この記事で分かること
・なぜアンモニアの回収が重要なのか:アンモニアの排出による環境汚染の防止や従来の処理方法の欠点(コスト高や多くのエネルギーを使用)を克服できるため
・プルシアンブルーとは何か:プルシアンブルーは鉄とフェロシアン化合物(フェロシアン化鉄)からなる顔料ですが、単なる青色顔料ではなく、医療・環境・エネルギー分野でも幅広く応用される重要な化合物。
・なぜアンモニアの回収ができるのか:プルシアンブルーの鉄を亜鉛に置換することで、結晶構造の空隙が増え、NH₄⁺を吸着しやすくすることができる。
プルシアンブルーによる産業廃水中のアンモニウムイオンの回収
立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は、青色顔料として知られるプルシアンブルーを基にした吸着材を開発し、産業廃水中のアンモニウムイオン(NH₄⁺)を効率的に回収・資源化する技術を発表しました。
これにより、廃水中のNH₄⁺濃度を排出基準以下に低減し、回収したNH₄⁺を工業的に再利用可能な濃度まで濃縮することができます。
産業廃水中のアンモニアを効果的に回収し、資源として再利用することで、環境保護と資源循環型社会の実現に貢献することが期待されます。
なぜ、アンモニアの回収が重要なのか
アンモニアの回収は、環境保護と資源循環の観点から非常に重要です。主な理由を以下に挙げます。
1. 環境負荷の低減
① 水質汚染の防止
アンモニアは水中で硝酸塩や亜硝酸塩に変化し、水質汚染を引き起こします。特に富栄養化を促進し、藻類の異常繁殖(アオコなど)を招くため、生態系に悪影響を及ぼします。
② 大気汚染の抑制
工場や農業から排出されるアンモニアは、大気中で粒子状物質(PM2.5)の原因となり、健康被害を引き起こします。回収することで、大気汚染の防止につながります。
2. 資源の有効活用
① 肥料としての再利用
アンモニアは窒素肥料の原料として利用できます。特に、農業用の硝酸アンモニウムや尿素の製造に不可欠です。廃水から回収したアンモニアを再利用することで、肥料の生産コストを削減し、資源の浪費を防ぐことができます。
② 水素エネルギーの供給源
アンモニアは水素を豊富に含んでおり、クリーンエネルギーの原料としても注目されています。燃料電池や火力発電における水素供給源として活用可能であり、脱炭素社会の実現に貢献します。
3. 産業コストの削減
産業廃水からアンモニアを回収・再利用することで、排水処理コストを削減できます。従来の処理方法(化学的処理や生物学的処理)では多くのエネルギーを消費しますが、新しい吸着技術を利用することで、コスト削減と環境保護を両立できます。

アンモニアの回収は、環境保護、資源循環、エネルギー活用、コスト削減といった多方面でのメリットをもたらします。
プルシアンブルーとは何か
プルシアンブルーとは?
化学式: Fe4[Fe(CN)6]3
別名: 鉄青、ベルリンブルー(Berlin Blue)、パリスブルー(Paris Blue)
プルシアンブルーは、鉄とフェロシアン化合物(フェロシアン化鉄)からなる青色顔料です。18世紀初頭にドイツで発見され、人工的に作られた最初の合成顔料の一つです。
特性
- 鮮やかな青色を持ち、安定した顔料として利用される
- 水にはほとんど溶けないが、酸やアルカリには反応しやすい
- 高いイオン交換能力を持ち、一部の金属イオン(セシウムやアンモニウムイオンなど)を吸着できる
用途
- 顔料
- 絵画やインクの青色染料
- 日本の浮世絵(葛飾北斎の「富嶽三十六景」など)にも使用された
- 医療用途
- 放射性セシウムやタリウムの体内除去薬(プルシアンブルー製剤)として使用
- 環境分野
- 産業廃水処理(重金属や放射性物質の除去)
- 今回の産総研の研究のように、アンモニウムイオンの吸着・回収にも応用される
- 電池材料
- ナトリウムイオン電池やリチウムイオン電池の正極材料候補

プルシアンブルーは鉄とフェロシアン化合物(フェロシアン化鉄)からなる顔料ですが、単なる青色顔料ではなく、医療・環境・エネルギー分野でも幅広く応用される重要な化合物です。特に、金属イオンの吸着能力を活かした水処理技術や電池材料としての研究が進められています。
なぜ鉄を亜鉛に置き換えるとアンモニアを吸着出来るのか
プルシアンブルー(Prussian Blue, PB)の鉄(Fe)を亜鉛(Zn)に置換することで、アンモニウムイオン(NH₄⁺)を選択的に吸着できる理由は、結晶構造の変化とイオン交換特性の向上にあります。
1. プルシアンブルーの基本構造
- プルシアンブルーはフェロシアン化鉄の構造を持つ。
- 立方体の骨格構造(ペロブスカイト類似構造)を形成し、その隙間に水分子やカリウムイオン(K⁺)が存在。
- 通常のプルシアンブルーは金属カチオンを交換する能力を持つが、アンモニウムイオン(NH₄⁺)の吸着能力は低い。
2. 鉄を亜鉛に置換することで何が変わるのか?
① 結晶構造の変化
- 鉄(Fe³⁺)を亜鉛(Zn²⁺)に置換すると、イオン半径の違いにより結晶構造がわずかに変化する。
- これにより、結晶内の空隙が増え、NH₄⁺が入り込みやすくなる。
② 亜鉛の配位特性
- 亜鉛(Zn²⁺)は鉄(Fe³⁺)よりも配位子との結合が弱く、周囲の水和構造が変化する。
- これにより、NH₄⁺が結晶格子内に取り込まれやすくなる。
③ イオン交換性の向上
- Zn²⁺は、NH₄⁺と親和性の高い部位を提供し、イオン交換が効率的に進む。
- これにより、溶液中のNH₄⁺が選択的に吸着され、KClなどの溶液を使えば容易に脱離できる。
3. 結果としてNH₄⁺の吸着能力が向上
- Zn-PB(亜鉛置換プルシアンブルー)はNH₄⁺を効率的に吸着し、排水処理に利用可能。
- 脱離後も構造が安定しており、繰り返し使用できる(高耐久性)。
- 産総研の研究では、500回以上の吸着・脱離サイクルを繰り返しても性能が維持されることが確認された。

プルシアンブルーの鉄を亜鉛に置換することで、結晶構造の空隙が増え、NH₄⁺を吸着しやすくなります。
これまでアンモニアの回収はどのように行ってきたのか
これまでのアンモニア回収方法は、主に以下の4つの手法が使われてきました。
1. ストリッピング法(気相剥離法)
原理: アンモニアをアルカリで遊離させ、空気や水蒸気で気化させて分離する。
手順:
- 廃水のpHを上げて(pH 10~12)アンモニアをアンモニアガス(NH₃)に変換。
- エアストリッピング塔を用いて、空気または水蒸気を吹き込み、NH₃を気化。
- 気化したNH₃を酸(硫酸など)で吸収し、硫酸アンモニウム(肥料)として回収。
メリット:
✅ 比較的シンプルな設備で処理可能。
✅ 硫酸アンモニウムなどの肥料原料として利用できる。
デメリット:
❌ pH調整に多くの薬剤(NaOHなど)が必要で、コストがかかる。
❌ 大量の空気・水蒸気が必要で、エネルギー消費が大きい。
❌ アンモニアガスの漏れが環境問題になる可能性がある。
2. イオン交換法
原理: ゼオライトや陽イオン交換樹脂を使って、アンモニウムイオン(NH₄⁺)を選択的に吸着。
手順:
- NH₄⁺を含む排水を、イオン交換樹脂またはゼオライトを充填したカラムに通す。
- NH₄⁺が吸着され、処理水が浄化される。
- 吸着飽和後、塩化カリウム(KCl)などを使ってNH₄⁺を脱離・回収。
メリット:
✅ 低エネルギーでアンモニアを回収できる。
✅ 高濃度のアンモニウムを選択的に回収可能。
デメリット:
❌ イオン交換樹脂やゼオライトの再生処理が必要(再生液の処理が課題)。
❌ 長期間使用すると性能が劣化する。
3. 化学沈殿法(ストルバイト法)
原理: アンモニウム(NH₄⁺)、リン酸(PO₄³⁻)、マグネシウム(Mg²⁺)を反応させ、ストルバイト(MAP: MgNH₄PO₄·6H₂O)として沈殿回収する。
手順:
- 排水にMg²⁺(マグネシウム塩)とPO₄³⁻(リン酸塩)を添加。
- pH 8~9に調整すると、ストルバイトが結晶化・沈殿。
- フィルターで回収し、肥料として利用。
メリット:
✅ 窒素(N)とリン(P)の同時回収が可能。
✅ 回収したストルバイトはそのまま肥料として利用できる。
デメリット:
❌ Mg²⁺とPO₄³⁻の添加コストがかかる。
❌ 低濃度のNH₄⁺だと反応が進みにくい。
4. 生物学的処理(アンモニア酸化細菌)
原理: アンモニウム酸化細菌(AOB)やアナモックス細菌を利用し、NH₄⁺を窒素ガス(N₂)に変換して除去。
手順:
- NH₄⁺を硝化細菌によって亜硝酸(NO₂⁻)→硝酸(NO₃⁻)に変換。
- 硝酸を脱窒菌が窒素ガス(N₂)に変換し、大気へ放出。
- またはアナモックス菌を利用して、NH₄⁺とNO₂⁻を直接N₂に変換。
メリット:
✅ 低コスト・低エネルギーで窒素を除去できる。
✅ 窒素ガスとして放出するため、副生成物が少ない。
デメリット:
❌ アンモニアを回収できず、ただ除去するだけ。
❌ 菌の維持管理が難しく、安定稼働が課題。

従来の方法(ストリッピング、イオン交換、ストルバイト、生物処理)は、コストや環境負荷に課題があります。
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