ファーメランタの微生物による天然由来成分の合成 どのような成分が合成できるのか?微生物を利用する利点は何か?

この記事で分かること

  • 合成できる成分:医薬品(抗生物質、ビタミン)、化粧品原料(香料、着色料)、食品添加物(甘味料、うま味調味料)、さらにはバイオ燃料や生分解性プラスチックの原料など、多岐にわたる成分が合成できます。
  • 微生物を使用する利点:環境負荷が低いことや複雑な分子を合成できる点が利点です。
  • 微生物を使用する課題:生産効率が低く、成分の分離・精製にコストがかかるなどが課題です。

ファーメランタの微生物による天然由来成分の合成

 ファーメランタ株式会社は、微生物を活用して天然由来成分を生産する技術を開発しており、最近資金調達を実施しました。

 https://ラww.nikkei.com/article/DGXZQOUC285MW0Y5A820C2000000/

 ファーメランタは、シリーズAラウンドで総額1.2億円の資金調達を完了しました。この資金は、同社が開発している微生物発酵技術のさらなる研究開発や、製品の量産化に向けた設備投資に充てられる予定です。

ファーメランタとはどんな企業か

 ファーメランタは、合成生物学という技術を活用し、天然由来の希少な成分を微生物発酵によって生産するスタートアップ企業です。

企業の概要と事業内容

  • 設立: 2022年
  • 所在地: 石川県野々市市
  • 事業内容:
    • 微生物発酵による植物希少成分の生産・販売: 合成生物学の手法を用いて、本来は植物から少量しか採れない、あるいは抽出が難しい成分を、微生物を使って効率的に生産します。
    • 菌株の構築サービス: 遺伝子操作や代謝経路の設計を通じて、特定の成分を生産する能力を持つ微生物(菌株)を開発・構築するサービスも提供しています。

企業の特徴

 ファーメランタの主な強みは、以下の点にあります。

  1. 環境に優しい製造プロセス: 石油由来の化学合成に頼らず、微生物の力を利用するため、より環境負荷の低い製造方法を実現します。
  2. コスト優位性: 希少で高価な植物由来成分を、微生物発酵によって大量生産することで、圧倒的なコスト削減を目指しています。これにより、これまで高価で利用が限られていた原料を、より幅広い分野で活用できるようになります。
  3. 多様な製品開発: 医薬品、化粧品、健康食品の原料など、健康増進に寄与する様々な製品への応用が期待されています。

 ファーメランタは、国内の有力な研究機関と連携しながら、医薬品や化粧品、食品などに利用される新たな原料を開発し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。

ファーメランタは、合成生物学と微生物発酵技術を用いて、天然由来の希少な成分を効率的に生産するスタートアップ企業です。医薬品や化粧品、健康食品の原料などを、環境に優しくコストを抑えて製造することを目指しています。

微生物からどんな成分を合成できるのか

 微生物を利用することで、医薬品や化粧品の原料、食品添加物、燃料、プラスチックなど、多岐にわたる成分を合成できます。


医薬品・生理活性物質

 微生物は抗生物質や免疫抑制剤、抗がん剤などの医薬品を生産する能力を持っています。例えば、アミノ酸やビタミン、ホルモンなども微生物発酵によって作られています。

 ファーメランタのような合成生物学技術を用いることで、これらの物質をより効率的に、あるいは天然には存在しない新しい構造を持つ物質として生み出すことが可能です。

化粧品・食品原料

 微生物は香料、着色料、甘味料、防腐剤といった天然由来の成分を合成することができます。これらは植物からの抽出に比べて、天候や環境に左右されず、安定的に供給できるという利点があります。

バイオプラスチック・バイオ燃料

 微生物の中には、植物由来の糖などを原料として体内にポリヒドロキシアルカン酸(PHA)などのバイオプラスチックを貯蔵するものもいます。また、バイオ燃料となるエタノールやブタノールを生成する微生物も存在し、これらは石油資源に代わる持続可能な素材として期待されています。

微生物からは、医薬品(抗生物質、ビタミン)、化粧品原料(香料、着色料)、食品添加物(甘味料、うま味調味料)、さらにはバイオ燃料や生分解性プラスチックの原料など、多岐にわたる成分が合成できます。

アミノ酸やビタミンは微生物からどのように合成されるのか

 微生物を利用したアミノ酸やビタミンの合成は、発酵法が主流です。これは、特定の成分を大量に生産するように改良された微生物を、栄養源の入ったタンクで培養し、微生物の代謝活動によって目的の成分を生成させる方法です。


アミノ酸の合成

  • 野生株の利用: 土壌などに生息する野生の微生物の中には、アミノ酸を自ら合成する能力を持つものがいます。しかし、通常は自身が必要な量しか作らないよう、厳密なフィードバック制御機構が働いています。
  • 菌株の改良: 工業的に大量生産するためには、この制御機構を破壊する必要があります。具体的には、突然変異を誘発したり、遺伝子組み換え技術を用いて、アミノ酸の過剰生産を促すように菌株を改良します。
  • 生産プロセス: 改良された微生物(菌株)は、糖蜜などの炭素源や窒素源、ミネラル、ビタミンなどを含む培養液の中で培養されます。すると、微生物は発酵を通じて、目的のアミノ酸を細胞外に分泌します。その後、培養液からアミノ酸を分離・精製して製品とします。

ビタミンの合成

  • 微生物の自然な能力: 一部の微生物は、もともと体内でビタミンを合成する能力を持っています。例えば、ビタミンB12は微生物しか合成できないことで知られています。
  • 発酵による生産: アミノ酸と同様に、ビタミンも発酵法によって工業的に生産されます。微生物の種類によって、合成できるビタミンの種類は異なります。例えば、納豆菌はビタミンK2を豊富に生成し、麹菌はビタミンB群を合成します。
  • 合成生物学の応用: 近年では、合成生物学の技術を用いて、複数の微生物が協力して一つのビタミンを合成するシステムを構築したり、特定のビタミンを効率良く生産する新しい微生物を設計・開発したりする研究も進められています。この技術により、これまで大量生産が難しかったビタミンも、安定的に供給できるようになると期待されています。

アミノ酸やビタミンは、特定の微生物を糖蜜などの栄養源が入ったタンクで培養する発酵法で合成されます。微生物の代謝機能を利用し、過剰に生産するように遺伝子改良された菌株を用いることで、効率的に目的の成分を大量に生成させます。

微生物からの合成の利点と課題は何か

 微生物を利用した合成には、環境負荷の低減や生産効率の向上といった多くの利点がある一方で、技術的・経済的な課題も存在します。

利点

  • 環境への優しさ : 石油などの化石資源を原料とする化学合成とは異なり、微生物は糖やCO₂といった再生可能な資源を原料にできます。これにより、温室効果ガス排出量の削減や、環境への負荷を低減できます。
  • 複雑な構造を持つ物質の生産: 微生物は、複雑な立体構造を持つ分子を効率的に合成できます。これは化学合成では多段階の複雑なプロセスが必要となるため、微生物合成は特に医薬品や機能性食品などの分野で強みを発揮します。
  • 生産条件の緩和: 化学合成は高温・高圧の過酷な条件下で行われることが多いですが、微生物は常温・常圧の穏やかな環境で生産が可能です。これにより、製造コストやエネルギー消費を抑えられます。
  • 安全性: 食品や化粧品に使われる天然由来成分は、アレルギーや毒性の問題が少なく、安全性が高いとされています。

課題

  • 生産効率とコスト: 大規模な工業生産に移行する際、微生物の成長速度や目的物質の生産量が十分でない場合があります。また、微生物の培養には広大なスペースや厳密な管理が必要で、スケールアップのコストが課題となります。
  • 分離・精製: 微生物が生産する成分は、培養液中に低濃度で存在することが多く、目的の成分を効率的に分離・精製するプロセスが複雑でコストがかかる場合があります。特に水溶媒からの分離はエネルギー消費が大きくなります。
  • 品質の不安定性: 微生物は生きているため、培養条件のわずかな変動でも生産物の品質や量が不安定になることがあります。安定した品質を保つための厳格なプロセスの管理が必要です。
  • 倫理的・社会的問題: 遺伝子組み換え微生物を使用する場合、偶発的に環境中に放出された場合の影響や、生物兵器への悪用など、倫理的・社会的な懸念も議論の対象となります。

微生物からの合成の利点は、環境負荷が低いことや複雑な分子を合成できる点です。一方、課題としては、生産効率が低かったり、成分の分離・精製にコストがかかる点が挙げられます。

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