この記事で分かること
- 削減の背景:市況の悪化、生産過剰、事業再編などを背景に減産を決めています。
- 黒鉛電極とは:黒鉛電極は高温に耐える炭素材料でできた電極で、主に電気炉製鋼に使用されています。
- 黒鉛電極が使用される理由:電気アーク炉などで必要となる、高温・高電流、化学安定性などが必要な環境に非常に適しているため、黒鉛電極が利用されています
東海カーボンの黒鉛電極生産削減
東海カーボンは、黒鉛電極事業の構造改革の一環として、日本および欧州における生産体制の見直しを進めています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/aef18425e0183ed184656bc9c430522230627358
この再編により、ドイツの黒鉛電極工場を含む欧州拠点の生産能力を削減する方針が示されています。
生産能力削減の理由は何か
東海カーボンがドイツの黒鉛電極工場を含む欧州拠点の縮小や売却を検討・実施する理由は、主に以下の事業環境の変化と戦略的判断によるものです。
■ 工場売却・縮小の主な理由
1. 市況悪化
- 世界的な鉄鋼生産の減速。
- 特に欧州では需要低迷が続いており、黒鉛電極の価格も下落傾向。
- 安価な中国やインド製電極の輸入増加による競争激化。
2. 生産過剰と収益性の低下
- グローバル市場で供給過剰の状態が続いており、採算が合わない工場の稼働を続けるのは非効率。
3. 事業再編(中期経営計画T-2026)
- 収益基盤の強化と効率化を進める方針。
- 日本・欧州の生産能力削減、北米への集中など、地域再配置戦略の一環。
- 欧州工場を売却または能力削減し、黒字化を狙う。
4. 環境規制・コスト増加
- 欧州では環境負荷に対する規制が厳しく、製造コストが高止まり。
- 工場維持にかかる投資や対応コストが他地域に比べて割高。

市況の悪化、生産過剰、事業再編などを背景に減産を決めています。
黒鉛電極とは何か
黒鉛電極(Graphite Electrode)とは、高温に耐える炭素材料でできた電極で、主に電気炉製鋼に使用される重要な工業製品です。
■ 主な用途
- 電気アーク炉(Electric Arc Furnace, EAF)において、スクラップ鉄を溶かすために使用されます。
- アーク放電により数千度の高温を発生させ、その熱で金属を溶解します。
■ 特徴
- 高い導電性と耐熱性を持ち、最大で3000℃近くまで耐えられます。
- 酸化しやすいため、高温環境下では酸素との反応で消耗します。
- 通常、石油コークスとニードルコークスを原料にし、ピッチで結合して焼成・グラファイト化して製造されます。
■ 種類
- HP(High Power)電極
- UHP(Ultra High Power)電極 — 高負荷炉用に使用され、最も高性能。
- RP(Regular Power)電極
■ 市場背景
- 世界の電炉鋼の増加とともに需要も高まる一方、中国などの新興国の過剰供給や価格競争で市況は変動しやすいです。
- ESGの観点から高炉よりも電炉の比率が増す傾向があり、長期的には黒鉛電極の需要は底堅いと見られています。

黒鉛電極は高温に耐える炭素材料でできた電極で、主に電気炉製鋼に使用されています。
どのように黒鉛は製造されるのか
黒鉛(グラファイト)の製造は、天然黒鉛と人工黒鉛で大きく異なりますが、黒鉛電極に使われるのは主に人工黒鉛です。黒鉛電極は以下のような工程で製造されています。
1. 原料の混合
- 原料:
- 石油コークス(主成分)
- ニードルコークス(高品質品に使用)
- コールタールピッチ(結合剤)
- これらを適切な比率で混ぜてペースト状にします。
2. 成形
- 混合物を**押出成形(押し出しプレス)により、円柱状などの電極形状にします。
3. 焼成(カーボン化)
- 成形体を約1000~1300℃で加熱。
- コールタールピッチが炭化して、強固なカーボン体になります。
4. 含浸(ピッチ含浸)
- 焼成品に再度ピッチを染み込ませ、気孔率を低減。
- 含浸→再焼成を1~2回繰り返すことで機械的強度と密度を高めます。
5. 黒鉛化
- 焼成体を約2800~3000℃の高温で処理(これを「グラファイト化」という)。
- 結晶構造が黒鉛状(層状構造)に変わり、電気伝導性・耐熱性が大幅に向上。
6. 機械加工
- 黒鉛化された素材を所定のサイズに切削・研磨。
- 電極端部にねじ加工し、ニップル(継手)を取り付ける準備をします。

黒鉛は材料の混合、成型、焼成、含侵、高温処理による黒鉛化、加工といった工程で製造されています。
ニードルコークスとは何か
ニードルコークス(Needle Coke)とは、黒鉛電極の製造に使われる非常に高品質なコークス(炭素材料)で、名前のとおり顕微鏡で見ると針状(ニードル状)の結晶構造をしています。
■ 特徴
特性 | 内容 |
---|---|
結晶構造 | 非常に整った針状の炭素結晶構造 |
電気伝導性 | 高い |
熱膨張率 | 低い(熱に強く、変形しにくい) |
機械的強度 | 高い(電極が折れにくい) |
純度 | 非常に高い炭素純度(硫黄や灰分が少ない) |
■ 用途
主に以下の2つの分野で使用されます:
- 黒鉛電極
- 電気炉製鋼用の超高電力(UHP)電極の原料として不可欠。
- リチウムイオン電池
- 負極材としても利用される(※特に石油系ニードルコークス)。
■ 原料と製法
原料
- 主に石油由来(石油精製時の副産物:FCCデカントオイルなど)
- 稀に石炭系ニードルコークスもあるが、主流は石油系
製造方法
- 原料油を熱分解(コーキング)し、コークスを生成
- その中からニードル状結晶を形成したものを分離・精製

ニードルコークスは非常に高品質なコークスのことで、黒鉛電極の性能(導電性・耐久性・寿命)を左右するキーマテリアルです。
なぜ、黒鉛電極が使用されるのか
黒鉛電極が使用される理由は、その独自の性質と性能が、高温・高電流が必要な環境に非常に適しているためです。
黒鉛電極が使用される主な理由
高い導電性
- 黒鉛は自由電子を持っており、金属のように電気をよく通します。
- 電気炉では大電流を流して金属を溶かすため、電極には高い導電性が必要です。
高い耐熱性
- 黒鉛は空気中で600℃以上でも安定し、還元雰囲気では3000℃近くまで耐えることができます。
- 電気アーク炉では2000℃を超える温度が発生するため、黒鉛は理想的な材料です。
加工のしやすさ
- 黒鉛は比較的柔らかく、精密な形状に加工しやすいため、電極や継手部(ニップル)なども精密に作れます。
化学的安定性
- 酸やアルカリに対して比較的安定で、長時間の使用でも劣化しにくい。
熱膨張が少ない(低熱膨張率)
- 急激な加熱・冷却による割れや変形が起こりにくく、繰り返しの使用に耐えます。
経済性
- 天然ではなく人工的に製造できるため、品質管理が可能で、用途に応じた特性を持たせやすい。
使用例:電気アーク炉(Electric Arc Furnace, EAF)
- 鉄スクラップを再溶解して鉄鋼製品を作る「電炉製鋼」で不可欠。
- 黒鉛電極から発生するアーク(電気放電)により、炉内が高温になり、鉄を溶かします。
なぜ他の素材で代替できない理由
- 銅や鉄では融点が低すぎる/酸化しやすい
- セラミックは導電性が低すぎる
- よって「高温」「高電流」「化学安定性」の全てを満たす黒鉛が最も適しているのです。

電気アーク炉などで必要となる、高温・高電流、化学安定性などが必要な環境に非常に適しているため、黒鉛電極が利用されています。
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