この記事で分かること
- Planet SaversのCCS技術の特徴:東大発の独自技術であるゼオライト吸着剤を用いたDAC(大気中CO2直接回収)が特徴です。熱を使わず圧力操作で回収するため省エネで、安価で丈夫な素材により低コストと長寿命(約10年)を両立しています。
- オーストラリアに進出する理由:広大なCO2貯留地があり、法整備や支援策も進んでいるからです。日本国内では難しい「回収したCO2を地中に埋める(CCS)」仕組みを、現地企業と組み大規模かつ早期に実現できるメリットがあります。
Planet SaversのオーストラリアでのCCSプロジェクト
日本発の二酸化炭素(CO2)回収技術(DAC: Direct Air Capture)を開発するスタートアップ、Planet Savers(プラネットセイバーズ)がオーストラリアの Australian Carbon Vault(ACV)社と、南オーストラリア州でのCO2回収・貯留(CCS)プロジェクトに関する覚書(MoU)を締結したことを発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC175400X11C25A2000000/
今回の提携は、Planet Saversの「CO2を回収する技術」と、ACV社の「CO2を埋める場所」を組み合わせる、非常に戦略的なものです。
プラネットセイバーズの二酸化炭素回収技術の特徴は
Planet Savers(プラネットセイバーズ)の二酸化炭素回収(DAC)技術における最大の特徴は、東京大学発の高度なゼオライト合成技術を核とした、圧倒的な「低コスト・低エネルギー・高耐久」の両立にあります。
1. 独自開発の革新的ゼオライト
同社は、特定の構造を持つ「ゼオライト(多孔質の鉱物)」を吸着剤として使用しています。
- 世界トップレベルの合成技術: 共同創業者の伊與木健太氏(東京大学准教授)による長年の研究をベースに、CO2分子を効率よく捉えるのに最適な「穴(細孔)」を持つゼオライトを自社で設計・合成しています。
- 高い吸着能力: 従来よりも低濃度のCO2(大気中の約0.04%)を、より速く、より多く回収することが可能です。
2. 物理吸着による「超省エネ」プロセス
多くの競合他社(液体アミンなどを使用する方式)は、化学反応でCO2を結合させるため、引き剥がす際に多大な熱エネルギー(数百℃〜)を必要とします。
- 熱が不要: Planet Saversの技術は、物理的に穴に閉じ込める「物理吸着」です。
- 圧力操作で脱離: 回収したCO2を取り出す際、加熱ではなく「圧力を下げるだけ」または「低温の廃熱」で済むため、エネルギー消費を従来の約1/3まで抑えることができます。
3. 圧倒的なコスト競争力
2030年までに、回収コストを現在主流の数分の一である1トンあたり100ドル以下に下げることを目標としています。
- 材料が安い: ゼオライトは無機物で天然にも存在する材料のため、他の特殊な吸着剤に比べて材料コストを約1/10に抑えられます。
- 長寿命(10年): 他方式の吸着剤は1〜2年で劣化し交換が必要ですが、同社のゼオライトは耐久性が高く、約10年間繰り返し使えます。これにより維持管理費(OPEX)が劇的に下がります。
4. モジュール型による柔軟な展開
装置を巨大なプラントとして建設するのではなく、コンテナサイズの「モジュール」として開発しています。
- 積み重ねて大型化: 需要や設置場所の広さに合わせ、モジュールを積み重ねることで簡単に規模を拡大(スケールアップ)できます。
- 水が不要: プロセスの中で水を大量に消費しない(逆に大気中の水分を副産物として得られる可能性もある)ため、乾燥地帯など設置場所を選びません。
主要なDAC方式との比較
| 比較項目 | 一般的な化学吸収法 | Planet Savers (ゼオライト) |
| 吸着剤の寿命 | 短い (1〜2年) | 長い (約10年) |
| 必要なエネルギー | 高温の熱(莫大) | 圧力または低温廃熱(小) |
| 主材料コスト | 高価 | 安価 (1/10程度) |
| 環境負荷 | 化学薬品の漏洩リスクあり | 安全 (無機物・無害) |

東大発の独自技術であるゼオライト吸着剤を用いたDAC(大気中CO2直接回収)が特徴です。熱を使わず圧力操作で回収するため省エネで、安価で丈夫な素材により低コストと長寿命(約10年)を両立しています。
なぜオーストラリアに進出するのか
Planet Savers(プラネットセイバーズ)がオーストラリアを進出先に選んだ理由は、主に「埋める場所」「法整備」「ビジネス環境」の3つの条件が完璧に揃っているからです。
日本国内ではCO2を回収しても、それを地中に貯留(CCS)するための適地が少ないという課題がありますが、オーストラリアはその課題を解決できる理想的なフィールドです。
1. 世界最大級の「貯留ポテンシャル」
オーストラリアは広大な土地に加え、かつてガスや石油を採掘していた後の「空の地層」が豊富にあります。
- 巨大な受け皿: 今回提携した南オーストラリア州のアーカリンガ盆地だけで、日本の年間排出量を上回る16億トン以上の貯留能力があるとされています。
- 安定した地層: 数千万年単位でガスを閉じ込めていた実績のある地層が多く、安全かつ確実にCO2を長期間貯留できます。
2. CCS(回収・貯留)に関する「先進的な規制」
オーストラリアは世界でもいち早くCCSに関する法整備を進めた国の一つです。
- 許可プロセスの確立: 地下にCO2を注入するための法的な権利関係や安全基準が明確になっており、スタートアップが事業化するためのハードルが日本より低いのが現状です。
- 政府の強力な後押し: 州政府・連邦政府ともに脱炭素技術を経済成長の柱としており、補助金や実証実験のサポートが充実しています。
3. 「カーボンクレジット」の巨大市場
オーストラリアには、CO2を削減・回収した分を価値(クレジット)として売買する仕組みが確立されています。
- 高品質なクレジット創出: 実際に大気中からCO2を取り除いて地下に埋めるDAC技術は、環境への貢献度が明確な「高品質クレジット」として高値で取引される傾向にあります。
- 日本企業への輸出: 豪州で埋めたCO2をクレジット化し、日本の排出企業に販売するという「脱炭素の貿易」のようなビジネスモデルが描きやすい環境です。
「技術は日本、場所と市場はオーストラリア」という役割分担です。日本発の優れたDAC技術を、最も効率よくビジネスとして稼働させ、地球規模のインパクトを出せる場所がオーストラリアだった、と言えます。

オーストラリアには広大なCO2貯留地があり、法整備や支援策も進んでいるからです。日本国内では難しい「回収したCO2を地中に埋める(CCS)」仕組みを、現地企業と組み大規模かつ早期に実現できるメリットがあります。
協業先の企業の特徴は
Planet Saversの主な協業先であるオーストラリア企業、Australian Carbon Vault(ACV社)には、以下の3つの大きな特徴があります。
1. 世界最大級の貯留ライセンスを保有
ACV社は、南オーストラリア州の「アーカリンガ盆地(Arckaringa Basin)」に、ウェールズ地方に匹敵する約1.8万平方キロメートルという広大なエリアの調査・貯留ライセンスを持っています。
- 貯留容量: 最大16億トン。これは日本のCO2排出量の約1.5年分以上に相当する圧倒的な規模です。
2. CCS(回収・貯留)に特化した専門企業
多くのCCSプロジェクトは、石油やガスの増産(EOR)を目的として行われることがありますが、ACV社は「CO2を永続的に地下へ埋めること」を唯一の目的とした、オーストラリア初の「ピュア・プレイ(専業)」企業を自負しています。
3. 革新的な「石炭層」への注入技術
通常のCCSは砂岩(隙間の多い岩石)にCO2を注入しますが、ACV社は石炭層(炭層)にCO2を吸着させる独自のアプローチも持っています。
- メリット: 砂岩層(深さ約800m)より浅い地層(約250m)でも貯留が可能なため、掘削コストを抑えた低コストな運営が期待されています。
ACV社は、豪州初のCO2貯留専業企業です。南豪州に16億トンの貯留が可能な広大な権利を保有しており、石炭層への注入という独自技術を用いて、低コストかつ大規模な永続的貯留を実現する役割を担っています。

協業先のAustralian Carbon Vault(ACV社)は、豪州初のCO2貯留(CCS)専業企業です。南豪州に16億トンの貯留が可能な世界最大級の権利を保有。石炭層への注入という独自技術により、低コストかつ大規模な永続的貯留を強みとしています。

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