この記事で分かること
- SEMとは:細く絞った電子線を試料表面に照射・走査し、放出される信号を検出して画像化する装置です。光学顕微鏡を遥かに凌ぐ倍率で、微細な表面構造を立体的に観察できるのが大きな特徴です。
- 電子線を使用する理由:顕微鏡の解像度は、使用する「波」の波長が短いほど高くなります。可視光の波長(数百nm)に対し、加速した電子線の波長は極めて短く(0.01nm以下)、光ではぼやけて見えないナノ単位の微細な構造まで鮮明に観察できます。
- 電子線の照射方法:電子線は「電子銃」で発生・加速され、磁力を利用した「電磁レンズ」で細く絞り込まれます。さらに「走査コイル」で電子ビームを上下左右に動かし、試料表面をくまなくスキャンするように照射されます。
走査電子顕微鏡:SEM
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は走査電子顕微鏡、SEMに関する記事となります。
SEMとは何か
SEMは、光の代わりに「電子の束(電子線)」を使い、対象物の表面の形や構造を驚くほど細かく観察する装置です。
SEM(走査電子顕微鏡)の主な特徴
- 表面の立体的な観察が得意光を使わず、電子を表面に当てて跳ね返ってきた信号(二次電子など)を読み取るため、アリの頭や雪の結晶、半導体チップの微細な構造などを3D的な奥行きを持って観察できます。
- 圧倒的な高倍率と解像度一般的な光学顕微鏡が約2,000倍が限界なのに対し、SEMは数万倍〜数十万倍まで拡大可能です。ナノメートル(1nm = 10-9m)レベルの極小世界が見えます。
- 深い被写体深度光学顕微鏡よりもピントの合う範囲(奥行き)が非常に広いため、デコボコした試料でも全体にピントが合った鮮明な写真が撮れます。
SEOとTEM(透過電子顕微鏡)の違い
電子顕微鏡には大きく分けて2つのタイプがあります。
| 種類 | 観察対象 | 例えるなら |
| SEM(走査型) | 試料の表面の形や組成 | 建物の外観をドローンでスキャンする |
| TEM(透過型) | 試料の内部の微細構造 | X線写真のように中を透かして見る |
SEMで何ができる?
単に見るだけでなく、以下のような分析にも使われます。
- 元素分析: 電子を当てたときに出るX線を測ることで「ここにどんな物質(鉄、銅など)が含まれているか」がわかります。
- 品質管理: 金属の破断面を見て壊れた原因を調べたり、薬の粉末の大きさを測ったりします。
注意点
- 真空が必要: 電子が空気の分子にぶつからないよう、装置の中は真空にする必要があります。
- 導電性が必要: 電気を逃がすために、絶縁物の試料(虫や植物など)には金や白金などの薄い膜をコーティングする前処理が必要です。

走査電子顕微鏡(SEM)とは、細く絞った電子線を試料表面に照射・走査し、放出される信号を検出して画像化する装置です。光学顕微鏡を遥かに凌ぐ倍率で、微細な表面構造を立体的に観察できるのが大きな特徴です。
電子線を使用する理由は何か
電子線を使用する最大の理由は、「光よりも圧倒的に高い解像度(分解能)を得るため」です。
顕微鏡には「見たい対象物のサイズよりも、短い波長のものを使わなければならない」という物理的なルールがあります。
1. 波長が短いほど細かく見える
顕微鏡でどれくらい細かいものが見えるか(分解能)は、使用する波の波長に依存します。
- 可視光(光学顕微鏡): 波長は約 400nm 〜 800nm です。このため、理論上 200nm (ウイルスの大きさ程度)より小さいものは光が回折(回り込み)してしまい、ぼやけて見えません。
- 電子線(SEM): 電子には「波」としての性質(ド・ブロイ波)があり、電圧をかけて加速させると、その波長は 0.01nm 以下と極めて短くなります。
この「光より桁違いに短い波長」のおかげで、光学顕微鏡では見ることができないナノレベルの微細な構造をくっきりと捉えることができるのです。
2. 磁力でレンズを作れる
電子はマイナスの電気を帯びているため、磁場(電磁レンズ)を使って進む方向を自在にコントロールできます。
これにより、電子の束を非常に細く絞り込み、試料の表面をなぞる(スキャンする)ことが可能になります。
3. 多彩な情報が得られる
電子を物質にぶつけると、表面の形だけでなく、以下のようないろいろな信号が飛び出してきます。
- 二次電子: 表面のデコボコを立体的に見せる。
- 反射電子: 物質の「重さ(組成)」の違いを色の濃淡で見せる。
- X線: どんな元素が含まれているか特定できる。
このように、電子線は「最強の物差し」兼「センサー」非常に優秀な性質を持っているため、SEMには欠かせない存在となっています。

顕微鏡の解像度は、使用する「波」の波長が短いほど高くなります。可視光の波長(数百nm)に対し、加速した電子線の波長は極めて短く(0.01nm以下)、光ではぼやけて見えないナノ単位の微細な構造まで鮮明に観察できます。また、電子は磁場で制御できるため、細く絞って走査したり、衝突時に出る様々な信号から物質の組成を分析したりできる点も大きな利点です。
跳ね返ってきた信号をどのように検出するのか
SEMで跳ね返ってきた信号(電子)を検出する仕組みは、主に「引き寄せて、光に変えて、電気で増幅する」というステップを踏みます。
最も一般的な「二次電子検出器(エバーハート・ソーンリー検出器)」では以下のように検出を行います。
1. 電子を引き寄せる(捕集)
試料から飛び出した「二次電子」はエネルギーが非常に弱いため、そのままではバラバラに飛んでいってしまいます。そこで、検出器の入り口にある網(コレクター)にプラスの電圧をかけ、磁石のように電子を吸い寄せます。
2. 光に変換する(変換)
引き寄せられた電子を、検出器の奥にある「蛍光体」に勢いよくぶつけます。すると、電子のエネルギーが光(フォトン)に変換されます。
3. 電気信号にして増幅する(増幅)
そのわずかな光を「光電増倍管(フォトマルチプライヤー)」という装置に送り、電気信号に変換した上で、数百万倍に増幅します。
4. 画像として組み立てる(可視化)
電子ビームが試料の「どの点」をスキャンしている時の信号かを計算し、その電気信号の強さを画面上の「明るさ」として配置していきます。
信号が強い場所は明るく、弱い場所は暗く表示することで、あの立体的な写真が完成します。
信号による検出器の違い
観察したいものによって、検出器の場所や仕組みが少し異なります。
| 信号の種類 | 検出器の場所 | 仕組みのポイント |
| 二次電子 | 試料の斜め上など | 電圧で吸い寄せる。表面の凹凸を見るのに最適。 |
| 反射電子 | 対物レンズの真下 | 高エネルギーで直進するため、逃さず捉える受光器(ダイオードなど)を真上に配置。物質の重さの違いを見る。 |

検出器の網にプラス電圧をかけて信号(電子)を吸い寄せ、内部の蛍光体で一度「光」に変換します。その光を増幅器で数百万倍の電気信号に変え、スキャン位置ごとの強弱を画面の明るさとして表示することで画像化します。
電子線はどのような装置で照射されるのか
電子線は、「電子銃」と呼ばれる装置から発射され、複数の「電磁レンズ」を通って試料に照射されます。
装置全体は「鏡筒(きょうとう)」と呼ばれる細長い筒状の形をしており、内部は電子が空気分子に邪魔されないよう真空に保たれています。
電子線を照射する装置の主な構成
- 電子銃(発生源)電子を生み出す「ランプ」のような役割です。
- 熱電子銃: タングステンなどのフィラメントに電気を流して加熱し、熱によって飛び出してきた電子を電圧で加速させます。
- 電界放出形(FE)電子銃: 針の先のように尖ったチップに強い電圧をかけ、電子を力ずくで引き出します。より細く鋭いビームが作れるため、高級な機種に使われます。
- 電磁レンズ(絞り込み)電子はマイナスの電気を帯びているため、磁力を使って進む方向を曲げることができます。
- 集束レンズ: 広がろうとする電子を絞り、細い束にします。
- 対物レンズ: 試料の表面にピントが合うよう、最終的な調整を行います。
- 走査(スキャン)コイル電子線を上下左右に高速で振るための装置です。ブラウン管テレビのように、試料の表面を「一筆書き」でなぞる(走査する)役割を担います。

電子線は「電子銃」で発生・加速され、磁力を利用した「電磁レンズ」で細く絞り込まれます。さらに「走査コイル」で電子ビームを上下左右に動かし、試料表面をくまなくスキャンするように照射されます。

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