この記事で分かること
- 測定方法:主にX線反射率法(XRR)を用います。浅い角度でX線を照射し、膜表面と界面で反射したX線の干渉縞を解析することで、膜厚や密度を非破壊でサブナノメートル精度で求めます。
- 原子レベルの精度で膜厚計測が求められる理由:わずかな膜厚差が性能に影響するため、サブナノメートルの膜厚・密度を正確に管理し、歩留まりと性能を向上させるために必要です。
- 利用される工程:半導体製造の成膜やエッチング工程後のインライン計測に使用されます。特に、原子層堆積(ALD)膜などの極薄膜の膜厚や密度を、製造ライン上で高精度に確認し、歩留まり向上に貢献します。
Riagkuの高精度膜厚計測装置
リガク(Rigaku)が提供している、原子1個分以下の精度で計測が可能な膜厚計測装置は、主に次世代半導体製造ライン向けに開発されたインラインX線膜厚/密度モニターです。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/08/news024.html
従来の光学的な計測手法や比較的感度の低いX線計測手法では追いつかない、原子1個分以下の高精度なインライン計測のニーズが高まっています。リガクのこの装置は、そのニーズに応えるための最先端技術の一つです。
どのように測定するのか
原子1個分以下の精度を実現するリガクの膜厚計測装置(XTRAIA MF-3400など)は、主にX線を利用した複数の分析手法を組み合わせて測定を行います。
特に極薄膜の膜厚を正確に測るために重要なのは、蛍光X線分析(XRF)とX線反射率法(XRR)の2つです。
膜厚計測の主要な測定原理
この装置は、非破壊で高精度な測定を可能にするため、以下の3つのX線分析機能を1台に搭載しています。
1. X線反射率法 (XRR: X-ray Reflectivity)
【原子レベルの厚さ・密度測定に最も重要】
XRRは、極薄膜の厚さ、密度、および表面・界面の粗さを非破壊で測定するのに最も適した手法です。
測定の仕組み
- 浅い角度からの入射: X線を試料表面に対して非常に浅い角度(数度以下)で入射させます。
- 全反射と干渉:
- 入射角が非常に浅い角度(臨界角)以下の場合、X線は全反射します。臨界角は膜の密度に依存するため、この角度を測定することで密度情報が得られます。
- 臨界角を超えてX線が薄膜を通過し始めると、膜の表面で反射したX線と、膜と基板の界面で反射したX線が干渉し合います。
- 干渉縞の解析: 入射角度を変化させながら反射X線の強度を測定すると、干渉によって反射率のプロファイルに周期的な**振動(干渉縞)**が現れます。
- この振動の周期は、膜の**厚さ(膜厚)**に正確に対応しています。膜が薄いほど周期は長くなります。
- 振動の振幅は、膜と基板の密度差に依存します。
- フィッティング: 測定で得られたプロファイルを、理論モデルに基づいて計算したプロファイルと照合・フィッティングすることで、膜厚、密度、ラフネスをナノメートルからサブナノメートル精度で決定します。
2. 蛍光X線分析 (XRF: X-ray Fluorescence)
【組成と膜厚の定量測定】
XRFは、膜の組成(元素の種類と量)を分析するのに広く使われますが、極薄膜の膜厚測定にも応用されます。
測定の仕組み
- X線の照射: 試料に高エネルギーのX線を照射します。
- 蛍光X線の発生: 膜を構成する元素の原子がこのエネルギーを吸収し、その結果として固有のエネルギーを持った蛍光X線を放出します。
- 強度と膜厚の関係: 極めて薄い膜の場合、放出される蛍光X線の強度は、その膜に含まれる元素の原子数(=膜の厚さ)にほぼ比例します。
- 高感度測定: 高輝度で集光されたマイクロX線ビームと高感度検出器を使用することで、わずかな原子層の厚さの違いから生じる微弱な蛍光X線の強度差を捉え、膜厚を定量します。
3. X線回折法 (XRD: X-ray Diffraction)
【結晶性の評価】
XRDは、主に膜の結晶構造(結晶性、格子定数、結晶の配向など)を評価するために使用されます。膜厚測定の精度向上やプロセスの品質管理に必要な情報を提供します。
原子レベル精度を支える技術
これらの原理を、原子1個分以下の精度でインライン(製造ライン上)で実現するために、以下の技術が重要になっています。
- マイクロX線ビーム: 従来の装置よりも高輝度で、かつウエハー上の微細なパターン(50 μm 程度のパッドなど)に正確に照射できる微小なスポット径のX線ビームを使用します。
- 高速・高精度なウエハー搬送: インラインでの高いスループットを維持しながら、計測ポイントを正確に特定し、再現性よく測定するための高精度な位置決め技術。
- 高度な解析ソフトウェア: XRRなどの複雑な干渉パターンを迅速かつ正確にモデルフィッティングし、自動で膜厚・密度パラメータを導出するソフトウェア。

原子レベルの精度で膜厚を測るには、主にX線反射率法(XRR)を用います。浅い角度でX線を照射し、膜表面と界面で反射したX線の干渉縞を解析することで、膜厚や密度を非破壊でサブナノメートル精度で求めます。
原子レベルの精度で膜厚計測が求められる理由
原子レベルの精度で膜厚計測が求められる主な理由は、半導体の微細化と高性能化、特に極薄膜(数原子層〜数十原子層)がデバイス性能を決定づけるようになったためです。
1. デバイス性能の直接的な決定要因
半導体の回路線幅がナノメートルサイズ(10-9m)に縮小するにつれ、トランジスタのゲート絶縁膜や高性能メモリ(3D NAND、DRAM)の容量絶縁膜、トンネル絶縁膜などの極薄膜が多用されます。
- これらの膜の厚さがわずか原子数個分(サブナノメートル)ずれるだけでも、電流のリークや駆動電圧の変動など、デバイスの電気特性に致命的な影響を与えます。
- 特に、原子層堆積(ALD)法で形成される膜は、原子レベルでの膜厚制御が設計されており、その品質を原子レベルで確認する必要があります。
2. 微細加工技術の限界突破
現代の半導体製造では、パターニング、エッチング、成膜といった工程すべてにおいて、原子レベルでの制御が求められています。
- 例えば、エッチングで膜を削る際にも、原子数層を削りすぎたり残したりするだけで、後のプロセスで欠陥が生じます。
- 原子レベルの精度で膜厚をインライン(製造工程中)でモニターできれば、プロセス中に異常を検知し、即座に修正することで歩留まりを大幅に向上させることができます。
3. 次世代デバイスの構造的要件
次世代のロジック半導体(例えば、GAAFET: Gate All Around FET)や高集積化メモリは、積層構造や三次元構造が複雑化しています。
- 異なる材料の層が数十層から数百層積み重ねられるため、それぞれの層の厚さ、密度、そして層と層の間の界面の粗さを原子レベルで正確に管理しなければ、設計通りの性能は実現できません。
- X線反射率法(XRR)などの高精度な計測技術は、この複雑な積層構造の各層の状態を非破壊で評価するために不可欠です。
現代の半導体は原子一つ一つの並びが機能に直結する設計となっており、その品質を保証するためには、計測も原子レベルの精度で行う必要があるためです。

半導体の極薄膜はわずかな膜厚変動がデバイスの電気特性に直結するためです。サブナノメートルの膜厚・密度を正確に管理し、歩留まりと性能を向上させるために必要です。
半導体製造のどの工程で使用されるのか
原子1個分以下の精度で計測できるリガクの膜厚計測装置(XTRAIA MF-3400など)は、主に「成膜(薄膜形成)」プロセス後のインライン(製造ライン中)品質管理で使用されます。
1. 成膜 (Thin Film Deposition) 工程後の評価
ナノレベルの極薄膜を形成する工程の直後に使用されます。
- 対象となる成膜技術:
- ALD(原子層堆積): 膜厚制御が原子レベルで行われるため、この装置のサブナノメートル精度が最も威力を発揮します。
- CVD(化学気相成長) や PVD(物理気相成長) などで形成された極薄の絶縁膜、金属膜、半導体膜など。
- 目的: 膜厚が設計値通りになっているか、また、均一に成膜されているかをウエハー上の微小な領域(パッドやスクライブライン)で非破壊かつ高スループットで確認します。
2. エッチング (Etching) 工程後の評価
不要な部分の膜を削り取るエッチング工程後にも使用されます。
- 目的: エッチングによって残された膜の厚さや、削り取られた後の膜の組成に異常がないかを確認します。エッチング量のわずかなズレがデバイスの性能を大きく左右するため、高精度な残膜厚測定が重要です。
3. 積層構造の品質管理
次世代メモリ(3D NANDフラッシュ)やAI向け高速デバイスに見られる複雑な多層積層構造の品質管理において、特に重要です。
- 導入実績: 3D NANDフラッシュメモリの量産ラインへの導入が決定していることが公表されています。
- 目的: 何十層、何百層と積み上げられた膜の個々の層の厚さ、密度、界面の状態を、X線反射率法(XRR)などを用いて正確に評価し、積層構造全体の品質を保証します。
インライン計測の重要性
この装置が「インライン」で使用されることは、従来の「オフライン(サンプルを取り出して分析室で測定)」の計測に比べて非常に大きなメリットがあります。
- フィードバックの迅速化: 製造中にリアルタイムで膜厚を測定し、すぐに成膜装置やエッチング装置にフィードバックできるため、プロセス異常を早期に発見し、不良品の発生を最小限に抑えられます。
- 歩留まり向上: 高精度な原子レベルの計測データを活用することで、プロセスを常に最適状態に保ち、半導体の歩留まり(良品率)を大幅に向上させます。

半導体製造の成膜やエッチング工程後のインライン計測に使用されます。特に、原子層堆積(ALD)膜などの極薄膜の膜厚や密度を、製造ライン上で高精度に確認し、歩留まり向上に貢献します。

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