製紙用パルプの価格推移 製紙用パルプとは何か?価格下落と減産を決めた理由は何か?

この記事で分かること

  • 製紙用パルプとは:紙の主原料となる植物繊維の集合体です。木材や古紙などを、化学的・機械的な方法で処理して作られます。
  • 価格下落の理由:デジタル化による需要減や世界経済の減速、供給過剰が原因です。
  • 減産を決めた理由:企業は価格のさらなる下落を防ぎ、収益を確保するため減産を決めました。減産により、需給バランスの改善と在庫の適正化を図る狙いです。

製紙用パルプの価格推移

 製紙用パルプの価格は、近年、需要の減速や供給過剰によって下落傾向にありましたが、海外の大手メーカーが減産を発表したことで、価格下落にブレーキがかかっている状況です。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB081BR0Y5A800C2000000/

 製紙用パルプの価格は、海外大手の減産発表を機に、新たな局面を迎えていると言えるでしょう。

製紙用パルプとは何か

 製紙用パルプは、紙を作るための主原料となる、植物繊維の集合体です。木材や草などの植物から、化学的または機械的な方法で、セルロース繊維を取り出して作られます。

パルプには、主に以下の種類があります。

1. 原料による分類

  • 木材パルプ: 針葉樹(松、杉など)や広葉樹(ユーカリ、ポプラなど)を原料とするパルプです。針葉樹は繊維が長く丈夫な紙に、広葉樹は繊維が短く表面が滑らかな紙に適しています。
  • 非木材パルプ: サトウキビの搾りかす(バガス)、竹、ケナフなどを原料とするパルプです。
  • 古紙パルプ: 回収された古紙からインクなどを取り除いて再利用したパルプです。環境保護や資源の有効活用という観点から、近年重要視されています。

2. 製造方法による分類

  • 化学パルプ: 木材チップを薬品で煮て、繊維間の接着剤であるリグニンなどを溶かし、純粋なセルロース繊維を取り出す方法です。繊維が長く絡みやすいため、強度のある紙ができます。代表的なものにクラフトパルプ(KP)があります。
  • 機械パルプ: 木材を機械ですりつぶして繊維を取り出す方法です。繊維は剛直で、リグニンが多く含まれるため、新聞用紙や更紙などの下級紙に使われることが多いです。

 製紙用パルプは、これらの原料や製法によって、異なる特性を持つため、用途に応じて使い分けられています。

製紙用パルプは、紙の主原料となる植物繊維の集合体です。木材や古紙などを、化学的・機械的な方法で処理して作られます。原料や製法によって特性が異なり、用途に応じて使い分けられます。

価格下落の理由と減産を決めた理由は

 製紙用パルプの価格下落と、それに伴う海外大手の減産決定には、主に需要と供給の両面から複数の要因が絡み合っています。

価格下落の理由

 価格下落の背景には、世界的な需要の減少と供給過剰という、市場の基本的な需給バランスの悪化があります。

  • デジタル化の進展による需要の低迷: 新聞や雑誌などの出版物が電子媒体に移行し、印刷用紙の需要が世界的に減少しています。また、リモートワークの普及により、コピー用紙の使用量も減りました。
  • 世界経済の減速: グローバルな景気減速により、紙製品全体の需要が伸び悩んでいます。特に、中国をはじめとする主要な消費国での需要が鈍化していることが大きな影響を与えました。
  • 供給能力の増強: 南米などでパルプ生産能力が増強された結果、市場に供給されるパルプの量が増加し、供給過剰の状態となりました。

減産を決めた理由

価格下落が続く中で、大手パルプメーカーは市場の安定化と自社の収益確保のために減産に踏み切りました。

  • 在庫調整: 需要の減少により増加した在庫を削減するためにも、生産量を調整する必要がありました。減産は、過剰な在庫を減らすための有効な手段です。
  • 価格維持・反転: 供給量を減らすことで、パルプの需給バランスを引き締め、下落していた価格に歯止めをかけ、上昇に転じさせることを目的としています。
  • 収益の改善: 価格が下落した状態で生産を続けても利益が見込めません。減産により、市場の価格を適正な水準に戻し、企業の収益性を改善させることが狙いです。

価格下落は、デジタル化による需要減と供給過剰が原因です。これを受け、企業は価格のさらなる下落を防ぎ、収益を確保するため減産を決めました。減産により、需給バランスの改善と在庫の適正化を図る狙いです。

なぜ、薬品でセルロースだけを抽出できるのか

 薬品で木材からセルロースだけを抽出できるのは、木材を構成する成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)が、それぞれ異なる化学的性質を持っているためです。化学パルプの製造では、この性質の違いを利用して、特定の薬品でリグニンとヘミセルロースだけを溶かし、セルロースを傷つけずに取り出します。

木材の主成分の役割と化学的性質

 木材は、鉄筋コンクリートのような構造をしており、各成分が異なる役割を担っています。

  • セルロース: 木材の骨格となる「鉄筋」のような役割で、強度を支える主成分です。グルコースという糖が多数つながった非常に安定した高分子です。化学的に安定しているため、酸やアルカリに対する耐性が高いのが特徴です。
  • ヘミセルロース: セルロース繊維を束ねる「針金」のような役割です。セルロースと同じく糖類ですが、構造が不均一で、セルロースよりも化学薬品で分解されやすい性質があります。
  • リグニン: セルロースとヘミセルロースの隙間を埋める「コンクリート」のような役割で、木材を硬くしています。芳香族化合物が複雑に結合した網目構造を持ち、化学薬品と反応しやすいという性質があります。

薬品による選択的分解の仕組み

 化学パルプの製造では、主にクラフト法亜硫酸法が用いられますが、これらの方法では、リグニンが薬品と反応しやすいという性質を利用しています。

 クラフト法の場合、アルカリ性の薬品(水酸化ナトリウムや硫化ナトリウム)で高温・高圧にすることで、リグニンは薬品と反応して分解され、水に溶け出します。このとき、比較的安定なセルロースはほとんど溶け出さず、繊維のまま残ります。

 この選択的な分解により、紙の原料として必要なセルロース繊維だけを効率的に取り出すことができるのです。

木材は、薬品と反応しやすいリグニンと、安定したセルロースでできています。化学パルプ法では、この性質の違いを利用し、薬品でリグニンだけを溶かして、セルロース繊維を取り出します。

製紙用パルプから紙はどのように作られるのか

 製紙用パルプから紙を作る工程は、主に以下のステップで構成されています。

1. パルプの準備

まず、乾燥したパルプを水と混ぜて繊維をほぐし、パルプスラリーと呼ばれるドロドロの液体状にします。必要に応じて、紙の強度を高めるための薬品(サイズ剤)や、色を白くする染料(蛍光染料)などが加えられます。


2. シートの形成

 パルプスラリーを、抄紙機という機械のワイヤーネットの上に均一に流し込みます。水分はワイヤーネットの網目から下へ落ち、パルプ繊維がワイヤーネットの上で絡み合い、薄いシート状になります。これが「紙の元」です。


3. 脱水と乾燥

 シート状になった紙の元を、プレスロールというローラーで強く挟み、さらに水分を絞り出します。その後、熱した乾燥ドラムに通して水分を完全に蒸発させ、紙を固く丈夫にします。


4. 仕上げ

 乾燥した紙は、ロールに巻き取られます。この後、表面を滑らかにするためのコーティングや、光沢を出すための加工などが施され、用途に合わせたサイズに裁断されて製品となります。

製紙用パルプは水と混ぜて繊維をほぐし、ワイヤーネットに流し込んでシート状にします。その後、脱水・乾燥・仕上げ工程を経て、私たちが使う紙へと加工されます。

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