ヌヴォトン テクノロジーの紫色半導体レーザー 紫色半導体レーザーとは何か?水銀灯の代替として注目されている理由は?

この記事で分かること

  • 紫色半導体レーザーとは:主に窒化ガリウム(GaN)系を材料とし、405nm付近の紫色の光を発振する半導体素子です。波長が短いため高密度化が求められる分野で使われます。
  • 水銀灯の代替とて注目される理由:水銀灯は水銀を含むため規制されています。紫色半導体レーザーは、規制対象外かつ水銀灯の405nm付近の波長を代替でき、高効率で長寿命なため置き換え可能です。

ヌヴォトン テクノロジーの紫色半導体レーザー

 ヌヴォトン テクノロジージャパン(Nuvoton Technology Corporation Japan: NTCJ)の紫色半導体レーザーは、波長402nm帯業界最高クラスの光出力1.7Wを実現した製品です。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/01/news025.html

 この技術は、特に水銀灯のh線(405nm付近)に代わる光源として注目されており、環境負荷の低減にも寄与すると期待されています。

紫色半導体レーザーとは何か

 紫色半導体レーザー(Violet Semiconductor Laser)は、紫色の光(波長が短い光)を発振する半導体素子(レーザーダイオード)のことです。


1. 短波長

 紫色半導体レーザーの大きな特徴は、その短い波長です。

  • 波長範囲: 一般的に390nm〜420nm程度の光を発振します(代表的な波長は405nm)。
  • メリット: 波長が短いほど、光を微小な点(スポット)に絞り込むことが容易になります。この特性は、記録密度を高める必要があるアプリケーションで非常に重要です。

2. 材料

 主に窒化ガリウム(GaN)などのIII族窒化物半導体を材料として使用して作られます。これは、より波長の長い赤色や赤外線の半導体レーザー(主にガリウム砒素系を使用)とは異なる材料系です。


仕組み(半導体レーザーの基本)

 半導体レーザーは、電流を流すことで光を発する半導体素子(ダイオード)です。

  1. 電流の注入: P型半導体とN型半導体を接合した構造(PN接合)に電流を流します。
  2. 自然放出光の発生: PN接合部の活性層で電子と正孔が再結合し、光(自然放出光)が発生します。
  3. 誘導放出と増幅: 活性層の両端に設けられた鏡(反射ミラー)の間を光が何度も往復する際に、誘導放出という現象により、同じ性質を持つ光が連鎖的に発生し、光が増幅されます。
  4. レーザー光の放出: 最終的に、一方の鏡から、特定の波長だけが強く選ばれた指向性の高いレーザー光として外部に放出されます。

主な用途

 紫色半導体レーザーは、その短波長特性から、主に微細加工高密度記録が必要な分野で使用されます。

  • 光ディスク: Blu-ray Disc(ブルーレイディスク)の読み書きに利用されています。波長405nmの青紫色レーザーを使用することで、従来品のDVD(赤色レーザー、波長650nm)やCD(赤外線レーザー、波長780nm)よりも格段に微小なピットにデータを記録・再生でき、大容量化を実現しました。
  • レーザー露光・描画:
    • LDI(Laser Direct Imaging):プリント基板(PCB)やディスプレイなどの製造工程で、微細なパターンを描画するために使用されます。
  • 3Dプリンティング:
  • 樹脂硬化: 紫外線(UV)に近い波長を持つため、UV硬化性樹脂の硬化光源として利用されます(水銀灯の代替としても注目されています)。

 この短い波長と高い光出力特性は、さまざまな産業機器の高性能化に貢献しています。

紫色半導体レーザーは、主に窒化ガリウム(GaN)系を材料とし、405nm付近の紫色の光を発振する半導体素子です。波長が短いため、光ディスク(Blu-ray)微細加工(LDI)など、高密度化が求められる分野で使われます。

誘導放出とは何か

 誘導放出(Stimulated Emission)とは、原子や分子が励起状態(エネルギーの高い状態)にあるとき、外部から特定の光(電磁波)が入射することで、その光に刺激(誘導)されて、低いエネルギー準位に遷移し、エネルギー差に相当する光を放出する現象です。


誘導放出の原理

 誘導放出は、アルベルト・アインシュタインによって理論的に予言された量子力学的な現象で、レーザー(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation: 誘導放出による光の増幅)の基本原理です。

  1. 励起状態: 原子内の電子が、外部からエネルギー(光や電流など)を与えられ、高いエネルギー準位に持ち上げられた状態(励起状態)にあります。
  2. 光の入射: この励起状態にある電子に、そのエネルギー差に対応する振動数(波長)の光子が入射します。
  3. 光の放出: 励起状態の電子は、この入射した光子に誘導されて低いエネルギー準位に落ち(遷移)、エネルギー差に相当する新しい光子を放出します。

重要な特徴

 誘導放出によって放出される光子(誘導放出光)は、入射した光子と全く同じ性質を持つことが最大の特徴です。

  • 同一の位相: 波の山と谷の位置が完全に一致しています。
  • 同一の周波数(波長): 色やエネルギーが同じです。
  • 同一の偏光: 振動の方向が同じです。
  • 同一の進行方向: まったく同じ方向に進みます。

 この結果、1つの光子が入射することで、同じ性質を持つ2つの光子が出力されることになり、光の増幅が可能になります。この増幅の連鎖こそが、レーザー光の高い単色性、指向性、干渉性を生み出す源となっています。


誘導放出とは、励起状態の原子に外部から光子が入射した際、刺激されて入射光子と全く同じ特性(位相、波長、偏光、進行方向)を持つ光子を放出する現象です。この光の増幅現象がレーザーの基本原理です。

水銀灯の特徴は何か、紫色半導体レーザーで代替できる理由は

 水銀灯を紫色半導体レーザーで代替する主な理由は、水銀が環境と人体に有害であることから国際的な規制が強化されているためです。

 水銀灯の産業的な役割のうち、特にh線(405nm)付近の光を利用する用途を、同じ波長帯で高出力化された紫色半導体レーザー(一般的に405nm帯)が置き換えることができます。


1. 水銀灯(高圧水銀ランプ)の主な特徴

 水銀灯は、ガラス管内の水銀蒸気中で起こるアーク放電を利用した光源です。

メリット(従来)
  • 高い光出力・高輝度: 広い場所を照らす照明や、産業用途で高い光強度が必要なプロセスに適しています。
  • 特定の波長: 紫外線から可視光にかけて、水銀特有の輝線スペクトル(特定の波長の光)を持ちます。特に以下の波長が産業用途で重要とされてきました。
    • i線(365nm)
    • h線(405nm)
    • g線(436nm)
  • 比較的長寿命: 一般的な白熱灯に比べ、光源寿命が長いとされていました(約12,000時間)。
デメリットと規制(代替の最大の理由)
  • 水銀の使用: 水銀(有害物質)を使用しているため、ランプが破損した際の環境汚染や人体へのリスクがあります。
  • 規制による製造・輸入の禁止: 「水銀に関する水俣条約」に基づき、一般照明用の高圧水銀ランプの製造・輸出入は2021年1月1日以降、原則禁止されています。既存のランプは使用自体は禁止されていませんが、交換用が入手困難になるため、事実上代替が必須となっています。
  • 非効率性: LEDと比較して消費電力が大きく、発熱も多いです。
  • 即時点灯が不可: 点灯してから光が安定するまで、ウォームアップ時間が必要になります。

2. 紫色半導体レーザーによる代替の理由

 紫色半導体レーザー(波長402nm〜420nm帯)は、水銀灯の産業用途の主要な波長の一つであるh線(405nm)の機能的代替を、規制の対象外である技術で実現します。

比較項目水銀灯(高圧水銀ランプ)紫色半導体レーザー (LD)
環境規制水銀使用のため規制対象水銀不使用で規制対象外
波長輝線スペクトル(365nm, 405nm, 436nmなど)単一の波長(例: 405nm)
光の性質非コヒーレント光、広がりやすいコヒーレント光、指向性が高い
光源寿命約3,000h〜12,000h約20,000h以上(長寿命)
エネルギー効率低い(消費電力が大きい)高い(省エネルギー)
点灯速度ウォームアップ時間が必要即時点灯が可能
システムの小型化大型で安定器も必要小型化が容易

代替を可能にする主な理由

  • 水銀規制の回避:
    • 水銀を一切使用しないため、水俣条約の規制を受けず、環境負荷も低減します。
  • 波長のマッチング:
    • 多くのUV硬化樹脂やフォトレジスト(感光剤)は、水銀灯のh線(405nm)に感度を持っています。紫色半導体レーザーはこの波長帯を単一の光として高出力で提供できるため、機能的な代替が可能です。
  • 高効率と長寿命化:
    • 半導体レーザーは光変換効率が高く、水銀灯に比べて消費電力が少なく発熱も少ないため省エネに貢献します。
    • 光源寿命が非常に長いため、ランプ交換の手間やランニングコストを大幅に削減できます。
  • 光学的優位性:
    • レーザー光は指向性が非常に高いため、光を微小な点に絞り込むことが容易です。これは、LDI(レーザー直接描画)や3Dプリンティングといった、精密な光加工を必要とする産業用途で大きなメリットとなります。

水銀灯は水銀を含むため規制され、非効率です。紫色半導体レーザーは、規制対象外かつ水銀灯の405nm付近の波長を代替でき、高効率で長寿命なため置き換え可能です。

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