この記事で分かること
- セクション889とは:トランプ前米大統領が提唱する税制改革案に含まれる条項です。米国に「不公正な外国税」を課す国・地域の企業や個人に対し、米国源泉所得(配当、利子など)への追加課税(最大20%)を課す報復措置です。
- 狙われそうな税制:多国籍企業が低課税国で得た利益に対して、その本国や他の国が追加的に課税するUTPRや、IT大手が物理拠点なしに各国で得る収益に対し、公平な課税を目指す税制であるデジタルサービス税などが標的となるとされています。
トランプ関税のセクション889
トランプ課税、セクション899とは、ドナルド・トランプ前米大統領が提唱する「One, Big, Beautiful Bill Act(一つの大きく美しい法案)」に含まれる条項で、米国に対して「不公正な外国税」を課していると見なされる国・地域の企業や個人に対して、米国源泉所得にかかる税率を追加的に引き上げることを目的としたものです。
セクション889とは何か
具体的な特徴
- 対象国・地域: 米国市民や米国企業に対して差別的または域外適用的な税を課すと財務長官が判断した国・地域。特に、OECDのPillar Two(グローバル・ミニマム課税)に基づくアンダータックス・プロフィット・ルール(UTPR)やデジタルサービス税(DST)を導入している国が念頭に置かれています。報道によると、欧州諸国の大部分に加え、日本、韓国、豪州、インドなども対象となる可能性が指摘されています。
- 課税対象: 米国で生じる配当、利子、ロイヤルティ、賃料などの所得。資本所得(キャピタルゲイン)は対象外となる可能性が高いとされています。
- 税率引き上げ: 初年度は従前の税率に5%を追加し、毎年5%ずつ引き上げ、最大で20%の追加課税を行う可能性があります。例えば、配当所得に対する法定税率が30%の場合、最大で50%の税率が課されることになります。4
- 租税条約との関係: 適用される租税条約等により非居住者に対して軽減/ゼロ税率が適用されている場合でも、その税率を税率引き上げの出発点として追加的に課税が実施されます。5
セクション899の目的と背景
このセクション899は、主に以下の目的を持っているとされています。
- 報復措置: 米国企業に不利益をもたらすような税制(特にDSTやUTPR)を導入する国々への報復措置として機能します。
- 税収確保: トランプ政権が推進する大規模減税の財源の一部として、この追加課税が活用される可能性が指摘されています。
- 交渉材料: 他国との貿易交渉などにおいて、関税交渉を有利に進めるための交渉材料として使われる可能性も考えられます。
影響と懸念
セクション899が成立した場合、以下のような影響や懸念が指摘されています。
- 世界的な金融市場への影響: 米国資産からの資本流出を招く可能性があり、特に米国債などへの投資に影響が出る可能性があります。
- 国際的な税務紛争の激化: 各国が報復的な税制を導入する動きが広がり、国際的な税務紛争が激化する恐れがあります。
- 投資環境の不確実性: 外国人投資家にとって、米国への投資環境の不確実性が高まります。
この法案は下院を通過しましたが、上院での審議がまだ残っており、今後の動向が注目されています。

セクション899は、トランプ前米大統領が提唱する税制改革案に含まれる条項です。米国に「不公正な外国税」(例:デジタルサービス税、UTPR)を課す国・地域の企業や個人に対し、米国源泉所得(配当、利子など)への追加課税(最大20%)を課す報復措置です。
どのような国が標的となるのか
トランプ氏の提唱するセクション899が標的とする可能性が高い国は、主に米国に対して「不公正な外国税」を課していると見なされる国・地域です。
具体的には、以下の税制を導入している国が念頭に置かれているとされています。
- OECDのPillar Two(グローバル・ミニマム課税)に基づくアンダータックス・プロフィット・ルール(UTPR):多国籍企業が低課税国で得た利益に対して、その本国や他の国が追加的に課税するルール。
- デジタルサービス税(DST):GAFAのような巨大IT企業が、各国のデジタルサービスから得た収益に対して課される税金。
報道や専門家の見解によると、これらの基準に該当する国として、特に以下の国々が標的となる可能性が指摘されています。
- 欧州諸国の大部分:特にデジタルサービス税やグローバル・ミニマム課税の導入に積極的だった国々。
- 日本
- 韓国
- オースリラリア
- インド
これらの国々は、米国の金融市場を支える主要な同盟国でもあり、セクション899が導入された場合、国際的な経済関係に大きな影響を与える可能性があります。
狙われる税制の背景
デジタルサービス税(DST)
デジタルサービス税は、主に巨大IT企業が特定の国で物理的な拠点がなくても、その国のユーザーから大きな収益を上げていることに対し、各国が適切に課税できていないという認識から導入が進められました。米国は、自国企業が多く対象となるこの税制を「不公正な外国税」と見なしています。
アンダータックス・プロフィット・ルール(UTPR)
OECDが主導するPillar Two(グローバル・ミニマム課税)は、多国籍企業の利益がどこで計上されても、一定の最低税率(15%)が課されるようにする国際的な枠組みです。
UTPRはそのルールの一つで、子会社が最低税率を下回る税率で課税されている場合、親会社のある国や、その子会社の所在する国以外の国が追加課税をできるようにするものです。米国は、このUTPRが米国の法人税減税の恩恵を相殺し、自国企業に不利益をもたらす可能性があると考えています。

「セクション899」は、UTPRやデジタルサービス税を導入する国々(欧州、日本、韓国、豪州、インドなど)を標的とし、米国源泉所得に追加課税する可能性があります。
デジタルサービス税とは何か
デジタルサービス税(Digital Services Tax, DST)とは、インターネットを通じてサービスを提供する巨大IT企業などに対し、その企業が物理的な拠点を持たない国であっても、その国で得た収益に対して課税を行う新たな税制のことです。
従来の国際課税ルールは、企業が物理的な事業拠点を持つ場所で利益を上げ、そこに課税する仕組みが基本でした。しかし、インターネットの発達により、Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonといった多国籍企業(GAFAなどと総称されることも多い)は、物理的な拠点を設けずに、世界中のユーザーにデジタルサービスを提供し、莫大な収益を上げることができるようになりました。
この状況に対し、多くの国が「これらの企業が、サービスを提供している市場国で十分な税金を払っていない」という問題意識を持つようになりました。
彼らが利益を生み出す源泉は、各国のユーザーやそのデータにあるにもかかわらず、その利益がタックスヘイブンなどの低税率国に集約され、適切に課税されていないと認識されたためです。
デジタルサービス税の主な特徴と導入の背景
- 課税対象の明確化: 主にオンライン広告、データ販売、仲介プラットフォームサービスなど、デジタルビジネスから得られる収益が対象となります。
- 物理的拠点の不要性: 企業がその国に物理的な拠点を持っていなくても、一定規模以上の売上があれば課税対象となる点が特徴です。
- 売上高課税: 多くの国で、売上高の一定割合を課税対象とする形式が採用されています。これは、企業の利益を把握しにくいデジタル経済の特性に対応するためです。
- 導入の目的:
- 課税の公平性確保: 従来のビジネスとデジタルビジネスとの間の課税の公平性を確保すること。
- 税収の確保: 各国の税収を増やすこと。特に、デジタルサービスから利益を得る国々が適切に課税権を得られるようにすること。
- 租税回避の防止: 多国籍企業による合法的な租税回避を防ぐこと。
米国からの反発
米国は、自国の巨大IT企業がデジタルサービス税の主な対象となることから、この税制に強く反発しています。米国政府は、デジタルサービス税が米国の企業を「狙い撃ち」にしているとして、「不公正な外国税」と見なし、通商法301条に基づく調査を開始したり、報復関税の発動を検討したりしてきました。
国際的な動向とOECDによる合意
デジタルサービス税は、各国が個別に導入を進める中で、国際的な税務紛争を激化させる可能性が指摘されていました。このため、OECD(経済協力開発機構)とG20(主要20カ国・地域)は、この問題に対する国際的な合意形成を目指し、「BEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組み」の中で議論を進めてきました。
その結果、デジタル経済に対応した新たな国際課税ルールとして、以下の「二本柱アプローチ」が合意されました。
- 第一の柱(市場国への課税権再配分): 巨大多国籍企業の一部の利益について、物理的な拠点がなくても、市場のある国に課税権を再配分する仕組み。
- 第二の柱(グローバル・ミニマム課税): 多国籍企業がどこで活動しても、最低15%の法人税が課されるようにする仕組み(日本の「セクション899」の項目で触れたUTPRもこれに含まれます)。
この国際的な合意に基づき、デジタルサービス税は将来的には廃止される方向で議論が進められていますが、合意の実施にはまだ時間がかかっており、一部の国では引き続きデジタルサービス税が適用されています。

デジタルサービス税(DST)とは、IT大手が物理拠点なしに各国で得る収益に対し、公平な課税を目指す税制です。米国は自国企業への「不公正な税」と反発しています。
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