オムロンとNVIDIAによる半導体X線検査装置の照射量可視化 半導体X線検査装置とは何か?なぜ照射量の可視化が必要なのか?

この記事で分かること

  • 半導体X線検査装置とは:目に見えない製品内部を壊さずに透視する「レントゲン」のような検査です。積層されたチップや微細なはんだ付けの不備を、X線とAI解析で3D可視化し、製品の信頼性を高める不可欠な技術です。
  • 照射量の可視化が必要な理由:X線は当てすぎると半導体を劣化させますが、3Dで見える化すれば、部品にダメージを与えない最小限の照射で、鮮明な欠陥検知が可能になります。
  • 可視化の方法:NVIDIAのプラットフォーム上に基板の構造をデジタルツインで再現し、X線の吸収量を物理シミュレーションで算出します。その結果を3Dモデル上にヒートマップとして表示し、被ばく量を視覚的に把握します。

オムロンとNVIDIAによる半導体X線検査装置の照射量可視化

 オムロンはNVIDIAと連携し、半導体X線検査における「照射量の3D可視化」や「デジタルツインでの再現」を検討・推進しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF18CJQ0Y5A211C2000000/

 この連携は、単なる「検査の自動化」に留まらず、検査データを使って製造工程そのものを最適化する「止まらない、不良を出さない工場」の実現を目指したものです。

半導体X線検査とは何か

 半導体X線検査とは、製品を壊さずに、内部の目に見えない微細な異常を見つけ出すレントゲンのようなものです。

 近年の半導体は、高機能化のために内部が多層構造になっており、表面からカメラで見るだけでは、中が正しくつながっているか判断できません。そこで、物体を透過する性質を持つX線が活用されます。


1. なぜX線が必要なのか

 通常の光学カメラでは、製品の「外観」しかチェックできません。しかし、半導体の不具合は以下のような「見えない場所」で発生します。

  • はんだ付けの内部不備: 基板とチップをつなぐ「はんだボール」の中に空洞(ボイド)がないか。
  • ワイヤボンディングの断線: 髪の毛より細い金の線が、内部で切れたり接触したりしていないか。
  • チップの積層ズレ: 3D実装(チップを積み重ねる技術)において、上下のチップが正しく重なっているか。

2. 主な検査手法:2Dと3D(CT)

 半導体検査には、大きく分けて2つの見方があります。

手法特徴主な用途
2D検査(透過視)真上から透かして見る方式。影絵のように重なって見える。シンプルな基板、大まかな断線確認。
3D検査(CT)周囲から連続撮影し、立体的に再構成する方式。任意の断面が見れる。最新の半導体(3Dパッケージ)、複雑な積層構造。

 オムロンがNVIDIAと取り組んでいるのは、この3D(CT)検査の分野です。CTスキャンは計算量が膨大ですが、GPU(NVIDIAの得意分野)を使うことで、製造ラインを止めないほどの高速処理を可能にしています。


3. 検査の仕組み(CT方式の場合)

  1. X線照射: 検査対象(基板)にX線を照射します。
  2. 透過・検出: 部品を通り抜けたX線の強さをセンサーでキャッチします。
  3. 画像再構成: 角度を変えて何枚も撮影したデータから、コンピュータ上で「3Dモデル」を作成します。
  4. AI判定: 出来上がった3D画像をもとに、AIが「良品」か「不良品」かを瞬時に判別します。

4. X線検査の課題と進化

 これまでは「検査による被ばく(ダメージ)」が課題でした。X線はエネルギーが強いため、当てすぎると半導体メモリのデータが消えたり、回路が劣化したりするリスクがあります。

半導体X線検査とは、目に見えない製品内部を壊さずに透視する「レントゲン」のような検査です。積層されたチップや微細なはんだ付けの不備を、X線とAI解析で3D可視化し、製品の信頼性を高める不可欠な技術です。

照射量の可視化がなぜ重要なのか

 照射量の可視化が重要な理由は、半導体の破壊(被ばく)を防ぎつつ、検査の質を担保するためです。具体的には以下の3つの大きなメリットがあります。


1. 「被ばくダメージ」による故障の防止

 半導体(特にメモリやロジックIC)は非常に繊細で、強いX線を浴び続けると内部の電子状態が変化し、データが消失したり回路が物理的に劣化したりすることがあります。

  • 可視化の役割: どの部品にどれだけのエネルギーが蓄積されているかを3Dで「見える化」することで、壊れる寸前の限界値を超えないように制御できます。

2. 検査精度の最適化(トレードオフの解消)

 X線検査には「強く当てれば鮮明に見えるが、部品を傷める」「弱くすると画像がボケて不良を見逃す」というジレンマがあります。

  • 可視化の役割: NVIDIAのシミュレーション技術で「最小限の照射で、最大限の画質が得られる角度と強さ」を事前に計算できます。これにより、安全かつ高精度な検査が両立します。

3. デジタルツインによる「試行錯誤」の削減

 これまでは、適切な照射条件を探るために実際の製品にX線を当ててテスト(実機検証)を行う必要がありました。

  • 可視化の役割: 仮想空間(デジタルツイン)で照射量を可視化できれば、実物を1つも壊すことなく、PC上で完璧な検査シミュレーションを完了させ、そのまま量産ラインに適用できます。

 特に最新の「3Dパッケージ」では、チップが重なっているため、特定の層を透かすために照射が強まりがちです。このため、3Dでの正確な照射量管理がこれからの製造現場のスタンダードになろうとしています。

この技術が普及することで、将来的には「検査で壊れるリスク」がほぼゼロになる可能性があります。

照射量の可視化は、「製品の破壊防止」「検査精度の両立」に不可欠です。X線は当てすぎると半導体を劣化させますが、3Dで見える化すれば、部品にダメージを与えない最小限の照射で、鮮明な欠陥検知が可能になります。

デジタルツインを使用し、どのように可視化するのか

 オムロンとNVIDIAの技術を用いた可視化は、物理的なセンサーで測るのではなく、「デジタル空間での高度な計算(シミュレーション)」によって行われます。具体的には、以下の3ステップで可視化を実現します。


1. デジタルツインの構築

 まず、検査対象の基板や半導体チップの内部構造を、NVIDIA Omniverse上に3Dモデル(デジタルツイン)として完全に再現します。これには、各部品の材質(シリコン、銅、はんだ等)や厚みのデータが含まれます。

2. X線挙動の物理シミュレーション

 次に、X線源から放たれたエネルギーが、各部品を透過する際にどれだけ吸収・散乱されるかを、物理法則に基づいて計算します。

  • 計算の核: 照射されたエネルギー量 Eと、物質の吸収係数 μ、厚さ xの関係を示す式      I = I0 e-μx などをベースに、複雑な3D構造内での蓄積量を算出します。
  • ここでNVIDIAのGPUを用いることで、膨大な計算をリアルタイムに近い速度で処理します。

3. ヒートマップによる3D表示

 計算結果を、温度分布のように色で判別できる「ヒートマップ」として3Dモデル上に重ね合わせます。

  • 赤色: 照射量が多く、ダメージのリスクが高い箇所
  • 青色: 照射量が少なく、画像が不鮮明になる可能性がある箇所

この技術の特徴

 これまでは「実際に当ててみて、壊れていないか後で確認する」しかありませんでしたが、この手法なら「検査を行う前に、どこが危険か一目でわかる」ようになります。

NVIDIAのプラットフォーム上に基板の材質や構造をデジタルツインで再現し、X線の吸収量を物理シミュレーションで計算します。その結果を3Dモデル上にヒートマップ(色分布)として重ねることで可視化します。

NVIDIAとの連携内容はどのようなものか

 オムロンとNVIDIAの連携は、単なる「装置へのチップ搭載」を超え、「工場のデジタル化とAIによる自動化」を深く進めるものです。主な連携内容は以下の3つの柱で構成されています。


1. NVIDIA Omniverseによる「高度なデジタルツイン」

 オムロンの制御ソフトウェア「Sysmac Studio」と、NVIDIAのデジタルツイン開発プラットフォーム「Omniverse」を統合しました。

  • 正確な再現: 装置内部のコントローラーやセンサー、モーターの動きを仮想空間に物理的に正しく再現します。
  • フロントローディング: 実機を作る前に、仮想空間でX線の照射経路や検査プログラムを完全に調整できるため、開発期間が大幅に短縮されます。

2. NVIDIA GPUによる「超高速・高精細検査」

 オムロンのCT型X線自動検査装置(VT-Xシリーズ)にNVIDIAの高性能GPUを搭載しています。

  • 微細化への対応: 1画素あたり0.2μmという世界最高レベルの解像度を実現。
  • インライン化: 膨大な計算が必要な3D(CT)画像処理を高速化し、製造ラインを止めない「インライン検査」を可能にしました。

3. 生成AIとバーチャルヒューマンの活用

 熟練工のノウハウをAI化し、操作のハードルを下げています。

  • 対話型AIアシスタント: バーチャルヒューマン(AIアバター)を通じて、「画像のコントラストを上げて」といった自然言語で検査設定を調整できます。
  • 技術継承の解決: 専門知識が必要だった複雑なX線パラメータ設定を、AIがサポートすることで誰でも行えるようにします。

この連携により、最新の「3D積層半導体(チップレット)」などの非常に複雑な構造を持つ製品でも、壊さず、素早く、正確に検査できる環境が整っています。

NVIDIAのプラットフォーム「Omniverse」上で装置を仮想再現し、GPUによる超高速3D演算で微細な半導体内部を可視化します。さらに生成AIを使い、自然言語での直感的な操作も可能にしています。

X線検査装置でのオムロンの強みは何か

 オムロンのX線検査装置における最大の強みは、医療用CT技術を産業用に転用・進化させた「高速3D-CT検査技術」と、それを支える「自社開発の制御技術」の融合にあります。主に以下の4つのポイントが、競合他社に対する圧倒的な優位性となっています。


1. 業界最速レベルの「インライン全数検査」

 通常、精密な3D-CT撮影には時間がかかるため、抜き取り検査やオフライン解析に使われるのが一般的でした。

  • 強み: オムロンは自社の専業である「高速・高精度制御」を駆使し、撮像デバイスを止めずに連続撮影する技術(視野間連続移動)を確立しています。
  • 効果: 従来比で約100倍高速な検査を可能にし、製造ラインの流れを止めない「全数検査」を世界で初めて実用レベルで実現しました。

2. 世界最高クラスの「高解像度(0.2μm)」

 半導体の微細化に伴い、従来(数ミクロン単位)の解像度では見えない不良が増えています。

  • 強み: 最新モデル「VT-X950」では、1画素あたり0.2μm(0.0002mm)という驚異的な解像度を実現。
  • 効果: チップレットや3Dパッケージ内部の極小のはんだバンプ(突起状の端子)のわずかな変形や空洞まで鮮明に可視化します。

3. 「低被曝(ダメージ抑制)」と「自動化」の共存

 NVIDIAとの連携にも通じる、製品を保護する技術です。

  • 強み: 高速撮影によりX線を当てる時間を極限まで短縮。さらに、特定の部品への照射量をシミュレーションして最適化する機能を搭載しています。
  • 効果: メモリなどの「X線に弱い部品」が載った基板でも、故障リスクを最小限に抑えつつ高精度に検査できます。

4. AIによる「脱・熟練工」

 X線画像の判定や設定には高度な専門知識が必要でした。

  • 強み: 独自のAI技術により、良品・不良品の判断基準を自動で学習・設定。
  • 効果: 専門の技術者がいなくても、装置を導入してすぐに高品質な自動判定を開始でき、立ち上げ工数を大幅に削減します。

オムロンの強みは、医療用CT技術を応用した「世界最速の3D-CTインライン検査」です。撮像装置を止めずに連続撮影する独自制御により、従来比100倍の高速化を実現。微細な「はんだ」の内部欠陥を0.2μmの高解像度かつ全数検査で検出できる点が唯一無二の武器です。

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