この記事で分かること
・なぜ近視になるのか:眼軸長(眼球の前後の長さ)が異常に伸びると、光が網膜の手前 で焦点を結んでしまい、遠くのものがぼやける=近視の状態となる。
・どのように近視の進行を抑制するのか:低濃度アトロピンが眼軸長の伸びを抑制することで、近視の進行を防いでいます。
・眼軸長を短くすることはできるのか:眼軸長を短縮する薬は今のところ存在せず、治療の主流は「伸びを抑える」ことにある
参天製薬が、シンガポール国立眼科・視覚研究所と共同開発した「リジュセアミニ点眼液0.025%」を、2024年12月27日に日本で初めて近視進行抑制剤として製造販売承認を取得したことがニュースになっています。

この目薬は、5歳から15歳までの軽度から中等度の近視の子供を対象としており、就寝前に1日1回点眼することで、24カ月後の眼軸長の伸びを有意に抑制する効果が確認されています。
どうやって近視進行を抑制しているのか
参天製薬の「リジュセアミニ点眼液0.025%」は、有効成分として 低濃度アトロピン を含んでおり、これが近視進行を抑制する鍵となっています。主な作用メカニズムは以下の通りです。
1. 眼軸長の伸びを抑制
近視は、眼球が前後方向に伸び(眼軸長の延長)、網膜上でピントが合わなくなることで生じます。アトロピンには 強膜の過剰な成長を抑える作用 があり、眼軸長の伸びを抑制することで、近視の進行を防ぎます。
2. アセチルコリン受容体の遮断
アトロピンは、ムスカリン性アセチルコリン受容体 をブロックすることで、目の成長をコントロールすると考えられています。これにより、近視進行に関わるシグナル伝達が抑えられます。
3. 網膜や強膜への影響
最新の研究では、低濃度アトロピンが網膜や強膜の細胞に作用し、近視進行を促す因子(例えばドーパミンの減少)を調整する 可能性も指摘されています。ただし、この詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていません。
低濃度アトロピンの利点
従来、高濃度のアトロピン(1%)は強い効果があるものの、副作用としてまぶしさ(散瞳作用)やピント調節のしづらさ が問題でした。しかし、0.025%という低濃度では、副作用を最小限に抑えつつ、近視進行を効果的に防ぐ ことができるとされています。
この目薬は、特に成長期の 5歳から15歳 の子供の近視進行を抑制することを目的としており、日本初の承認を受けた近視抑制点眼薬として注目されています。

低濃度アトロピンが眼軸長の伸びを抑制することで、近視の進行を防ぐことが可能になります。
なぜ眼軸長が伸びると近視になるのか
眼軸長が伸びると近視になる理由 は、眼の光の焦点の合い方が変わるためです。
1. 眼の仕組みとピント調整
通常、目に入った光は 角膜と水晶体 で屈折され、網膜上に焦点 が合うことでクリアな像が見えます。
- 正視(正常な視力)
- 角膜と水晶体の屈折力と眼軸長のバランスが適切 → 網膜上でピントが合う
2. 近視の発生(眼軸長が伸びるとどうなるか)
近視は 眼軸長(眼球の前後の長さ)が異常に伸びる ことで発生します。
- 眼軸長が長くなると
- 光が網膜の 手前 で焦点を結んでしまい、遠くのものがぼやける(近視の状態)
- なぜ眼軸長が伸びるのか?
- 遺伝要因(親が近視だとリスクが高い)
- 環境要因(スマホ・PCの長時間使用、屋外活動の不足)
- 成長期の発育による影響
3. なぜ低濃度アトロピンが効くのか?
眼軸長の伸びを抑制することで、網膜上でピントを適切に合わせるのを助けるためです。特に成長期の子供は眼球が発達しやすいため、早期に進行を抑えることが重要とされています。

眼軸長(眼球の前後の長さ)が異常に伸びると、光が網膜の手前 で焦点を結んでしまい、遠くのものがぼやける=近視の状態となります。
なぜ、成長期だけがターゲットなのか
成長期(特に 5歳から15歳)が近視抑制のターゲットになるのは、 この時期に眼軸長が最も伸びやすく、近視が進行しやすいため です。
1. 眼の成長と近視の進行
- 幼少期~思春期(5~15歳)
- 体の成長に伴い、眼球も発達し、眼軸長が伸びやすい
- この時期に急激に近視が進行することが多い
- 進行を抑えることで、将来の強度近視(-6D以上)を予防できる
- 成人以降(20歳~)
- 成長が止まり、眼軸長の伸びもほぼ停止
- 近視の進行が自然に緩やかになるため、抑制の効果が限定的
2. 強度近視のリスク回避
強度近視(-6D以上) になると、以下のような 重篤な目の病気 のリスクが高まります。
- 網膜剥離
- 緑内障
- 黄斑変性
- 視力低下・失明リスク
成長期に介入することで、強度近視を未然に防ぎ、将来の眼の健康を守る ことが目的です。
3. なぜ大人には効果が薄いのか?
- すでに眼軸長が固定されてしまうと、薬の作用で伸びを抑える効果がほとんどない
- 近視の原因が、眼軸長の伸び以外(角膜や水晶体の屈折異常など)に移行するため
そのため、成長期のうちに近視の進行を抑えることが最も効果的 であり、ターゲットとして設定されています。

成長期に眼軸長が最も伸びやすく、近視が進行しやすく、成人以降は、眼軸長の伸びもほぼ停止するため、成長期をターゲットとしています。
眼軸長を伸びを戻すような薬は研究されているのか
延びてしまった眼軸長を戻すことができれば、進行を抑えるのではなく近視を治療することができると考えられますが、現在のところ、眼軸長を縮める(短縮する)薬は存在せず、研究もほとんど進んでいません。
これは、眼軸長の伸びは不可逆的(元に戻せない)な変化であり、成人以降は眼球の構造が固まるため、物理的に短縮するのが難しいためです。
なぜ眼軸長を短縮するのが難しいのか?
- 眼球の構造の安定化
- 成長期が終わると、眼軸長はほぼ固定され、組織の可塑性が低下する
- 伸びた眼軸を縮めるための自然なメカニズムが存在しない
- 組織へのダメージリスク
- 眼軸を強制的に短縮すると、網膜や視神経に負担がかかり、視力低下やその他の副作用のリスクが高まる
現在研究されている治療法(眼軸長の短縮ではなく、影響を軽減するもの)
- 近視抑制薬(低濃度アトロピンなど)
- 眼軸長の伸びを防ぐことで、将来的な強度近視を予防
- オルソケラトロジー(角膜矯正コンタクトレンズ)
- 特殊なハードコンタクトレンズを装着し、角膜の形状を変えて近視を軽減
- 強度近視の手術的治療(レーシック・ICLなど)
- 眼軸長の短縮はできないが、角膜や水晶体の屈折力を調整し、視力を改善
- バイオテクノロジー研究(実験段階)
- 眼球の成長をコントロールする遺伝子や分子の研究は進んでいるが、眼軸長を直接短縮する技術は確立されていない

眼軸長を短縮する薬は今のところ存在せず、治療の主流は「伸びを抑える」ことにあります。
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