この記事で分かること
- 実験の内容:アマゾン熱帯雨林の一部に屋根を設置し、降水量を約50%遮断して人為的に干ばつ状態を作り出す長期実験です。樹木の枯死率や炭素吸収の変化を測定し、気候変動による乾燥化への耐性を調査しています。
- 結果の概要:干ばつにより大きな樹木が大量に枯死し、森林の炭素貯蔵量(バイオマス)が大幅に減少しました。森林はCO2吸収源から放出源に転換する危険性を示しました。
- 熱帯雨林で実験を行う理由:熱帯雨林は地球最大の炭素吸収源です。そのため、干ばつで樹木が枯死すると、CO2を放出し気候変動を加速させるため熱帯雨林で実験を行っています。
熱帯雨林の降水量遮断実験
森林の一部に透明なプラスチックパネルなどを設置し、降水量の約50%を遮断して、人為的に干ばつ状態を作り出すという手法によって、地球温暖化による降水量減少や干ばつが、アマゾン熱帯雨林の生態系にどのような影響を与えるかを予測する実験が行われています。
https://jp.reuters.com/world/environment/BVE73BP5XBKZHE5TW2ECGURYSI-2025-11-08/
実験の内容は何か
「人工干ばつ」実験の最も重要な内容(方法)は、森林の一部に雨が届くのを物理的に遮断することです。これにより、将来の気候変動下で予想される極端な乾燥状態を人為的に再現し、その生態系への影響を詳細に調査します。
実験方法の核心
1. 降雨の物理的遮断
- 設置物: 森林の特定区画(プロット)の上部に、透明なプラスチックまたは金属のパネル(屋根)を設置します。
- 遮断率: 一般的に、この屋根により年間降水量の約50%(あるいはそれ以上)を遮断します。
- 目的: 遮断された雨水は区画の外に流れ出るように設計されており、降水量の減少が森林の生態系に与える影響を直接的に観察します。
2. 長期間の継続的なモニタリング
この実験の重要な特徴は、その長期的な継続性です。例えば、ブラジルのカシウアナ国立森林で行われた初期の実験は15年以上にわたりデータを収集し続けています。
調査・測定項目
人工干ばつ区画では、乾燥ストレスに対する森林の応答を理解するために、多岐にわたる項目が測定されます。
| 分野 | 調査・測定項目 | 内容 |
| 樹木の応答 | 枯死率、成長率 | どのサイズの樹木が最も枯れやすいか、生き残った樹木の成長速度の変化。 |
| 樹液の流れ(サップフロー) | 水分吸収と蒸散の速度の変化。 | |
| 葉の生理学的ストレス | 葉の水分ポテンシャル、光合成速度、炭素固定能力。 | |
| 生態系構造 | バイオマス(植生量) | 樹木や植物全体の乾重量。炭素蓄積量の変化を把握。 |
| リターフォール(落葉量) | 枯死や乾燥ストレスによる落葉・落枝の量の変化。 | |
| 水・炭素循環 | 土壌水分量 | 土壌の深さごとの水分レベルの変化と、樹木の水分利用パターン。 |
| CO2フラックス(交換) | 森林が二酸化炭素を吸収しているか(シンク)、排出しているか(ソース)の変化。 |
この実験は、アマゾンが「限界点」(ティッピング・ポイント)に達した場合に、生態系がどのように反応し、地球全体の気候変動にどの程度影響を与えるかを予測するための決定的なデータを提供しています。

アマゾン熱帯雨林の一部に屋根を設置し、降水量を約50%遮断して人為的に干ばつ状態を作り出す長期実験です。樹木の枯死率や炭素吸収の変化を測定し、気候変動による乾燥化への耐性を調査しています。
どのような結果となったのか
アマゾン熱帯雨林での人工干ばつ実験の主要な結果は、森林の構造が変化し、炭素を吸収する能力が大きく低下することとなっています。
主な実験結果の要点
1. 大規模な樹木の枯死とバイオマスの減少
- 初期の枯死: 実験によって人工的に干ばつ状態が作られると、特に幹の太い大きな樹木(巨木)が大量に枯死しました。これらの大きな樹木は、水ストレスに対する耐性が低いことが示されました。
- バイオマス減少: 樹木の枯死により、実験区画内のバイオマス(植生量)と貯蔵されていた炭素量が大きく減少しました(一部の長期実験では40%近く減少した例もあります)。
2. 森林の炭素吸収源としての機能の低下
- 「炭素のシンク」から「ソース」へ: 健全な熱帯雨林は空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する「炭素のシンク(吸収源)」ですが、干ばつによる樹木の枯死と分解により、CO2 を放出する「ソース(排出源)」へと一時的または恒久的に転換しました。
- 回復後の安定化: 枯死を経て生き残った樹木群は、新しい乾燥環境に構造的に適応する兆候を見せ、バイオマス減少の速度は安定しました。しかし、元の森林よりも炭素を貯蔵する能力は低下した状態が続いています。
3. 適応と限界点(ティッピング・ポイント)の示唆
- 構造変化: 森林は、大きな樹木が失われ、より小さな乾燥耐性のある樹木が優勢になることで、新しい気候に適応した構造に変化します。
- 限界点: この実験は、将来の気候変動による乾燥化が、アマゾンの回復力を低下させ、「限界点」(森林が回復不能な状態で大規模に衰退し始める閾値)に近づいている可能性を示唆しています。研究では、アマゾンの3分の1以上がすでに干ばつからの回復に困難を抱えているという懸念が示されています。
この実験結果は、地球温暖化対策として化石燃料燃焼と森林破壊を抑制することの緊急性を強く裏付けています。

実験の結果、干ばつにより大きな樹木が大量に枯死し、森林の炭素貯蔵量(バイオマス)が大幅に減少しました。森林はCO2吸収源から放出源に転換する危険性を示しました。
なぜ、熱帯雨林で試験を行うのか
熱帯雨林、特にアマゾンで人工干ばつ実験を行う最大の理由は、地球規模の気候システムの安定性にとって、その生態系が極めて重要であるためです。
熱帯雨林が干ばつによって受ける影響を正確に理解することは、地球の未来を予測し、対策を講じる上で不可欠です。
実験を行う主要な理由
1. 地球最大の「炭素吸収源(カーボンシンク)」であるため
アマゾン熱帯雨林は、世界中の森林の中でも最も大量の二酸化炭素を吸収・貯蔵しています。
- 貯蔵量: アマゾンには、地球温暖化を加速させる CO2が数十億トンも貯蔵されています。
- 懸念: もし干ばつが頻発し、多くの樹木が枯死すると、森林は CO2を吸収する「シンク」から、枯れた木が分解されることで CO2を放出する「ソース(排出源)」へと転換してしまいます。
- 目的: この「炭素放出」がいつ、どの程度の乾燥で発生し始めるのかという限界点(ティッピング・ポイント)を正確に把握する必要があります。
2. 熱帯雨林の適応能力と限界の調査
熱帯雨林の樹木は、年間を通じて降水量が多い環境で進化してきたため、乾燥ストレスに弱いと考えられています。
- 脆弱性: 東南アジアなど他の地域の熱帯雨林での過去の大干ばつ(例:1997年のエルニーニョ現象に伴う干ばつ)では、巨大高木の大量枯死が確認されています。
- 目的: 人為的に乾燥状態を再現することで、樹種やサイズごとの乾燥耐性や、新たな環境に順化(適応)できる閾値を定量的に評価できます。
3. 将来の気候変動予測の精度向上
気候変動のモデル予測では、アマゾン地域で干ばつの強度と頻度が増加すると予想されています。
- モデルの検証: 現実の生態系がどの程度の乾燥にどのように反応するかという実験データは、コンピューターモデルによる将来予測の不確実性を減らし、精度を大幅に向上させるための貴重な情報となります。
- 政策への反映: 信頼性の高い予測は、各国政府が森林保護や気候変動対策の国際的な政策を立案する上での科学的根拠となります。
熱帯雨林での干ばつ実験は、「地球の気候システムを維持する上で最も重要な生態系の一つ」が、「将来の気候変動による最大の脅威」にどのように応答するかを理解するために、極めて重要なのです。

熱帯雨林は地球最大の炭素吸収源です。そのため、干ばつで樹木が枯死すると、CO2を放出し気候変動を加速させるため、乾燥耐性の限界点を知り、将来予測と対策に役立てるためです。
地球の温暖化で干ばつが起きる理由は何か
地球温暖化が干ばつを引き起こす主な理由は、「蒸発量の増加」と「降雨パターンの変化」の二つのメカニズムが複合的に作用するためです。
干ばつとは、単に雨が降らないことだけでなく、「水の需要(蒸発量など)に対して、水の供給(降水量)が不足する状態」を指します。
1. 蒸発量の増加(水分の喪失)
気温が上昇すると、地表面や植物からの水の蒸発が加速します。これは、「水の需要」を高める要因です。
- 蒸発散量の増大:
- 気温が上がると、土壌の水分や河川・湖沼の水がより速く蒸発します。
- 植物からの蒸散(葉からの水蒸気の放出)も増加します。
- この結果、同じ降水量があっても、地表の乾燥が急速に進み、土壌の水分が不足しやすくなります。
- 融雪の早期化:
- 高山や高緯度地域では、温暖化により春の雪解けが早まります。
- これにより、夏場の水の供給源となるはずだった雪解け水が早く流れ去ってしまい、夏季に水不足(水文学的干ばつ)が発生しやすくなります。
2. 降雨パターンの変化(水分の供給不足)
温暖化は、地球全体の大気循環を変化させ、特定の地域で降水量が減少したり、降雨の集中化を引き起こしたりします。これは、「水の供給」を不安定にする要因です。
- 降雨の局地化・極端化:
- 温暖な空気はより多くの水蒸気を含むことができます(飽和水蒸気量が上昇)。
- これにより、雨が降るときは短時間で非常に強い豪雨となる傾向が強まります。
- 一方で、弱い雨が降る頻度が減り、降雨と降雨の間の乾燥期間が長期化する地域が増えます。この長期間の降水不足が干ばつを引き起こします。
- 大気循環の変化:
- 地球の熱バランスが変化することで、雨をもたらす気圧配置や気流のパターン(例:ジェット気流、ハドレー循環)が変わり、特定の地域に雨が降りにくくなることがあります。
- 亜熱帯高圧帯の拡大なども、中緯度地域で乾燥地域を広げる一因となります。
温暖化は単に一部地域で雨を増やすだけでなく、水の蒸発を増やし、降水量の分布を極端にすることで、世界中のより広い地域で干ばつのリスクと強度を増大させています。

気温上昇で蒸発量が増加し、土壌が乾燥します。また、大気循環の変化で降雨パターンが不安定化し、降らない期間が長期化するため、干ばつリスクが高まります。

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