この記事で分かること
- 代表団の派遣要請を行う理由:ネクスペリアの企業統治を巡る内部対立と法廷闘争の解決、そして欧州側と中国側との半導体供給停止によるサプライチェーンの混乱を解消し、交渉を促進するために代表団派遣を要請しています。
- オランダの対応:国家安全保障上の懸念は維持しつつも、サプライチェーン混乱回避のため管理措置を一時停止し、中国側との建設的な対話を継続して解決を図る姿勢です。しかし、訴訟取り下げ支援は困難です。
中国政府によるネクスペリアの代表団派遣要請
中国がオランダ政府に対し、半導体メーカーのネクスペリア(Nexperia)の代表団を中国に派遣するよう働きかけを要請したという報道があります。
https://jp.reuters.com/markets/japan/B6EMLLS2QROODPQGV6K2WZZ4EE-2025-12-12/
中国側の要請は、ネクスペリアを巡る内部対立や法廷闘争の解決、そしてウィングテックとの交渉を促進し、サプライチェーンの回復などに関する有意義な議論を進めることを目的としていると考えられます。
ネクスペリア代表団派遣要請の背景
中国の聞泰科技(ウィングテック)傘下のオランダの半導体メーカー、ネクスペリアを巡り、企業統治と国家安全保障を理由にオランダ政府が介入し、裁判所が中国側の支配権を制限する措置を講じました。
これに対し、中国側は部品の輸出を一時停止。この欧州側と中国側の対立により、自動車産業などで深刻なチップ不足が発生しました。
中国政府は現在、オランダ政府に対し、代表団を中国に派遣し、企業間の対話を通じて紛争解決とサプライチェーンの安定化を図るよう強く求めています。オランダ政府は監督権限は維持しつつも、対話を継続する姿勢です。
代表団派遣を要請した理由は何か
中国がオランダに対しネクスペリア(Nexperia)代表団の派遣を要請した主な理由は、進行中の企業内部の対立と、それに伴う世界的なサプライチェーンの混乱を解決するためです。具体的には、以下の3つの主要な理由があります。
1. サプライチェーンの混乱と停止の解消
- 半導体供給の停止: オランダ政府の介入措置と、それに続くオランダの裁判所の決定(中国の親会社による支配の停止、CEOの職務停止など)の後、ネクスペリアの欧州側(ウェハー製造)と中国側(パッケージング・組み立て)の間で、部品の供給や支払いを巡る対立が激化しました。
- 相互の輸出停止: 欧州側が中国側へのウェハー出荷を停止したのに対し、中国側も完成部品の輸出を禁止するという異常な事態に陥りました。
- 自動車産業への影響: ネクスペリアは自動車やエレクトロニクス向けの半導体を大量に生産しており、この供給停止はBMWやフォルクスワーゲンなどの欧州や世界の自動車メーカーにチップ不足という深刻な影響を与えています。
- 目的: 中国は、代表団の派遣と交渉を通じて、この「一つの会社の中でのサプライチェーンの断絶」という異常事態を解消し、世界の半導体サプライチェーンの安全と安定を回復させることを目指しています。
2. 企業統治を巡る内部紛争の解決
- 支配権の争い: オランダ政府の介入により、親会社である中国のウィングテック(Wingtech)はネクスペリアの支配権を事実上剥奪され、裁判所から選任された管理者が株式の議決権を持つ事態となりました。
- 法廷闘争: ウィングテックは、オランダの裁判所による決定に対して異議を申し立て、最高裁判所に上訴するなど、法廷闘争が続いています。
- 中国側の主張: 中国側は、オランダ政府による一連の措置を「不当な行政介入」であり、中国資本の企業に対する「差別的待遇」だと強く批判しています。
- 目的: 代表団の派遣は、ウィングテックが主張する「正当な支配権」を取り戻すための議論を再開させ、裁判所による管理措置を伴わない企業間の交渉による紛争解決を推し進めるための重要な一歩と位置づけられています。
3. 交渉の再開と関係改善
- 中国商務部の報道官は、ネクスペリア欧州経営陣が提起した訴訟の取り下げをオランダ政府が支援すること、そして、中国側との交渉を促進するための合意を履行することを求めています。
- これは、政府間の対話によって一時的にオランダ政府の介入措置が棚上げされたものの、企業内部の対立は解決しておらず、具体的な企業レベルでの交渉が必要であるとの認識に基づいています。
中国は、「不当な介入」によって生じたネクスペリア内部の混乱と、その結果としての世界的なチップ供給の危機を、直接対話によって速やかに収拾したいと考えているのです。

ネクスペリアの企業統治を巡る内部対立と法廷闘争の解決、そして欧州側と中国側との半導体供給停止によるサプライチェーンの混乱を解消し、交渉を促進するために代表団派遣を要請しています。
オランダ政府はどう反応するのか
中国政府の要請に対し、オランダ政府は、明確な拒否はせず、交渉と対話を継続する姿勢を示しながらも、「国家安全保障」に関わる監督の役割は維持するというバランスの取れた対応をとっています。現時点でのオランダ政府の主な反応と動向は以下の通りです。
1. 対話と交渉の促進(部分的容認)
- 管理措置の一時停止: オランダ政府は、中国側の対抗措置(中国工場からの部品輸出停止)による世界的なチップ不足の懸念を受け、9月に発動した物品供給法に基づく政府の監督・管理措置を一時的に停止しました(2025年11月)。
- 交渉の継続: オランダの経済問題担当大臣は、中国当局との間で「建設的な性質の協議」を行っていることを認め、中国側の輸出が再開されることに期待を示しました。
- 対話の場の容認: 親会社であるウィングテックは、裁判所が任命したネクスペリアの「管理者(custodians)」を中国での協議に招待しており、ネクスペリア側も協議への準備があることを示唆しています。オランダ政府は、直接的な派遣命令は出さないまでも、この対話の動きを妨げてはいません。
2. 監督権限の維持と懸念の継続
- 根本問題は未解決: 管理措置は一時停止されましたが、オランダ政府は監督権限そのものを完全に撤回したわけではありません。これは、ネクスペリアのガバナンスと技術流出に対する根本的な懸念が解消されていないためです。
- 経済安全保障の重視: オランダ政府は、ネクスペリアの支配権を巡る対立が「オランダおよび欧州域内の重要な技術的知識と能力の継続性に対する脅威」であるという当初の認識を変えていません。
3. 法廷闘争の継続
- 訴訟の取り下げは困難: 中国はネクスペリア欧州経営陣が起こした訴訟の取り下げ支援を求めていますが、オランダの司法プロセスへの行政の介入は非常に困難であり、政府が直接的に訴訟を取り下げさせることは現実的ではありません。法廷闘争は現在も続いています。
オランダ政府は、自動車産業などへの影響を考慮してサプライチェーンの安定化を優先し、管理措置を一時停止することで中国側に譲歩しつつ、技術流出防止や企業統治への懸念から監督権限を維持しています。中国の要請に対しては、「対話を通じた解決」を目指す姿勢で臨んでいます。
この問題の今後の進展は、裁判所の判断と、中国側とオランダ側(ネクスペリア経営陣/管理者)による直接交渉の成果にかかっていると言えます。

オランダ政府は、国家安全保障上の懸念は維持しつつも、サプライチェーン混乱回避のため管理措置を一時停止し、中国側との建設的な対話を継続して解決を図る姿勢です。しかし、訴訟取り下げ支援は困難です。
中国側が完成部品の輸出を禁止を止めた理由は何か
中国側がネクスペリアの完成部品の輸出禁止措置を解除、または緩和し始めた主な理由は、以下の2点に集約されます。
1. グローバルサプライチェーンへの深刻な影響の回避
- 自動車産業への打撃: ネクスペリアが生産する汎用半導体(レガシーチップ)は、自動車のエレクトロニクス制御ユニットなどに不可欠です。中国の輸出禁止措置により、フォルクスワーゲン(VW)やBMWといった欧州の大手自動車メーカーが、数週間以内に生産停止に追い込まれるという深刻な危機に直面しました。
- 国際的な圧力: 輸出停止の影響が日本やドイツを含むグローバルな自動車産業に及んだ結果、オランダだけでなく、EU全体や影響を受けた各国から外交的な圧力が中国にかかったと考えられます。
- 目的: 中国は、このまま禁輸措置を続ければ、グローバルサプライチェーンに大きな打撃を与え、中国自身の国際的な立場や貿易関係を悪化させるリスクを回避する必要がありました。
2. オランダ政府の譲歩との交換条件
- オランダ側の対応: 中国が輸出禁止措置を解除し始めた背景には、オランダ政府が9月に発動した「国家安全保障上の懸念に基づくネクスペリアに対する管理措置」を一時的に停止するという譲歩があったことが大きな要因です。
- 緊張緩和の必要性: 中国は、オランダの行政介入が原因で混乱が生じたと主張しており、この措置を一時停止させることで、対立の一時的な緊張緩和を図り、その後の交渉を有利に進める狙いがありました。
この措置の解除は、地政学的な駆け引きと、世界の主要産業(特に自動車産業)の安定という実利的な観点の両方から判断された結果と言えます。
ただし、この解除は一時的なものであり、企業統治を巡る根本的な法廷闘争は現在も継続しています。

欧州の自動車産業などに深刻なチップ不足と生産停止の危機が生じたため、国際的な圧力を回避し、オランダ政府による管理措置の一時停止という譲歩を引き出すため。

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