日本ガイシの半導体装置向け部材 どのような部材なのか?力を入れる理由は何か?

この記事で分かること

  • 製造している半導体装置向け部材:主に成膜装置向けの、ウェハーを加熱・固定するヒーター付き静電チャックと、エッチング装置内の過酷なプラズマから装置を守る耐プラズマ部材を製造しています。どちらも高度なセラミックス技術が核です。
  • 静電チャックとは:静電気の力でウェハーを吸着固定する装置内の台座です。真空や高温、プラズマといった過酷な環境でも壊れず、ウェハーの温度を精密に均一に保つ役割を果たします。
  • 力を入れる理由:AI普及による半導体需要の倍増や、積層化に伴う製造難易度の上昇が追い風です。また、EV化で縮小する自動車排ガス用部材に代わる「次世代の収益の柱」を構築するため、高付加価値な半導体分野へ集中投資しています。

日本ガイシの半導体装置向け部材

 日本ガイシ(NGK)は、2030年まで、半導体製造装置の成膜やエッチング分野を成長の軸に据えることを公表しています。

 半導体製造装置用部材(成膜・エッチング工程向け)は、同社の稼ぎ頭である「自動車排ガス浄化用フィルター」に代わる次世代の主力事業(成長の軸)として明確に位置付けられています。

半導体製造の成膜・エッチング装置とは何か

 半導体製造における「成膜装置」と「エッチング装置」は、シリコンウェハーの上に複雑な立体構造を作り上げるための、いわば「盛る(足す)作業」「削る(引く)作業」を担う主役級の装置です。

 日本ガイシが注力しているのは、これらの装置の心臓部で使われる「過酷な環境に耐えるセラミックス部品」です。


1. 成膜装置(Deposition):膜を「盛る」

 ウェハーの表面に、電気を通す「導電膜」や、電気を遮断する「絶縁膜」など、さまざまな機能を持つ薄い膜をつける装置です。

  • 主な仕組み(CVDなど): チャンバー(密閉空間)の中にガスを入れ、熱やプラズマの力で化学反応を起こさせて、ウェハー上に原子・分子レベルの膜を積み上げます。
  • 日本ガイシの関わり: 膜を均一に付けるには、ウェハーを高温で精密に加熱しつつ、しっかりと固定する必要があります。ここに同社の「ヒーター付き静電チャック」が使われます。

2. エッチング装置(Etching):膜を「削る」

 成膜された膜のうち、不要な部分を取り除いて、設計図(回路パターン)通りに加工する装置です。

  • 主な仕組み(ドライエッチング): ガスをプラズマ状態にしてウェハーにぶつけ、微細な溝を掘ったり、特定の層だけを削り取ったりします。
  • 日本ガイシの関わり: エッチング工程では強力なプラズマが発生するため、装置内部の部品がボロボロに摩耗しやすいのが課題です。同社の「プラズマ・セラミック部材」は、この過酷な環境に耐え、装置の寿命を延ばすために不可欠です。

なぜこの2つが「成長の軸」なのか

 現在の半導体は、ビルを建てるように上に積み上げる「3D構造(積層化)」が主流です。

  1. 成膜して層を作る
  2. 露光してパターンを描く
  3. エッチングで削る

 この工程を何十回、何百回と繰り返すため、成膜とエッチングの頻度が激増しています。日本ガイシは、この「何度も繰り返される工程」に必須の消耗しやすい高付加価値部品を押さえているため、半導体市場が伸びるほど利益が出る構造になっています。

成膜装置はウェハー表面にガスなどの反応で薄い膜を積み上げる「盛る」装置で、エッチング装置はプラズマ等で不要な膜を精密に削り取り回路を作る「引く」装置です。この積層と加工を繰り返すことで半導体は作られます。

日本ガイシの半導体装置でのシェアはどれくらいか

 日本ガイシの各装置向け部材における具体的なシェアは、製品によって異なりますが、世界トップクラスのシェアを維持・拡大しています。特に「デジタル社会(DS)」事業の核となる製品群については、以下の状況にあります。

1. 成膜装置向け:ヒーター付き静電チャック

  • シェア:世界トップクラス
  • 状況: 成膜工程でウェハーを加熱しながら固定するこの製品は、同社の看板製品です。正確なシェアの数値は非公開ですが、世界を代表する半導体製造装置メーカー(米アプライド・マテリアルズなど)へ供給しており、この分野では数社で市場を分け合う寡占状態の一角を占めています。

2. エッチング装置向け:耐プラズマ部材

  • シェア:世界トップクラス
  • 状況: 強力なプラズマにさらされるエッチング装置内では、高純度なセラミックス部材が不可欠です。日本ガイシはこの分野で長年高いシェアを持っており、2030年に向けてさらにシェアを高めるべく、岐阜県などの工場で増産投資を加速させています。

3. 次世代領域:ハイセラムキャリア(サポートウエハー)

  • 目標:2030年度に売上高200億円
  • 状況: AI半導体などの「チップレット(複数のチップを1つにまとめる技術)」工程で使われる新製品です。現在、生産能力を3倍に引き上げる投資を行っており、この新しい市場においても圧倒的なトップシェアを確保することを目指しています。

日本企業の強み

 半導体用セラミックス部材の市場は、日本ガイシを含む日本企業が世界シェアの約68%を占める「日本勢の独壇場」に近い状態です(京セラやTOTOなどが競合)。

 日本ガイシは、2030年までにこれら半導体関連を含む新事業で売上1,000億円以上を目指しており、自動車用製品から「半導体部材の世界的リーダー」への転換を確実に進めています。

日本ガイシの具体的なシェアは非公開ですが、世界市場で成膜装置向けの静電チャックエッチング装置向けの耐プラズマ部材で世界トップクラスのシェアを持っています。

静電チャックとは何か

 静電チャック(ESC: Electrostatic Chuck)とは、「静電気の力を使って、半導体ウェハーを吸着して固定する台座のことです。

 半導体製造装置(成膜やエッチング)の内部は真空状態やプラズマ環境であるため、普通の掃除機のような「吸い込む力(真空チャック)」が使えません。そこで、電気的な引き合う力を利用するこの部品が必須となります。


1. 仕組み(なぜくっつくのか)

下図のように、セラミックスで作られた台座の中に電極が埋め込まれています。この電極に電圧をかけると、上に置いたウェハーとの間に「プラスとマイナスの引き合う力(静電気)」が発生し、ピタッと吸着します。

2. なぜ「セラミックス」なのか

 日本ガイシが得意とするセラミックス(窒化アルミニウムなど)が使われるのには理由があります。

  • 耐熱性: 100℃以上の高温で膜を張る工程でも溶けない。
  • 耐腐食性: 腐食性の強いガスやプラズマにさらされてもボロボロにならない。
  • 熱コントロール: 単に固定するだけでなく、ウェハーの温度を精密にコントロールする「ヒーター」の役割も同時に果たします。

3. 日本ガイシの強み

 日本ガイシの静電チャックは、「ヒーター機能」が非常に高性能なのが特徴です。 数ナノメートルという極小の回路を作る際、ウェハーの端と中央で温度が少しでも違うと失敗作になってしまいます。

 同社はセラミックスの中にヒーター線を極めて均一に巡らせる技術を持っており、これが世界シェアトップクラスを支える源泉となっています。


静電気の力でウェハーを吸着固定する装置内の台座です。真空や高温、プラズマといった過酷な環境でも壊れず、ウェハーの温度を精密に均一に保つ役割を果たします。日本ガイシはこの「セラミックス製」で世界首位級です。

ハイセラムキャリアとは何か

 「ハイセラムキャリア」とは、日本ガイシが開発した「半導体パッケージング工程(後工程)向けのセラミック製支持基板(キャリアウエハー)」のことです。

ハイセラムキャリアはAI半導体などの高性能化に欠かせない「次世代技術」を支える重要な部材となっています。

1. どんな役割をするのか?

 最近の半導体は、複数のチップを積み上げたり、非常に薄く削ったりして性能を高めています。その際、ウェハーや基板が薄すぎて割れたり反ったりしてしまうため、「一時的に貼り付けて支える土台」が必要になります。これが「キャリア」の役割です。

2. なぜ「ハイセラム(セラミックス)」なのか

 従来はガラスなどが使われていましたが、ハイセラムキャリアには以下の圧倒的な強みがあります。

  • 熱膨張の制御: シリコンウェハーと熱による膨張率をぴったり合わせることができるため、加熱しても「反り」が発生せず、精密な加工が可能です。
  • レーザー透過性: 加工が終わった後、レーザーを照射して「土台」をペリッと剥がす(レーザーリフトオフ)際、光を効率よく通す特性を持っています。
  • 高剛性: 非常に硬いため、大型化した基板もしっかり支えられます。

3. 日本ガイシの成長戦略

 同社は、2030年度までにこの製品だけで売上高200億円を目指しており、生産能力を大幅に増強しています。


半導体の高性能化に伴う薄型化や積層化を支える「セラミック製支持基板」です。シリコンと熱膨張率が近く、加熱時の反りを防げるため、AI半導体などの次世代パッケージング工程に不可欠な部材として注目されています。

半導体製造装置向け製品に力を入れる理由は何か

 日本ガイシが成膜・エッチング装置向け製品に注力する理由は、大きく分けて「市場の爆発的成長」「自社の事業構造の転換」という2つの切実な背景があります。


1. 市場の追い風:AIと積層化

  • データ爆発とAI需要: 生成AIの普及により、高性能な半導体(AI半導体やメモリ)の需要が急増しています。半導体市場は2030年までに現在の約2倍(100兆円規模)になると予測されており、製造装置への投資も止まりません。
  • 製造難易度の上昇(積層化): 最新の半導体は、ビルを建てるように上に積み上げる「3D構造(積層化)」が主流です。このため、成膜とエッチングの工程回数が激増しており、そこに不可欠な同社のセラミックス部材の出番が増え続けています。

2. 経営の危機感:脱・内燃機関

  • 「稼ぎ頭」の交代: 同社の現在の利益を支えているのは、ガソリン車などの排ガスを浄化する「自動車用フィルター」です。しかし、世界的なEV(電気自動車)シフトにより、この市場は長期的には縮小が避けられません。
  • 新事業へのシフト: 2030年までに「自動車用フィルター」に代わる新たな収益の柱を作る必要があり、その筆頭候補が、自社のセラミックス技術を最も高く売れる「半導体製造装置」の分野なのです。

3. 技術的な独壇場

  • 「日本ガイシにしか作れない」強み: 成膜・エッチング工程の過酷な環境に耐え、かつ精密に温度制御できる部材は、世界でも限られた企業しか作れません。参入障壁が非常に高いため、価格競争に巻き込まれにくく、高い利益率が見込めます。

AI普及による半導体需要の倍増や、積層化に伴う製造難易度の上昇が追い風です。また、EV化で縮小する自動車排ガス用部材に代わる「次世代の収益の柱」を構築するため、高付加価値な半導体分野へ集中投資しています。

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