この記事で分かること
- ダイシングソーとは:半導体製造の後工程で使用される超精密な切断装置です。シリコンウェーハやパッケージ基板上に多数作られた集積回路(IC)を、ダイヤモンドブレードを高速回転させ、一つひとつのチップ(ダイ)に高精度に切り分ける役割を持ちます。
- 角型に対応する理由:半導体パッケージの製造が、従来の円形ウェーハから長方形のパネル(PLP)へ移行しているためです。
ディスコのPLP向けダイシングソー
ディスコは以前からパネルレベルパッケージ(PLP)向けに大判ダイシングソー「DFD6310」(720mm × 610mmまで対応)をリリースしていましたが、さらに幅広い加工需要に応えるため、400mm角ワークまで対応可能なDFD6080を開発しています。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03415/120800001/?i_cid=nbpnxt_new_top_06
DFD6080は、現在の半導体パッケージの大型化、特にAI半導体などの先端後工程における生産性・歩留まり改善に貢献することが期待されています。
ダイシングソーとは何か
「ダイシングソー」とは、半導体や電子部品の製造工程において、基板上に形成された回路や部品を、一つひとつの小さなチップ(ダイ)に切り分けるために使用される超精密な切断機械のことです。
半導体製造の工程では、まずシリコンウェーハ と呼ばれる大きな円盤状の基板上に、何百から何万もの集積回路(IC)がまとめて作られます。この円盤状のウェーハから、個々のICチップを取り出す作業を「ダイシング(Dicing)」と呼び、そのために使われる装置がダイシングソーです。
ダイシングソーの主な仕組み(ブレードダイシング)
現在最も一般的に使われているのは、切削によって切り分けるブレードダイシング方式です。
- ブレード(砥石):
- 極薄の外周刃を持つ円形のダイヤモンドブレード(砥石)を使用します。ブレードは、工業用ダイヤモンドの粒を結合材で固めた構造になっています。
- このブレードを高速で回転させます。
- 切断(切削):
- ウェーハはチャックテーブルに固定され、ブレードの回転軸と直交するように移動します。
- ウェーハ上の、チップとチップの間の切断予定箇所(ストリートと呼ばれる)を高精度に切削します。
- 縦横に切断を行うことで、ウェーハ全体が小さな正方形や長方形のチップ(ダイス)に個片化されます。
- 冷却・洗浄:
- 切削時には、ブレードとウェーハの摩擦によって熱が発生し、また、削りかす(切削屑)が出ます。
- これらを冷却し、切削屑を洗い流すために、純水を噴射しながら切断が行われます。
なぜダイシングソーが必要か
ダイシングソーによる切断工程は、半導体製造の後工程において、最終的な製品の品質を左右する非常に重要な役割を担っています。
- 高精度な切断: チップの性能に影響を与えないよう、切断面の欠け(チッピング)を最小限に抑える必要があります。
- 微細化への対応: 半導体の集積化が進むにつれてチップサイズは小さくなり、切断幅(ストリート幅)も非常に狭くなっているため、ミクロン単位の高い位置決め精度が要求されます。
- 多種多様な材料: シリコンウェーハだけでなく、ガラス基板、化合物半導体(GaN、SiCなど)、パッケージ基板など、硬く脆い材料の切断にも対応します。
その他のダイシング方式
近年では、ブレードを使わないダイシング方式も実用化されています。
| 方式 | 概要 | 特徴 |
| ブレードダイシング | ダイヤモンドブレードで切削する。 | 最も一般的。量産向きでコスト効率が良い。 |
| レーザーアブレーション | 高エネルギーレーザーを表面に照射し、材料を蒸発・昇華させて切断する。 | 低負荷で加工でき、ブレードカスが出ない。 |
| ステルスダイシング | レーザーをウェーハ内部に集光して改質層を作り、外力を加えてチップを分割する。 | ウェーハ表面にダメージを与えず、加工屑が非常に少ない。極薄ウェーハの加工に適する。 |
ダイシングソーの主要なメーカーとしては、前述のディスコの他、東京精密(ACCRETECH)などが知られています。

ダイシングソーは、半導体製造の後工程で使用される超精密な切断装置です。シリコンウェーハやパッケージ基板上に多数作られた集積回路(IC)を、ダイヤモンドブレードを高速回転させ、一つひとつのチップ(ダイ)に高精度に切り分ける役割を持ちます。製品の品質と歩留まりに直結する重要な機械です。
ダイシングソーの大型化に必要な性能は何か
ダイシングソーを半導体パッケージの大型化に対応させるために必要とされる性能は、主に「切断能力」「加工精度」「生産性」の三つの側面で大きく進化が求められます。
特に、ディスコのDFD6080(400mm角対応)のような大型機では、従来のウェーハ用ダイシングソーにはない以下のような課題に対応する必要があります。
1. 大型ワークに対応する「機械の剛性と切断能力」
大型ワーク(基板)は重く、面積が広いため、加工中に安定性を保つための機械構造と、長距離を高精度で移動させるための駆動システムが必須となります。
- 高剛性の機械構造: 大型ワークを支え、切断時の振動やたわみを最小限に抑えるため、ベースとなるフレームやテーブル(チャックテーブル)の高い剛性が必要です。
- 高出力スピンドル: 切断長が長くなり、また、厚みのあるパッケージ基板や複合材を切断するためには、より高いトルクと出力を持つスピンドルが必要です(例:1.8kW、2.2kWなど)。これは、切断速度を維持し、安定した加工品質を保つ上で重要です。
- 高精度な長距離移動: 400mmのような長距離を、従来のミクロン単位の精度を保ったまま迅速に移動させるための、高精度なリニアモーターやエンコーダーを備えた駆動系の進化が不可欠です。
2. 大型でもブレない「加工精度の維持」
大型化すると、基板の反りや歪みが大きくなりやすく、また、切断長が長くなるため、起点から終点まで精度を維持することが技術的な難関となります。
- 高度なアライメント(位置合わせ): 大判ワークの反りや歪みを検知し、切断位置を正確に補正する高度な画像処理とアライメントシステムが必要です。切断ラインのズレ(カットライン精度)を従来の ±3μm 程度に保つ必要があります。
- 均一な切削条件: 切断開始から終了まで、ブレードの目詰まりを防ぎ、切削抵抗や冷却水の供給を安定させる機構(サブチャックテーブルでのインプロセス・ドレッシングなど)により、切断品質(チッピング幅など)の安定化が求められます。
3. 生産性を高める「自動化と効率」
大型パッケージは高価であるため、装置の停止時間を短縮し、歩留まりを最大化することが求められます。
- 大容量オートブレードチェンジャー (ABC): 長時間の連続運転や多種多様な切断条件に対応するため、ブレード交換時間を短縮し、多数のブレードをストックできる大容量のブレードストッカが必要です。
- 多枚貼り加工への対応: 複数のワークを重ねて一度に切断することで、装置の稼働率と生産性を向上させるための高精度なワーク供給・固定システムが求められます。
- 自動化とインターフェース: 大型ワークの搬入出の自動化、および、複雑な設定を直感的に行える操作インターフェース(例:大型タッチスクリーン)により、オペレーターの負担を軽減し、ミスを防ぎます。
大型ダイシングソーは、単に機械を大きくするだけでなく、上記の要素を総合的に高めることで、大型化する半導体後工程の需要に応えています。

大型化には、高剛性な機械構造と高出力スピンドルによる切断能力強化が必要です。また、大判ワークの歪みを補正し、長距離でもミクロン単位の加工精度を維持する性能と、大容量自動化による生産性向上が求められます。
ワークの個片化に用いることでなぜ生産性が向上するのか
パネルを分割した後の比較的小さなワーク(例:600mm角から4分割した300mm角のワーク)を、専用のダイシングソー(例:DFD6080やDFD6370)で個片化することで、装置の稼働効率と切断品質の両面から生産性が向上します。
1. 装置の最適化と高速化
- 装置構成の最適化(小型・高速化):
- 720mm × 610mmなどの超大型パネルを一気に切断できるダイシングソー(例:DFD6310)は、そのワークサイズに対応するため、機械全体が非常に大きく、テーブルの移動距離も長くなります。
- 一方、300mm角や400mm角にサイズを絞った装置は、よりコンパクトな設計が可能となり、テーブルの移動距離やスループット(単位時間当たりの処理量)を、そのサイズのワークに対して最適化できます。
- 結果として、個片化に特化した装置は、大型機で小さなワークを切るよりも、高い稼働率と高速な処理が可能になり、生産性が向上します。
- 多枚貼り加工によるスループット向上:
- 分割後のワークは、複数の枚数を重ねて一つの中サイズのフレームに固定し(多枚貼り)、一度のセットアップでまとめて切断する運用がしやすくなります。
- これにより、装置のワーク交換(段取り)時間が相対的に減り、実際に切断している時間(稼働時間)が増えるため、大幅なスループットの向上が見込めます。
2. 品質と歩留まりの安定化
- 大判ワークの歪み問題の軽減:
- パッケージ基板は、薄く面積が大きいほど、製造工程で反りや歪みが発生しやすくなります。
- パネルを分割することで、個々のワークの反りや歪みの絶対量を抑えることができ、ダイシングソーでの位置決め(アライメント)や切断がより正確になります。
- アライメントの精度が安定することで、切断ラインのズレやチッピング(欠け)が減り、歩留まり(良品率)が向上します。歩留まりの向上は、そのまま最終的な生産性の向上に直結します。
大型パネルのダイシングを、「大型機で一括切断する」か「大型機で分割した後、中型機で個片化する」かの選択は、生産ライン全体のバランスとコスト効率を考慮した結果です。
中型機(DFD6080など)を使う方が、個片化の工程単体で見たときに高い稼働効率と安定した歩留まりが得られ、トータルでコストと生産性に優位になるケースが多い、ということです。

装置を最適化し、高速化できるためです。分割ワークは小型機で多枚貼り加工が容易になり、段取り時間を減らせます。また、大判ワークの歪みが軽減され、切断精度が安定し、歩留まりが向上するためです。
角サイズに対応している理由
大型半導体パッケージ向けのダイシングソーが「400mm角」のような「角(かく)」のサイズに対応するのは、半導体パッケージの製造プロセスが、従来の円形のウェーハ方式から、長方形のパネル方式へ移行しているためです。
特に、AIや高性能コンピューティング(HPC)向けの半導体チップを搭載するパッケージの進化が背景にあります。
1. パネルレベルパッケージ (PLP) の採用
従来、半導体チップはシリコンウェーハ(円形)から作られていましたが、後工程のパッケージングにおいても、大判の長方形の基板(パネル) を用いる「パネルレベルパッケージ (Panel Level Package, PLP)」の採用が拡大しています。
- 円形から長方形への移行: 円形のウェーハよりも長方形のパネルのほうが、基板を無駄なく使用でき(面積効率の向上)、大量生産に適しているためです。
- 大型化の要求: パッケージ自体の面積が大きくなる傾向にあるため、基板のサイズも数百ミリ角へと拡大しています。
2. 製造プロセスの効率化(分割の標準サイズ)
製造効率を最適化するため、パネルは非常に大きなサイズ(例:600mm角、720mm × 610mmなど)で作製され、その後、取り扱いやすいサイズに分割されて次の工程へ送られます。
- 標準的な分割サイズ: 大型パネルをダイシングソーで切断する前に、ハンドリングしやすい標準的なサイズに分割します。その標準的なサイズが「300mm角」や「400mm角」といった角形(正方形)なのです。
- 装置の最適化: 400mm角対応のダイシングソー(DFD6080)は、この分割されたワーク(パネル)を、最終的な個々のチップに効率よく切り分けるために専用設計されています。
3. 生産性のバランス
先に述べたように、超大型機で小さなチップを個片化するよりも、分割された400mm角のワークを中型機で多枚貼りして切断するほうが、トータルの生産性や歩留まりが向上するため、この「400mm角」のような標準サイズのワークに対応することが重要になっています。
「400mm角に対応」というのは、パネルレベルパッケージの製造工程で標準的に扱われるワークサイズに対応することで、生産ライン全体の効率と歩留まりを最適化するための戦略的な仕様と言えます。

半導体パッケージの製造が、従来の円形ウェーハから長方形のパネル(PLP)へ移行しているためです。パネルは無駄なく使える一方、大きすぎるため、効率化のために300mm角や400mm角といった標準サイズに分割して個片化するからです。

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