この記事で分かること
- RibbonFET構造とは:インテル独自のGAA(Gate-All-Around)構造の呼称です。電流の通り道(チャネル)をリボン状に重ね、周囲を絶縁特性の高いゲートで四方から囲むことで、電力漏れを抑制しつつ、極低電圧での高速動作と高密度化を両立する次世代技術です。
- ナノシートの構造:電流が流れる「ナノシート(チャネル)」本体には、主にシリコンが使用されます。シリコンとシリコンゲルマニウムを交互に積層し、後にSiGe層のみを選択的に除去することで、宙に浮いたリボン状の構造(隙間)を作ります。この精密な「型」の制御が重要です。
- シリコンゲルマニウムのみを除去する方法:選択的エッチングという技術を用います。SiGeのみと化学反応する特殊な薬液やガスを使い、Siの層を傷つけずにSiGe層だけを選択的に溶かし出します。
RibbonFET構造
エヌビディア(NVIDIA)が、インテルの最先端製造プロセス「18A」を用いた試験的な半導体製造を中止したという報道が注目を集めています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN24CUP0U5A221C2000000/
インテルは現在、自社で設計・製造を行うだけでなく、他社から製造を請け負う「ファウンドリ事業(IFS)」の再建を経営の柱に据えています。世界最大のAIチップメーカーであるエヌビディアからの「不合格」とも取れる判断は、他の顧客獲得にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
前回は18Aの特徴や歩留まりの低い理由の概略でしたが、今回は18Aプロセスの特長であるRibbonFET(リボンフェット)に関する記事となります。
RibbonFET(リボンフェット)とは何か
RibbonFET(リボンフェット)とは、インテルが開発した次世代のトランジスタ構造のことです。
業界で一般的に「GAA(Gate-All-Around)」と呼ばれる技術のインテル独自の呼称で、2011年に登場した「FinFET」以来、約10年ぶりとなる劇的な構造刷新となります。
1. 構造の違い:ゲートが「四方」を囲む
- これまでのFinFET: 魚のヒレ(Fin)のような形の通路を、ゲートが「三方(上と左右)」から囲んでいました。
- 新しいRibbonFET: 薄いリボン状の通路(ナノシート)を垂直に積み重ね、その周囲をゲートが「四方すべて(全方位)」から完全に囲みます。
2. 主なメリット
- リーク電流の抑制: ゲートが全方位からしっかり掴むため、スイッチがOFFの時に電気が漏れるのを極限まで防げます。
- 高速・省電力: 低い電圧でもキビキビと動き、処理速度の向上とバッテリー消費の低減を両立できます。
- サイズの柔軟性: リボンの幅を設計段階で調整できるため、用途に合わせて「省電力重視」や「性能重視」のチップを柔軟に作れます。
3. なぜ今、必要なのか?
半導体が2nm(ナノメートル)以下の極微細な領域に入ると、従来のFinFET構造では電気の制御が難しくなり、性能の限界が見えてきました。RibbonFETはこの限界を突破し、AI時代の超高性能な計算能力を支えるための「必須技術」とされています。

インテル独自のGAA(Gate-All-Around)構造の呼称です。電流の通り道(チャネル)をリボン状に重ね、周囲をゲートで四方から囲むことで、電力漏れを抑制しつつ、極低電圧での高速動作と高密度化を両立する次世代技術です。
ナノシートにはどんな物質が使用されるのか
RibbonFETなどのナノシート型トランジスタにおいて、電流が流れる「ナノシート(チャネル)」本体には、主にシリコン(Si)が使用されます。
しかし、製造工程においては、シリコンと性質の異なる別の物質を組み合わせて「型」を作ることが不可欠です。
1. シリコン(Si):チャネル本体
最終的に電流が流れるリボン状のシートそのものです。従来の半導体と同様、高い信頼性と加工性を持つシリコンが中心となります。
2. シリコンゲルマニウム(SiGe):犠牲層(サクリファイヤル層)
製造工程で最も重要な役割を果たすのがシリコンゲルマニウムです。
- 役割: シリコンの層の間に「スペーサー(隙間)」を作るための「型」として使われます。
- 工程: シリコンとシリコンゲルマニウムを交互に積み重ねた後、エッチング(腐食)工程でシリコンゲルマニウムだけを溶かして除去します。これにより、シリコンのリボンが宙に浮いたような構造ができ、その隙間にゲート材料を流し込むことが可能になります。
3. 高誘電率(High-k)材料と金属:ゲート部分
ナノシートを四方から囲む「門(ゲート)」の部分には、以下の物質が使われます。
- 絶縁層: ハフニウム酸化物などのHigh-k材料(リーク電流を防ぐため)。
- 電極: タングステン、コバルト、ルテニウムなどの金属(電気信号を伝えるため)。
ナノシートの材料構成(まとめ)
| 部位 | 使用される主な物質 | 役割 |
| ナノシート本体 | シリコン(Si) | 電流が流れる通路(チャネル) |
| 製造時の型 | シリコンゲルマニウム(SiGe) | 隙間を作るために後で除去される層 |
| ゲート絶縁膜 | ハフニウム酸化物等 | 電気が漏れるのを防ぐ絶縁体 |
| ゲート電極 | 各種金属(W, Co, Ru等) | スイッチを制御する電極 |
次世代の材料として、シリコンの代わりに「二次元材料(グラフェンなど)」や「酸化物半導体」を用いる研究も進んでいますが、インテルの18Aのような実用段階では、シリコンとシリコンゲルマニウムの積層技術が核となっています。
この「シリコンゲルマニウムをきれいに溶かして、極薄のシリコンだけを残す」という工程の難しさが、歩留まりの課題にも繋がっています。

製造工程では、シリコンとシリコンゲルマニウム(SiGe)を交互に積層し、後にSiGe層のみを選択的に除去することで、宙に浮いたリボン状の構造(隙間)を作ります。この精密な「型」の制御が重要です。
どうやってシリコンゲルマニウムだけを除去するのか
シリコンゲルマニウム(SiGe)だけを狙い撃ちして除去するには、「選択的エッチング(Selective Etching)」という高度な化学処理技術が使われます。これは、シリコン(Si)は残し、SiGeだけを溶かす特殊な薬剤やガスを用いる工程です。
2つの手法
現在、ナノシートの製造現場では主に以下の2つの方法が検討・採用されています。
1. ウェットエッチング(液体を使う方法)
特定の化学溶液(例:フッ化水素、過酸化水素、酢酸の混合液など)にウエハーを浸します。
- 仕組み: SiGeはSiよりも酸化されやすく、特定の薬品に対して反応性が高いという性質を利用します。
- 利点: 溶液がナノシートの奥深くまで入り込み、SiGeだけを綺麗に溶かし出します。
2. ドライエッチング(ガスを使う方法)
プラズマや反応性ガスを用いて、気体の中で除去を行います。
- 仕組み: ガスがSiGeの表面と化学反応を起こし、揮発性の物質に変えて蒸発させます。
- 利点: 液体を使わないため、ナノシート同士が乾燥時の表面張力でくっついてしまう「パターン倒れ」を防ぎやすく、より微細な加工に向いています。
なぜこの工程が難しいのか(歩留まり低下の理由)
- 選択比(セレクト率)の限界: SiGeだけを溶かすつもりでも、どうしても本尊であるSi(ナノシート)もわずかに削れてしまいます。ナノシートは極薄(数nm)のため、少しでも削れすぎると性能が激変してしまいます。
- 形状の均一性: 重なったシートの奥側と手前側で溶け方にムラが出ると、リボンの形状が歪んでしまい、電気特性がバラつきます。
この「ナノ単位の隙間を均一に作る」技術こそが、インテルが18Aで苦戦したと言われる最難関工程の一つです。

選択的エッチングという技術を用います。SiGeのみと化学反応する特殊な薬液やガスを使い、Siの層を傷つけずにSiGe層だけを選択的に溶かし出します。これにより、Siのリボンが宙に浮いた「隙間」を精密に作り出します。
ハフニウム酸化物とは何か
ハフニウム酸化物(Hafnium Oxide)とは、半導体のスイッチ(トランジスタ)の性能を左右する「ゲート絶縁膜」に使用される非常に重要な材料で、High-k(高誘電率)材料と呼ばれます。
なぜ必要なのか
従来のシリコン酸化膜は、回路の微細化に伴い極限まで薄くなった結果、電気が漏れ出す(リーク電流)という問題に直面しました。
ハフニウム酸化物は「電気を蓄える力」が非常に強いため、物理的な厚みを維持して電気漏れを防ぎつつ、スイッチのオン・オフを強力に制御できるという魔法のような特性を持っています。
RibbonFETでの役割
18Aのようなナノシート構造では、宙に浮いたシリコンリボンの周囲を原子レベルの薄さでこのハフニウム酸化物がコーティングし、省電力化と高速化を支えています。

高誘電率(High-k)を持つ絶縁材料です。微細化が進む半導体において、従来の材料では防げなかった「電気漏れ」を抑えつつ、効率的にスイッチを制御するために不可欠な、先端チップの性能を支える基幹材料です。
ハフニウム酸化物はなぜ、高い絶縁性を示すのか
ハフニウム酸化物(HfO2)が非常に高い絶縁性(および優れた制御性)を示すのには、物理学的な2つの大きな理由があります。
「電気を通さない壁が分厚く、かつ、電気の信号を通す力(感度)が非常に強い」という二段構えの性質を持っているため、高い絶縁特性を持っています。
1. ワイドバンドギャップ(電気を通さない「壁」の高さ)
物質には、電気が流れるために乗り越えなければならないエネルギーの壁(バンドギャップ)があります。
- 特徴: ハフニウム酸化物は約 5.3〜5.7 eV という非常に広いバンドギャップを持っています。
- 効果: この壁が非常に高いため、電子が勝手に壁を越えて流れてしまう「リーク電流」を物理的に強くブロックします。
2. 高誘電率(High-k):分厚くしても「感度」が落ちない
これがハフニウム酸化物の最大の武器です。
- 従来の材料(シリコン酸化膜): 薄くしないとスイッチの制御力が弱まりますが、薄くしすぎると電子が壁を突き抜ける「トンネル効果」で電気が漏れてしまいます。
- ハフニウム酸化物: シリコン酸化膜の 約4〜6倍 という高い誘電率(High-k)を持っています。
- 効果: 誘電率が高いと、膜を分厚くしても、電気信号(電界)を伝える力が弱まりません。 物理的に「厚い壁」を作って漏れを完全に防ぎつつ、
- 電気的には「極薄の膜」を使っているかのように、効率よくスイッチをオン・オフできます。

広いバンドギャップを持ち、電子の移動を物理的に阻む「高い壁」として機能することと、高い誘電率(High-k)により、膜を厚くして「電気漏れ」を防ぎつつ、スイッチ制御の「感度」を維持できるためです。

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