この記事で分かること
・森教授にはどんな功績があるのか:ロボット工学の発展、不気味の谷の発見など研究分野だけでなく、ロボットコンテストの創設や創造性教育など教育面でも大きな功績があります。
不気味の谷とは何か:「人間に似たものが、ある一定のリアルさを超えると不気味に感じる現象」 です。
教授の提唱した創造性教育とはどんなものなのか:「非まじめ」は、森政弘教授が提唱した創造性を高めるための思考法であり、既成概念にとらわれずに考えることを指します。
ロボット工学の世界的パイオニアである森政弘名誉教授が逝去
2025年2月21日、ロボット工学の世界的パイオニアである森政弘名誉教授が逝去されました。森教授は、以下に示すようにロボット工学の発展に多大な貢献をされました。

プロセス制御と自動化の研究
東京大学生産技術研究所において、化学プラントのサンプル値制御や人工心肺、人工腎臓の自動制御など、プロセス制御の分野で先駆的な研究を行いました。これらの研究は、医療機器の自動化や化学工業の効率化に寄与しました。
ロボット工学の発展
東京工業大学では、指の機能に着目し、3本指のロボットハンドを開発しました。また、人工筋肉の研究にも取り組み、高分子アクチュエータなどメカノケミカル系の研究を推進しました。さらに、1970年には、人間がロボットに対して抱く感情的反応を説明する「不気味の谷現象」を提唱し、ロボットデザインの指針を示しました。
ロボットコンテストの創設
創造性教育の一環として、ロボットコンテスト(ロボコン)を創設しました。これは学生たちの技術力と創造性を育む場として、多くの技術者を輩出するきっかけとなりました。
創造性教育と仏教への貢献
工学分野だけでなく、創造性教育や仏教に関する著書や講演も多数行いました。「非まじめ」という概念を提唱し、柔軟な思考と創造性の重要性を説きました。
人工心肺や人工腎臓とはどんなものなのか
森政弘教授が研究した人工心肺や人工腎臓は、プロセス制御技術を活用して自動化を図ったもので、以下のような仕組みを持っています。
1. 人工心肺(Heart-Lung Machine)
人工心肺装置は、手術中に心臓と肺の機能を一時的に代替する装置です。血液を体外に循環させ、酸素を供給しながら二酸化炭素を除去する役割を果たします。
基本的な仕組み
- 血液の取り出し: 大静脈から脱血カニューラを通じて血液を体外に取り出す。
- 酸素供給(酸素ator): 血液に酸素を供給し、二酸化炭素を除去する。
- 血液の温度調節(熱交換器): 体温管理のため、血液を温めたり冷やしたりする。
- ポンプによる血液送出: 遠心ポンプやローラーポンプを使って動脈に血液を戻す。
森教授の貢献
- 人工心肺の自動制御技術を研究し、より安定した血流管理を可能にした。
- 化学プラントのサンプル値制御技術を応用し、血液の酸素濃度や流量を最適に調節するシステムを開発した。
2. 人工腎臓(Artificial Kidney, Dialysis Machine)
人工腎臓(透析装置)は、腎臓の機能を代替し、血液中の老廃物や余分な水分を除去する装置です。
基本的な仕組み(血液透析)
- 血液の取り出し: 患者の動静脈シャントから血液を取り出す。
- 透析膜でのろ過: セルロースや合成膜を通じて老廃物や余分な水分を透析液へ拡散させる。
- 透析液の供給・制御: 濃度を調整した透析液を流し、電解質バランスを維持する。
- 血液の戻し: 濾過された血液を体内に戻す。
森教授の貢献
化学工学のプロセス制御技術を応用し、効率的な血液清浄技術を提案。
透析の自動制御を研究し、血液流量や透析液の濃度をリアルタイムで最適化するシステムを開発。

森教授は、化学プラントの自動制御技術を医療分野に応用し、人工心肺や人工腎臓の性能向上に貢献しました。
3本指のロボットハンドはどこが新しかったのか
森政弘教授が開発した3本指のロボットハンドは、それまでのロボットハンドとは異なる革新的な点がいくつかありました。
従来のロボットハンドと3本指ハンドの違い
- 従来のロボットハンド(2本指 or 5本指)
- 2本指(ピンセット型): 単純な把持しかできず、不安定。
- 5本指(人間型): 機構が複雑になり制御が困難。
- 問題点: 2本指は持てる形状が限られ、5本指はコストや制御が大変だった。
- 3本指ハンドの新規性
- 安定した把持: 三角形の形状で、物体を安定してつかめる。
- 少ない自由度で多様な動作: 3本の指で、回転・スライド・回し持ちなど、汎用的な操作が可能。
- 制御がシンプル: 5本指よりも制御が簡単で、実用性が高い。
技術的な革新点
以下のような点から現在の産業用ロボットハンドや義手技術の基礎になった。
指の配置と動作設計
指の間隔を最適化し、さまざまな形状の物体を把持できるようにし、物を持ったときに自然に安定するように機構を設計。
アクチュエータの工夫
機械的な駆動方式を工夫し、軽量かつコンパクトにし、人間の指のような「しなやかさ」と「強さ」を両立。
応用範囲の拡大
工場の組み立てラインでの部品保持や、サービスロボットへの応用が可能に。

森教授の3本指ロボットハンドは、「少ない指で最大限の機能を実現」するという点で画期的でした。このアイデアは、現在の産業ロボットや義手、さらには宇宙探査ロボットにも応用されています。
アクチュエータとは何か
アクチュエータ(Actuator)とは、電気・空気・油圧などのエネルギーを機械的な運動に変換する装置のことです。簡単に言うと、「ロボットや機械の筋肉」のようなものです。
アクチュエータの種類
アクチュエータには、いくつかの種類があります。
1. 電動アクチュエータ(モーターを利用)
- 特徴: 精密な制御が可能で、メンテナンスがしやすい。
- 例: サーボモーター、ステッピングモーター
- 用途: ロボットアーム、3Dプリンター、医療機器
2. 空気圧アクチュエータ(圧縮空気を利用)
- 特徴: 軽量で素早い動作ができるが、力の制御が難しい。
- 例: 空気圧シリンダー
- 用途: 工場の自動機械、エアハンド
3. 油圧アクチュエータ(油圧を利用)
- 特徴: 非常に強い力を出せるが、装置が重くなる。
- 例: 油圧シリンダー
- 用途: 建設機械(ショベルカー)、飛行機のランディングギア
4. ソフトアクチュエータ(柔らかい材料を利用)
用途: 義手、医療ロボット、食品産業
特徴: 人の手のようにしなやかに動ける。
例: 人工筋肉、高分子アクチュエータ

アクチュエータ(Actuator)とは、電気・空気・油圧などのエネルギーを機械的な運動に変換する装置のことで、森政弘教授は、ロボットハンドに使うアクチュエータの研究を通じて、人工筋肉の開発にも影響を与えています。
不気味の谷現象とは何か
不気味の谷現象(Uncanny Valley)とは、人間に似たロボットやCGキャラクターが 「ある程度リアルになると親しみを感じるが、一定のリアルさを超えると逆に不気味に感じる」 という心理的な現象です。1970年に森政弘教授が提唱しました。
不気味の谷の概念
- ロボットやキャラクターが単純なデザイン(例:工業用ロボット、アニメキャラ) → 好意的に見られる
- リアルさが増すと親近感が増す(例:ディズニーの3Dキャラクター)
- しかし、リアルさが一定以上になると違和感を覚える(例:リアルな人形や不完全なヒューマノイド)
- さらにリアルになると、また親しみを感じる(例:本物の人間と見分けがつかないCG)
これをグラフで表すと、「好感度が急激に落ち込む谷」が生まれます。これが「不気味の谷(Uncanny Valley)」と呼ばれます。
具体的な例
1. 親しみを感じるもの
- ロボット掃除機(ルンバ)
- デフォルメされたアニメキャラクター(ピカチュウ)
- LEGOの人形
2. 不気味の谷に入るもの
- 人間に似せたが、動きや表情がぎこちないCGキャラ
- ヒューマノイドロボット(顔がリアルなのに目の動きが不自然なもの)
- ワックス人形(見た目はリアルだが、生気がない)
3. 谷を越えて好感を持たれるもの
- 最新の映画CG(実写に近いが自然な動きをする)
- 高性能なヒューマノイドロボット(Boston DynamicsのAtlasなど)
不気味の谷の原因
- 期待と現実のギャップ: ほぼ人間に見えるのに、動きが少し不自然だと違和感が生じる。
- 生死の曖昧さ: 「生きているのか、死んでいるのか分からない」と脳が混乱する。
- 感染症・ゾンビの恐怖: 人間の進化の過程で、不完全な生命(病気の人など)を本能的に避ける仕組みがある。
森政弘教授の貢献
森教授は、ロボット工学の視点からこの現象を提唱し、「ロボットを設計するときに、不気味の谷に入らないようにする工夫が必要」 という考えを示しました。現在では、ロボットデザインやCGアニメーションの分野で、この理論が広く活用されています。

不気味の谷現象とは、「人間に似たものが、ある一定のリアルさを超えると不気味に感じる現象」 です
非まじめとはどのような考え方なのか
「非まじめ」は、森政弘教授が提唱した創造性を高めるための思考法です。単なる「ふざける」「まじめでない」という意味ではなく、「柔軟な発想を持ち、既成概念にとらわれずに考えること」を指します。
「まじめ」と「非まじめ」の違い
森教授は、次のように説明しています。
- 「まじめ」 = 既存のルールや常識を守り、堅実に考える
- 「非まじめ」 = 既成概念に縛られず、新しい発想を生み出す
例えば、
- 「まじめ」な発想 → 普通のロボットは人間の手に似せて5本指にするべきだ
- 「非まじめ」な発想 → 3本指のほうが構造がシンプルで使いやすいかもしれない
森教授の3本指ロボットハンドは、この「非まじめ」な発想から生まれました。
「非まじめ」な発想のメリット
- 創造性が高まる → 型にはまった思考から抜け出し、新しいアイデアを生み出せる
- 問題解決能力が向上する → 常識にとらわれないことで、斬新な解決策を考えられる
- 遊び心が生まれる → 楽しみながら考えることで、発想が広がる
具体的な「非まじめ」な発想の例
1. ロボコン(ロボットコンテスト)の創設
ロボット教育では、従来「工場で使う堅い技術」が重視されていました。しかし森教授は、「遊びながら学ぶことで技術が発展する」と考え、ロボットコンテスト(ロボコン)を発案しました。
2. 不気味の谷現象の発見
普通の研究者なら、「ロボットは人間に似せるほど良い」と考えます。しかし森教授は、「人間にそっくりなロボットはむしろ不気味だ」と気づき、「不気味の谷現象」を提唱しました。

「非まじめ」は、森政弘教授が提唱した創造性を高めるための思考法であり、柔軟な発想を持ち、既成概念にとらわれずに考えること」を指します。
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