この記事で分かること
- ヒートポンプとは:ヒートポンプは、電気などのエネルギーを使い、低温の熱源(空気や水など)から熱を汲み上げ、高温側に移動させる技術です。
- 代替のメリット:化石燃料を燃やすボイラーに対し、ヒートポンプは空気の熱を利用するため、CO₂排出量を大幅に削減でき、投入電力以上の熱を得る高い効率でランニングコストも低減できます。
- ボイラーの代替による削減の目安:ボヒートポンプの高効率性とボイラー配管の熱ロス低減によって、一次エネルギー(化石燃料)の消費は一般的に40%~80%以上削減可能とされます。
ダイキン工業の熱源ボイラのヒートポンプでの代替
ダイキン工業は、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環として、工場内の熱源ボイラをヒートポンプで代替する方針を進めています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00763508
この取り組みは、特に化学品を除く全工場を対象としており、燃焼によるCO2排出量を削減することが主な目的です。
ヒートポンプとは何か
ヒートポンプ(Heat Pump)とは、「熱(ヒート)を汲み上げる(ポンプ)」技術のことで、温度の低い場所から熱を集め、それを移動させてより温度の高い場所へ供給する装置です。
水を低い場所から高い場所へ汲み上げるウォーターポンプのように、電気などのエネルギーを使って熱を低温側から高温側へ「移動させる」のが特徴です。
ヒートポンプの仕組み(原理)
ヒートポンプの仕組みは、エアコンや冷蔵庫と同じく、冷媒(熱を運ぶ物質)の「圧縮すると高温になる」「膨張すると低温になる」という性質を利用したサイクルで成り立っています。
- 蒸発(吸熱):低温・低圧の冷媒が、外の空気や水などの熱源(低温側)から熱を吸収して、蒸発し気体になります。
- 圧縮:コンプレッサー(圧縮機)で冷媒ガスを圧縮すると、冷媒の温度と圧力が急激に上がり、高温・高圧になります。
- 凝縮(放熱):高温・高圧になった冷媒が、温めたい対象(部屋の空気や水など、高温側)に熱を放出し、冷やされて液体に戻ります。
- 膨張(減圧・降温):液体になった冷媒を膨張弁で急激に膨張・減圧させると、冷媒の温度が下がり、再び低温・低圧になって次のサイクルに戻ります。
このサイクルを繰り返すことで、熱を効率よく移動させます。
ヒートポンプの主なメリット
ヒートポンプの最大のメリットは、その高いエネルギー効率とCO2削減効果です。
- 省エネルギー・高効率:熱を燃焼で生み出すのではなく、空気などから「集めて運ぶ」ため、投入した電気エネルギー(主に圧縮機の動力)の量よりも、移動させて生み出す熱エネルギーの量がはるかに多くなります。一般的に、1の電力で3〜7の熱エネルギーを得られる高い効率(COP)を持っています。
- 脱炭素(CO2削減):燃焼を伴わないため、工場などで使われていたボイラ(化石燃料を燃やす)を代替することで、現場でのCO2排出量を大幅に削減できます。
主な応用製品
ヒートポンプ技術は、私たちの身の回りの様々な機器に使われています。
| 分野 | 主な製品 | 役割 |
| 空調 | エアコン、業務用パッケージエアコン | 暖房時:外の熱を室内に運び暖める。冷房時:室内の熱を外に運び冷やす。 |
| 給湯 | エコキュート、ヒートポンプ給湯機 | 大気の熱を利用して水を温め、お湯を沸かす。 |
| 産業・業務用 | 産業用チラー、乾燥機、業務用温水供給システム | 工場やビルで、生産工程の加熱・冷却、排熱回収などに利用する。 |

ヒートポンプは、電気などのエネルギーを使い、低温の熱源(空気や水など)から熱を汲み上げ、高温側に移動させる技術です。投入電力以上の熱エネルギーを得られるため、エアコンや給湯器(エコキュート)などに使われる高効率な省エネ・脱炭素技術です。
ボイラーから代替する理由は何か
ボイラー(特に化石燃料を使用するもの)からヒートポンプへ代替する主な理由は、以下の3点に集約されます。
1. CO₂排出量の大幅な削減(脱炭素化)
ボイラーは、石油やガスなどの化石燃料を燃焼させることで熱を生成するため、CO₂を排出します。これに対しヒートポンプは、空気中の熱などの再生可能エネルギーを主な熱源とし、電気でその熱を移動させるため、運転時のCO₂排出量を大幅に削減できます。
- カーボンニュートラルへの貢献: ダイキン工業のように、企業がカーボンニュートラル(脱炭素)を実現するための最も有効な手段の一つです。
2. 卓越したエネルギー効率(省エネ)
ヒートポンプは、ボイラーや電気ヒーターよりも熱生成の効率が圧倒的に高いです。
- 高効率(COP): ヒートポンプは、投入した電気エネルギーの数倍(例えば、1の電力で3~7の熱)の熱エネルギーを得ることができます。
- 低ランニングコスト: この高効率のおかげで、燃料を燃焼させるボイラーに比べて、熱を供給するためのエネルギー費用(ランニングコスト)を大幅に削減できます。
3. その他の付加的なメリット
代替により、環境・コスト以外の様々なメリットも享受できます。
- 排熱の有効活用: 工場内で発生する低温の排熱や温排水など、従来捨てていた熱をヒートポンプの熱源として利用し、エネルギーの無駄をなくすことができます。
- 管理・安全性の向上:
- 蒸気レス: 蒸気ボイラー特有の運転管理、メンテナンス、蒸気漏れのリスクが不要になり、現場の負担とコストが軽減されます。
- 安全性: 火気を使わないため、安全性が向上します。
- 冷熱と温熱の同時供給: 食品工場など、冷却と加熱の両方が必要なプロセスでは、1台のヒートポンプで冷熱と温熱を同時に作り出すことができ、全体の省エネルギー効果を高められます。

最大の理由は脱炭素化と省エネです。化石燃料を燃やすボイラーに対し、ヒートポンプは空気の熱を利用するため、CO₂排出量を大幅に削減でき、投入電力以上の熱を得る高い効率でランニングコストも低減できます。
どれくらいの化石燃料削減が見込めるのか
ボイラーをヒートポンプに代替することで見込める化石燃料(一次エネルギー)の削減効果は、工場や用途、ヒートポンプの種類によって大きく異なりますが、一般的な削減率は40%〜80%程度です。
ダイキン工業自体の具体的な数値目標としては、以下の取り組みを掲げています。
1. ダイキン工業の削減目標
ダイキン工業は、自社の生産工程の脱炭素化を推進しており、工場向けの具体的な目標を設定しています。
- CO₂実質ゼロ目標: 化学プラントを除く全工場において、2030年までにCO₂排出量実質ゼロを目指しています。
- ヒートポンプの活用: この「CO₂実質ゼロ」の達成において、ボイラーのヒートポンプへの代替は主要な施策の一つです。化石燃料を燃やす熱源を電気を利用する高効率なヒートポンプに置き換えることで、CO₂排出量、ひいては化石燃料消費量(一次エネルギー)を劇的に減らすことが目標達成の核となります。
2. 一般的な削減効果の目安
ヒートポンプはボイラーと比較してエネルギー効率(COP)が非常に高いため、多くの導入事例で大幅な削減効果が報告されています。
| 評価項目 | 削減効果(一般的な事例) |
| 一次エネルギー消費量 | 20%〜60%以上の削減 |
| CO₂排出量 | 30%〜70%以上の削減 |
| ランニングコスト | 30%〜50%以上の削減 |

ボイラーの代替により、一次エネルギー(化石燃料)の消費は一般的に40%~80%以上削減可能とされます。これはヒートポンプの高効率性と、ボイラー配管の熱ロス低減によるものです。ダイキンは2030年のCO₂実質ゼロに向け、この技術を核としています。
化学品を除く理由は何か
ダイキン工業がボイラーをヒートポンプで代替する対象から「化学品を除く」理由は、主に化学品製造プロセスにおける、ヒートポンプ技術の技術的な制約と熱の要求特性によるものです。
1. 必要な熱の温度が高い
化学品製造プロセス、特に特定の反応や蒸留工程では、非常に高い温度の熱(一般的に蒸気)を必要とします。
- ヒートポンプの限界: 現在、普及しているヒートポンプ技術は、供給できる熱の温度に限界があり、一般的に高温域(特に150℃以上)になると、ヒートポンプの効率(COP)が低下するか、対応が難しくなります。
- ボイラーの優位性: 従来のボイラーは、燃料を燃焼させるため、高温の蒸気を安定して大量に供給する能力に優れています。
2. 熱負荷の特性が複雑・特殊
化学プラントのプロセスは、空調や給湯を主な目的とする他の工場と比べて、熱負荷の変動や要求される熱の質が特殊です。
- 特殊な加熱要求: 化学品の製造工程によっては、特定の時間内で急激な温度上昇や、極めて正確な温度制御が求められます。
- ヒートポンプは熱を徐々に汲み上げる特性上、ボイラーのような瞬発的な大容量加熱への対応が難しい場合があります。
- 冷媒の相性: 化学品の製造工程で使われる液体や冷媒との相性、または腐食性の問題など、技術的な適合性がまだ確立されていないケースも考えられます。
ダイキンは、まず技術的な適合性、エネルギー削減効果、コストメリットが出しやすい空調機器やその他の製品を製造する工場を先行して脱炭素化の対象とし、化学品部門の高温熱源については、今後の技術開発(高温対応ヒートポンプなど)の進展を待って対応を進める方針だと推測されます。

化学品製造は高温(150℃以上)の熱を大量に必要とすることが多く、現在のヒートポンプ技術では高効率での供給が困難なためです。将来の高温対応技術の進展を待つ必要があります。

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