有機EL市場の急成長 有機ELとは何か?急成長の理由は何か?

この記事で分かること

  • 有機ELとは:特定の有機化合物に電圧をかけると自ら光る現象(エレクトロルミネッセンス)を利用した発光素子です。バックライト不要の自発光式で、高コントラストな黒と薄型・軽量化を実現します。
  • 有機EL市場の急成長の理由:高コントラスト・薄型軽量・フレキシブルという優れた特性で、スマホ、ハイエンドTVでの採用が拡大します。

有機EL市場の急成長

 有機EL(OLED)市場は、2035年までに2,371億米ドル規模へ拡大するという予測が複数の調査会社から示されており、今後大きな成長が見込まれています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/15/news033.html

 年平均成長率約13.7%と今後10年間で急速に拡大することを示唆しています。

有機ELとは何か

 有機ELは、「有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro-Luminescence)」の略称です。特定の有機化合物に電圧をかけると、その有機物自体が光を放つ現象、あるいはその現象を利用した発光素子やディスプレイ技術全般を指します。

 海外では、この発光素子をOLED(Organic Light Emitting Diode:有機発光ダイオード)と呼ぶのが一般的です。

発光の仕組み(動作原理)

 有機EL素子の基本的な構造は、電極で挟まれた非常に薄い有機層(発光層を含む)からなるサンドイッチ構造をしています。

  1. 電荷の注入:
    • 透明な陽極(アノード)から正孔(ホール)が、陰極(カソード)から電子が有機層へ注入されます。
    • このとき、正孔は正孔輸送層、電子は電子輸送層を通って発光層へ向かいます。
  2. 再結合と励起:
    • 発光層で、注入された電子(マイナス)正孔(プラス)が再結合します。
    • この再結合により、有機分子がエネルギーの高い励起(れいき)状態に変化します。
  3. 発光:
    • 励起状態の有機分子が、元の安定した状態(基底状態)に戻るとき、余分なエネルギーをとして放出します。これが有機ELの発光の仕組みです。

 発光層に用いる有機材料の種類を変えることで、光の三原色(赤、緑、青)を作り出すことができ、これらを組み合わせて様々な色を表現します。

有機ELディスプレイの主な特長

 有機ELは、従来の液晶ディスプレイ(LCD)と比べて、画期的な利点を持っています。

特徴有機EL(OLED)液晶ディスプレイ(LCD)
発光方式自発光式(素子そのものが光る)バックライト式(液晶を後ろから照らす)
コントラスト高い(完全な黒を表現できる)バックライトの光漏れにより黒が引き締まりにくい
薄型化・軽量化可能(バックライト不要のため)バックライトや導光板が必要なため限界がある
応答速度速い(残像感の少ない滑らかな映像)液晶分子の動きに時間がかかるため、有機ELより遅い
視野角広い(斜めから見ても色や明るさの変化が少ない)光を遮断するため、斜めから見ると変化しやすい

 主に「完全な黒の表現力(高コントラスト)」と「薄型・軽量化」が大きな強みであり、スマートフォン、テレビ、PCモニター、ウェアラブルデバイスなど、幅広い分野で採用が拡大しています。

特定の有機化合物に電圧をかけると自ら光る現象(エレクトロルミネッセンス)を利用した発光素子です。バックライト不要の自発光式で、高コントラストな黒と薄型・軽量化を実現し、スマートフォンやテレビなどに使われています。

有機ELが発光する際の色はどのように決まるのか

 有機EL(OLED)がどのような色で発光するかは、主に発光層に使用される有機材料の種類によって決まります。

 発光層の有機分子が、電気エネルギー(電子と正孔の再結合エネルギー)を受け取って励起状態になり、元の安定な状態に戻る際に光を放出しますが、この放出される光の波長が、その有機分子固有の性質によって決まっているためです。

1. 光の三原色(RGB)

 有機ELディスプレイでフルカラー表示を行う基本は、光の三原色である赤(Red)緑(Green)、青(Blue)の3色の発光素子(画素)を並べることです。

  • 赤色発光: 特定の赤色発光有機材料を発光層に用いる。
  • 緑色発光: 特定の緑色発光有機材料を発光層に用いる。
  • 青色発光: 特定の青色発光有機材料を発光層に用いる。

 この3色の光の明るさ(光量)を画素ごとに個別に調節し、混ぜ合わせることで、人間が知覚できるほとんどすべての中間色を再現しています。

2. 有機材料と発光波長の関係

 発光層に使用される有機材料は、その分子の構造によって電子が取り得るエネルギー準位が異なります。

電子と正孔が再結合して発光する際、放出される光のエネルギー E は、電子が移動するエネルギー準位の差 ΔE に等しくなります。

 ΔE = Ephoton =hν =hc/λ

ここで、

  • Ephoton 光のエネルギー
  • h:プランク定数
  • ν:光の振動数
  • c:光速
  • λ:光の波長(色を決める要素)

 発光層の有機材料を設計し直すことで ΔE(エネルギー差)を制御し、結果として特定の波長 λ(色)の光を効率よく取り出すことができます。

材料の種類主な発光色特徴
青色材料波長の短い色の光を放出最も開発が難しいとされる色の一つ。
緑色材料中間の波長の色の光を放出効率や寿命の面で比較的有利とされる。
赤色材料波長の長い色の光を放出

3. カラー化の方式(補足)

 フルカラー有機ELディスプレイの実現には、主に以下の2つの方式があります。

  • RGB塗り分け方式(RGB蒸着方式):
    • 赤、緑、青の3色の発光材料をそれぞれ精密に塗り分けて画素を形成する、最も原理的な方式です。小型・高精細ディスプレイに多く採用されます。
  • 白色EL+カラーフィルター方式:
    • 白色に発光する有機EL素子をまず作り、その上に液晶ディスプレイで使われるようなカラーフィルター(赤、緑、青)を載せて色を出す方式です。大型テレビなどで採用されることがあります。

 有機ELの発光色を決めるのは、発光層に何という分子設計の有機材料を使うか、ということです。どの色も重要ですが、特に青色発光材料は、効率と長寿命化の両立が最も難しい技術課題とされています。

発光層に用いる有機材料の種類で決まります。有機分子固有のエネルギー準位の差によって放出される光の波長が異なり、これが色として見えます。赤・緑・青の三原色を混ぜてフルカラーを実現します。

有機EL市場拡大の理由は何か

 有機EL(OLED)市場が2035年までに2,371億米ドル規模へ拡大すると予測される主な理由は、その優れたディスプレイ特性と、それによる応用分野の劇的な広がりにあります。市場拡大を牽引する主要な要因は以下の通りです。


1. 主要な民生機器での採用拡大

 OLEDの持つ「自発光による高コントラスト」「薄型・軽量」という特性が、以下のデバイスでプレミアム製品としての需要を高めています。

  • スマートフォン/タブレット: 高精細化、高リフレッシュレート化が進み、特にAMOLED(アクティブマトリックス有機EL)の採用が引き続き市場を牽引しています。
  • 大型テレビ: 高価格帯のプレミアムTV市場において、完全な黒を表現できるOLEDの高画質が評価され、シェアを拡大しています。
  • ゲーミング/AR・VR機器: 応答速度の速さ(残像感のなさ)と高輝度が求められるVRヘッドセットやゲーミングモニターでの採用が増加しています。

2. フレキシブル(曲げられる)技術による新規需要

 有機ELは、柔軟性のある基板に形成できるため、従来の硬いディスプレイでは不可能だった応用を実現し、新たな市場を創造しています。

  • 折りたたみ式スマートフォン: 柔軟なOLEDパネルによって実現された製品であり、新しいデバイスカテゴリとして需要を創出しています。
  • ウェアラブルデバイス: スマートウォッチなど、人体に沿う曲面ディスプレイのニーズに対応しています。
  • ローラブル/シースルーディスプレイ: 巻き取り可能なテレビや、透明な窓としても機能するシースルーディスプレイなど、革新的な製品開発が進んでいます。

3. 新規応用分野への展開(特に車載市場)

 民生機器以外でも、OLEDの特性が活かされる分野が急速に立ち上がっています。

  • 自動車用途(車載ディスプレイ):
    • 広い視野角、高い応答性、デザインの自由度(異形や曲面対応)が評価され、インストルメントクラスターやインフォテインメントシステムへの採用が急増しています。
    • 自動車の電動化とユーザーエクスペリエンス(UX)の向上要求が、この分野の大きな成長ドライバーとなっています。
  • 医療・ヘルスケア: 軽量・薄型であることから、センサーや医療用パッチ照明など、特殊用途での応用も期待されています。

4. 生産技術の進化と市場競争

  • 歩留まりの改善とコスト効率化: 製造技術の進化(蒸着技術、印刷技術など)により、製造コストの低減と生産効率の向上が進み、より幅広い価格帯の製品へのOLED搭載が可能になりつつあります。
  • 投資の活発化: 中国や韓国のメーカーがOLED生産ラインへ大規模な投資を行っており、供給能力の拡大が市場の普及を後押ししています。

 これらの要因が複合的に作用し、有機EL市場は今後、高成長を続けると予測されています。


高コントラスト薄型軽量フレキシブルという優れた特性で、スマホ、ハイエンドTVでの採用が拡大します。折りたたみや車載ディスプレイなど、新規応用分野の需要創出も牽引しています。

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