電子部品:パワーインダクタ パワーインダクタの役割は何か?DC-DCコンバータとは何か?

この記事で分かること

  • パワーインダクタの役割:DC-DCコンバータなど電源回路で使われるコイルです。電気エネルギーを一時的に磁気エネルギーとして蓄え、放出することで電圧を変換したり、電流を平滑化する役割を持ちます。
  • DC-DCコンバータとは:直流(DC)の電圧を別の直流電圧に変換する装置です。バッテリーなどの電源電圧を、各電子部品が要求する異なる電圧に効率よく変換・安定供給する役割を持ちます。
  • パワーインダクタに使用されるコイルの種類:主に巻線タイプと積層タイプの形状が使われます。大電流を扱うため、磁気飽和を防ぎ、効率よくインダクタンスを得る目的で、ほとんどの製品にフェライトや金属磁性体などのコアが使用されています。

パワーインダクタ

 日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/7c65f370b3f25f662f603f1b6f59d590fba4cd46

 日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。

 今回は受動部品であるパワーインダクタについての記事となります。

パワーインダクタとは何か

 パワーインダクタは、DC-DCコンバータのような電源回路で使われるインダクタ(コイル)の一種です。特に、高い電流を扱えるように設計されている点が特徴です。

主な役割と機能

パワーインダクタの主な役割は、電気エネルギーを一時的に磁気エネルギーとして蓄積し、放出することです。これにより、電圧を安定させたり、必要な電圧に変換したりするDC-DCコンバータの機能を実現します。

  • 電圧変換: 昇圧型や降圧型のDC-DCコンバータ回路において、パワーインダクタはスイッチング素子と連携して電流を制御し、入力電圧を目的の出力電圧に変換します。
  • 平滑化: パルス状の電流をなだらかにし、より安定した直流電流に近づける働きをします。

高い電流に耐える設計

 パワーインダクタは、大電流が流れても磁気飽和を起こしにくいように設計されています。磁気飽和とは、コア材がこれ以上磁化できなくなり、インダクタンスが急激に低下する現象です。これが起きると、電流が制御できなくなり、回路が不安定になったり、部品が破損したりする可能性があります。

 この問題を避けるため、パワーインダクタには、高い飽和磁束密度を持つ金属磁性体コアや、太い導線が使われることが多いです。

主な用途

 パワーインダクタは、スマートフォン、パソコン、自動車のECU(電子制御ユニット)、サーバー、家電製品など、幅広い電子機器の電源回路で不可欠な部品です。特に、機器の小型化や高効率化が進むにつれて、小型で大電流に対応できるパワーインダクタの重要性が増しています。

パワーインダクタは、DC-DCコンバータなど電源回路で使われるコイルです。電気エネルギーを一時的に磁気エネルギーとして蓄え、放出することで電圧を変換したり、電流を平滑化する役割を持ちます。高い電流に耐えるよう、磁気飽和が起きにくい構造が特徴です。

DC-DCコンバータとは何か

 DC-DCコンバータとは、直流(DC)の電圧を別の直流の電圧に変換する装置のことです。たとえば、バッテリーの電圧を、パソコンやスマートフォンの各部品が必要とする異なる電圧に変換し、安定して供給する役割を担います。


なぜDC-DCコンバータが必要なのか?

 多くの電子機器には、様々な電圧で動作する部品が搭載されています。たとえば、CPUは低電圧、メモリは中電圧、ディスプレイは高電圧といったように、それぞれ異なる電圧を必要とします。

 DC-DCコンバータは、バッテリーやACアダプタから供給される単一の直流電圧を、各部品が要求する複数の異なる直流電圧に変換し、安定させる役割を果たします。これにより、機器の誤動作や故障を防ぎます。

 また、高効率な変換はバッテリーの持ちを良くし、発熱を抑えるため、モバイル機器の小型化や省電力化にも不可欠です。

主な方式

 DC-DCコンバータには、主に2つの方式があります。

1. スイッチングレギュレータ方式

 インダクタやコンデンサを用いて、高速にON/OFFを繰り返すことで電圧を変換します。この方式は、エネルギーを蓄積・放出するコイルの性質を利用するため、変換効率が非常に高いのが特徴です。そのため、スマートフォンやパソコンなど、電力効率が重視される多くの機器で採用されています。

2. リニアレギュレータ方式

 入力された電圧を、余分な電圧を熱として放出することで目的の電圧まで下げます。回路がシンプルでノイズが少ないというメリットがありますが、効率が悪く、発熱が大きいため、大電流を扱う回路には不向きです。

種類

 DC-DCコンバータは、電圧を上げるか下げるかによって以下のように分類されます。

  • 降圧型 (Buck): 入力電圧より低い出力電圧に変換します。
  • 昇圧型 (Boost): 入力電圧より高い出力電圧に変換します。
  • 昇降圧型 (Buck-Boost): 入力電圧より高い、または低い出力電圧に変換します。

DC-DCコンバータとは、直流(DC)の電圧を別の直流電圧に変換する装置です。バッテリーなどの電源電圧を、各電子部品が要求する異なる電圧に効率よく変換・安定供給する役割を持ちます。スマートフォンやパソコンの電源回路に不可欠な部品です。

パワーインダクタにはどのようなコイルが使用されるのか

 パワーインダクタには、主に巻線タイプ積層タイプの2つの形状が使用されます。また、大電流を扱うため、ほとんどの場合にコア(磁性体)があります。


パワーインダクタの形状

  • 巻線タイプ: 最も一般的な形状で、フェライトや金属磁性体などのコアに導線を直接巻き付けて作られます。円筒形や角柱形など、さまざまな形状があり、高いインダクタンス値を必要とする用途に適しています。
  • 積層タイプ: 薄い磁性体シートと導体パターンを交互に何層も重ねて焼き固めることで作られます。小型で、高周波特性に優れているため、小型化が求められるモバイル機器などに多く使われています。

コアの有無とその役割

 パワーインダクタは、DC-DCコンバータなどで大電流を扱うため、インダクタンスを大きくして電流の変化を効率よく抑える必要があります。このため、コア(鉄心)を持つのが一般的です。

  • コアの材料: 主にフェライト金属磁性体が使われます。フェライトは高周波での損失が少ない一方、金属磁性体は磁気飽和が起きにくく、より高い電流を流すことができます。
  • コアの役割: コアは、コイルが作る磁束(磁力線)を効率的に集め、インダクタンスを飛躍的に高める役割を果たします。これにより、同じサイズでも空芯コイルよりはるかに大きなインダクタンスを実現できます。

 空芯コイルも存在しますが、パワーインダクタのような大電流・高インダクタンスが必要な用途では、ほとんど使われることはありません。

パワーインダクタには、主に巻線タイプ積層タイプの形状が使われます。大電流を扱うため、磁気飽和を防ぎ、効率よくインダクタンスを得る目的で、ほとんどの製品にフェライト金属磁性体などのコアが使用されています。

パワーインダクタの有力メーカーはどこか

 パワーインダクタの有力メーカーは、主に日本の電子部品大手企業が市場を牽引しています。これらのメーカーは、高い技術力と幅広い製品ラインナップで世界中の電子機器メーカーに部品を供給しています。


日本の主要メーカー

  • 村田製作所: 積層セラミックコンデンサで培った技術力を活かし、積層タイプのパワーインダクタで高いシェアを持っています。スマートフォンなど、小型・高効率が求められる分野に強みがあります。
  • TDK: 磁性材料技術に強みがあり、高性能なフェライトコアを使用したパワーインダクタを幅広く提供しています。車載用など、高信頼性が要求される分野でも存在感があります。
  • 太陽誘電: 積層インダクタの分野で高い技術力を誇り、「MCOIL®」などのブランドで知られています。小型化と大電流対応を両立させた製品が特徴です。
  • パナソニック インダストリー: 車載用や民生用など、多岐にわたる用途向けのパワーインダクタを製造しています。

その他の有力メーカー

 日本以外にも、パワーインダクタの分野で存在感を示す企業は多数あります。

  • Coilcraft (アメリカ): 高周波・無線通信分野向けのインダクタで知られるメーカーですが、パワーインダクタも手掛けています。
  • Vishay (アメリカ): 幅広い受動部品を製造しており、パワーインダクタもその主要製品の一つです。
  • Chilisin Electronics (台湾): パワーインダクタを中心に、幅広いコイル製品を生産しています。

 これらのメーカーは、モバイル機器、自動車、産業機器など、様々な市場の要求に応じて、小型化・高効率・大電流対応といった技術開発を進めています。

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