この記事で分かること
- どのような半導体を製造するのか:次世代車の「脳」となる22nmプロセスの高性能マイコン(MCU)が主力です。GFの省電力技術(FD-SOI)とメモリ内蔵技術を活用し、EVの航続距離延長や自動運転の高度な計算、電源制御を支えるチップを製造します。
- FD-SOIとは:シリコン層の下に絶縁膜を挿入した構造を持つ、次世代の省電力半導体技術です。電流漏れを劇的に抑え、低電圧でも高速動作が可能です。
- なぜ連携するのか:巨額の設備投資リスクを分散しつつ、GFの省電力技術(FD-SOI)とルネサスの車載設計ノウハウを融合させるためです。また、世界各地に工場を持つGFと組むことで、地政学リスクに強い安定供給体制を構築する狙いもあります。
ルネサスとGFの次世代車向け半導体での連携
ルネサス エレクトロニクスと米大手ファウンドリのグローバルファウンドリーズ(GF)は、2026年2月、次世代車向け半導体の供給・開発に関する戦略的パートナーシップを大幅に拡大することを発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC172090X10C26A2000000/
この提携は、電気自動車(EV)や自動運転技術(ADAS)の進化に伴う半導体需要の急増と、サプライチェーンの安定化を目的としています。
どのような半導体を製造するのか
ルネサスとグローバルファウンドリーズ(GF)の提携において、製造される主な半導体は、次世代車両(SDV:ソフトウェア定義車両)の核となる以下の3つのカテゴリーが中心です。
1. 次世代車載マイコン(MCU)
自動車の「走る・曲がる・止まる」や、車体制御(ドア、ライト、エアコン等)を司るチップです。
- 技術のポイント: GFの22nm FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)プロセスを採用します。
- メリット: 従来のバルクCMOS構造に比べ、極めて低い消費電力と高い信頼性(耐放射線性など)を実現します。これにより、EVの航続距離延長や、常時通信を行うコネクテッドカーの待機電力削減に貢献します。
2. 高性能システム・オン・チップ(SoC)
自動運転(ADAS)やインフォテインメント(車内モニターやナビ)など、膨大なデータを高速処理するためのチップです。
- 技術のポイント: ルネサスの設計資産(IP)とGFの高度な微細化技術を組み合わせ、AI処理能力を高めた製品を製造します。
3. パワー管理・アナログ半導体
バッテリーの電圧を制御したり、センサーからの信号を処理したりするチップです。
- 技術のポイント: BCD(Bipolar-CMOS-DMOS)プロセスを活用します。
- メリット: 高電圧を扱うパワー素子と、制御を行うロジック回路を1つのチップに集積(高密度化)できるため、システムの小型化と低コスト化が可能になります。特にEVの「バッテリー管理システム(BMS)」に不可欠なデバイスです。
製造における特徴:不揮発性メモリの統合
今回の提携で特に重要なのが、「eNVM(埋め込み不揮発性メモリ)」技術です。車載マイコンには、プログラムを保存するためのメモリを内蔵する必要がありますが、微細化(22nm以下)が進むと製造が難しくなります。
GFはこの微細プロセスにおけるメモリ統合技術に強みを持っており、ルネサスはこれを利用して、より高性能で高機能なマイコンを安定して量産することを目指しています。
22nmという先端プロセスを用いた、省電力で高機能な『車の脳(マイコン・SoC)』と『神経(アナログ・パワー)』を共同で製造していくことになります。

次世代車の「脳」となる22nmプロセスの高性能マイコン(MCU)が主力です。GFの省電力技術(FD-SOI)とメモリ内蔵技術を活用し、EVの航続距離延長や自動運転の高度な計算、電源制御を支えるチップを製造します。
FD-SOIとは何か
FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)は、次世代の省電力半導体を実現するための革新的な基板技術です。
通常のシリコン基板(バルク)とは異なり、シリコン薄膜の下に「BOX(埋め込み酸化膜)」と呼ばれる極薄の絶縁層を挿入しているのが最大の特徴です。
FD-SOIの3つの大きなメリット
- 圧倒的な省電力(低電圧駆動)絶縁層があることで、電流の漏れ(リーク電流)を劇的に抑えられます。これにより、従来のチップよりも低い電圧で動作させることができ、消費電力を大幅に削減できます。
- 「ボディバイアス」による柔軟な制御基板側に電圧をかけることで、チップの特性をリアルタイムで切り替えられます。「今は高速で処理したい(パフォーマンス優先)」「今は待機中なので極限まで電力を抑えたい(省エネ優先)」といった制御が、ソフトウェア側から柔軟に行えます。
- 熱や放射線に強い(高信頼性)構造上、ソフトエラー(放射線による誤作動)が起きにくいため、過酷な環境下で動く宇宙・防衛機器や、命に関わる自動車の制御チップに非常に適しています。
なぜルネサスとGFはこの技術を使うのか
最先端のスマートフォン向け(5nmなど)に使われる「FinFET」という技術に比べ、FD-SOIは製造コストを抑えつつ、アナログ回路やメモリを同じチップに載せやすいという利点があります。
「そこそこの微細化(22nm程度)で、超低消費電力かつ高信頼性」が求められる次世代自動車(SDV)にとって、FD-SOIはまさに「最適解」と言える技術なのです。
この技術が使われることで、EVの駐車中のバッテリー消費(暗電流)が減るなどのメリットが期待されます。

シリコン層の下に絶縁膜を挿入した構造を持つ、次世代の省電力半導体技術です。電流漏れを劇的に抑え、低電圧でも高速動作が可能です。低消費電力と高い信頼性が両立できるため、電気自動車やIoT機器に最適です。
なぜ共同で製造を行うのか
ルネサスとGFが共同で製造を行う理由は、主に「巨額の投資リスク分散」と「互いの技術・拠点の補完」にあります。
1. 膨大な開発・設備投資の分担
先端半導体(22nmプロセスなど)の製造ラインを1から構築するには、数千億円規模の投資が必要です。
- GF側: 安定した大口顧客(ルネサス)を確保することで、工場の稼働率を維持し投資を回収しやすくなります。
- ルネサス側: 自社ですべての工場を持たずに済む(ファブライト戦略)ため、固定費のリスクを抑えつつ、最先端技術を利用できます。
2. 「地産地消」とサプライチェーンの強靭化
パンデミックや地政学リスクを背景に、自動車メーカーは「チップを必要な場所(近く)で作り、安定供給すること」を強く求めています。
- グローバル展開: GFは米国、ドイツ、シンガポールに拠点を持っています。ルネサスはGFと組むことで、欧米の自動車メーカーに対して「現地の工場から供給できる」という強い安心感を与えられます。
3. 技術の相互補完(FD-SOIと車載ノウハウ)
両社は持っている「武器」が異なります。
- GFの武器: FD-SOIという省電力・高信頼な製造プロセス技術。
- ルネサスの武器: 自動車業界で長年培ったマイコン設計のIP(知的財産)と、厳しい車載品質基準をクリアするノウハウ。これらを掛け合わせることで、単独では開発に時間がかかる「高性能かつ低消費電力な次世代チップ」を迅速に市場へ投入できます。

巨額の設備投資リスクを分散しつつ、GFの省電力技術(FD-SOI)とルネサスの車載設計ノウハウを融合させるためです。また、世界各地に工場を持つGFと組むことで、地政学リスクに強い安定供給体制を構築する狙いもあります。
これまでの絶縁層との違いは何か
これまでの一般的な半導体(バルク構造)とFD-SOIの違いは、絶縁層が「どこに、どのような役割で」配置されているかという点にあります。
1. 配置場所の違い:ゲートの下か、基板の中か
- 従来のバルク構造: 絶縁膜は「ゲート(スイッチ)」のすぐ下にのみ存在し、電気が通る道(チャネル)とスイッチを隔てる役割でした。しかし、その下のシリコン基板はつながっているため、そこから電気が漏れ出す「リーク電流」が課題でした。
- FD-SOI構造: ゲートの下だけでなく、シリコン層の「底」全体に薄い絶縁層(BOX層)を敷き詰めています。これにより、電気が通る道を上下から完全に囲い込み、基板への漏電を物理的にシャットアウトしています。
2. 「厚み」と「空乏化」の違い
「FD」は Fully Depleted(完全空乏型) の略です。
- 従来の絶縁層は、基板との間に中途半端な電気的領域(空乏層)を作っていましたが、FD-SOIはシリコン層を極限まで薄く(約20nm以下)することで、層全体を不純物のない「空乏状態」にできます。
- これにより、電子が不純物にぶつからずスムーズに動けるため、低電圧でもキビキビと動作します。

最大の違いは、シリコン層の底に極薄の絶縁膜を敷き、電気が通る道を基板から完全に切り離した点です。これにより、従来の構造では防げなかった基板への電流漏れを根絶し、劇的な省電力化と高速化を両立しています。

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