パナソニックのカンザス工場能力増強の後ろ倒し どんな電池を生産しているのか?後ろ倒しとなる理由は?

この記事で分かること

  • 生産している電池:主に電気自動車(EV)向けの円筒形リチウムイオン電池を製造しています。具体的には、「2170」セルと呼ばれるタイプが量産されています。
  • 後ろ倒しの理由:主要顧客テスラのEV販売減速と、EV市場全体の需要低迷が原因です。当初の計画に対し需要が見込めず、工場稼働のフル生産時期が先送りされます。
  • 2170セルの特徴:従来の18650セルより大型化することで、エネルギー密度と容量を向上させることに成功しています。

パナソニックのカンザス工場能力増強の後ろ倒し

 パナソニックは、カンザス工場での量産を本格化させていますが、テスラの販売減速を受けて、工場がフル稼働する時期を当初予定していた2026年度末から先送りする方針とのことです。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-30/T07D1SGQ7LBI00

 EV市場全体の動向や、主要顧客の販売戦略が、電池工場の稼働計画に影響を与えている状況と言えるでしょう。

どんな電池を製造する工場なのか

 パナソニックのカンザス工場は、主に電気自動車(EV)向けの円筒形リチウムイオン電池を製造しています。

 具体的には、「2170」セルと呼ばれるタイプが量産されており、将来的には年間約32GWhの生産体制を目指すとされています。

 この2170セルは、テスラなどのEVメーカーに供給されることを想定しています。また、将来的にはさらに大型の「4680」セルなど、円筒形電池のラインナップ強化も視野に入れているようです。

なぜ後ろ倒しとなるのか

 パナソニックの米カンザス電池工場の能力増強が後ろ倒しになっている主な理由は、主要顧客であるEV大手テスラの販売の落ち込みと、それに伴うEV市場全体の需要減速です。

具体的には、以下の点が挙げられます。

  • テスラの販売台数減少: テスラは2024年の世界販売(納車)台数が前年比で減少しており、これは初めての年間での前年割れとなります。特に欧米市場でのEV需要の低迷が影響しています。パナソニックはテスラを主要顧客としているため、テスラのEV生産計画の調整が、パナソニックの電池工場稼働に直接的な影響を与えています。
  • EV市場全体の需要減速: 各国でのEV購入補助金の終了や縮小、充電インフラへの懸念、充電時間の長さ、高価格帯といった要因から、世界的にEV需要の減速傾向が見られます。特に欧州ではEV販売が減速し、一部メーカーは電動化計画の見直しを余儀なくされています。

 パナソニックはカンザス工場で「2170」セルを量産し、将来的には年間約32GWhの生産体制を目指していますが、現状のEV需要の動向では、当初の計画通りのフル稼働を急ぐ必要性が薄れていると判断したと考えられます。これにより、2026年度末としていたフル稼働の時期を先送りする方針となっています。

主要顧客テスラのEV販売減速と、EV市場全体の需要低迷が原因です。当初の計画に対し需要が見込めず、工場稼働のフル生産時期が先送りされます。

2170セルの特徴はなにか

 2170セルは、リチウムイオン電池の一種で、その名称はサイズに由来しています。

  • 「21」: セルの直径が約21mmであること
  • 「70」: セルの長さが約70mmであること
  • 「0」: 円筒形であることを示す

主な特徴

  • エネルギー密度の向上: 従来のEV用バッテリーとして広く使われていた18650セル(直径18mm、長さ65mm)と比較して、サイズが大きくなった分、エネルギー密度が向上しています。これにより、同じ体積でより多くのエネルギーを蓄えることができ、EVの航続距離延長に貢献します。
  • 高容量化: 18650セルが約3.0Ahから3.6Ahであったのに対し、2170セルは約4.8Ahから5.0Ah、一部では5,000mAh(5Ah)を超えるものも存在し、容量が大幅に増加しています。
  • コスト効率の改善: セルあたりの容量が増えることで、バッテリーパックに必要なセルの数を減らすことができ、これによりバッテリーパックの構造がシンプルになり、製造コストの削減に寄与すると言われています。
  • テスラでの採用: テスラがModel 3などで採用したことで広く知られるようになりました。パナソニックはテスラ向けにこの2170セルを供給しています。

 つまり、2170セルは、従来のEV用バッテリーに比べて、より多くのエネルギーを蓄えられ、航続距離を伸ばし、かつ製造コストの効率化にも貢献できるという点で注目されています。

直径21mm、長さ70mmの円筒形リチウムイオン電池です。従来の18650セルより大型化することで、エネルギー密度と容量を向上させ、EVの航続距離延長やバッテリーパックのコスト効率改善に貢献します。テスラなどが採用しています。

どうやってエネルギー密度、容量を増やしたのか

 2170セルは、主に以下の2つの方法でエネルギー密度と容量を向上させています。

セルの物理的なサイズ拡大

 最も単純かつ効果的な方法がこれです。2170セルは、従来の18650セル(直径18mm、長さ65mm)よりも物理的に大きいため、内部に詰め込む電極(正極と負極)の体積を増やすことができます。これにより、より多くの活物質を搭載でき、蓄えられるエネルギー量(容量)が増加します。

活物質の改良

 物理的なサイズ拡大に加え、電池の内部材料である活物質そのものを高性能化させることも重要です。

  • 正極材: ニッケル(Ni)の比率を高めることで、エネルギー密度を向上させる技術が開発・採用されています。ニッケルは高容量の電池を作る上で重要な元素です。
  • 負極材: グラファイト(炭素)を主体とする負極に、より多くのリチウムイオンを吸蔵できるシリコン(Si)を添加する技術も開発されています。シリコンはグラファイトの約10倍の容量を持つと言われており、負極材の性能向上に大きく貢献します。

 これらの改良により、2170セルは従来の18650セルに比べて、エネルギー密度と容量を大幅に向上させることに成功しました。これにより、EVの航続距離を伸ばし、バッテリーパックのコストを削減する効果が生まれています。

2170セルは、従来の18650セルより物理的に大きくすることで、より多くの活物質を充填し容量を増やしました。また、高ニッケル正極やシリコンを添加した負極材料の採用により、エネルギー密度を向上させています。

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