この記事で分かること
- 洋上にデータセンターを設置する理由:電力の安定供給と冷却効率の向上、そして土地確保の課題解決が主な理由です。発電船と組み合わせれば電力自給が可能になり、海水で効率的に冷却でき、陸上の広大な土地も不要になります。
- データセンターが増加する背景:デジタル化の加速でデータ処理需要が急増し、既存インフラでは賄いきれなくなり、新たなデータセンター建設が加速しています。
商船三井の洋上データセンターの事業参入
商船三井は、トルコのエネルギー企業Karadeniz Holding(カラデニス・ホールディング)傘下のKinetics technologies holdings(キネティックス・テクノロジーズ・ホールディングス)と共同で、「発電船から電力供給する洋上データセンター」の事業に参入すると発表しました。
https://www.mol.co.jp/pr/2025/25061.html
これは世界初の事業モデルとなることを目指しており、2027年の運用開始を目標としています。
なぜ洋上にデータセンターを設置するのか
洋上にデータセンターを設置する理由は、主に以下の3つの大きなメリットに集約されます。
- 電力問題の解決
- 冷却効率の向上と環境負荷低減
- 土地・建設の課題解決
1. 電力問題の解決
- 電力の安定供給: データセンターは24時間365日稼働し続けるため、膨大な電力を安定的に供給する必要があります。AIの普及により、その消費電力はさらに増大しており、既存の陸上電力網だけでは供給が追いつかない地域や、電力料金が高騰する傾向にあります。洋上データセンターは、商船三井のケースのように発電船と一体化することで、電力網に依存せず、必要な電力をその場で供給できるため、安定性と自立性を確保できます。
- 迅速な展開: 陸上でのデータセンター開発は、電力供給確保のためのインフラ整備に時間がかかり、数年のリードタイムが発生することがあります。洋上であれば、発電船と組み合わせることで、電力のボトルネックを解消し、より迅速にデータセンターを運用開始できる可能性があります。
- 再生可能エネルギーとの連携: 洋上風力発電など、洋上での再生可能エネルギーの活用が進む中で、それらと直接連携することで、よりクリーンな電力でデータセンターを稼働させることが可能になります。
2. 冷却効率の向上と環境負荷低減
- 効率的な冷却: データセンター内のサーバーは大量の熱を発生するため、冷却が不可欠です。陸上データセンターでは、空冷システムやチラー設備など、多大な電力を使って冷却を行っています。一方、洋上データセンターは、周囲の海水(または河川水)を直接利用した水冷システムを導入することで、冷却にかかる電力消費を大幅に削減できます。これにより、運用コストの削減とPUE(電力使用効率)の改善に大きく貢献します。
- 環境負荷の低減:
- 冷却効率の向上は、電力消費量の削減に直結し、結果としてCO2排出量の削減につながります。
- 商船三井の事例のように、中古船を再利用することで、新たな建築物の建設に伴う環境負荷も低減できます。
3. 土地・建設の課題解決
- 土地の確保が不要: 特に都市部に近いエリアでは、大規模なデータセンターを建設するための広大な土地の確保が困難であり、取得費用も高額になります。洋上であれば、この土地の問題から解放されます。
- 建設期間の短縮: 中古船を改造してデータセンターを構築する場合、陸上に新規で建設する場合に比べて、建設期間を大幅に短縮できる可能性があります。
- 柔軟な設置場所: 洋上データセンターは浮体式であるため、電力需要の高い地域や、既存のデータセンターの能力が不足している地域へ、柔軟に移動して設置することが可能です。また、災害リスクの低い場所への移設も容易になります。
これらの理由から、特に電力需要のひっ迫や、脱炭素化への動きが加速する中で、洋上データセンターは次世代のデータインフラとして注目されています。

電力の安定供給と冷却効率の向上、そして土地確保の課題解決が主な理由です。発電船と組み合わせれば電力自給が可能になり、海水で効率的に冷却でき、陸上の広大な土地も不要になります。
発電船とはどのような仕組みか
発電船(Power Ship、またはPower Barge)は、文字通り船の上に発電設備を搭載し、海上で電気を生成して供給する移動式の発電所のようなものです。主に電力供給が不安定な地域や、緊急時の電力確保、一時的な大規模イベントでの電力需要に対応するために活用されます。
商船三井が洋上データセンターで協業するKaradeniz Holdingは、この発電船事業のパイオニアとして知られています。
発電船の主な仕組み
発電船の基本的な仕組みは、陸上の火力発電所と似ていますが、それが船上に構築されている点が異なります。
- 燃料の供給:
- 発電船の燃料としては、主にLNG(液化天然ガス)が使われます。LNGは比較的クリーンな燃料であり、輸送・貯蔵が比較的容易なため、発電船に適しています。
- 重油やディーゼル燃料を使用する発電船もあります。
- 発電:
- 船内に搭載されたガスタービンやディーゼルエンジンが燃料を燃焼させ、そのエネルギーでタービンを回して発電機を駆動します。
- Karadeniz Holdingの発電船の中には、FSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)と発電船を組み合わせた形式があります。これは、FSRUでLNGを再ガス化し、それを発電船に供給して発電するというもので、燃料供給の安定性を高めます。
- 送電:
- 発電された電気は、船上から海底ケーブルなどを通じて陸上の電力網に送電されます。これにより、陸上の需要地に電力を供給することが可能になります。
- 冷却:
- 発電設備も大量の熱を発生するため、冷却が必要です。発電船では、周囲の海水を利用した冷却システムが採用されることが多く、効率的な冷却が可能です。
発電船の主な特徴とメリット
- 迅速な展開: 陸上に発電所を建設するよりも短期間で導入でき、電力供給が急務な地域へ迅速に展開できます。
- 移動性: 必要に応じて別の場所に移動させることができるため、電力需要の変化に柔軟に対応できます。災害時など、既存の電力インフラが破壊された際の緊急電源としても有効です。
- インフラ整備コストの削減: 広大な土地の確保や複雑な陸上送電網の整備が不要な場合が多く、初期投資を抑えられます。
- 燃料供給の柔軟性: 燃料を船で直接運び込めるため、燃料供給インフラが未整備な地域でも運用が可能です。
発電船の課題・デメリット
- 燃料調達・貯蔵: 燃料の安定的な調達と船内での安全な貯蔵が必要です。
- 環境への影響: 使用する燃料によっては、大気汚染物質の排出やCO2排出が課題となる場合があります(ただし、LNGは比較的クリーンとされています)。
- 運用・保守: 海上での運用となるため、塩害対策や船舶特有の保守・管理が必要となります。
商船三井の洋上データセンターの事例では、この発電船がデータセンターへ直接電力を供給するため、陸上電力網からの独立性を確保し、安定した電力供給を実現するキーテクノロジーとなっています。

発電船は、船上に発電機を搭載し、主にLNGなどを燃料に電気を生成する移動式発電所です。海上で直接電力を発生させ、海底ケーブルで陸上へ供給することで、迅速かつ柔軟に電力需要に対応します。
なぜ、データセンターの増加が必要なのか
データセンターの増加は、現代社会におけるデジタル化の加速と、それに伴うデータ量の爆発的な増加が背景にあります。特に近年、以下の要因がデータセンター需要を劇的に押し上げています。
- 生成AIの普及と進化:
- ChatGPTに代表される生成AIは、膨大なデータを学習し、複雑な計算処理を行うため、非常に高い演算能力とストレージ容量を必要とします。特にGPU(画像処理半導体)を大量に搭載したサーバーは、消費電力と発熱量が従来のサーバーと比較して格段に高く、これを安定稼働させるための高性能なデータセンターが不可欠です。
- AIの学習だけでなく、推論(実際の利用)の段階でも、リアルタイム処理や大規模なデータ処理が必要となるため、データセンターへの需要が増加しています。
- クラウドサービスの利用拡大:
- 企業や個人が自社でITインフラを持つのではなく、Amazon Web Services (AWS) やMicrosoft Azure, Google Cloud Platform (GCP) といったクラウドサービスを利用する動きが加速しています。これらのクラウドサービスは、物理的には大規模なデータセンターで稼働しており、クラウド利用の増加がそのままデータセンターの増設に繋がっています。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、多くの企業がITシステムへの投資を継続的に行い、その基盤としてクラウドサービスを選択していることも要因です。
- データ量の爆発的増加:
- IoTデバイスの普及、5G通信の本格化、高解像度コンテンツのストリーミング、SNSの利用拡大などにより、生成されるデータ量が飛躍的に増えています。これらの膨大なデータを保存し、処理するためのストレージやサーバーがデータセンターで必要とされています。
- ビッグデータ解析やデータドリブンな意思決定を行う企業が増えていることも、データセンター需要を後押ししています。
- デジタル化の進展と社会インフラ化:
- ビジネスだけでなく、医療、教育、交通など、あらゆる分野でデジタル化が進み、データセンターはもはや社会インフラとして不可欠な存在となっています。オンライン会議、リモートワークの普及もデータセンターへの依存度を高めています。
- エッジコンピューティングの台頭:
- IoTデバイスなどからのデータをリアルタイムで処理するため、データが発生する場所の近くで処理を行う「エッジコンピューティング」の重要性が増しています。これにより、大規模データセンターだけでなく、小型のエッジデータセンターの需要も増加しています。
これらの要因が複合的に作用し、データセンターの建設・増強が世界的に加速している状況です。特に、高性能なAIサーバーに対応できる電力供給能力と冷却技術を備えたデータセンターの需要が喫緊の課題となっています。

生成AIやクラウドサービスの普及、IoTによるデータ爆発が主な背景です。デジタル化の加速でデータ処理需要が急増し、既存インフラでは賄いきれなくなり、新たなデータセンター建設が加速しています。
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