この記事で分かること
- パワー半導体とは:「電力(パワー)」の制御・変換に特化した半導体素子のことで、EVや脱炭酸社会に向けた重要なデバイスとされています。
- 脱炭素で重要となる理由:「使う電力を減らす」「再エネを活用する」「電動化を支える」などにかかわる技術であることから、CO₂削減を多方面から支える中核技術です。
- 放熱性向上のメカニズム:熱を逃がしやすい構造や熱伝導性の良い材料の使用や、冷却機構を組み込むことで放熱性を向上させています。
京セラパワー半導体事業の売却
京セラがシリコンダイオードを中心とするパワー半導体事業を2026年1月に新電元工業に売却することを発表しています。
業績が低迷する中で、コアとなる事業以外の整理を進めており、その一環としての売却となっています。
SiCやGaNなどの次世代パワー半導体市場自体は需要増加が見込まれ、市場性も拡大がよそくされていますが、巨額な開発投資や製造技術の高度化が求められており、事業として継続するには規模やスピードが求められます。
京セラはより収益性の高い分野(セラミック部品、スマートエネルギー、医療機器など)にリソースを集中したい考えがあるものと思われます。
パワー半導体とはなにか
パワー半導体(パワーデバイス)とは、「電力(パワー)」の制御・変換に特化した半導体素子のことです。
一般的な半導体が信号処理を行うのに対し、パワー半導体は高電圧・大電流を扱い、電力の「スイッチング」や「制御」に使われます。
■ 主な役割
- 電力をON/OFFする(スイッチ)
- 電力を変換する(交流⇔直流、電圧変換など)
- 電力の効率的な供給(省エネ)
■ 代表的な種類
種類 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
ダイオード | 電流を一方向に流す | 整流回路など |
トランジスタ(IGBT, MOSFET) | スイッチング制御 | インバーター、モーター制御 |
サイリスタ | 高電圧・大電流に強い | 鉄道・工業用電源 |
■ 利用例
- 電気自動車(EV):バッテリーからモーターへの電力制御
- 鉄道:電力変換・回生ブレーキ
- 産業機器:モーター制御、インバーター
- 再生可能エネルギー:太陽光や風力発電の電力変換
■ なぜ重要か?
- 省エネと高効率化に不可欠
- 次世代モビリティ(EVなど)や脱炭素社会に向けたキーデバイス
- 世界的に需要が急増中(特にSiCやGaNなどの次世代材料)

パワー半導体(パワーデバイス)とは、「電力(パワー)」の制御・変換に特化した半導体素子のことで、EVや脱炭酸社会に向けた重要なデバイスとされています。
普通の半導体との違いは
普通の半導体(汎用半導体)」と「パワー半導体」は、役割・設計・性能要求などが大きく異なります。
■ 主な違い一覧
項目 | 普通の半導体(汎用半導体) | パワー半導体 |
---|---|---|
目的 | 情報処理、信号処理 | 電力(エネルギー)の制御 |
例 | CPU、メモリ、マイコン、センサ | IGBT、MOSFET、ダイオードなど |
電圧・電流 | 小さい電圧・電流(mV〜数V) | 高電圧・大電流(数百V〜kV) |
処理対象 | デジタル信号(0と1) | アナログの電力信号 |
用途 | パソコン、スマホ、テレビなど | EV、鉄道、太陽光、工場設備など |
材料 | 主にシリコン(Si) | Siに加え、SiCやGaNも使う(高耐圧向け) |
発熱量 | 少ない | 多い(放熱対策が重要) |
例え
- 普通の半導体:「脳」にように情報を処理(CPUなど)するデバイス
- パワー半導体:「筋肉」のように大きな力(電力)を制御するデバイス

パワー半導体は情報処理や信号処置ではなく、電力の制御を行うため、通常の半導体と比較し、大きな電圧、電流を扱う必要があります。
なぜ、脱炭素社会で重要となるのか
パワー半導体は「脱炭素社会」の実現において以下のように、極めて重要な役割を果たします。
1. エネルギー変換の効率化による省エネ効果
- パワー半導体は、電力を効率よく制御・変換(スイッチング)できます。
- 高効率な電力制御によって、電力損失(熱など)を最小限に抑え、エネルギー使用量を削減します。
- たとえば、最新のSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)パワー半導体は、従来のSi(シリコン)よりも高効率かつ高速で動作します。
✅ 結果:同じ仕事をするのに必要な電力が少なくなる=CO₂排出削減に直結
2. 再生可能エネルギーとの親和性
- 太陽光・風力発電などの再エネは、発電量が変動しやすく、電力の変換と安定供給が必要です。
- パワー半導体は、発電された直流電力を効率よく交流に変換し(インバーター)、電力網に接続する要となります。
✅ 太陽光や風力を「安定して使える電力」に変換するために不可欠
3. 電動化(EV・鉄道・産業機器)の加速に貢献
- 自動車の電動化(EV・PHEV)は脱炭素の柱のひとつ。
- モーター駆動やバッテリー制御にはパワー半導体が不可欠で、走行時のエネルギー効率を大幅に向上させます。
✅ EVやハイブリッド車の高効率化、省エネ・排出ガス削減に貢献
4. 蓄電池や電力インフラのスマート化
- パワー半導体は、蓄電池の充放電制御や、電力網の需給調整(スマートグリッド)にも使われています。
- 高速かつ精密な電力制御が、安定的で効率的なエネルギー社会の基盤を支えます。
✅ 分散型エネルギーシステムを可能にし、化石燃料依存を減らす

パワー半導体は、「使う電力を減らす」「再エネを活用する」「電動化を支える」ことにより、CO₂削減を多方面から支える中核技術です。
どうやって放熱性を高めているのか
パワー半導体は大電流・高電圧を扱うため発熱が非常に大きく、その熱を効率よく逃がさなければ性能劣化や故障の原因になります。
放熱性を高めるためには、構造・材料・冷却機構などに様々な工夫が施されています。
■ パワー半導体の放熱対策(主な手法)
1. パッケージ設計の工夫
- 金属製ベースプレートを使う(銅やアルミ)
- 熱を逃がしやすい構造(低熱抵抗のレイアウト)
- 熱伝導性の高い樹脂やセラミック基板(AlN、Si₃N₄など)を使用
2. ヒートシンク(放熱板)の装着
- パワー素子にヒートシンクを直接取り付けることで、空気中に熱を放出
- ヒートシンクにはフィン(羽)があり、表面積を大きくして熱拡散
3. 冷却ファン・強制空冷
- 空気をファンで強制的に流し、ヒートシンクからの熱を素早く排出
4. 液冷方式
- 水や冷媒(フルオロカーボンなど)を使った冷却プレートで熱を吸収
- EVのインバーターや鉄道車両など高出力機器で採用
5. 熱伝導シートやグリース
- デバイスとヒートシンクの間に熱伝導性材料を挟んで、接触熱抵抗を低減
6. ワイドバンドギャップ半導体の活用
- SiCやGaNなどは高温でも動作可能なため、冷却の自由度が高まる
- 熱に強い=システムとしての放熱設計が緩和される
■ 放熱設計の重要性
パワー半導体は「熱破壊」や「熱暴走」が起きやすく、寿命にも直結します。そのため、熱シミュレーションによる設計や、実装段階での熱管理が非常に重要です。

熱を逃がしやすい構造や熱伝導性の良い材料の使用や、冷却機構を組み込むことで放熱性を向上させています。また、高温で動作可能な素材も検討されています。
コメント