この記事で分かること
- 省ネオジム磁石とは:希少なネオジムを、安価で豊富なランタンやセリウムに一部置き換えた磁石です。結晶粒を「外側はネオジム、内側は安価な素材」という二層構造にし、さらに微細化することで、資源節約と高性能を両立しました。
- ランタンやセリウムが耐熱性で劣る理由:ネオジムに比べ磁力を一定方向に固定する力が弱く、磁力を失う限界温度(キュリー温度)も低いためです。これらを混ぜると、熱振動の影響を受けやすくなり、高温下で磁力が保てなくなります。
- ネオジムの減少量:最新の技術では、ネオジムの使用量を最大50%削減することが可能です。
省ネオジム磁石によるレアアース低減
2026年現在、日本企業によるレアアースの「脱中国」および「中国依存の軽減」は、地政学的リスク(輸出規制の強化など)を背景に、単なるコスト削減の枠を超えた経済安全保障の最優先課題となっています。
日本企業は、調達先の多角化(オーストラリアやベトナム等)に加え、「技術革新」によるレアアースの使用量減少を検討しています。
今回は省ネオジム磁石に関する記事となります。
省ネオジム磁石とは何か
「省ネオジム磁石」とは、主原料であるレアアースのネオジム(Nd)の使用量を最大50%削減しながら、従来と同等の強力な磁力と耐熱性を維持した新型磁石のことです。
トヨタ自動車などが開発したこの技術のポイントは、以下の3点です。
1. 安価なレアアースへの置き換え
高価で希少なネオジムの一部を、産出量が多く安価なレアアースである「ランタン(La)」や「セリウム(Ce)」に置き換えています。本来、これらを混ぜると耐熱性が大幅に下がりますが、次の技術でそれを解決しました。
2. 「二層構造」によるネオジムの節約
磁石の結晶粒を「金太郎飴」のような二層構造にしています。
- 外側: 磁力の反転を防ぐために重要な「外側」にだけネオジムを集中させます。
- 内側: 磁力への影響が少ない「中心部」を安価なランタンやセリウムで構成します。これにより、少ないネオジムで効率的に性能を引き出せます。
3. 結晶粒の微細化
結晶粒を従来の10分の1以下(ナノサイズ)に微細化することで、熱による磁力の乱れを物理的に抑え、耐熱性を補っています。

希少なネオジムを、安価で豊富なランタンやセリウムに一部置き換えた磁石です。結晶粒を「外側はネオジム、内側は安価な素材」という二層構造にし、さらに微細化することで、資源節約と高性能を両立しました。
なぜLaやCeでは耐熱性が落ちるのか
ランタン(La)やセリウム(Ce)を使うと耐熱性が落ちる理由は、主に「磁石としての基礎体力(磁気特性)」がネオジムに比べて大幅に低いからです。
1. 「磁力を固定する力」が弱い
磁石には、磁力の向きを一定方向に引き止めておく力(磁気異方性)があります。
- ネオジム: この力が非常に強く、少々の熱では向きが乱れません。
- La・Ce: ネオジムに比べてこの力が3分の1以下と弱いため、少し温度が上がるだけで外部の磁界に負けて、磁力の向きがバラバラになりやすくなります。
2. 「キュリー温度」が低い
磁石には、ある温度を超えると完全に磁力を失う「キュリー温度」という限界点があります。
- ネオジム磁石: 約310℃
- La・Ceを混ぜた磁石: 混ぜるほどこの温度が下がります(Ce単体では約150℃)。限界点が下がることで、ハイブリッド車のモーターのような高温環境(150℃〜200℃付近)では、限界ギリギリの状態になってしまいます。
3. 余計な「不純物」ができやすい
Ceなどを多く混ぜると、磁石の結晶の隙間に磁力を持たない「カス(非磁性相)」ができやすくなります。これが結晶同士のつながりを弱め、熱に対する耐久性をさらに引き下げてしまいます。

LaやCeは、ネオジムに比べ磁力を一定方向に固定する力が弱く、磁力を失う限界温度(キュリー温度)も低いためです。これらを混ぜると、熱振動の影響を受けやすくなり、高温下で磁力が保てなくなります。
外側だけが磁力に影響する理由は何か
磁石の「外側(結晶の表面)」が特に重要な理由は、そこが「磁力の反転が始まる弱点(急所)」だからです。なぜ表面が弱点になるのか、その理由は主に2つあります。
1. 構造の「乱れ」があるから
磁石は「結晶」という小さな粒の集まりですが、その粒の表面(境界)は原子の並びが途切れたり、加工時のダメージを受けたりして、内部に比べて構造が不安定です。
- 例え: 頑丈な石垣でも、角の石が欠けているとその場所から崩れやすくなるのと同じです。
- 現象: この不安定な表面は、磁力を一定方向に保つ力(保磁力)が弱いため、熱や外部からの逆磁界を受けると、真っ先に磁力が「反転」し始めてしまいます。
2. 「反転の種(核)」ができるから
磁力が反転するとき、結晶全体が一気にひっくり返るわけではありません。まず表面の小さな一部分が反転し、それが「種」となって結晶内部へと一気に燃え広がるように伝わります。
- 技術の狙い: つまり、「反転の始まりの場所(表面)」さえ守れば、結晶全体を守れるということです。
「省ネオジム磁石」や「重希土類フリー」の工夫
この理屈を利用して、日本企業は以下のような効率的な設計を行っています。
- ネオジムを外側に集中(省ネオジム):一番安価な素材(La, Ce)を芯(コア)にし、反転の起点となる表面(シェル)にだけ、踏ん張りのきく「ネオジム」を配置します。
- 重希土類を外側に集中(ジスプロシウム節約):さらに高い耐熱性が必要な場合は、ジスプロシウムなどの重希土類を、結晶の表面だけに染み込ませる(粒界拡散)ことで、極少量で全体の耐熱性を跳ね上げます。

磁力の反転は、構造が不安定な結晶の表面から「種」ができるように始まります。そこが崩れると中まで連鎖するため、表面(外側)だけをネオジム等の強い素材で補強すれば、全体を効率よく熱に強くできるのです。
どのようにLaやCeを内側に固定するのか
トヨタ自動車などが開発したこの手法は、主に以下の2つのステップで行われます。
1. 「二種類の粉」を混ぜて固める
まず、ネオジムを多く含む粉末と、LaやCeを多く含む粉末の2種類を用意します。これらを適切な比率で混ぜ合わせ、加熱しながら圧力をかけて固めます(焼結法や熱間加工法)。
2. 加熱による「元素の移動」を利用する
高温で加熱すると、原子が結晶の間を移動しやすくなります。この際、「ネオジムは結晶の表面に残りやすく、LaやCeは結晶の内部に潜り込みやすい」という元素ごとの化学的な性質(拡散のしやすさの違い)を利用します。
- 自然な役割分担: 加熱時間を緻密に制御することで、ネオジムが自動的に「バリア層(外側)」を形成し、LaやCeが「芯(内側)」に収まるような「コア・シェル構造(金太郎飴構造)」をナノレベルで作り上げます。
このように「混ぜて焼くだけ」のように見えて、実はナノレベルで原子の配置をコントロールしています。

異なる成分の粉末を混ぜて加熱する際、各元素が移動する性質を利用します。ネオジムが結晶の表面(外側)へ、LaやCeが内部(中心)へと自然に分かれるよう温度や時間を緻密に制御し、二層構造を形成します。
どのくらいネオジムを減らすことができるのか
2026年現在の技術水準では、トヨタ自動車などが開発した「省ネオジム耐熱磁石」により、ネオジムの使用量を最大50%削減することが可能になっています。
ネオジム削減の内訳
- ネオジム(Nd): 従来の約30%含まれていたレアアースのうち、その半分(全体の約15%分)を安価なランタン(La)やセリウム(Ce)に置き換えています。
- 重希土類(Dy/Tb): かつて耐熱性のために数%添加されていたジスプロシウムやテルビウムは、この技術により100%削減(完全フリー)を実現しています。
なぜ「50%」が限界なのか?(2026年時点の課題)
これ以上ネオジムを減らしすぎると、たとえナノレベルの工夫を凝らしても、磁石としての「磁力(吸い付く力)」そのものが弱くなりすぎてしまいます。
- 磁力の低下: LaやCeを増やしすぎると、モーターを回すのに十分な磁力が得られず、車を動かすパワーが不足してしまいます。
- バランスの最適化: 現在の「50%削減」という数字は、「実用的なパワー」と「中国依存の軽減」を両立できる絶妙なバランス点なのです。
今後の展望
50%以上の削減、さらには「ネオジム・ゼロ」を目指すために、前述した「磁石を一切使わないモーター(巻線界磁型など)」の研究が並行して進められています。

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