この記事で分かること
- 樹脂添加剤とは:プラスチック(樹脂)に少量加えることで、その性能や機能を向上させたり、新しい特性を付与したりする化学物質の総称です。
- ベトナムを選ぶ理由:経済成長と市場の拡大、地政学的な優位性や安価な労働力などの生産拠点としての魅力などからベトナムを選択しています。同社以外も進出先として、ベトナムを選ぶ企業も増えています。
堺化学工業、ベトナムに樹脂添加剤の販売新拠点設立
堺化学工業は、ベトナムの首都ハノイに樹脂添加剤の販売新拠点を設立しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00750902?gnr_footer=0082021
これは、同社の完全子会社であるサカイ・ケミカル・ベトナム(SAKAI CHEMICAL (VIETNAM) CO.,LTD.)が、2025年5月5日にハノイ営業事務所を開設したものです。これまでサカイ・ケミカル・ベトナムは、ベトナム南部を中心に樹脂添加剤の販売活動を行ってきましたが、今回のハノイ営業事務所の開設により、ベトナム北部での拡販を強化する方針です。
なぜベトナムなのか?
堺化学工業がベトナムに樹脂添加剤の販売拠点を設立する理由は、主に以下の点が挙げられます。
- 経済成長と市場の拡大: ベトナムはASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも特に高い経済成長を続けており、それに伴いプラスチック産業や関連産業も急速に発展しています。これにより、樹脂添加剤の需要も増加しており、大きな市場拡大が見込まれます。
- 生産拠点としての魅力: ベトナムは、地政学的な優位性や比較的安価な労働力、政府による投資優遇策などにより、多くの海外企業が生産拠点を設ける場所として注目しています。これにより、現地での樹脂生産が増加し、樹脂添加剤の消費量も自然と増えます。
- 顧客へのアクセス向上: これまでベトナム南部を中心に販売活動を行っていた同社にとって、北部最大の都市であるハノイに拠点を設けることで、ベトナム北部にある既存顧客へのサービス向上はもちろん、新規顧客の開拓が効率的に行えるようになります。
- サプライチェーンの多様化: 米中対立やパンデミックなどを背景に、グローバルなサプライチェーンの多様化が企業の重要課題となっています。ベトナムに拠点を設けることで、特定地域への依存度を下げ、リスク分散を図る狙いもあります。
これらの要因から、ベトナムは堺化学工業にとって、樹脂添加剤の海外拡販戦略において非常に魅力的な市場であり、今後の成長が期待される地域であると言えるでしょう。

ベトナムの経済成長と市場の拡大、地政学的な優位性や安価な労働力などの生産拠点としての魅力などからベトナムでの新拠点設立を決めたと思われます。
樹脂添加剤とは何か
樹脂添加剤とは、プラスチック(樹脂)に少量加えることで、その性能や機能を向上させたり、新しい特性を付与したりする化学物質の総称です。
プラスチックはそのままでも様々な用途に使われますが、添加剤を加えることで、より高性能で耐久性があり、幅広い分野で利用できるようになります。
樹脂添加剤の主な役割
樹脂添加剤は、多岐にわたる種類があり、それぞれ異なる目的で使われます。主な役割としては、以下のようなものが挙げられます。
- 耐久性の向上:
- 酸化防止剤: 熱や光による酸化劣化を防ぎ、プラスチックの変色や脆化を抑制します。
- 紫外線吸収剤・光安定剤: 太陽光に含まれる紫外線による劣化(黄変、ひび割れなど)を防ぎ、屋外での使用に適したプラスチックにします。
- 加工性の改善:
- 滑剤: プラスチックの成形時に、樹脂の流れを良くしたり、金型からの離型を容易にしたりします。
- 可塑剤: プラスチックを柔らかくし、柔軟性や加工性を向上させます。
- 安全性の確保:
- 難燃剤: 火災時にプラスチックが燃え広がるのを防いだり、燃焼を遅らせたりします。
- 機能性の付与:
- 帯電防止剤: プラスチック表面の静電気の発生を抑え、ホコリの付着や電子機器の誤作動を防ぎます。
- 抗菌剤: 細菌やカビの繁殖を抑え、衛生的な製品を作ります。
- 着色剤(顔料・染料): プラスチックに色を付け、見た目を向上させます。
- コストの削減:
- 充填剤: プラスチックの量を減らし、コストを抑えながら強度や剛性を向上させます。
樹脂添加剤が使われる製品例
身の回りにある様々なプラスチック製品には、何らかの樹脂添加剤が使われています。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 自動車部品: 耐熱性、耐候性、強度を向上させる添加剤が使われています。
- 家電製品: 難燃性、帯電防止性などが求められます。
- 食品包装材: 酸化防止性、抗菌性などが重要です。
- 建材: 耐候性、耐久性、難燃性が求められます。
- 日用品: 耐久性や加工性が考慮されます。
樹脂添加剤は、現代社会においてプラスチックがその多様な機能を発揮し、私たちの生活を豊かにするために不可欠な存在となっています。

樹脂添加剤とは、プラスチック(樹脂)に少量加えることで、その性能や機能を向上させたり、新しい特性を付与したりする化学物質の総称で、プラスチックがその多様な機能を発揮するために不可欠なものとなっています。
耐久性を上げられるメカニズムは
プラスチックの耐久性を向上させるメカニズムは、その劣化要因に対応した添加剤や構造変化によって実現されます。主な劣化要因と、それに対する耐久性向上策をいくつかご紹介します。
1. 酸化劣化への対策 (酸化防止剤)
プラスチックは、空気中の酸素と反応して酸化し、分子構造が変化することで脆くなったり、変色したりします。特に熱や光(紫外線)があると、この酸化反応は加速されます。
- メカニズム: 酸化防止剤は、プラスチックが酸化する際に発生する「ラジカル」と呼ばれる不安定な分子を捕捉したり、酸化反応の連鎖を断ち切ったりすることで、酸化の進行を抑制します。これにより、プラスチックの分子鎖が切断されるのを防ぎ、機械的強度や外観の劣化を抑えます。
2. 紫外線劣化への対策 (紫外線吸収剤・光安定剤)
太陽光に含まれる紫外線は、プラスチックの分子結合を切断し、変色、ひび割れ、表面の粉吹き(チョーキング)などを引き起こします。
- 紫外線吸収剤 (UVA): 紫外線吸収剤は、紫外線エネルギーを吸収し、そのエネルギーを熱などの無害なエネルギーに変換して放出します。これにより、紫外線がプラスチック本体に到達してダメージを与えるのを防ぎます。
- 光安定剤 (HALS: Hindered Amine Light Stabilizers): HALSは、紫外線によって発生するラジカルを捕捉し、プラスチックの分子鎖の分解を抑制します。紫外線吸収剤とは異なるメカニズムで、長期的な光劣化防止に貢献します。
3. 熱劣化への対策 (熱安定剤)
プラスチックは高温にさらされると、分子運動が活発になり、熱分解を起こしたり、酸化反応が加速したりします。
- メカニズム: 熱安定剤は、プラスチックが熱によって分解される際に発生する酸やラジカルを中和・捕捉したり、分解反応の連鎖を断ち切ったりすることで、熱による劣化を抑制します。これにより、高温下での機械的特性の低下や変色を防ぎ、長期間の使用を可能にします。
4. 機械的強度・剛性の向上 (強化剤・充填剤)
プラスチック自体は比較的柔らかく、衝撃や曲げに弱い場合があります。
- 繊維強化材(ガラス繊維、炭素繊維など): プラスチックにガラス繊維や炭素繊維などの高強度の繊維を配合することで、複合材料(FRP: Fiber Reinforced Plastics)となります。繊維がプラスチックの内部で骨格のような役割を果たし、引っ張り強度、曲げ強度、剛性、耐衝撃性などを飛躍的に向上させます。繊維とプラスチックの接着性を高めるための表面処理剤も重要です役割を果たします。
- 充填剤(フィラー): 炭酸カルシウム、タルク、シリカなどの無機充填剤を添加することで、プラスチックの剛性や耐熱性を向上させたり、収縮を抑えたりすることができます。また、ナノサイズのフィラーは、少量でも大きな表面積を持つため、プラスチックの特性を大きく改善する効果が期待されます。
まとめ
プラスチックの耐久性向上は、これらの添加剤が単独で、または組み合わせて作用することで実現されます。製品の使用環境や求められる性能に応じて、最適な添加剤が選定・配合され、プラスチックの寿命と機能性を最大限に引き出す努力が続けられています。

プラスチックは、空気中の酸素、紫外線、熱などによって劣化します。添加剤によってこれらの要因を緩和することで、耐久性を向上させています。
加工性を改善できるメカニズムは
プラスチックの加工性を改善する主なメカニズムは、主に樹脂の粘度を低下させ、流動性を向上させること、または成形時の摩擦を低減することにあります。これは、添加剤によって実現されます。
1. 粘度低下・流動性向上によるメカニズム(可塑剤、加工助剤)
プラスチックは、加熱されると柔らかくなり流動しますが、その「流れやすさ」は樹脂の種類によって大きく異なります。加工性改善の鍵は、溶融状態の樹脂がよりスムーズに流れるようにすることです。
- 可塑剤 (Plasticizers):
- メカニズム: 可塑剤は、プラスチックのポリマー(高分子)鎖の間に入り込み、ポリマー鎖同士の分子間力を弱めます。例えるなら、絡み合った糸の間に油を差すようなイメージです。分子間力が弱まることで、ポリマー鎖が動きやすくなり、その結果、ガラス転移温度(Tg)が低下し、樹脂全体の粘度が下がります。
- 効果: 少ない力で成形できるようになり、成形温度を下げたり、より複雑な形状の製品を成形したりすることが可能になります。主にPVC(塩化ビニル樹脂)の柔軟性を出すためによく使われますが、他の樹脂にも使われることがあります。
- 例: フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類など。
- 加工助剤 (Processing Aids):
- メカニズム: 加工助剤は、樹脂の溶融粘度を下げるだけでなく、溶融した樹脂が金型やスクリューなどの金属表面に付着しにくくする効果も持ちます。これにより、樹脂の流動性を高め、成形時のトラブルを低減します。特にPVCや透明性の高いアクリル樹脂などで有効です。
- 効果: 溶融時のゲル化促進、溶融張力や強度アップ、表面光沢改善、成形サイクル短縮などに寄与します。
- 例: アクリル系加工助剤など。
2. 摩擦低減によるメカニズム(滑剤)
プラスチックを加工する際には、樹脂が成形機のスクリューや金型内を移動します。この際、金属との摩擦抵抗が大きいと、スムーズな加工が妨げられます。
- 滑剤 (Lubricants):
- メカニズム: 滑剤は、樹脂と金属の界面に移動して、潤滑油のような役割を果たし、摩擦係数を低下させます。これにより、樹脂が成形機内部でよりスムーズに移動し、金型からの離型も容易になります。
- 分類:
- 内部滑剤: 樹脂内部に均一に分散し、ポリマー鎖同士の滑りを良くすることで、溶融粘度を下げ、樹脂自身の流動性を向上させます。
- 外部滑剤: 樹脂の表面や、樹脂と金属の界面に集まり、樹脂と金属の間の摩擦を低減します。これにより、スクリューや金型への樹脂の固着を防ぎ、離型性を向上させます。
- 効果: 成形時の負荷軽減(消費電力削減)、成形サイクルの短縮、不良品の減少、金型の寿命延長、製品の表面品質向上などに寄与します。
- 例:
- 内部滑剤: ステアリン酸、ステアリン酸金属塩(ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなど)
- 外部滑剤: パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸アミドなど。

プラスチックの加工性は、添加剤によって、樹脂の粘度を低下させ、流動性を向上させること、または成形時の摩擦を低減することで向上しています。
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