この記事で分かること
- グロック(Groq)とは:アメリカを拠点とするAI半導体企業です。元GoogleのTPU開発者らが設立し、AIの「推論」に特化した独自のLPUを開発。従来のGPUより圧倒的に高速かつ低遅延な回答生成を可能にする技術が強みです。
- エヌビディアが買収する理由:Groqの超高速な推論技術(LPU)を取り込み、この分野での支配力を盤石にする狙いがあります。また、不足がちなメモリ(HBM)に依存しない同社の設計技術を確保し、供給リスクを抑えることも大きな目的です。
- LPUが超高速な理由:データの読み書きが遅い外部メモリ(HBM)を排除し、チップ内の超高速メモリ(SRAM)のみで処理を行うため「通信渋滞」がありません。また、ソフトウェアでデータの流れを完璧に制御する設計により、AIの推論を極限まで高速化しています。
エヌビディアによるグロックの買収
エヌビディア(NVIDIA)がAI半導体スタートアップのグロック(Groq)を約200億ドル(約3兆円)で買収することで合意したと主要メディアが報じています。
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2025-12-25/T7SP3YT96OSG00?srnd=jp-technology
この買収は、エヌビディアにとって過去最大規模の買収案件となる見通しです。
グロックはどんな企業か
Groq(グロック)は、一言で言えば「生成AIの回答スピードを極限まで速めることに特化した、世界最速級のAI半導体メーカー」です。
GoogleでAI用チップ(TPU)を開発した天才的なエンジニアたちが設立したスタートアップで、従来のNVIDIA製GPUとは異なる、全く新しい設計思想を持っています。
1. 最大の特徴:独自チップ「LPU」
Groqが開発したチップは、GPU(画像処理ユニット)ではなく、LPU(Language Processing Unit:言語処理ユニット)と呼ばれます。
- 圧倒的なスピード: ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の推論(回答を生成するプロセス)において、従来のGPUよりも10倍〜20倍以上速い回答速度を実現します。
- 「待機時間」の消失: 画面に文字がパラパラと出るのではなく、一瞬で全文が表示されるようなリアルタイム性が強みです。
- 高い電力効率: 推論に特化した設計のため、汎用的なGPUに比べて消費電力が少なく、データセンターの運用コストを抑えられます。
2. 創業者の背景と技術の源泉
創業者のジョナサン・ロス(Jonathan Ross)氏は、Googleで現在のAIブームの礎となったチップ「TPU」の主要な設計者の一人です。
彼は「AIモデルが巨大化する未来では、従来の汎用チップでは速度が追いつかなくなる」と予見し、2016年にGroqを設立しました。
3. NVIDIAとの違い
NVIDIAのGPUが「万能な優等生」だとすれば、GroqのLPUは「推論の専門特化型」です。
| 比較項目 | NVIDIA (GPU) | Groq (LPU) |
| 得意分野 | AIの学習(トレーニング)+推論 | AIの推論(回答生成)に特化 |
| 設計思想 | 並列処理(多くの計算を同時に行う) | シーケンシャル処理(言葉の連なりを高速に処理) |
| 汎用性 | 非常に高い(グラフィック、科学計算など) | AI言語モデルに特化 |
| エコシステム | CUDAという強固なプラットフォーム | 独自のコンパイラによる高速最適化 |

Groqは米国を拠点とするAI半導体企業です。元GoogleのTPU開発者らが設立し、AIの「推論」に特化した独自のLPUを開発。従来のGPUより圧倒的に高速かつ低遅延な回答生成を可能にする技術が強みです。
エヌビディアが買収する理由は何か
エヌビディアがGroq(グロック)を買収する主な理由は、AI市場の主戦場が「モデルの学習」から、実際にAIを動かす「推論(回答生成)」へと移っていることにあります。
1. 「推論」市場での圧倒的優位の確立
エヌビディアのGPUはAIを「学習」させる分野では世界シェアの大半を握っていますが、「推論」の分野では競合が増えています。
- スピードと効率: GroqのLPU(言語処理ユニット)は、推論においてGPUの10倍以上の速度を出し、消費電力も極めて低いです。
- 弱点の補完: エヌビディアは、自社が不得意とする「超高速・低遅延なリアルタイム推論」の技術を取り込み、AIインフラのすべてを支配しようとしています。
2. 「HBM(高帯域メモリ)」不足への対策
現在、エヌビディアのGPU生産を遅らせている最大の要因は、高価で供給不足の「HBM(メモリ)」です。
- メモリ不足に強い設計: GroqのチップはHBMを使わず、チップ上の高速メモリ(SRAM)のみで動作する特殊な設計をしています。この技術を取り入れることで、半導体供給不足のリスクを回避し、より安価に大量のAIチップを供給できる可能性があります。
3. ライバル企業の芽を摘む(競合排除)
Groqは「エヌビディアの対抗馬」として最も期待されていたスタートアップの一つでした。
- 強力なエンジニアの獲得: GoogleでTPU(AI専用チップ)を作った伝説的な開発チームがGroqには在籍しています。今回の買収は、その優秀な人材をまるごと確保(アクハイヤー)する狙いも強いとみられています。
買収の状況まとめ(2025年12月25日時点)
| 項目 | 内容 |
| 買収額 | 約200億ドル(約3兆円) |
| 主な目的 | 推論市場の独占、メモリ不足への対応、次世代アーキテクチャへの統合 |
| 現状 | CNBCなどが「合意」と報じている一方、ライセンス契約と一部の引き抜きにとどまるとの報道もあり、情報の精査が続いています。 |
この買収によって、ChatGPTなどのAIの回答速度がさらに劇的に速くなる可能性があります。

AI市場の主戦場が「学習」から「推論」へ移る中、エヌビディアはGroqの超高速な推論技術(LPU)を取り込み、この分野での支配力を盤石にする狙いがあります。また、不足がちなメモリ(HBM)に依存しない同社の設計技術を確保し、供給リスクを抑えることも大きな目的です。
LPUはなぜ圧倒的なスピードを持つのか
LPU(言語処理ユニット)が圧倒的なスピードを持つ理由は、一言で言えば「データの通り道にある渋滞を完全になくしたから」です。具体的には、従来のGPUとは異なる3つの画期的な設計が関係しています。
1. 「メモリの壁」を壊す:SRAMの採用
従来のGPUは「HBM(高帯域メモリ)」という外部メモリを使用しますが、計算速度に比べてデータの読み書きが遅く、そこで「待ち時間(渋滞)」が発生します。
- LPUの工夫: データのやり取りが遅い外部メモリを排除し、チップ内部にある超高速なSRAMのみでデータを処理します。
- 結果: データの転送速度がGPUの約10倍(最大80TB/s)に達し、計算ユニットが常にフル稼働できるため、回答が爆速になります。
2. 「予測不可能」を排除する:決定論的アーキテクチャ
GPUは複数のタスクを並列で処理するため、どのデータがいつ届くか予測が難しく、管理のための「交通整理(オーバーヘッド)」に時間が取られます。
- LPUの工夫: 「いつ、どのデータが、どこにあるか」をソフトウェア(コンパイラ)が完璧にスケジュールする決定論的(Deterministic)な設計を採用しています。
- 結果: 交通整理の必要がなくなり、まるでベルトコンベアのようにデータが途切れなく流れるため、極めて低い遅延(レイテンシ)を実現しています。
3. 「推論」への特化:LPU(言語処理ユニット)
GPUは画像処理など多目的に使える「万能選手」ですが、AIの回答生成(推論)においては無駄な回路も多いです。
- LPUの工夫: 言語モデルの計算(次に来る単語を予測する作業)だけに特化した回路設計になっています。
- 結果: 1秒間に生成できる文字数(トークン数)が劇的に向上し、人間が読むスピードを遥かに超える出力が可能になりました。
比較まとめ
| 項目 | 従来のGPU (NVIDIAなど) | Groq LPU |
| メモリ | 外付けのHBM(低速・渋滞あり) | 内部のSRAM(超高速・渋滞なし) |
| 処理方式 | 並列処理(複雑な交通整理が必要) | 決定論的処理(完璧なスケジュール) |
| 得意なこと | 複雑な学習・多目的計算 | AIの回答生成(推論) |

LPUは、データの読み書きが遅い外部メモリ(HBM)を排除し、チップ内の超高速メモリ(SRAM)のみで処理を行うため「通信渋滞」がありません。また、ソフトウェアでデータの流れを完璧に制御する設計により、交通整理の無駄を省き、AIの推論を極限まで高速化しています。
これまでSRAMが使用されていなかった理由は
SRAMは、処理速度こそ最強ですが、AI半導体の主流にならなかったのには**スト」と「サイズ」という巨大な壁があったからです。
これまでの常識では、SRAMだけでAIを動かすのは「経済的に不可能」だと考えられてきました。
1. 物理的なサイズ(面積)の限界
SRAMは1ビットを記憶するのに、トランジスタを6個(6T-SRAM)必要とします。
- GPUが採用するHBM: 小さな面積で数ギガバイト(GB)もの大容量を確保できます。
- SRAM: 容量あたりの面積が非常に大きく、1GBのSRAMを載せようとすると、それだけで最新のGPU(NVIDIA H100など)のチップ全体の面積の半分以上を占めてしまいます。
- 結果: チップに載せられるSRAMの量はせいぜい数十〜数百MB(メガバイト)程度に限られ、巨大なAIモデル(数GB〜数百GB)を丸ごと入れることができませんでした。
2. 圧倒的なコストの高さ
SRAMは、記憶容量あたりのコストが極めて高いメモリです。
- 価格差: SRAMは、GPUで使われるHBMやDRAMに比べて、1GBあたりのコストが100倍以上になると言われています。
- 結果: AIモデル全体をSRAMに載せようとすると、チップ1つの価格が数千万円〜数億円になってしまい、ビジネスとして成立しませんでした。
3. 微細化の停滞(スケーリングの限界)
半導体は回路を小さくする(5nmから3nmなど)ことで性能を上げてきましたが、近年、SRAMは微細化してもあまり小さくならないという限界に達しています。
- 結果: 論理回路(計算機)はどんどん小さくなるのに、SRAMだけが場所を取り続けるため、設計上の大きな負担になっていました。
なぜGroq(グロック)はSRAMを使えたのか?
Groqは、これまでの常識を覆す「力技」と「逆転の発想」でこの問題を解決しました。
- チップを並列につなぐ: 1枚のチップには少し(約230MB)しか載りませんが、そのチップを何百枚、何千枚と高速に連結することで、巨大なモデルを分割してSRAM上に展開しました。
- 推論に特化: 学習を捨てて「推論」だけに絞ったため、不要な回路を削ってSRAMのスペースを確保しました。

SRAMは処理速度が最速な一方、容量あたりの面積が非常に大きく、コストもHBMの100倍以上と極めて高額でした。そのため、巨大なAIモデルを丸ごと載せるには物理的にも経済的にも不向きとされてきました。

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