材(接着剤のような役割)」として非常に大きな注目を集めています。

銅焼結の仕組み

 「焼結」という言葉は、身近な例でいうと「セラミックス(陶磁器)」や「粉末冶金」と同じプロセスです。

  1. ペースト状で塗布: 銅の微細な粉末に、溶剤や分散剤を混ぜてペースト(クリーム)状にし、接合したい部分に塗ります。
  2. 加熱・加圧(焼結): 銅の融点(1085℃)よりも遥かに低い温度(一般に200℃〜300℃)で熱をかけ、圧力を加えます。
  3. 原子の結合: 粒子が非常に小さいため、融点に達していなくても表面の原子が活発に動き回り、粒子同士がくっつき合って一体化(密な銅の層に変化)します。

なぜ今、銅焼結材料が必要とされているのか

 背景には、パワー半導体の進化があります。従来のシリコン(Si)半導体に比べ、次世代のSiC(シリコンカーバイド)半導体は「200℃以上の高温」で動作できるのが強みです。しかし、ここで問題が発生しました。

従来のはんだ(Solder)の限界

 これまで主流だった「はんだ」は、約220℃で溶けてしまいます。半導体チップが200℃超の熱を持つと、はんだ自身が柔らかくなったり溶けたりしてしまい、壊れてしまいます。また、熱を逃がす能力(熱伝導率)もそれほど高くありません。

銅焼結材料の圧倒的な優位性
  • 高い耐熱性(融点1085℃): 200℃〜300℃の低温で接合(焼結)させた後は、純銅そのもの(融点1085℃)の性質に変わるため、半導体が200℃以上の高温になっても絶対に溶けません。
  • 極めて高い放熱性: 銅は金属の中でもトップクラスに熱を伝えやすい(熱伝導率が高い)ため、チップが発生した凶悪な熱を瞬時にヒートシンクへ逃がすことができます。電気抵抗が低い(電気がよく通る)のもメリットです。

「銀(Ag)焼結」との違い 

 実は、同じ「金属焼結」の技術として、先に実用化されたのは「銀焼結材料」でした。銀は銅よりも酸化しにくく、低い温度で簡単に焼結するため技術的に扱いやすいのです。

 しかし、以下の理由から、現在は「銅」へのシフト(あるいは銅の選択)が急速に進んでいます。

比較項目銀(Ag)焼結銅(Cu)焼結(Cuprimaなど)
材料コスト非常に高価(貴金属のため)圧倒的に安価(ベースメタルのため量産向き)
マイグレーション発生しやすい(水分と電圧で銀が移動し、ショートの原因になる現象)発生しにくい(信頼性が高い)
技術的難易度比較的容易(大気中で焼結可能)難しい(銅は加熱するとすぐ酸化するため、窒素などの還元雰囲気や特殊な粒子設計が必要)

 銀は「性能は最高だが高すぎる」、はんだは「安いが性能が足りない」。その中間に位置し、「銀並みの高性能を、はんだに迫る低コストで実現する」切り札として開発されたのが、銅焼結材料です。

 技術的なハードルだった「銅の酸化」や「大面積への施工」を各化学・素材メーカー(三井金属など)が独自の粉末制御・ペースト調合技術によって克服し、現在まさに本格的な社会実装のフェーズを迎えています。

銅焼結材料とは、微細な銅粉末を主成分とし、融点(1085℃)より低い低温・加圧条件で粒子同士を結合させた接合材です。純銅並みの高い放熱性と耐熱性を持ち、次世代パワー半導体向けの安価で高性能な素材として注目されています。

なぜ低い融点で焼結できるのか

 銅の融点は1085℃なのに、なぜ200℃〜300℃という低い温度で結合(焼結)できる理由は、材料に使われている銅の粉末が「ナノメートル(10億分の1メートル)〜マイクロメートル(100万分の1メートル)」という極小のサイズであるためです。

 物質をここまで小さくすると、日常の感覚とは異なる「ナノ粒子の特異現象」が起こります。理由は大きく2つあります。

1. 表面の原子が「超不安定」で動きやすい(表面エネルギー)

 物質を構成する原子は、周囲を別の原子に囲まれているときが最も安定します。

 しかし、粒子のサイズを極限まで小さくすると、全体に対して「表面にむき出しになっている原子」の割合が爆発的に増えます。

 周りに仲間がいない表面の原子は、非常に不安定で「早く誰かとくっついて安定したい!」という高いエネルギー(表面エネルギー)を持っています。

 そのため、ほんの少しの熱(200℃程度)を加えるだけで、融点に達していなくても表面の原子が激しく動き回り、隣の粒子とくっつき合おうとします。

2. 融点そのものが低下する(融点降下現象)

 物質はサイズが小さくなると、物理的な性質が変わります。

 直径が数ナノメートル級の極小粒子になると、表面の原子がバラバラに動き出しやすくなるため、物質全体の融点そのものが数百℃も下がります。 これを「サイズ効果による融点降下」と呼びます。

焼結が起きるイメージ

  1. 加熱前: 微細な銅の粉末同士が接触している状態。
  2. 加熱(230℃など): 表面の不安定な原子たちが元気に動き出し、接触面(ネック)を通ってお互いの粒子の間を移動し始めます。
  3. 一体化: 粒子と粒子の隙間(空隙)を埋めるように原子が移動し、最終的に一つの強固な「純銅の塊」へと変化します。

 ナノ粒子同士がくっついて「大きな塊(マクロな銅)」に戻った瞬間、表面の割合は激減し、融点は本来の1085℃へと一気にはね上がります。だからこそ、「230℃でくっつくのに、その後250℃の過酷な環境に晒されても絶対に溶けない」という魔法のような接合が可能になります。

ナノサイズまで極小化した銅粒子は、表面の原子が非常に不安定で動きやすいため、融点より遥かに低い温度(200℃台)でも隣の粒子と活発に結合します。一度一体化すると本来の融点(1085℃)に戻るため溶けません。

どのようにナノ粒子化するのか

 金属をナノ粒子(10億分の1メートル規模の超微細な粉)にする製造方法は、アプローチの違いによって大きく「トップダウン(物理的方法)」「ボトムアップ(化学的方法)」の2つに分類されます。

1. ボトムアップ法(化学的アプローチ)

 原子や分子を化学反応で1つずつ結合させ、ナノサイズまで「大きく育てる」方法です。銅焼結材料に求められる均一で極小なナノ粒子を作る際、最も主流な手法です。

① 湿式還元法(液相法)

 水や有機溶媒の中に銅のイオン(塩)を溶かし、そこに「還元剤」という薬品を投入する方法です。

  • 仕組み: イオン状態の銅に電子を与えると、銅の原子が析出します。この原子同士が次々とくっつき、ナノサイズの塊(粒子)へと成長します。
  • ポイント: 粒子が大きくなりすぎないよう、表面を保護する「保護剤(有機物)」を絶妙なタイミングで付着させて成長をストップさせます。
  • メリット: 粒子の大きさが非常に均一になりやすく、大量生産にも向いています。
② 気相法(蒸発凝縮法)

 バルク(塊)の銅にプラズマやレーザーなどの超高温を当てて、一瞬で蒸発(ガス化)させる方法です。

  • 仕組み: 蒸発した銅の原子が、冷たい不活性ガスと衝突して急冷されることで、瞬時に凝縮してナノ粒子(煤のような状態)になります。
  • メリット: 不純物が混ざりにくく、極めて高純度なナノ粒子が作れます。

2. トップダウン法(物理的アプローチ)

 大きな銅の塊を、機械的な力で限界まで「細かく砕きまくる」方法です。

① ビーズミル粉砕法

 容器の中に、非常に硬くて微細なセラミックビーズ(直径数十マイクロメートルなど)と銅の粉末、溶媒を入れ、猛烈な速度で回転・撹拌します。

  • 仕組み: ビーズとビーズの間に挟まれた銅の粉末が、摩擦や衝突の強力なエネルギーによってナノサイズまで y 破砕されます。
  • メリット: 設備が比較的シンプルですが、限界まで小さくしようとすると時間がかかり、ビーズの摩耗粉などのゴミ(コンタミ)が混入しやすいデメリットがあります。
② アトマイズ法(マイクロ~サブマイクロ向け)

 三井金属などの金属メーカーが元々得意とする金属粉末の基盤技術です。溶かしたドロドロの銅(湯)をノズルから噴射し、そこに高圧のガスや水を激しく衝突させて吹き飛ばし、一瞬で微細な液滴にして固めます。

 アトマイズ法単体では「マイクロメートル(100万分の1メートル)」規模の粒子になりやすいため、これをさらに上記の化学処理や粉砕技術と組み合わせることで、焼結材料に適した粒径へと調整します。

ナノ粒子化における最大の難所:保護剤技術

 実は、ナノ粒子を「作る」こと以上に「キープする」ことの方が難航します。

 前述の通り、ナノ粒子はエネルギーが非常に高いため、そのまま放置すると粒子同士が勝手にくっついて巨大化(凝集)し、ただの銅の粉に戻ってしまいます。また、銅は空気中で一瞬で酸化してしまいます。

 そのため、メーカー各社はナノ粒子の表面を特殊な有機物の膜(保護剤/界面活性剤)でバリアのように覆う技術を競っています。

  • 保管時: 保護剤のバリアで粒子同士の合一や酸化を防ぐ。
  • 接合(焼結)時: 200℃以上の熱がかかると、この保護剤がキレイに蒸発・分解して消え去り、むき出しになった銅粒子同士が瞬時に結合する。

 この「極小サイズで均一に作る化学プロセス」「必要なときまで眠らせておく保護剤の調合技術」の合わせ技によって、優れた銅焼結材料が作られています。

主に化学反応で原子を結合させ成長させる「ボトムアップ法(湿式還元等)」と、塊を機械的に細かく砕く「トップダウン法」があります。微細で均一な粒子を作るには前者が主流で、酸化や凝集を防ぐ保護剤技術も不可欠です。

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