日本板硝子のLow-Eガラスの生産能力増強 Low-Eガラスとは何か?使用される金属膜は何か?

この記事で分かること

  • Low-Eガラスとは:ガラス表面に特殊な金属膜をコーティングした省エネガラスです。この膜が熱の放射を抑えることで、冬は室内の暖かさを保ち、夏は日差しによる温度上昇を抑制します。
  • どんな金属膜が使用されるのか:Low-Eガラスの金属膜には主に銀や酸化スズが使われます。銀は遠赤外線を効率良く反射し、低放射性能の核となります。酸化スズは銀の保護や性能調整に寄与します。
  • 銀が熱を反射する理由:豊富な自由電子を持ち、遠赤外線が当たると電子が光の電磁場に呼応し振動。これにより入射光を打ち消し、効率的に反射します。低い吸収率もその理由です。

日本板硝子のLow-Eガラスの生産能力増強

 日本板硝子は、省エネ効果の高いLow-Eガラスの生産能力を増強することを発表しました。

 https://www.nsg.co.jp/ja-jp/media/ir-updates/announcements-2025/increasing-domestic-production-capacity

 脱炭素化に向けた全世界的な取り組みが進む中で、日本においても住宅や建築物の省エネ水準の引き上げが予想されており、これに伴いLow-E複層ガラスの需要拡大が見込まれています。

low Eガラスとは何か

 Low-Eガラス(ローイーガラス)とは、「Low Emissivity(低放射)」の略で、ガラスの表面に特殊な金属膜(Low-E膜)をコーティングすることで、高い断熱性能や遮熱性能を持たせたガラスのことです。

仕組みと特徴

 熱の移動には、「伝導」「対流」「放射」の3つの形態がありますが、窓ガラスからの熱移動の約6割は「放射」によるものと言われています。Low-Eガラスに施された特殊な金属膜は、この「放射」による熱の移動を効率的に抑える働きをします。

 具体的には、この金属膜が遠赤外線を吸収・反射する特性を持っています。これにより、以下のような効果が得られます。

  • 断熱効果(冬): 暖房で温められた室内の熱(遠赤外線)が窓から外へ逃げるのを防ぎ、室内の暖かさを保ちます。
  • 遮熱効果(夏): 太陽からの日射熱(近赤外線や紫外線)が室内へ入るのを抑制し、室内の温度上昇を抑えます。

Low-E複層ガラスについて

 Low-Eガラスは、単体で使われることは少なく、ほとんどの場合、2枚以上のガラスの間に空気層やガス層を設けた「複層ガラス」として用いられます。この複層ガラスの空気層の内側や外側にLow-E膜がコーティングされることで、さらに高い断熱・遮熱効果を発揮します。

Low-Eガラスの種類

 Low-Eガラスには、主に以下の2つのタイプがあります。

  • 断熱タイプ(日射取得型):
    • Low-E膜が複層ガラスの室内側のガラスにコーティングされています。
    • 冬場の断熱性を重視しており、室内の暖かさを外に逃がしにくいだけでなく、適度に太陽熱を取り込むことで、冬でも暖かな日だまり感を得ることができます。主に寒冷地や南向きの窓に適しています。
  • 遮熱タイプ(日射遮蔽型):
    • Low-E膜が複層ガラスの室外側のガラスにコーティングされています。
    • 夏場の遮熱性を重視しており、日射熱を効果的にカットすることで、室内の温度上昇を抑え、冷房効果を高めます。日差しが強い地域や西日の当たる窓に適しています。

Low-Eガラスのメリット

  • 省エネ効果・光熱費削減: 冷暖房効率が向上し、光熱費の削減に貢献します。
  • 快適な室内環境: 冬は暖かく、夏は涼しく、窓際の寒暖差を軽減し、一年を通じて快適な室温を保ちやすくなります。
  • 結露抑制: ガラス表面の温度を適度に保つことで、結露の発生を抑制し、カビやダニの発生を防ぎます。
  • 紫外線カット: Low-E膜が紫外線を反射するため、家具やフローリングの日焼け・色褪せを軽減します。

このように、Low-Eガラスは、建物の省エネ化と快適な居住空間の実現に大きく貢献する重要な建築材料です。

Low-Eガラスは、ガラス表面に特殊な金属膜をコーティングした省エネガラスです。この膜が熱の放射を抑えることで、冬は室内の暖かさを保ち、夏は日差しによる温度上昇を抑制します。冷暖房効率を高め、光熱費削減や結露抑制にも貢献します。

どんな金属膜が使われるのか

  Low-Eガラスに使われる金属膜の主な成分は、主に銀(Ag)と酸化スズです。これらの金属膜は、非常に薄く、通常は多層構造でコーティングされています。

  • 銀:
    • 銀は、遠赤外線を効率的に反射する特性に優れており、Low-Eガラスの低放射性能の主要な役割を担っています。
    • 銀の層が多いほど、断熱性能や遮熱性能が高くなる傾向があります。(例:銀1層、銀2層など)
  • 酸化スズ:
    • 酸化スズも低放射性能を持つ金属膜として用いられます。
    • また、銀の膜を保護する役割も果たし、耐久性や安定性を向上させるために、銀の層と交互に積層されることがあります。

 これらの金属膜は、主にスパッタリング法という高度な技術を用いてガラス表面に成膜されます。スパッタリング法は、真空チャンバー内で特殊ガスと電圧を利用して、金属原子をガラス表面に均一に付着させる方法です。

 金属の種類や組み合わせ、膜の厚み構成などを調整することで、ガラスの性能(断熱・遮熱性能)や色調に多様なバリエーションを持たせることが可能になります。

Low-Eガラスの金属膜には主に銀が使われます。銀は遠赤外線を効率良く反射し、低放射性能の核となります。酸化スズなども用いられ、銀の保護や性能調整に寄与します。これらの金属はスパッタリング法で薄く多層にコーティングされます。

なぜ、銀は遠赤外線を反射しやすいのか

 銀が遠赤外線を非常に効率よく反射する理由は、その特有の電子構造にあります。

1. 自由電子の存在と応答

 金属である銀には、原子核に強く束縛されず、自由に動き回れる「自由電子」が豊富に存在します。光(電磁波)が金属表面に当たると、その電磁場が自由電子に影響を与え、電子が光の振動に合わせて振動を始めます。

2. 電磁波の打ち消しと再放射

 特に、遠赤外線のような長い波長の光が銀に当たると、自由電子はその電磁場と同期して大きく振動します。この電子の振動が、入射してきた光の電磁場を打ち消すような別の電磁場を発生させます。結果として、入射した光は材料内部に深く侵入することなく、ほぼそのままの形で表面から反射されるのです。

3. 低い吸収率

 銀は遠赤外線に対して吸収率が非常に低いという特徴も持っています。これは、遠赤外線のエネルギーが銀の電子を励起させるのに必要なエネルギーと合わないため、光エネルギーが熱に変換されにくいことを意味します。

 吸収されにくい分、ほとんどの光が反射されることになります。

 これらの特性により、銀は鏡のように光を反射し、特に遠赤外線領域で高い反射率を示すため、Low-Eガラスの性能を支える重要な素材となっています。

銀は豊富な自由電子を持ち、遠赤外線が当たると電子が光の電磁場に呼応し振動。これにより入射光を打ち消し、効率的に反射します。低い吸収率もその理由です。

酸化スズが銀を保護できるのはなぜか

 Low-Eガラスにおける酸化スズは、主に銀(Ag)の酸化や劣化を防ぐ保護層としての重要な役割を担っています。その保護メカニズムは以下の要因によります。

  1. 耐腐食性・耐酸化性:酸化スズ(SnO2)は、比較的化学的に安定した酸化物です。空気中の酸素や湿気、硫化水素などの腐食性ガスに対して、銀よりも高い耐性を持っています。このため、銀の層の上下に酸化スズの層を配置することで、銀が直接これらの腐食性物質に触れるのを防ぎ、酸化や硫化による変色・劣化を抑制します。
  2. 物理的保護:スパッタリングによって形成される酸化スズの膜は、比較的硬度が高く、密な構造を持つことができます。これにより、銀の薄膜層を外部からの微細な物理的な損傷(擦れや衝撃など)から保護するバリアとして機能します。
  3. 密着性の向上:ガラス表面と銀層、または異なる銀層同士の間に酸化スズを挟むことで、それぞれの層の密着性を向上させる役割も果たします。これは、膜の剥がれを防ぎ、Low-Eガラス全体の耐久性を高める上で重要です。
  4. 光学特性の調整:酸化スズはそれ自体も透明な導電膜であり、膜の厚みを調整することで、Low-Eガラスの可視光透過率や色調を調整する役割も担っています。銀の反射率を保ちつつ、ガラス全体の光学的なバランスを最適化します。

 これらの理由から、Low-Eガラスの製造において酸化スズは単なる低放射膜としてだけでなく、デリケートな銀の層を保護し、製品の長期的な性能と安定性を確保するために不可欠な材料として用いられています。

酸化スズは化学的に安定しており、銀の酸化や腐食を防ぐ保護層となります。また、物理的な損傷から銀を守り、層間の密着性を高めることで、Low-Eガラスの耐久性を向上させます。

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