活性炭によるPFAS除去 活性炭とは何か?PFASの除去の難しさと対策は何か?

この記事で分かること

  • 活性炭とは:多孔質の炭素材料で、その高い吸着能力と幅広い用途から、現代社会において非常に重要な役割を果たす材料となっています。
  • PFASの除去が難しい理由:PFASの構造の多様さ、選択的な吸着の難しさなどから、活性炭での除去は難しくなっていました。
  • 吸着できるようになった理由:活性炭の細孔構造をPFAS分子に最適化し、表面官能基を改質して化学吸着・イオン交換能を高めたためです。

活性炭によるPFAS除去

 PFAS(有機フッ素化合物)は環境中で分解されにくく、人体への影響も懸念されているため、その除去技術の開発が喫緊の課題となっています。

 特に水中のPFAS除去において、活性炭はその有効な吸着剤として注目されており、中でも粉末活性炭(PAC)は、粒状活性炭(GAC)と比較して吸着能力が高いと考えられています。

活性炭とは何か

 活性炭(かっせいたん、英語:Activated carbon)は、水や空気中の不純物、臭い、色などを吸着する能力に優れた多孔質の炭素材料です。私たちの身の回りでも、浄水器、脱臭剤、空気清浄機、たばこのフィルターなど、様々な場所で使われています。

活性炭の仕組み(なぜ吸着できるのか)

活性炭が物質を吸着できるのは、主に以下の特徴によるものです。

  1. 多孔質構造(ポーラス構造):活性炭の最大の特徴は、その内部にミクロ孔、メソ孔、マクロ孔と呼ばれる非常に小さな穴(細孔)が無数に存在することです。これらの細孔は、炭素の結晶構造が不規則に配列することで形成され、まるでスポンジのように水や空気中の分子を取り込むことができます。1グラムの活性炭には、テニスコート数面分にも及ぶ広大な表面積があると言われています。
  2. 吸着力:物質を吸着するメカニズムには、主に「物理吸着」と「化学吸着」の2種類があります。
    • 物理吸着: 分子間力(ファンデルワールス力)と呼ばれる弱い力によって、不純物の分子が活性炭の表面や細孔の内壁に引き寄せられ、付着する現象です。多くの有機物や臭気物質の吸着はこの物理吸着によるものです。
    • 化学吸着: 活性炭の表面と吸着したい物質の間で化学反応が起こり、より強力に結合する現象です。塩素や一部の重金属などは化学吸着によって除去されます。

活性炭の種類と原料

活性炭は、その形状や原料、製造方法によって様々な種類があります。

  • 形状による分類:
    • 粉末活性炭(PAC): 粒径が小さく、吸着速度が速いため、主に液体中の不純物(脱色、精製、浄水など)の除去に用いられます。
    • 粒状活性炭(GAC): 粉末より粒径が大きく、扱いやすいため、水処理のフィルターや空気浄化、溶剤回収などに広く用いられます。
    • 繊維状活性炭: 繊維状に加工されたもので、吸着速度が非常に速いのが特徴です。
  • 原料による分類:
    • ヤシ殻系: 微細な細孔が多く、特に臭い成分の除去や浄水に適しています。
    • 石炭系: 比較的広い細孔を持ち、排水処理のCOD(化学的酸素要求量)除去や脱色に適しています。
    • 木質系(木材、おがくずなど): 粉末活性炭の原料として多く用いられ、食品や医薬品の精製、脱色などに利用されます。

活性炭の製造方法

活性炭は、炭素質原料を「炭化」させ、さらに「賦活(ふかつ)」という特殊な処理を施すことで作られます。

  1. 炭化:ヤシ殻や石炭などの原料を、酸素を断った状態で高温(200℃~600℃)で蒸し焼きにし、炭素物質にします。
  2. 賦活:炭化された炭素物質に、さらに水蒸気やガス、または薬品を加え、高温(700℃~1000℃)で反応させます。この工程によって、炭素の内部に無数の微細な孔が形成され、吸着能力が格段に高まります。

活性炭の主な用途

  • 水処理: 浄水器、上下水道、工場排水処理、プール水処理など
  • 空気浄化・脱臭: 冷蔵庫の脱臭剤、空気清浄機、たばこのフィルター、工場排ガス処理など
  • 食品・飲料: 精糖、酒類、食用油の精製・脱色
  • 医薬品: 医薬品の精製、原薬の精製
  • 化学工業: 有機溶剤の回収、触媒担体
  • 医療: 血液浄化、薬物中毒の治療(薬用炭)

活性炭は、多孔質の炭素材料で、その高い吸着能力と幅広い用途から、現代社会において非常に重要な役割を果たす材料となっています。

化学吸着にはどんな種類があるのか

 活性炭による吸着には、「物理吸着」と「化学吸着」という2つの主要なメカニズムがあります。

 物理吸着がファンデルワールス力のような比較的弱い分子間力で吸着するのに対し、化学吸着は吸着する物質と活性炭(吸着剤)の表面との間で化学結合が形成される現象です。

化学吸着の主な特徴

  1. 化学結合の形成: 吸着質と吸着剤の表面原子の間に、共有結合、イオン結合、配位結合などの化学結合が形成されます。これにより、物理吸着よりもはるかに強い結合力を持ちます。
  2. 高い選択性: 特定の物質とのみ化学結合を形成するため、吸着する物質に高い選択性があります。
  3. 吸着熱が大きい: 化学結合の形成に伴い、発熱量(吸着熱)が物理吸着よりも著しく大きいです。これは化学反応に似た性質です。
  4. 不可逆的または脱着に高エネルギーが必要: 形成された化学結合は強固であるため、物理吸着のように簡単に脱着(吸着した物質が離れること)しません。脱着には高い温度や特定の処理が必要となる場合が多いです。
  5. 単分子層吸着: 吸着剤の表面に吸着質が1分子層だけ吸着する傾向があります。物理吸着のように多分子層を形成することはありません。
  6. 活性化エネルギー: 化学結合の形成には、しばしば活性化エネルギーを必要とします。これは、吸着が起こるまでに一定のエネルギー障壁を乗り越える必要があることを意味します。

化学吸着の具体例

活性炭における化学吸着の具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 塩素の除去: 浄水処理で、活性炭が水中の残留塩素を除去する際に化学吸着が利用されます。塩素(Cl₂)が活性炭の表面と反応し、塩化物イオン(Cl⁻)などに変化することで除去されます。
    • Cl2​+H2​O→HCl+HClO (次亜塩素酸)
    • HClO+活性炭→Cl−+H++CO2​ (表面酸化) のような複雑な反応が起こると考えられています。
  • 硫化水素(H₂S)の除去: 排水処理施設やし尿処理施設などで発生する硫化水素は、悪臭の原因となります。活性炭にアルカリ性物質などを添着することで、硫化水素と化学反応を起こさせ、硫黄や硫酸塩として除去することができます。
    • 添着された活性炭の表面官能基とH2​Sが反応し、酸化生成物(S,SO2​,SO3​など)に変化することが多いです。
  • アンモニア(NH₃)の除去: 活性炭に酸性の官能基を導入したり、酸を添着したりすることで、塩基性であるアンモニアと化学反応を起こさせ、吸着除去することが可能です。
    • NH3​+H+ (活性炭表面の酸性点)→NH4+​
  • 一部の重金属イオンの除去: 活性炭の表面に存在する酸素含有官能基(カルボキシル基、水酸基など)が、水中の鉛イオン(Pb²⁺)やカドミウムイオン(Cd²⁺)などの重金属イオンと錯体を形成したり、イオン交換反応を起こしたりして除去する場合があります。
  • 触媒反応: 活性炭が単なる吸着剤としてだけでなく、触媒として機能する多くの反応では、反応物がまず活性炭の表面に化学吸着し、その後反応が進行します。例えば、空気中の有害物質の酸化分解などです。

化学吸着は、吸着剤と吸着質が単に結合するだけでなく、化学的な変化を伴うため、特定の物質を選択的に、かつ強力に除去するのに非常に有効なメカニズムです。

PFASの除去が難しい理由

 従来の活性炭ではPFASの除去が難しい、あるいは課題が多いとされてきた主な理由は以下の通りです。

  1. PFASの多様性と特性
    • 「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」: PFASは、非常に安定した炭素-フッ素結合を持つため、自然界で分解されにくく、環境中に長期間残留します。この安定性が、活性炭による吸着からの脱着を難しくする要因にもなります。
    • 構造の多様性: PFASには、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)など、炭素鎖の長さや官能基の種類が異なる非常に多くの種類(同族体)が存在します。従来の活性炭は、すべてのPFASに対して均一な吸着性能を発揮するわけではありません。特に、短鎖PFAS(炭素鎖の短いPFAS)は親水性が高く、従来の活性炭では吸着されにくい傾向があります。
    • 両親媒性: PFASは、疎水性のフッ素鎖と親水性の末端官能基(スルホン酸基やカルボン酸基など)を併せ持つ「両親媒性」の性質を持っています。この特性により、水中に溶けやすく、従来の活性炭が想定していた疎水性有機物の吸着とは異なる挙動を示すことがあります。
  2. 競合吸着の問題
    • 水の中にはPFASだけでなく、様々な有機物(TOC: 全有機炭素)が存在します。活性炭は、これらの他の有機物も吸着するため、PFASと他の有機物が活性炭の吸着サイト(細孔や表面)を奪い合う「競合吸着」が発生します。これにより、PFASの吸着効率が低下したり、活性炭の寿命が短くなったりします。特に、分子量の大きい有機物が存在する場合、PFASの吸着を阻害しやすくなります。
  3. 活性炭の細孔構造と表面特性の限界
    • 従来の活性炭は、特定の有機物の吸着を目的として開発されてきたため、PFASの分子サイズや形状、電荷特性に最適な細孔構造や表面官能基を持っていない場合があります。
    • 活性炭の表面は一般的に非極性であることが多いですが、PFASの一部(特に短鎖PFAS)は親水性が強いため、十分な吸着力を得られないことがあります。また、活性炭表面のゼータ電位(粒子表面の電荷)とPFASのイオン化状態によっては、反発力が生じて吸着が阻害される可能性もあります。
  4. 飽和とブレイクスルー
    • 活性炭の吸着能力には限りがあります。PFASが吸着サイトに満杯になると、それ以上吸着できなくなり、処理水中にPFASが流出してしまう「ブレイクスルー」と呼ばれる現象が起こります。従来の活性炭では、このブレイクスルーまでの時間が短く、頻繁な活性炭の交換や再生が必要となり、運用コストが高くなるという課題がありました。
    • 粒状活性炭(GAC)の場合、再生サイクルをPFAS除去に最適化する必要があるとも指摘されています。
  5. 再生・廃棄の問題
    • PFASは非常に安定しているため、吸着した活性炭を一般的な熱再生で完全に分解・除去することが難しい場合があります。不完全な再生では、PFASが環境中に再放出されるリスクがあります。そのため、吸着したPFASの処理方法(高温焼却など)が、別の環境問題や高コストにつながる可能性があります。

PFASの構造の多様性や親水性をもつこと、選択的な吸着の難しさなど従来の有機物とは異なる部分から、活性炭での除去は難しくなっていました。

どのような対策があるのか

 これまでの活性炭でPFASの除去が難しかった理由を踏まえ、近年、PFASの吸着を可能にする、あるいは効率を高めるために、以下のような改良技術が開発され、実用化が進められています。

PFAS吸着を可能にする改良技術

  1. 細孔構造の最適化(メソ孔の発達)
    • 従来の活性炭は、主にミクロ孔(非常に小さい孔)が発達しているものが多かったですが、PFASの分子サイズや両親媒性を考慮し、メソ孔(ミクロ孔よりやや大きい孔)やマクロ孔(さらに大きい孔)を適切に発達させた活性炭が開発されています。
    • 特に、短鎖PFASは分子サイズが小さく、親水性が高いため、これまでの活性炭では吸着しにくいとされてきましたが、メソ孔を増やすことで、これらの短鎖PFASも効率的に吸着できるようになりました。
    • 例として、トヨタ自動車が開発した「トリポーラス™」は、階層的な多孔質構造を持つ活性炭であり、従来の活性炭では吸着しにくかった短鎖PFASの除去にも高い効果を示すことが報告されています。
  2. 表面官能基の改質(表面の化学的特性の調整)
    • 活性炭の表面に、PFASの官能基(スルホン酸基、カルボン酸基など)と相性の良い化学的な官能基を導入することで、化学吸着やイオン交換による吸着を促進します。
    • 例えば、アミン基や陽イオン性の官能基を表面に導入することで、PFASの多くが持つ陰イオン性(アニオン性)と静電的に引き合い、より強固に吸着させることが可能になります。
    • これにより、物理吸着だけでなく、化学吸着のメカニズムも利用することで、吸着力を向上させ、競合吸着の影響を軽減することができます。
  3. 原料の選定と賦活条件の精密制御
    • PFAS吸着に最適な細孔構造や表面特性を持つ活性炭を製造するために、特定の原料(例:特定の種類の石炭やヤシ殻など)を選定し、製造時の炭化・賦活プロセスを精密に制御する技術が開発されています。
    • これにより、目的のPFASに特化した活性炭を効率的に製造することが可能になります。
  4. 粉末活性炭(PAC)の活用と添着技術
    • 粒状活性炭(GAC)に比べて吸着速度が速い粉末活性炭(PAC)を、ろ過膜などの表面に「添着」させる技術が注目されています。
    • PACは粒径が小さいため、吸着サイトへの到達が早く、吸着効率が高いという利点があります。これをフィルターに固定することで、高い除去性能を維持しつつ、使用済み活性炭の廃棄量を削減する効果も期待できます。
    • セラケムが取り組んでいると報じられているのも、このような粉末活性炭の開発だと考えられます。
  5. 複合的なアプローチ:
    • 活性炭単独ではなく、イオン交換樹脂や膜分離(逆浸透膜、ナノろ過膜など)、さらには分解技術(電気分解、UV酸化、超臨界水酸化など)と組み合わせることで、より効果的かつ効率的にPFASを除去するシステムが構築されています。活性炭は前処理としてPFASを吸着し、後段でさらに精密な処理を行うといった連携も進んでいます。

これらの技術開発により、これまで除去が困難だった短鎖PFASを含む多種多様なPFASに対して、活性炭の吸着性能が飛躍的に向上しています。今後も、より低コストで高効率なPFAS除去技術の研究開発が進められると期待されます。

PFAS吸着が向上したのは、活性炭の細孔構造をPFAS分子に最適化し、表面官能基を改質して化学吸着・イオン交換能を高めたためです。これにより、従来の課題だった短鎖PFASや競合吸着の問題を克服しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました